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12話 デイジー・エンフィールド、デビュー
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「デイジー、笑顔の仮面を忘れては駄目よ」
気の抜けた表情をしたデイジーに、私は注意を入れました。
「は、はい。お姉様」
デイジーは厳しい淑女教育で鍛えあげた天使の微笑を浮かべました。
デイジーが淑女教育に熱意を持って挑んだ理由は、自分の価値を高めるという他にもう一つあります。
それは貴族に対する感情、闘争心でした。
爛れた貴族に馬鹿にされて見下されるのは腹が立つので「文句が言えないようにしてやるわ」ということです。
デイジーは見た目はあどけなく可愛らしいですが、負けん気が強く、不撓不屈の精神力を持っています。
かつて私のところに「お姉様のドレスちょうだい」と突撃して先制攻撃を仕掛けて来たくらいですから。
その強靭な精神力に「文句のつけようのない淑女になって、貴族たちを黙らせる」という方向性を与えてやったら、デイジーの闘争心に火がつきました。
そして素晴らしい成果をあげてくれました。
「デイジー、お父様がいるからといって感情を見せては駄目よ。笑顔の仮面を忘れずにね」
「はい、お姉様。心得ております」
父の愛人遍歴は社交界でも知れていましたので、デイジーには「あのエンフィールド公爵が平民に生ませた庶子らしい」という、あまり良くない前評判があります。
父は自分のせいでデイジーに良くない前評判があることなど知らないようで、気楽なものですが、皆の好奇の眼差しの矢面に立つのはデイジーです。
「完全武装しているのだから大丈夫よ」
社交界という戦場でこれから初陣を飾ろうとしているデイジーを、私は激励しました。
「今のデイジーに隙はないわ」
「本当ですか? お姉様の目から見ても?」
「装いは完璧。木っ端貴族たちはネックレスを見ただけで怯えて逃げ出すでしょう。これだけ大粒の真珠は、雑魚には一生手が届かない代物よ」
デイジーの真珠のネックレスには大粒の真珠が使われていて、これはかなり値が張る品です。
真珠は控えめな輝きで、見た目は清楚なのですが、大粒になるほどに値段は凶暴さを増すのです。
しかし何と言っても最大戦力は、デイジーのあどけない美貌です。
「貴女の美しさの前に皆がひれ伏すでしょう。大丈夫、お作法だって何度も練習したのだもの。いつも通りにやれば良いのよ。全員黙らせておやりなさい」
「は、はい、お姉様。頑張ります! 黙らせてやります!」
デイジーの士気もなかなか高いようで、私は勝利を確信しました。
世界よ、とくとご覧なさい!
私のデイジーを!
◆
――その夜。
エンフィールド公爵令嬢デイジー・エンフィールドのデビューに、デビュタント舞踏会は震撼しました。
後に『傾国の令嬢』の二つ名で呼ばれることになるデイジーが、社交界に鮮烈にデビューした瞬間でした。
そしてそれは国家を揺るがす大騒動のプロローグとなったのです。
気の抜けた表情をしたデイジーに、私は注意を入れました。
「は、はい。お姉様」
デイジーは厳しい淑女教育で鍛えあげた天使の微笑を浮かべました。
デイジーが淑女教育に熱意を持って挑んだ理由は、自分の価値を高めるという他にもう一つあります。
それは貴族に対する感情、闘争心でした。
爛れた貴族に馬鹿にされて見下されるのは腹が立つので「文句が言えないようにしてやるわ」ということです。
デイジーは見た目はあどけなく可愛らしいですが、負けん気が強く、不撓不屈の精神力を持っています。
かつて私のところに「お姉様のドレスちょうだい」と突撃して先制攻撃を仕掛けて来たくらいですから。
その強靭な精神力に「文句のつけようのない淑女になって、貴族たちを黙らせる」という方向性を与えてやったら、デイジーの闘争心に火がつきました。
そして素晴らしい成果をあげてくれました。
「デイジー、お父様がいるからといって感情を見せては駄目よ。笑顔の仮面を忘れずにね」
「はい、お姉様。心得ております」
父の愛人遍歴は社交界でも知れていましたので、デイジーには「あのエンフィールド公爵が平民に生ませた庶子らしい」という、あまり良くない前評判があります。
父は自分のせいでデイジーに良くない前評判があることなど知らないようで、気楽なものですが、皆の好奇の眼差しの矢面に立つのはデイジーです。
「完全武装しているのだから大丈夫よ」
社交界という戦場でこれから初陣を飾ろうとしているデイジーを、私は激励しました。
「今のデイジーに隙はないわ」
「本当ですか? お姉様の目から見ても?」
「装いは完璧。木っ端貴族たちはネックレスを見ただけで怯えて逃げ出すでしょう。これだけ大粒の真珠は、雑魚には一生手が届かない代物よ」
デイジーの真珠のネックレスには大粒の真珠が使われていて、これはかなり値が張る品です。
真珠は控えめな輝きで、見た目は清楚なのですが、大粒になるほどに値段は凶暴さを増すのです。
しかし何と言っても最大戦力は、デイジーのあどけない美貌です。
「貴女の美しさの前に皆がひれ伏すでしょう。大丈夫、お作法だって何度も練習したのだもの。いつも通りにやれば良いのよ。全員黙らせておやりなさい」
「は、はい、お姉様。頑張ります! 黙らせてやります!」
デイジーの士気もなかなか高いようで、私は勝利を確信しました。
世界よ、とくとご覧なさい!
私のデイジーを!
◆
――その夜。
エンフィールド公爵令嬢デイジー・エンフィールドのデビューに、デビュタント舞踏会は震撼しました。
後に『傾国の令嬢』の二つ名で呼ばれることになるデイジーが、社交界に鮮烈にデビューした瞬間でした。
そしてそれは国家を揺るがす大騒動のプロローグとなったのです。
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