家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら

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第20話 初めての「妻」としての誇り

 その朝、私は邸の大広間で使用人たちを前に立っていた。アルベルトが「今日から家政の細部は君の裁量に任せる」と宣言したからだ。視線が一斉に私へ注がれ、心臓が早鐘を打つ。かつて「邪魔者」と呼ばれた自分が、今は「奥様」として屋敷全体を見ている――その事実に震えた。

「本日の献立は、この香草を使ってください。皆さんの負担を減らすために、順番に休息日を設けましょう」
 言葉を紡ぐと、メイドたちは驚いたように顔を見合わせ、それから一斉に頭を下げた。
「承知いたしました、奥様」

 その呼び名が胸に響く。私は深く息を吸い、笑顔を作った。使用人たちの表情に安堵の色が浮かび、緊張が少し解けた。

 廊下の奥でそれを見ていたアルベルトは、淡く口角を上げていた。灰色の瞳が「よくやった」と告げているようで、胸の奥に温かい光が広がった。


 昼下がり、執務室で彼と並んで座る。私は帳簿を広げ、支出の数字を追った。
「ここ、少し多いのでは……?」
「正しい。だが、君が疑問を抱いたなら調べてみろ」
 アルベルトは即座に書簡を取り寄せ、根拠を示してみせた。私は必死に書き写し、学ぶ。

「……難しいです」
「難しくていい。簡単なら、私がここに座る意味はない」
 彼の言葉に思わず笑みがこぼれる。合理的でありながら、私の努力を肯定してくれる。

 その時、執事が新しい報告を携えてきた。
「奥様、先日の指示により、使用人たちが交代で休息を取るようになりました。皆、感謝しております」
 私は驚いて顔を上げた。アルベルトは静かに言った。
「誇れ。君の判断が邸を変えた」
 胸が熱くなり、涙が滲んだ。


 夜。寝室の窓から月明かりが差し込み、私はベッドの端に座っていた。今日一日、確かに「妻」として役に立てた気がして、胸の奥が甘く震える。

 そこへ扉が開き、アルベルトが入ってきた。外套を脱ぎ、私の隣に腰を下ろす。
「顔に出ているな。満足そうだ」
「……はい。少しだけ、自信が持てました」
「少しでは足りない。もっと持て」
 彼は私の手を取り、額に口づけを落とした。

「君はもう、宰相閣下の“契約妻”ではない。私の誇りそのものだ」
 低い囁きに、胸が熱く震えた。涙が頬を伝い、私は彼に抱きついた。

 その夜、初めて涙ではなく誇りに満ちた気持ちで眠りについた。月の光が静かに降り注ぎ、心は穏やかに波打っていた。

 ――私はもう、過去の「邪魔者」ではない。彼の妻として、生きている。
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