王妃教育の謎~婚約破棄?大歓迎です!

柚屋志宇

文字の大きさ
5 / 9

05話 覚醒、反乱、高みの見物

しおりを挟む
「フェリシア嬢、昨日は申し訳ありませんでした」

 翌日、学院で、ユベール様がわざわざ私に謝罪にいらっしゃいました。

「ご丁寧に、ありがとうございます。私は気にしておりませんので、どうかお気遣いなく」
「いや、噂のこともあります。誤解のないよう、きちんとしておきたいのです」

 噂?
 何でしょう?

「フェリシア嬢の良くない噂を流しているのは、セリーヌなのです。私は何度も止めたのですが、いくら言っても聞かなくて……。申し訳ありません」
「私にどんな噂があるんですの?」
「ご存知ないのですか?」
「はい。まったく」

 噂は知りませんが。
 そういえば私って、皆に学院では遠巻きにされているのですわ。
 悪い噂があったせいなのでしょうか?

 おしゃべりで時間をつぶしていられるような暇人ではありませんでしたので。
 静かな環境に、これ幸いと、空き時間は全て自習に当てておりました。

「……私の口から言えるようなことではありません……」
「あら、残念」

 後で知ったことですが。
 私の噂とは、ルシアン殿下が私以外のご令嬢にご執心だという噂にちなんだものでした。
 私のあまりの能力不足にルシアン殿下が呆れ果てているといった類のものです。

「それで……。昨日の件もあり、彼女とは婚約を解消することになりました」
「まあ……それは……。何と申し上げてよいやら……」
「セリーヌ嬢がまた何か、フェリシア嬢にご迷惑をおかけするかもしれませんが……。私はもう彼女とは無関係です。我がヴェルニエ公爵家は、モンフォール公爵家に対して他意はありません。どうぞ誤解なきようお願いいたします」
「そういうことですか。ええ、解りました」


 ◆


 さて、王妃教育の日になりました。

「フリアデル王国の特使のおもてなしの席で、王妃として特使にどんな言葉を掛けるべきかを書きなさい」

 いつものように王妃様が課題を出されました。

「解りませぇーん」

 私がそう言うと、王妃様は怖いお顔をなさり、私をキッと睨みました。

「解らなければ考えなさい。今日中にできないなら明日も来てもらいますからね」
「解らないのでぇー、王妃様ぁー、教えてくださぁーい!」
「自分で考えなさい!」
「解らないのでぇー、お手本をみせてくださぁーい」

 私は投げやりな態度で、王妃様に言いました。

「王妃教育っておっしゃいますけどぉ、王妃様が私に何か教えてくださったことって一度もありませんよねぇ? 私ぃ、フリアデル王国のことは解らないのでぇ、ぜひぜひ王妃様に教えていただきたいですぅ!」

「自分で考えなさい……!」

「ええー、教えてくださいませぇー、王妃様ぁー。王妃教育でしょぉ? 王妃様はぜんぶお出来になるんですよねぇ? 教えてくださいませぇー!」

「……っ!」

 王妃様は怒りの形相のまま、黙りこくってしまい、わなわなと震えました。

 ああ、やっぱりね。
 王妃様には、解らないんですよね。
 私の回答をアテにしていたんですね。

「あ、そういえばぁ、王妃様に教えていただいたこと、一つだけありましたぁ!」

 私はニヤニヤ笑いをしながら言いました。

「王太子妃になるなら、ルシアン殿下より良い成績をとっていけない、でしたよねぇ? でもぉ、ルシアン殿下の成績が悪すぎてぇ、気を抜くとすぐ良い成績取っちゃいそうでぇ、難しすぎますぅ! 私ぃ、良い成績取っちゃうのでぇ、王太子妃になれませぇん!」

 私はずっとその調子で、課題をやらず、イヤイヤ口調で駄々をこねました。
 王妃様が「もう知りません!」とキレて出て行ったので、これ幸いと、私も帰宅しました。

 翌日はもちろんお休みです。
 もう王妃教育には行かないと決めました。


 ◆


 さて、その後。

「お腹が痛ーい、これじゃ王妃教育に行けなーい!」

 私は翌週から、仮病を使って王妃教育をさぼることにしました。

「フェリシア、いい加減にしなさい。一体いつまで王妃教育をさぼるつもりだ。王妃様がお怒りだぞ!」

 さぼりが三回目になると、父が私を叱りつけに来ました。

「私、具合が悪いのでぇー、行けませーん」

 私はベッドの上で、頭から毛布をかぶって抵抗しました。

「仮病だろう!」
「お腹が痛いですぅー」
「そんなことではルシアン王子殿下と結婚できなくなるぞ!」
「それが何か?」
「王妃になれなくなるぞ!」
「別にぃ、私はかまいませぇん」
「王妃様とルシアン殿下のご不興を買ったら、この先、我が家がどうなると思っているのだ! ルシアン殿下は王太子、次代の国王陛下なのだぞ!」

「それはどぉでしょーかぁ?」

 私はかぶっていた毛布から頭を出すと、真顔で父に言いました。

「ルシアン殿下はたしかに王太子ですが、王妃様に似て、頭がとても残念なお方です。あれで本当に即位できるんですか? 貴族たちは反発するのでは?」

「それは昔の話だ。ここ二年ほどでルシアン殿下は大きく成長なさった。ルシアン殿下の政治に期待している貴族は多い」
「ラルベル公爵領の堤防とか? 織物産業の優遇政策とか? 市場の免税とか?」
「そうだ。お前も知っているのか。すべてルシアン殿下の発案だ」

「私の案です」
「はあ?」
「それらはすべて、私が、王妃様に提出した課題の回答です」
「何をふざけたことを……」
「それをこれから証明します。私がいなくなって、王妃様とルシアン殿下がどこまでやれるか……」

 私は再び毛布を頭からかぶりました。

「私はベッドの上で、高みの見物をいたしますわぁ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2年早めた幸せ

みやび
恋愛
「お前との婚約を破棄する為にわざわざ来てやったぞ」 麗かな春の陽気。学園の庭園が綺麗でご機嫌なお嬢様に、我が国の殿下であるバスチアン・アルジョン様がそう言い放った。 理由は殿下の恋人であるリリアーヌ様をいじめたとかなんとか…… お嬢様は全くの無実ですのでほっといて帰りましょう、、、ってお嬢様 「なら私の罰は、国外追放ですの?」 笑顔でなんてこと言ってるんですか‼︎ ーーー よくあるざま〜系に寄せたつもりのお話です。 5話で完結です。

【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと
恋愛
三日後、私は断罪される。 そう理解したうえで、悪役令嬢アリアンナは今日も王国のために働いていた。 平民出身のヒロインの「善意」、 王太子の「優しさ」、 そしてそれらが生み出す無数の歪み。 感情論で壊されていく現実を、誰にも知られず修正してきたのは――“悪役”と呼ばれる彼女だった。 やがて訪れる断罪。婚約破棄。国外追放。 それでも彼女は泣かず、縋らず、弁明もしない。 なぜなら、間違っていたつもりは一度もないから。 これは、 「断罪される側」が最後まで正しかった物語。 そして、悪役令嬢が舞台を降りた“その後”に始まる、静かで確かな人生の物語。

婚約破棄された令嬢は、もう誰の答えも借りません

鷹 綾
恋愛
 「君との婚約は破棄する。――君は、もう必要ない」 王太子から一方的に突きつけられた婚約破棄。 その理由は、新たに寵愛する令嬢の存在と、「君は優秀すぎて扱いづらい」という身勝手な評価だった。 だが、公爵令嬢である彼女は泣かない。 怒りに任せて復讐もしない。 ただ静かに、こう告げる。 「承知しました。――もう、誰の答えも借りませんわ」 王国のために尽くし、判断を肩代わりし、失敗すら引き受けてきた日々。 だが婚約破棄を機に、彼女は“助けること”をやめる。 答えを与えない。 手を差し伸べない。 代わりに、考える機会と責任だけを返す。 戸惑い、転び、失敗しながらも、王国は少しずつ変わっていく。 依存をやめ、比較をやめ、他人の成功を羨まなくなったとき―― そこに生まれたのは、静かで確かな自立だった。 派手な断罪も、劇的な復讐もない。 けれどこれは、 「奪われたものを取り戻す物語」ではなく、 「もう取り戻す必要がなくなった物語」。 婚約破棄ざまぁの、その先へ。 知性と覚悟で未来を選び取る、静かな逆転譚。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?

なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。 干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。 舞踏会の夜。 聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。 反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。 落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。 水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。 レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。 やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。 支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。 呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。 ――公開監査。 記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。 この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。 これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。

愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから

越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。 新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。 一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

処理中です...