レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

文字の大きさ
97 / 219
第7章 聖魔大戦編

第96話 チコ

しおりを挟む


 チコの魔法が放たれた。

 アースジャベリンは次々と爆発し、石が爆発し四方に飛び散る。その上、ファイヤーボールの爆発が加わり、その上から氷の槍が降り落ちていく。

 轟音と爆風をまき散らし、視界は土煙に覆われる。

 だが、チコは胸騒ぎがしていた。

「これだけの攻撃……、すでに相手は死んでいるのは確実。でも……この気持ちは……なんだというの? 嫌な予感がどんどん膨らんでくる……」

 やがて土煙が晴れていく。敵の姿を探すまでもなく、その女は立っていた。

 憎らしいほどに涼しい顔をして。

 その女の周りには球状に覆う風の膜が出来ていた。先ほども見せた風魔法を今度はバリヤーとして使っていたのだ。

「あら? もう終わりなの? アナタの攻撃って……、つまらないのね」

 その女の周りだけは地面も抉れ、草は真っ黒になり、荒れ果てた姿となっていたのに、肝心のその女には全く届いていなかったのだ。

「ま、まだまだやわ! これでっ!」

 今度は右手に炎、左手に氷を出す。

 二つの相反する属性を同時に操れたのは人類では私だけだという。

 天才。私はそう言われ続けてきた。昔から勉強が出来すぎて、学校から学ぶモノなどなにもなく、無味乾燥な人生を持て余していた。

 そう、ミウに出会うまでは。

 ミウは輝いていた。どんな相手にも怯まず、諦めず、勇敢に立ち向かっていた。

 私は憧れた。こんな風になりたい。私の実力をもっと多くの人にみてもらいたい。そんな欲求が込み上げる。

 ゲームのデータを覚えるのは得意だ。一度読めばほとんど頭に残っている。そのデータからはじき出される最適解。それを選択していくだけで面白いように勝てた。最初だけは。

 待ちに待った、ミウとの対戦は燃えた。このレベルになると、知識は完璧で当たり前。その後が問題になってくる。相手の心理を読み解き、出してくる手を読む。

 だが、経験の浅い私はミウに圧倒的大差で負けたのだ。悔しい。その思いがさらに私を突き動かす。

 のめり込むようにゲームをプレイしていく。そして、憧れだったミウから2on2のトーナメントの誘い。私はすぐに返事した。ミウと一緒にプレイできるなんて!

 幸い、彼女とはプレイスタイルが全く違っていたこともあり、お互いにキャラ対策を煮詰めることによって、苦手キャラをカバーしあえたのだ。

 初めての優勝はタッグでのものだった。しかも憧れのミウと。

 その後のタッグトーナメントは総ナメだった。

 私の人生の絶頂ともいえるほど充実した日だった。

 だけど、周りの人たちの反応は思わしくなかった。女が優勝したということの嫉妬は凄まじいものがあったのだ。

 匿名掲示板には毎日のように悪口を書かれる。ウソばかり。しかもビッチだなんだとあることないこと散々に。私は処女なんだからビッチなワケがない。いったい何を言っているの?

 ゲームに打ち込んでいるのに、男に構ってる暇なんてないのに。

 私はミウさえいればよかった。ミウと共にいれれば、それで……、

 そして、その日は訪れた。私とミウは気がつけば聖教国という国に召喚されてしまい、なんだかんだと説明を受けているうちに、戦争へ参加させられそうになる。

 私は断固反対した。早く、元の世界へ戻して欲しいと願い出たが聞き入れられなかった。

 そして、彼らから渡された服を着ているとなぜだか、頭がボーッとしてきて……、気がつけばレベル上げなんてやらされて……。

 私はミウと一緒に帰りたかった……。だけどミウは驚いたことにこの世界に留まりたいと言い出した。

 仕方なく私は従うことにした……。だってミウのいない生活なんて考えられないもの。

 この国が容易した装備を着ていると、何も考えられなくなってくる。一日が終わっても、その日に何をしたのか覚えていないのだ。だけどレベルはどんどん上がってる。

 充実感が妙にあるし、イケメン達による接待やおいしい食事も相まって、私はいつしか、考えるのを辞めてしまった。

 魔王国から来たというスパイもちょっと本気を出しただけで、すぐに気を失ってしまったし、魔王国にはろくな人材がいないんじゃないかと、完全に油断していたのだ。

 そのツケが今、私に回ってきてしまった。

 渾身のツイン魔法は私の持つ魔法の中でも一点突破の威力は一番なのだ。

 放たれた魔法は赤い龍と青い龍となり、絡み合い、やはて一つとなってその女に襲いかかる。

「やった!?」

 しかし、二匹の龍は無残にも分厚い風の魔法に弾かれいずこへと飛んで行ってしまった。

 どんな魔法も通じない。どんなコンビネーションを仕掛けてもその女は涼しい顔を崩さない。

 そして、頼みの綱であるミウも頭に血が上ってしまっているのか、二人で闘うということを忘れており、戦いながらどこかへ行ってしまった。

「ウ、ウチはミウと一緒にいられればそれでええのに! どうして! どうして私の邪魔をするの!」

 思わず本音が出てしまう。だが、その女は深くため息をついた。

「アナタがどう思っているかはわかったわ。だけどね、人としてやってはいけないことがあるのよ。ま、その服に色々と仕掛けがあるようだから、今回は多めに見てあげようと思っているのだけど……。これ以上は無駄な抵抗はやめて頂けるかしら?」

 降伏の勧告だろう。だが、離れた所ではまだミウが闘っているのだ。私だけ裏切るわけにはいかない。

「ウチはミウについていく。それだけ」

 その女をにらみ返してやった。ただの強がりだけど。

「そう……、じゃ、私から攻撃しちゃおうかしら?」

 その女が初めて杖を構えた。

 大丈夫。まだこちらには切り札がある。

「これでっ!!! しまいや!!!」

 私はありったけの魔力を全てこのフレアーに注ぎ込んでいく。

 上空に浮かぶ多数の巨大な火の玉。その数、30発。

 MP切れを起こして動けなくなることも覚悟した。

 だけど、私の居場所は奪わせない。決して。

 その女にフレアーの火の玉が次々と襲いかかっていく。

 だが、火の玉は一つとしてその女には届かなかった。

 風のバリヤーに火の玉が当たったとたん、遙か上空へ吹き飛ばされてしまうのだった。

 そして、私の体を風の刃が襲ってくる。身につけていた装備があっという間に切り刻まれ、体のあちこちから血が流れた。

 私は両膝を地についた。もうMPは空。意識もボヤーッとしてきている。

「もう、なんなん……。こんなん無理ゲーや」

 その時、凄まじい地響きとともに地面が揺れ、勇者と魔王の間で何かあったようだ。

 そして、耳をつんざく衝撃。

 この一撃に巻き込まれて私も死んじゃうのかしら? そんなことを思っていたら、急に視界が真っ暗になってしまった。

 いったい、これは?

「ふぅ、やっと来たのね? 遅いわよ!」

 その女が文句を言い出した。全くワケがわからないまま、私の体はその暗闇に包まれていくのであった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...