かわいそうな欲しがり妹のその後は ~ 王子様とは結婚しません!

柚屋志宇

文字の大きさ
42 / 85

42話 信者

しおりを挟む
「まあ、私に?」

 デイジーは気さくな調子で小娘ミモザに答えました。

「何かしら?」

 デイジーが問いかけると、小娘は意を決したように顔を上げ、瞳をキラキラと輝かせながら言いました。

「デイジー様! 私、ずっと、デイジー様を尊敬しておりました! デイジー様は平民のご出身なのに、いつも毅然としていて、堂々とお振舞いで、本当に格好良いです! 私、尊敬しています!」

 おや、この小娘、なかなか解っているではありませんか。
 もっとデイジーを褒めて良いのよ?

 小娘はさらにまくしたてました。

「わ、私も、養女なのです。母は平民です。だから他のご令嬢たちに軽んじられていて、ずっと引け目を感じていました。でもデイジー様は、お母上が平民でいらっしゃって、しかも庶子でいらっしゃるのに、いつも女王のように堂々としていらして、お美しくて聡明で気品があって、ダンスもとてもお上手で、難しいステップでも軽々と優雅に踊っていらして、本当に凄いです! お生まれも境遇もものともせず、すべてにおいて優れ、堂々としていらっしゃるデイジー様は私の憧れです!」

 神を崇めるような眼差しで小娘がデイジーに賛美の言葉を捧げると、今までしおれていたバジル様が急に水を得たかのように元気を取り戻しました。

「そう! そうなのです! よく解ります。デイジー嬢は凄い人です!」

 今度はバジル様が熱く語り始めました。

「デイジー嬢は血筋も生まれも境遇も、すべてを超越している! 嵐にも負けず、凛として咲く野の花のように、その気高さは天然です! 平民出身でありながら王族を前にしても怯まず、堂々と振舞う姿は正に天然の王者!」

 王族であるバジル様が、平民の母を持つ下位貴族の小娘と同じ目線で、デイジーを褒めるなんて。
 バジル様は王子の称号を得られなかったことに、やはり引け目を感じていらっしゃったのかしら。

 王子王女の称号は国王の直系の子孫に与えられる称号です。
 しかしバジル様がお生まれになる数か月前に先代の国王陛下が崩御なさり、バジル様の伯父にあたる現在の国王陛下が若くして即位なさいました。
 それゆえ、国王の甥としてお生まれになったバジル様は、先代国王の直系の孫たちの中で一人だけ王子の称号をお持ちではないのです。

 バジル様は生き生きと目を輝かせ、普段の大人しく寡黙な姿がまるで嘘であったかのように、勢いのある早口でデイジーの賞賛を並べ立てました。

「デビュタント舞踏会でのデイジー嬢の威風堂々としたお姿を拝見して、私は感動しました! 皆の白い目も陰口もものともせず、凛として顔を上げ、堂々と歩む誇り高き『真珠姫』に圧倒されました!」

「あああ……!」

 小娘が変な声を出しました。
 なるほど、母親が平民なだけあって作法が未熟なようですね。

「デイジー様の伝説のデビュタント舞踏会! 地上に降臨した真珠姫! 黄金の髪の美の化身! 紫水晶アメジストの瞳の精霊姫! お噂だけ伺っております! この目で拝見したかった! 私は身分が足りなくて出席できなかったのです。くやしいです!」

 真珠姫だの美の化身だの精霊姫だの、大げさね。
 デイジーが一番美しかったことは事実ですけれどね。

 この小娘、審美眼は確かなようです。
 作法の未熟さは大目にみてあげましょう。
 なかなか可愛い娘ではありませんか。

「……」

 バジル様と小娘の、入り込む隙がない賛美の応酬の勢いに気圧されて、私もデイジーも微笑んだまま黙って聞かざるを得ませんでした。
 ウィロウも黙っていますが、彼は微笑ましいものを見るかのようにしてバジル様と小娘を見守っています。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

「失礼いたしますわ」と唇を噛む悪役令嬢は、破滅という結末から外れた?

パリパリかぷちーの
恋愛
「失礼いたしますわ」――断罪の広場で令嬢が告げたのは、たった一言の沈黙だった。 侯爵令嬢レオノーラ=ヴァン=エーデルハイトは、“涙の聖女”によって悪役とされ、王太子に婚約を破棄され、すべてを失った。だが彼女は泣かない。反論しない。赦しも求めない。ただ静かに、矛盾なき言葉と香りの力で、歪められた真実と制度の綻びに向き合っていく。 「誰にも属さず、誰も裁かず、それでもわたくしは、生きてまいりますわ」 これは、断罪劇という筋書きを拒んだ“悪役令嬢”が、沈黙と香りで“未来”という舞台を歩んだ、静かなる反抗と再生の物語。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ

春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。 エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!? この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて… しかも婚約を破棄されて毒殺? わたくし、そんな未来はご免ですわ! 取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。 __________ ※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。 読んでくださった皆様のお陰です! 本当にありがとうございました。 ※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。 とても励みになっています! ※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】聖女を愛する婚約者に婚約破棄を突きつけられましたが、愛する人と幸せになります!

ユウ
恋愛
「君には失望した!聖女を虐げるとは!」 侯爵令嬢のオンディーヌは宮廷楽団に所属する歌姫だった。 しかしある日聖女を虐げたという瞬間が流れてしまい、断罪されてしまう。 全ては仕組まれた冤罪だった。 聖女を愛する婚約者や私を邪魔だと思う者達の。 幼い頃からの幼馴染も、友人も目の敵で睨みつけ私は公衆の面前で婚約破棄を突きつけられ家からも勘当されてしまったオンディーヌだったが… 「やっと自由になれたぞ!」 実に前向きなオンディーヌは転生者で何時か追い出された時の為に準備をしていたのだ。 貴族の生活に憔悴してので追放万々歳と思う最中、老婆の森に身を寄せることになるのだった。 一方王都では王女の逆鱗に触れ冤罪だった事が明らかになる。 すぐに連れ戻すように命を受けるも、既に王都にはおらず偽りの断罪をした者達はさらなる報いを受けることになるのだった。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

処理中です...