家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら

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第26話 陰謀の囁き

 指輪を贈られてから数日、私は幸福に満ちた日々を過ごしていた。けれどその安らぎは長く続かなかった。ある昼下がり、庭で紅茶を楽しんでいると、控えていた侍女が落ち着かない面持ちで近づいてきた。

「奥様……少々耳にしたのですが」
「どうしたのですか?」
「街で妙な噂が広まっております。――閣下が密かに他家と手を結び、奥様を利用している、と」

 カップを持つ手が震え、茶がわずかに揺れた。誰かが意図的に流しているのは明らかだ。指輪をはめたばかりのこの時期に、狙いすましたような中傷。胸が冷たくなり、過去の孤独がよみがえる。

 けれど今は違う。私は深呼吸し、はっきりと答えた。
「……閣下を疑いはしません。けれど、このまま放っておくわけにもいきませんね」
 侍女は安堵の表情を浮かべて頷いた。

 夕刻、アルベルトが執務から戻った時、私は意を決して告げた。
「噂を聞きました。あなたが私を利用している、と」
 彼の眉がわずかに動き、灰色の瞳が冷たく光った。
「出所は誰だ」
「街の人々です。きっと誰かが流しています」
「……敵が動き始めたか」
 その声は低く、氷のように鋭かった。


 夜、執務室。机の上にはいくつもの報告書が広げられ、彼は立ったまま内容を確認していた。私はその背に声を掛けた。
「お力になりたいのです」
「危険だ」
「危険でも……もう隣に立つと決めたのです」
 私の言葉に、彼はゆっくり振り返った。

 灰色の瞳が射抜くように私を見つめ、それから僅かに柔らかさを宿した。
「……わかった。ただし、私の庇護のもとでのみ動くこと」
「はい」

 翌日、私は彼と共に街へ出た。フードを深くかぶり、使用人に扮しての同行だった。市場は賑わい、果物や布地の声が飛び交う。だがその中に確かにあった。
「宰相閣下は冷酷で、奥方さえ道具にしているらしい」
「結局、権力が目当てなのさ」

 胸が痛んだ。けれど、逃げずに聞き続けた。やがてアルベルトが小さく吐き捨てる。
「やはり公爵派の仕業だ」


 帰邸後、彼は書簡に印を押しながら言った。
「敵は君を標的に選んだ。それは、君が私の力の象徴になった証拠でもある」
「……私が?」
「ああ。だからこそ守らねばならない」

 机の前に立つ彼の背中を見て、胸が強く鳴った。私を「守る」と言うその言葉に、かつての「邪魔者」という烙印は完全に消えている。

「怖くないわけではありません。でも、あなたとなら乗り越えられる気がします」
 そう告げると、彼は近づいてきて私の手を握った。指輪が月光を受けて光り、その輝きが彼の瞳に映る。

「必ず守る。……だが、それだけではない。君と共に戦う」
 低い囁きに、胸が甘く震えた。

 陰謀の影は確かに迫っている。けれど、今の私は一人ではない。彼と共に歩む道を選んだのだから。

 ――試されるのは、この愛の強さそのもの。
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