家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら

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第22話 孤独な影と抱擁の温度

 公爵夫人の茶会から数日が経った。邸の空気は穏やかに見えたが、私の胸の奥には小さな棘が残っていた。周囲の目に晒され、言葉の刃を浴びた恐怖は、まだ消えない。夜、一人寝室で鏡を見つめると、あの日の視線が甦って胸を締め付けた。

 その夜、執務から戻ったアルベルトに私は微笑みを作ろうとした。
「お帰りなさいませ」
「ああ」
 彼は短く答え、外套を脱いで机に置いた。灰色の瞳は冷徹に見えるが、その奥に疲労の色が滲んでいる。

「……今日もお疲れでしょう?」
「政務に疲労はつきものだ」
 彼の声は淡々としている。私は一歩近づき、机に置かれた書簡を手に取った。膨大な数字と文言に目が回るが、必死に読み取ろうとした。
「少しでも……お手伝いできれば」
 その言葉に、彼はふっと息を吐いた。
「君にこれを背負わせるつもりはない」
「でも……」
「君は私の支えだ。それ以上を求めはしない」

 胸がじんわりと熱を帯びたが、同時に寂しさも込み上げる。私は彼に寄り添いたいのに、彼は私を守るために遠ざけている。


 その夜更け、私は眠れずに庭へ出た。月明かりの下、薔薇の花弁が白く輝いている。冷たい風が頬を撫で、寂しさが募った。誰もいない静寂の中で、心の奥に囁きが響く。――本当に私は彼の隣に立てているのだろうか。

 ふと背後に気配を感じて振り返ると、アルベルトが立っていた。外套を羽織り、月明かりに照らされたその姿は影のように静かだ。
「……眠れなかったのか」
「はい。少し、考え事を」
 私の答えに彼は歩み寄り、隣に立った。

「君はまた自分を責めているな」
「……どうしてわかるのですか」
「わかる。顔に出ている」
 淡々とした言葉に、思わず笑みが零れた。

 沈黙の中、彼の手がそっと私の手を包んだ。冷たい夜気の中、その温もりだけが鮮明で、胸がじんわりと温かくなる。
「私を支えようとする気持ちは、すでに力になっている。言葉でなくても伝わっている」
 その声に瞳が潤み、堪えきれずに涙が溢れた。


 涙を拭う間もなく、彼の腕が私を抱き寄せた。背中を覆う温もりに全身が包まれ、耳元に低い囁きが落ちる。
「孤独にさせてすまない。だが、君は私の半身だ」
 その言葉に心が震え、私は彼の胸に顔を埋めた。

「私……もっと強くなりたい。あなたの隣に、胸を張って立てるように」
「その願いは、すでに叶っている」
「え……?」
「君はもう立っている。私が証明しよう」

 彼の手が頬に触れ、月明かりの下で再び唇が重なった。今度は迷いも遮りもなく、ただ真実の温度が伝わってくる。甘く深い口づけに、胸が熱く痺れる。

 離れた時、彼の瞳が真っ直ぐに私を映していた。
「もう自分を疑うな。私は君を選んだ」
「……はい」
 涙混じりに答え、私は微笑んだ。

 その夜、初めて心から安らかに眠れた。腕の中に抱かれながら、孤独の影は消え去り、胸には確かな誇りだけが残っていた。
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