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第9章 勇者RENの冒険
第140話 ブッピーの秘策
しおりを挟む「いやぁ、一方的な試合になってきましたね!」
「まったくです。よもやズールがこれほどの強者であったとは……。ブッピーは初戦からとんでもない男と闘うことになってしまったようで運がなかったかもしれません。何せ、ブッピーも相当な強者であることは間違いありませんから!」
「しかし、もう剣が6本も刺さったまま、よくブッピーも耐えています」
ブッピーは諦めてはいなかった。だが、ズールの猛攻を前に、巨大な剣を振り回しつつ後退していく。
「フハハハハハハ! どうした! 貴様の体力はそこまでか? もっと抗って見せろ! もっと抵抗して見せろ! もっと楽しませて見せろ!」
ずるずると後退しながらズールの猛攻にしのぐブッピー。
だが、突如、ブッピーの目が赤く光り出した。
そして、上空へ向かって大きく口を開き、息を吸い込んだ。その吸い込みは長く続き、ブッピーの腹はどこまでも膨らんでいく。
「あああぁぁぁーーーっ! ブッピーが息を吸い込みまくっていきます! まるで身体が倍の大きさになったかのようです! まるで風船が膨らんでいくようですが、どこまで大きくなっていくのでしょうか!」
「むっ! また風を使った攻撃か? それは通用せん!」
ズールは腕に魔力を込め、6本の腕から同時に風魔法を放つ。その6つの魔法が重なり合い、威力を高めてブッピーに襲いかかった。
だが、ブッピーは剣を振り上げ、その風魔法を弾き飛ばした。
遙か上空でその風魔法が爆発したとき、ブッピーの目が笑ったように逆三日月にゆがんでいく。
「ブヒャアアアアアァァァッッッ!!!」
一気に吐き出されたのは空気……ではなかった。ドス黒い霧のようなものがブッピーの腹から吐き出され、その勢いは舞台を一気に包み込んでいく。
「こ、これは何が起こっているんでしょうか? 舞台が真っ黒になってしまい、見ることが出来ません!」
「リサさん! どうやら、これは毒による攻撃のようですね! 今、舞台に設置された計測器から高濃度の毒が検出されました!」
「高濃度の毒ですか! こ、これほど濃密な霧が全て毒だとしたら……、一体どうなってしまうんでしょう?」
「これほどの猛毒ですから、我々では呼吸をしたらまず死んでしまうでしょうね。今は舞台にに結界が張られていますから外は大丈夫ですが、中で闘っている戦士は一溜まりもないかもしれません!」
「……は、果たして、ズールは大丈夫なのか? 少しずつですが黒い霧が晴れていきます! あ、ああぁーーーっと! ズールが倒れている! ダウンです! この試合初のダウンはズールとなりましたーーーっっっ!!!」
「リサさん! ブッピーの足下を見て下さい!」
「どうしました? ローファンさん! あっ! なんでしょう? あれは? ブッピーの血だった液体がドス黒く変色しております!」
「えぇ、高濃度の毒を帯び、血液が毒性を持ってしまったんでしょう! そして、その毒の池からモヤが上がっているのが見えます! これでは空気が晴れたとしても足下から常に毒の霧が拡散されていくことでしょう! ブッピーのとんでもない技が出ましたね!」
「あら? 凄いじゃない! やった! これでアナタと契約できちゃうかも!」
嬉しそうに破顔するイヴリス。
「くっくっく……」
「何か可笑しかったかしら?」
イヴリスがまた俺に顔を近づけ、その大きな目でじっと見つめてくる。
「あのズールがこのまま倒れているワケがないだろう? 今は倒れているが……」
ズールはブルブルと腕を振るわせながらも地に肘を立て、上半身をぐっと起こした。
「ブッヒャーーーーっっっ!!!」
ブッピーの雄叫びが響き渡る。そして、巨大な剣を振り上げ、ズールに向かって振り下ろした。
ズールは咄嗟にしゃがむ姿勢を取ると、6本の腕に剣を持ち、ブッピーの剣と交錯させた。
ズガアアアアァァァァッッッ!!!
「こ、これは凄まじい一撃だぁーーーーっ!」
「ブッピーの攻撃はそのどれもがまともに当たれば致命的ともなる一撃ですからね! ズールは身体が弱っていたでしょうから、ひとたまりもありませんよ!」
やがて舞台の土煙が晴れていく。
「ブヒャッ?」
「ん? おおーっと、ズールがしゃがんだまま、ブッピーの剣を受け止めておりました!!!」
「ズールの周りがもうクレーターみたいにヘコんでますよ! ブッピーの一撃は相当なものですが、これに耐えたズールも凄いですね!」
「……ま、まさか……、この我がここまで追い込まれるとはな……。見事、と言っておこう。そなたは間違いなくオークの王。魔獣の王であろう。……だが! 我も、阿修羅の国の王! 闘いの王なのだ! まだ終わらぬ! まだ……」
ズールは巨大な剣と真っ向から鍔迫り合い、強烈な一撃に耐えていた。
「こ、これは……、ズールが起き上がっていきます! ブッピーの剣を押し返しながら、ゆっくりと立ち上がっていきます!」
「普段のブッピーであればこうは行かなかったでしょう。ですが、ブッピーは手負いです! 今も背中から血が噴き出していますからね! 本来の力が出ていないことは明白! しかし、ズールも毒のダメージが大きいですよ! リサさん、見て下さい! ズールのあの顔色を!」
「ムッ! 確かに、ズールの顔色が青白くなっていますね!」
「これは苦しいですよ。毒が今も身体を侵しているのです! これはいよいよ分からなくなってきたと思いますよ!」
「ぬうううりゃああああっっっ!!!」
ズールは叫び声と共に、魔力を腕に込め、ブッピーの大剣を弾き返した。
「ふぅっ、ふぅっ、ま、負けるわけにはいかんのだ……。必ず倒してみせる!」
ズールは残る魔力を振り絞り、剣に込め、構え治すのであった。
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