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28話 広がる波紋
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「ダリアさん、私たちが静かに休めるようにと、ご親切に、『扉の封鎖』までしていただいて、感謝しております」
私は笑顔の仮面で、ダリアさんに感謝を述べました。
扉の封鎖、を、特に強調して。
「ですがご心配には及びません。『扉の封鎖』までしていただかなくても、私たちはウィード公爵にご挨拶したらすぐにお暇いたしますので、どうかこれ以上はお気遣いなく。『扉の封鎖』をした静かなお部屋をわざわざご用意していだだく必要はございませんのよ?」
大事なことなので、私は『扉の封鎖』を念入りに言いました。
無言で聞き耳を立てていた周囲は監禁を察したようで、驚愕の表情で目を剝きました。
「貴女たちが着替えないからいけないんじゃない!」
ダリアさんは取り乱した姿で、ヒステリックに叫びました。
私は悠然と答えました。
「ウィード公爵家の『古着』はご立派すぎて、私にもデイジーにも似合いそうにありませんからご遠慮申し上げたはずです」
少し吃驚してしまいましたが、私はすぐに気を取り直して、ダリアさんの勧めを辞退しました。
「先を急ぎますの。ごめんあそばせ。さあ、デイジー、行きましょう」
「はい、お姉様」
私はデイジーを促し、会場に向かい歩を進めました。
周囲の貴族たちが私たちのその様子を見てヒソヒソと囁き合っています。
「ダリア嬢が、エンフィールド姉妹に葡萄酒をかけたのか?!」
「まさか、今まで監禁されていたの……?!」
「それが本当なら恐ろしいことよ……」
「いくら王太子の婚約者でも、公爵家の娘を監禁したらただでは済まされないぞ……!」
何が起こったかを察した大抵の者は眉を顰めていますが、中にはほくそ笑んでいる方々もいらっしゃいます。
「ダリア嬢は喧嘩を売る相手を間違えたわね」
「エンフィールドが相手で、身分を盾にするいつもの手がどこまで通用するかしら?」
「相手も公爵家ですものね」
「デイジー嬢が平民の出身だからと侮ったのでしょう」
「これは見物ね」
◆
「デイジー! その姿はどうした!」
「何があったんです!」
会場に入ると、デイジーの囲いの男性たちが早速、人垣をかき分けて現れました。
好奇心からか、廊下から私たちについて来た人々が私たちを遠巻きにしてこの様子を注視して聞き耳を立てています。
会場に現れた私たちの姿を目にした人々も、驚愕に呆けた表情でこの様子を見ています。
私たちに追いすがって来たダリアさんは会場の手前で足を止めてしまいました。
ダリアさんは会場である大広間の大扉のあたりで、卑しい小物のように背を丸めて縮こまって、悲愴な表情でこちらの様子を見ています。
「ダリアさんが、私とお姉様に葡萄酒を振舞ってくださったのよ」
デイジーは天使の美貌でにっこりと微笑み、アイヴィー王子殿下を始めとする囲いの男性たちに言いました。
「貴族には、お客様に頭から葡萄酒を浴びせかけるお作法があったんですね。私、平民育ちなので知らなくて、吃驚しちゃいましたぁ」
私は笑顔の仮面で、ダリアさんに感謝を述べました。
扉の封鎖、を、特に強調して。
「ですがご心配には及びません。『扉の封鎖』までしていただかなくても、私たちはウィード公爵にご挨拶したらすぐにお暇いたしますので、どうかこれ以上はお気遣いなく。『扉の封鎖』をした静かなお部屋をわざわざご用意していだだく必要はございませんのよ?」
大事なことなので、私は『扉の封鎖』を念入りに言いました。
無言で聞き耳を立てていた周囲は監禁を察したようで、驚愕の表情で目を剝きました。
「貴女たちが着替えないからいけないんじゃない!」
ダリアさんは取り乱した姿で、ヒステリックに叫びました。
私は悠然と答えました。
「ウィード公爵家の『古着』はご立派すぎて、私にもデイジーにも似合いそうにありませんからご遠慮申し上げたはずです」
少し吃驚してしまいましたが、私はすぐに気を取り直して、ダリアさんの勧めを辞退しました。
「先を急ぎますの。ごめんあそばせ。さあ、デイジー、行きましょう」
「はい、お姉様」
私はデイジーを促し、会場に向かい歩を進めました。
周囲の貴族たちが私たちのその様子を見てヒソヒソと囁き合っています。
「ダリア嬢が、エンフィールド姉妹に葡萄酒をかけたのか?!」
「まさか、今まで監禁されていたの……?!」
「それが本当なら恐ろしいことよ……」
「いくら王太子の婚約者でも、公爵家の娘を監禁したらただでは済まされないぞ……!」
何が起こったかを察した大抵の者は眉を顰めていますが、中にはほくそ笑んでいる方々もいらっしゃいます。
「ダリア嬢は喧嘩を売る相手を間違えたわね」
「エンフィールドが相手で、身分を盾にするいつもの手がどこまで通用するかしら?」
「相手も公爵家ですものね」
「デイジー嬢が平民の出身だからと侮ったのでしょう」
「これは見物ね」
◆
「デイジー! その姿はどうした!」
「何があったんです!」
会場に入ると、デイジーの囲いの男性たちが早速、人垣をかき分けて現れました。
好奇心からか、廊下から私たちについて来た人々が私たちを遠巻きにしてこの様子を注視して聞き耳を立てています。
会場に現れた私たちの姿を目にした人々も、驚愕に呆けた表情でこの様子を見ています。
私たちに追いすがって来たダリアさんは会場の手前で足を止めてしまいました。
ダリアさんは会場である大広間の大扉のあたりで、卑しい小物のように背を丸めて縮こまって、悲愴な表情でこちらの様子を見ています。
「ダリアさんが、私とお姉様に葡萄酒を振舞ってくださったのよ」
デイジーは天使の美貌でにっこりと微笑み、アイヴィー王子殿下を始めとする囲いの男性たちに言いました。
「貴族には、お客様に頭から葡萄酒を浴びせかけるお作法があったんですね。私、平民育ちなので知らなくて、吃驚しちゃいましたぁ」
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