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57話 政略結婚
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「国王陛下、国のために尽くすは貴族の本懐でございます」
私の言葉に国王陛下は満足気に頷きました。
「リナリア嬢、殊勝な心掛けだ」
「ですが我が義妹デイジーとアイヴィー王子殿下との結婚がどのような理由で国のためになるのか、私には解りません。何のための政略なのか、愚かな私にご説明いただけないでしょうか」
理由など、とっくに解っていますけれど。
国のためではなく、王家のためにエンフィールドの後ろ盾が欲しいのでしょう。
王子殿下たちがウィード公爵と財務大臣ドラセナ侯爵を裏切って、潜在的な敵としてしまったので、王家は権勢を削がれてしまいましたものね。
今のところドラセナ侯爵たちはじわじわ勢力を増しながら、ウィード公爵とオークリー公爵の派閥への地味な報復に終始していて、王家に明確な叛意は見せていません。
しかしドラセナ侯爵の派閥が王弟殿下と懇意にしているという噂がありますから、このままドラセナ侯爵派の力が増せば、王統が王弟殿下に移る可能性もあります。
「貴族たちの争いを収めるためだ。派閥争いにより国民の生活にも影響が出ている。貴族たちの対立を収めるために必要な政略結婚なのだ」
私の質問に、国王陛下はしかつめらしい顔で説明を始めました。
混乱の一旦を担っているであろう王弟殿下は、難しい顔をして、私と国王陛下のやり取りに耳を傾けています。
「混乱の発端は葡萄酒事件だ。あの事件で処罰された娘たちの家が、処罰の内容を不服として対立を引き起こしている」
笑止。
混乱の原因は葡萄酒事件ではなく、婚約破棄でしょう。
王子殿下たちが婚約破棄を正当化したいがために、娘たちを叛逆者として平民に落としたことが不和の原因です。
「だが葡萄酒事件の被害者デイジー嬢が王太子と結婚すれば、彼らは矛を収めるだろう。皆、被害者のリナリア嬢とデイジー嬢には謝罪の意を示しているからな」
「デイジーがアイヴィー王子殿下と結婚することで、貴族たちの対立がどうして収まりますの?」
私が無知なふりで問いかけると、国王陛下は笑顔で答えました。
「王家に慶事があれば貴族たちは行動を控える。葡萄酒事件の被害者デイジー嬢が王太子の婚約者となれば、混乱を引き起こしている貴族たちも祝意を示さぬわけにはいかぬ。彼らはきっと行動を改めるだろう。それに、平民出身のデイジー嬢が王太子妃となれば民衆は喜ぶ。民を敵に回してまで慶事を汚す愚を冒す者はおらぬ」
体裁をつくろうための、こじつけですね。
エンフィールドを味方につけて、叛意を持つ者たちを押さえたいだけでしょうに。
「デイジー嬢が王太子妃となることは、エンフィールド家にとっても悪い話ではあるまい。エンフィールド公爵は未来の国王の外戚となるのだ。エンフィールド公爵を継ぐリナリア嬢は、未来の国王の伯母となるのだ」
「ご説明いただき感謝いたします。エンフィールドが混乱を収めるお手伝いをする見返りとして、デイジーに王太子妃の位をいただけるのだと理解いたしました」
「そうだ。悪い話ではなかろう。エンフィールドは国の混乱を収める立役者となり、王太子妃の座も得るのだ」
「はい。大変名誉なお話でございます。ですが、一つ疑問がありますの」
私は小首を傾げて、不思議そうな顔をしてみせました。
「どうしてデイジーのお相手がアイヴィー王子殿下なのですか? 王家にはシスル王子殿下もいらっしゃいますのに?」
私の言葉に国王陛下は満足気に頷きました。
「リナリア嬢、殊勝な心掛けだ」
「ですが我が義妹デイジーとアイヴィー王子殿下との結婚がどのような理由で国のためになるのか、私には解りません。何のための政略なのか、愚かな私にご説明いただけないでしょうか」
理由など、とっくに解っていますけれど。
国のためではなく、王家のためにエンフィールドの後ろ盾が欲しいのでしょう。
王子殿下たちがウィード公爵と財務大臣ドラセナ侯爵を裏切って、潜在的な敵としてしまったので、王家は権勢を削がれてしまいましたものね。
今のところドラセナ侯爵たちはじわじわ勢力を増しながら、ウィード公爵とオークリー公爵の派閥への地味な報復に終始していて、王家に明確な叛意は見せていません。
しかしドラセナ侯爵の派閥が王弟殿下と懇意にしているという噂がありますから、このままドラセナ侯爵派の力が増せば、王統が王弟殿下に移る可能性もあります。
「貴族たちの争いを収めるためだ。派閥争いにより国民の生活にも影響が出ている。貴族たちの対立を収めるために必要な政略結婚なのだ」
私の質問に、国王陛下はしかつめらしい顔で説明を始めました。
混乱の一旦を担っているであろう王弟殿下は、難しい顔をして、私と国王陛下のやり取りに耳を傾けています。
「混乱の発端は葡萄酒事件だ。あの事件で処罰された娘たちの家が、処罰の内容を不服として対立を引き起こしている」
笑止。
混乱の原因は葡萄酒事件ではなく、婚約破棄でしょう。
王子殿下たちが婚約破棄を正当化したいがために、娘たちを叛逆者として平民に落としたことが不和の原因です。
「だが葡萄酒事件の被害者デイジー嬢が王太子と結婚すれば、彼らは矛を収めるだろう。皆、被害者のリナリア嬢とデイジー嬢には謝罪の意を示しているからな」
「デイジーがアイヴィー王子殿下と結婚することで、貴族たちの対立がどうして収まりますの?」
私が無知なふりで問いかけると、国王陛下は笑顔で答えました。
「王家に慶事があれば貴族たちは行動を控える。葡萄酒事件の被害者デイジー嬢が王太子の婚約者となれば、混乱を引き起こしている貴族たちも祝意を示さぬわけにはいかぬ。彼らはきっと行動を改めるだろう。それに、平民出身のデイジー嬢が王太子妃となれば民衆は喜ぶ。民を敵に回してまで慶事を汚す愚を冒す者はおらぬ」
体裁をつくろうための、こじつけですね。
エンフィールドを味方につけて、叛意を持つ者たちを押さえたいだけでしょうに。
「デイジー嬢が王太子妃となることは、エンフィールド家にとっても悪い話ではあるまい。エンフィールド公爵は未来の国王の外戚となるのだ。エンフィールド公爵を継ぐリナリア嬢は、未来の国王の伯母となるのだ」
「ご説明いただき感謝いたします。エンフィールドが混乱を収めるお手伝いをする見返りとして、デイジーに王太子妃の位をいただけるのだと理解いたしました」
「そうだ。悪い話ではなかろう。エンフィールドは国の混乱を収める立役者となり、王太子妃の座も得るのだ」
「はい。大変名誉なお話でございます。ですが、一つ疑問がありますの」
私は小首を傾げて、不思議そうな顔をしてみせました。
「どうしてデイジーのお相手がアイヴィー王子殿下なのですか? 王家にはシスル王子殿下もいらっしゃいますのに?」
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