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第21話 公爵夫人の策略
〇
翌週、王宮から急な呼び出しがあった。内容は「宰相閣下夫妻を招いての茶会」。形式上は王妃主催の親睦会だが、背後で糸を引いているのは権勢を誇る公爵夫人だと、誰もが知っていた。私は胸の奥に緊張を覚え、青いドレスの裾を握りしめた。
馬車に揺られて到着した庭園は、薔薇と噴水に彩られ、豪奢な絵画のようだった。集まった貴婦人たちは一斉に視線をこちらに向ける。笑みを浮かべながらも、瞳の奥は探るように冷たい。私は微笑みを崩さず、アルベルトの隣に立った。
「まあ、宰相閣下。そして……奥方様。ようこそ」
先に声を掛けてきたのは公爵夫人。金糸の刺繍を施した深紅のドレスに、宝石をこれでもかと飾り立てている。彼女は手扇子を口元に当て、わざとらしく私を眺めた。
「思ったより……可憐なお方ね。閣下の隣に立つには、少々心許ないようにも見えるけれど」
刺すような言葉に心臓が跳ねたが、隣から低い声が落ちる。
「夫人。その評価は私が下す。君たちの役目ではない」
公爵夫人は一瞬だけ表情を引き攣らせ、それから柔らかい笑みを取り繕った。
茶会が始まると、取り巻きたちの質問が矢継ぎ早に私に向けられる。
「家政の采配を任されているとか?」
「料理もお出来になるの?」
その一つひとつが試すようで、胸が強く脈打つ。けれど、私は深呼吸をして答えた。
「はい。まだ学ぶことは多いですが、日々努めております」
その返答に、周囲の囁きが少しだけ和らいだ気がした。
△
茶会の最中、公爵夫人はさらに踏み込んだ。
「でもまあ、努力だけでは宰相府を支えるには足りないでしょう? やはり血筋や地位が――」
言葉の刃を振りかざすその時、アルベルトが淡々と告げた。
「血筋で国は動かせない。支えているのは才と誠実さだ。彼女にはそれがある」
静まり返る庭園。公爵夫人は顔を引き攣らせ、取り巻きたちがざわめきを呑み込む。私は思わず彼を見上げた。灰色の瞳は一点の曇りもなく、私を肯定していた。
その後も、夫人は何かと揚げ足を取ろうとしたが、私は彼の言葉を支えに怯まず応じた。料理の工夫、使用人への配慮、庭の手入れ。話せば話すほど、貴婦人たちの表情は驚きから興味へと変わっていった。
「まあ……思ったよりしっかりなさっているのね」
「閣下が信頼なさるのも納得だわ」
小声が交わされ、胸に温かな光が灯った。
茶会が終わる頃、公爵夫人は渋々といった様子で私の手を取った。
「……次はもっとゆっくりお話を伺いたいものですわ」
表情は笑みを保ちながらも、瞳には苛立ちの色が残っていた。
◇
馬車に戻ると、私は緊張が解けて大きく息を吐いた。
「……怖かったです」
「だが、やり遂げた」
アルベルトの声は冷静だが、わずかに柔らかさを帯びていた。
「私、一人では答えられなかったと思います。あなたが隣にいてくださったから」
「それが当然だ。夫婦だからな」
短い言葉に心が震え、頬が熱くなる。
邸に戻り、夜。寝室の灯りを落とすと、静かな声が暗闇に響いた。
「今日の君は誇るべきだった。私の隣に立つにふさわしい」
「……本当に?」
「ああ」
その確信に満ちた声に、胸がいっぱいになった。
眠りにつく直前、彼の腕が私を抱き寄せた。頬に触れる温もりが甘く、耳元で小さく囁かれる。
「もう誰にも君を侮らせない」
その誓いの言葉を胸に抱きながら、私は静かな眠りへと落ちていった。
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翌週、王宮から急な呼び出しがあった。内容は「宰相閣下夫妻を招いての茶会」。形式上は王妃主催の親睦会だが、背後で糸を引いているのは権勢を誇る公爵夫人だと、誰もが知っていた。私は胸の奥に緊張を覚え、青いドレスの裾を握りしめた。
馬車に揺られて到着した庭園は、薔薇と噴水に彩られ、豪奢な絵画のようだった。集まった貴婦人たちは一斉に視線をこちらに向ける。笑みを浮かべながらも、瞳の奥は探るように冷たい。私は微笑みを崩さず、アルベルトの隣に立った。
「まあ、宰相閣下。そして……奥方様。ようこそ」
先に声を掛けてきたのは公爵夫人。金糸の刺繍を施した深紅のドレスに、宝石をこれでもかと飾り立てている。彼女は手扇子を口元に当て、わざとらしく私を眺めた。
「思ったより……可憐なお方ね。閣下の隣に立つには、少々心許ないようにも見えるけれど」
刺すような言葉に心臓が跳ねたが、隣から低い声が落ちる。
「夫人。その評価は私が下す。君たちの役目ではない」
公爵夫人は一瞬だけ表情を引き攣らせ、それから柔らかい笑みを取り繕った。
茶会が始まると、取り巻きたちの質問が矢継ぎ早に私に向けられる。
「家政の采配を任されているとか?」
「料理もお出来になるの?」
その一つひとつが試すようで、胸が強く脈打つ。けれど、私は深呼吸をして答えた。
「はい。まだ学ぶことは多いですが、日々努めております」
その返答に、周囲の囁きが少しだけ和らいだ気がした。
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茶会の最中、公爵夫人はさらに踏み込んだ。
「でもまあ、努力だけでは宰相府を支えるには足りないでしょう? やはり血筋や地位が――」
言葉の刃を振りかざすその時、アルベルトが淡々と告げた。
「血筋で国は動かせない。支えているのは才と誠実さだ。彼女にはそれがある」
静まり返る庭園。公爵夫人は顔を引き攣らせ、取り巻きたちがざわめきを呑み込む。私は思わず彼を見上げた。灰色の瞳は一点の曇りもなく、私を肯定していた。
その後も、夫人は何かと揚げ足を取ろうとしたが、私は彼の言葉を支えに怯まず応じた。料理の工夫、使用人への配慮、庭の手入れ。話せば話すほど、貴婦人たちの表情は驚きから興味へと変わっていった。
「まあ……思ったよりしっかりなさっているのね」
「閣下が信頼なさるのも納得だわ」
小声が交わされ、胸に温かな光が灯った。
茶会が終わる頃、公爵夫人は渋々といった様子で私の手を取った。
「……次はもっとゆっくりお話を伺いたいものですわ」
表情は笑みを保ちながらも、瞳には苛立ちの色が残っていた。
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馬車に戻ると、私は緊張が解けて大きく息を吐いた。
「……怖かったです」
「だが、やり遂げた」
アルベルトの声は冷静だが、わずかに柔らかさを帯びていた。
「私、一人では答えられなかったと思います。あなたが隣にいてくださったから」
「それが当然だ。夫婦だからな」
短い言葉に心が震え、頬が熱くなる。
邸に戻り、夜。寝室の灯りを落とすと、静かな声が暗闇に響いた。
「今日の君は誇るべきだった。私の隣に立つにふさわしい」
「……本当に?」
「ああ」
その確信に満ちた声に、胸がいっぱいになった。
眠りにつく直前、彼の腕が私を抱き寄せた。頬に触れる温もりが甘く、耳元で小さく囁かれる。
「もう誰にも君を侮らせない」
その誓いの言葉を胸に抱きながら、私は静かな眠りへと落ちていった。
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