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第3章 エルフの国にて
第34話 レベル上げデスマーチ!
しおりを挟む「んー、コイツどうしよっか?」
「えっ、どうするって言われても……うーん」
ミーナは顎に指を当てて考える。が、いい案などすぐに思い浮かばないようだ。
「とりあえず、魔界とやらの情報を話して貰いたいんだが……」
「くっ、この不老不死軍を束ねるワーケイン、仲間を裏切ると思うな……」
「よし、あと一万回追加な」
「言います、言います! なんでも言いますからそれだけはご勘弁くださいっ!」
素早く土下座の姿勢になりつつ、頭を地面にこすりつけるワーケイン。
「全く、オーギュストといいお前といい、いい性格してるよな」
「そ、それで魔界の何をお知りになりたいので?」
「あぁ、次はどこから攻める予定なんだ? あと来る奴の情報も欲しい」
ワーケインの表情が曇る。
「え、えーと……、実は、私が来て、ダメならしばらく様子を見るそうでして……。次は決まってないんです」
「なにっ! 次はないだとっ!」
「ひぃっ、怒らないでください! な、何か悪いことでも?」
「当たり前だっ! それでは俺のレベルはどこであげればいいというのだっ!」
「ソウったら……、まだレベル上げるつもりだったの?」
「そ、そうですよ! 私は、これでも神格を持ってるんです! あなたは神よりも遙かに強いんですよ! これ以上上げる必要なんて……」
「ふざけるなっ、俺が日本から体一つでこの世界に送り込まれ、何を楽しみにこれまで生きてきたと思ってるんだ! 俺はレベル上げがしたいんだっ! よしっ! 今決めたぞっ! やはり貴様にはもう一万回付き合って貰うからな!」
「そ、そんなバカなっ! だってもうレベルの上がりも鈍ってるんじゃ……」
「あぁ、だからこその一万回ノックだ。貴様を使ってとことんまでしゃぶり尽くしてやる!」
「えっ!? ホントにやるの? ウソだよね?」
ミーナは驚きのあまり眼を見開いた。
「いいや、ミーナ。俺はレベルに関してはウソは言わない。これからレベル上げのデスマーチだっ!」
「うぎゃ~~~~っっっ!」
「うそでしょ~~~~っっっ!」
二人の声がハモったように木霊する。
だが、俺は突き進むのみだっ!
あれからひたすらワーケインと名乗る巨大コウモリを殺しまくって数千回。
もはや、ただの雑魚と成り果てたヴァンパイアの神は一言も漏らすことなく、ただ死んで、そして蘇る。
なにせ、俺のどんな一撃でも死んでしまうし、ミーナの攻撃も全て一撃で倒せるまで至っている。
「ねぇ、ソウっ! まだ……なの?」
ミーナの声は掠れ、明らかに精神的な疲れが溜まっている。
「あぁ、ミーナ。あとたったの950回だ! 頑張れっ! もう少しだっ!」
俺の励ましにミーナは少しだけニコッとした。
ワーケインはずっと白目を剥いて、口から泡を吹いたままなので、何を考えているのかさっぱりわからない。
だが、あと少しだ。あと少しで一万回なんだっ!
ここまでくれば最早、気合いで突き進むのみだ。
同じ作業をひたすらに繰り返していると頭がぼーっとしてくる。ヒールもキュアーも効かないこの症状にひたすら耐えること数日間。
そして、ようやく終わりの時を迎えるのであった。
「やったっ! 一万回だ! やったぞっ! ミーナッ!」
「お、終わった……のね……。ぐすっ、わ、私……出来たんだ……」
「あぁっ、本当によくやった! これで君は立派な廃人の仲間入りだっ! 本当に……、うぅっ」
俺の目からも涙が溢れる。
ミーナと俺はがっしりと抱き合い、お互いの健闘を慰め合う。
「ソウ、私、こんなに頑張れるなんて思わなかった……、どこかでソウが飽きてやめるものだと思ってた。だけど、ソウがずっと応援してくれたから……、ぐすっ」
「あぁ、俺はいつだってミーナの味方だ! こうした苦行の果てにこそカンストの栄光があるんだ! そして、俺だってまだ先は長いんだ。これからも頑張っていこう!」
「えっ! こんなの……まだ……やるの……うそ……」
ミーナは気を失ってしまった。
「ミーナ、今は休んでくれ。また来る戦いのために!」
「あの~……、お熱いところすみません……が、そろそろ……」
「あぁ、長いことありがとう! 戦友よ! お前のお陰でミーナは立派な戦士になることが出来た! 協力感謝する!」
俺は額に手を当て、ワーケインに敬礼する。
「も、もうよろしいですよね?」
「あぁ、きっちりと止めを刺してやろう! オーギュストと仲良くするんだぞ!?」
「はい……、ありがとう……ございます……」
ヘルファイアーによってワーケインの身体を尽く焼き尽くし、精神体に、ターンアンデッドを唱えた。
薄れ逝く黒い霧からはようやく解放されたワーケインのやすらかな死に顔が見えた。
ガガガガガッッッ! 地鳴りのような音が鳴り響き、天井から石がゴロゴロと落ちてきた。
ワーケインというダンジョンのボスが死んだことにより、壁や天井がどんどん崩れ始めているのだろう。
俺はミーナを背負い、このダンジョンを抜け出すのであった。
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