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第6話 王妃の試しと、揺るがぬ決意
〇
翌日、王都から再び使者がやって来た。今度は以前よりも華美な馬車で、金の縁取りを施した衣を纏った従者が、村人たちの視線を集めながら進む。クラリスの小屋の前で止まると、扉が開き、中から姿を現したのは堂々とした気配を纏う女性だった。
「まさか……王妃様?」
村人たちがざわめく。クラリスも驚きに息を呑む。女性の瞳は鋭く、宝石のような青を宿していた。王妃は彼女を真っ直ぐに見据え、冷ややかに告げた。
「あなたが、クラリスという娘ね」
「……はい」
「第三王子と親しくしていると聞きました。愚かにも、その身で彼を惑わせるのですか」
言葉は容赦なく、胸に突き刺さる。クラリスは唇を噛み、必死に平静を装った。
「私は……ただの農家です。殿下にふさわしいなどとは思っていません」
「ならば、今すぐ身を引きなさい」
命令のような響きに、周囲の空気が凍る。クラリスは視線を落とし、土の上に握った拳を落とした。だが、心の中では消えない熱が燃えている。
「……でも」
「何ですって?」
「殿下は私の畑に来て、土に触れてくださいます。私にとって、それは大切な時間です。誰かに奪われていいものではありません」
自分でも驚くほど強い声が出た。村人たちは息を呑み、王妃の眉が僅かに動いた。
△
緊張が張り詰めたその場に、馬を駆る音が近づいた。林道の奥から、レオニールが現れる。外套を脱ぎ捨て、息を荒げながら馬を降りると、王妃の前に立った。
「母上! ここで何をしておられるのです」
「レオニール……あなた、この娘に心を乱されているのでしょう」
「心を乱されているのではありません。救われているのです」
灰色の瞳が強く輝く。レオニールはクラリスの隣に立ち、その手を取った。
「僕はこの人と共にありたい。身分も立場も関係ありません。母上でも、この想いを否定することはできません」
「無礼者!」
王妃の声が広場に響き渡った。だが、村人たちは息を殺して二人を見守る。クラリスの手を握る力が強くなり、彼女の心臓も高鳴った。
「あなたは王子です。王国の未来を担うのですよ」
「だからこそ、偽りではなく真実を選ぶべきです」
レオニールの言葉は重く、静かに響いた。王妃は一瞬言葉を失い、視線を逸らした。その間に、クラリスは勇気を振り絞り、王妃へ一歩進み出た。
「……私は殿下の未来にふさわしいかどうか、わかりません。でも、殿下の隣にいることで、土と人の心を繋ぐ力になれると信じています」
言葉は震えていたが、芯は強かった。王妃の瞳がかすかに揺れる。
◇
長い沈黙の末、王妃は溜息を吐き、扇で口元を隠した。
「愚かだと思ったけれど……意外に、悪くはないわね」
「母上?」
「試したのです、この娘を。口先だけで殿下に取り入ろうとするのか、それとも己を貫くのか」
王妃はクラリスを真っ直ぐに見据えた。
「覚悟があるのなら、しばらく見守りましょう。だが、王都にはまだ反対の声が多い。簡単に許されると思わないことね」
「……ありがとうございます」
クラリスは深々と頭を下げた。レオニールは安堵の笑みを浮かべ、彼女の手をそっと包んだ。
「クラリスさん、あなたは強い」
「強くなんて……震えてばかりです」
「それでも、逃げなかった。僕はその勇気を、誇りに思います」
雨上がりの空に虹がかかり、光が畑を照らしていた。二人の影は重なり合い、静かな未来への道を指し示していた。
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翌日、王都から再び使者がやって来た。今度は以前よりも華美な馬車で、金の縁取りを施した衣を纏った従者が、村人たちの視線を集めながら進む。クラリスの小屋の前で止まると、扉が開き、中から姿を現したのは堂々とした気配を纏う女性だった。
「まさか……王妃様?」
村人たちがざわめく。クラリスも驚きに息を呑む。女性の瞳は鋭く、宝石のような青を宿していた。王妃は彼女を真っ直ぐに見据え、冷ややかに告げた。
「あなたが、クラリスという娘ね」
「……はい」
「第三王子と親しくしていると聞きました。愚かにも、その身で彼を惑わせるのですか」
言葉は容赦なく、胸に突き刺さる。クラリスは唇を噛み、必死に平静を装った。
「私は……ただの農家です。殿下にふさわしいなどとは思っていません」
「ならば、今すぐ身を引きなさい」
命令のような響きに、周囲の空気が凍る。クラリスは視線を落とし、土の上に握った拳を落とした。だが、心の中では消えない熱が燃えている。
「……でも」
「何ですって?」
「殿下は私の畑に来て、土に触れてくださいます。私にとって、それは大切な時間です。誰かに奪われていいものではありません」
自分でも驚くほど強い声が出た。村人たちは息を呑み、王妃の眉が僅かに動いた。
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緊張が張り詰めたその場に、馬を駆る音が近づいた。林道の奥から、レオニールが現れる。外套を脱ぎ捨て、息を荒げながら馬を降りると、王妃の前に立った。
「母上! ここで何をしておられるのです」
「レオニール……あなた、この娘に心を乱されているのでしょう」
「心を乱されているのではありません。救われているのです」
灰色の瞳が強く輝く。レオニールはクラリスの隣に立ち、その手を取った。
「僕はこの人と共にありたい。身分も立場も関係ありません。母上でも、この想いを否定することはできません」
「無礼者!」
王妃の声が広場に響き渡った。だが、村人たちは息を殺して二人を見守る。クラリスの手を握る力が強くなり、彼女の心臓も高鳴った。
「あなたは王子です。王国の未来を担うのですよ」
「だからこそ、偽りではなく真実を選ぶべきです」
レオニールの言葉は重く、静かに響いた。王妃は一瞬言葉を失い、視線を逸らした。その間に、クラリスは勇気を振り絞り、王妃へ一歩進み出た。
「……私は殿下の未来にふさわしいかどうか、わかりません。でも、殿下の隣にいることで、土と人の心を繋ぐ力になれると信じています」
言葉は震えていたが、芯は強かった。王妃の瞳がかすかに揺れる。
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長い沈黙の末、王妃は溜息を吐き、扇で口元を隠した。
「愚かだと思ったけれど……意外に、悪くはないわね」
「母上?」
「試したのです、この娘を。口先だけで殿下に取り入ろうとするのか、それとも己を貫くのか」
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「覚悟があるのなら、しばらく見守りましょう。だが、王都にはまだ反対の声が多い。簡単に許されると思わないことね」
「……ありがとうございます」
クラリスは深々と頭を下げた。レオニールは安堵の笑みを浮かべ、彼女の手をそっと包んだ。
「クラリスさん、あなたは強い」
「強くなんて……震えてばかりです」
「それでも、逃げなかった。僕はその勇気を、誇りに思います」
雨上がりの空に虹がかかり、光が畑を照らしていた。二人の影は重なり合い、静かな未来への道を指し示していた。
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