レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

文字の大きさ
143 / 219
第9章 勇者RENの冒険

第141話 王の孤独

しおりを挟む


「陛下は飽きていらっしゃった……。だが、どうだ? 今の闘っている陛下の楽しそうな顔は!」

 阿修羅の国で宰相を務める男、ブーズは阿修羅の国全体に現れたモニターを見ながら満足げに頷いた。

 自分たちの王であるズールの孤独を誰よりも近くで見てきたのだ。そして、いつか彼が満足しうる敵をみつけることこそ、宰相を務める自分の役割だと信じていた。そう、あの日、神に出会った日のことは今でも忘れることは出来ない。私は潤む目をこすりながら、旅立つ前の事を思い返す。



   ***



「くだらぬ……、この程度の力量であったか……」

 吐き捨てるように感想を述べる王の足下に転がるのは、最近になって序列を大きく伸ばした新進気鋭の若き阿修羅。

 活きの良い若者が出てくる度にこうして王に挑戦をさせてみるものの、結果が変わることはなかった。王はこれで30年以上の永きにわたり不敗。通算戦績も8000勝をマークした。もちろん、引き分けや敗北などない。この記録は王が16歳になり、闘士として登録してからの正式な記録である。



 阿修羅の国。そこは闘いこそ全て。国の序列は全て闘いによって決定するため、上位の入れ替わりは非常に激しい。国を支える大臣クラスなどは頻繁に入れ替わりが発生していた。

 その阿修羅の国で王位を30年以上もの永きにわたり、防衛し続ける男がいた。ズールである。

 彼は歴代阿修羅でもナンバー1の実力を持つと言われていた。かつてこれほどの永きにわたり政権を維持した王はいなかったのだ。

 だが、あまりに突出しすぎたその実力のため、相手がいなかった。

 敵を求め、近隣の諸国を攻め滅ぼすも手応えはない。あまりになすがままに蹂躙できてしまうがために、他国へ攻め入るのも辞めてしまった。手応えがなさすぎたのだ。

 王は単身、凶悪な魔物が出現すると言われる魔境へ潜り込み、ジャイアントトロールや、ドラゴン、オーガ達とも闘ってはみたが、彼を満足させる者はいなかった。

 阿修羅の国の大陸ではもう彼を超える者は存在しなかったのだ。

「もう、陛下を楽しませてくれる実力者は……いないのだろうか……」

 昔はよかった。子供の頃ならば、短い手足、すぐに切れてしまう魔力、力では絶対に適わない大人達。ズールは身体が一回りも二回りも違う大人に混ざって修練を重ねていた。そう思っていたのも数十年も前の話だ。

 成長するにつれ、手足は伸び、魔力は増え、陛下よりも力が強い存在など、一部のドラゴンくらいのものになってしまった。

「これが、王の孤独……」

 ふぅー、っとため息が漏れてしまった。

「我はこの先、闘いを楽しめることは出来ないのだろうか?」

 疲れ切った顔つきで項垂れるズール。

「これは失礼いたしました。次こそは陛下のお眼鏡に……」

「いや、もう良いのだ」

 陛下に言葉を遮られてしまう。

 確かにこのやり取りも30年続いているのだ。今更取り繕った所でどうなるわけもない。

 だが、自分も阿修羅の国の闘士として生まれたからには、一度でも陛下を危機に陥れてみたい。そう願ってはみたが、陛下の強さはあまりにも突出して強大すぎた。自分では足下にも及ばないのだ。

 以前は悔しさもあった。が、そんな気持ちすらもうなくなってしまったのだ。

 だが、陛下にはもっと強敵と出会って欲しいと切に願う。こんなちっぽけな国に収まるような男ではないのだ。

 そんな事を思いながら陛下と二人、控え室で沈黙していた時だった。突如、光り輝く男が出現したのだ。

「む? 貴様は誰だ? どうやってここへ入った?」

 今、陛下が休まれているこの場所は闘技場の控え室。ドアは全て閉じたまま、誰かが開けた形跡すらない。

 私は腰に提げた剣を素早く抜き、白く輝く男に刃を向けた。

「私はズールを迎えに来たのです」

「貴様、陛下を呼び捨てにするとは! この無礼者がっ!」

 頭に血が上り、手に持っていた剣をその男に投げ放った。

 しかし、剣は途中で固いモノにでもぶつかったように弾かれた。

「なに? 妖しい奴め! 覚悟しろ!」

 白く輝く男に斬りかかろうとしたとき、私の胸を抑える手が伸びてきた。

「陛下……」

「よい、ブーズよ。我はこの者の話を聞いてみたい」

「はっ、仰せのままに」

 私は陛下の後ろに下がり、様子をみることにした。

「さすが、血気盛んな阿修羅族の者ですね。そうでなくては」

 白く輝く男は刃を向けられたにも関わらず、ニッコリと微笑むのだった。



   ***



 ズールはブッピーの大剣を弾き返し、そのままの勢いで斬りかかっていく。

「陛下……、良かった。初戦の敵がこれほどの実力者で本当に良かった」

 宰相であるブーズの顔を涙が流れていく。それほどにまでズールには敵がいなかったのだ。

 ブッピーに斬りかかるズールの顔は笑っていた。口元が、目元が、頬が、全力を持って闘えることに喜びが溢れていた。

「なんとしても勝利してください! 陛下! 次の対戦相手も必ずや陛下を満足させられるはずです! あぁ、素晴らしい! なんて素晴らしいトーナメントなのでしょう!」

 ブーズはいつしか手を強く、震えるほどに握りしめ、モニターに必死になって見入るのであった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...