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第9章 勇者RENの冒険
第142話 最後の一撃
しおりを挟むブッピーは焦っていた。闘いが始まる前は、目の前の立つ男なんか楽に撃破できるだろうと高をくくっていたのだ。自分には駆け引きなど出来ない。ただただ、破壊し尽くすのみ。
だが、目の前の存在はしぶとかった。自分の渾身の一撃をもらい、地面に埋められようと、また、さらなる一撃で地面がベッコリとヘコむほどに打ち付けられようと立ち上がってきた。とっておきの猛毒すら耐え抜いて、今、自分の前に立ちはだかっている。
身体のあちこちに刺さったままの剣は次第に体力を奪っていき、剣を持つ手の感覚が怪しくなってくる。
それでも力では勝っていたようで剣を振るって奴の剣を数本弾き飛ばすも、すぐに奴の手には剣がもどっていた。何度も何度も繰り返し剣を振り、奴の剣を飛ばしたり、叩き折ったりもしたが奴の剣はいくらでも出てきた。
先に限界が訪れたのは自分の持っていた剣だった。幾度目かの鍔迫り合い、自分の剣と奴の数本の剣が交錯する。奴の6本の腕を全て合わせることにより、自分の振る剣の力を超えてくるのだ。
よもや、魔獣の王となった自分の力に比肩する男が現れようとは思いもしなかった。奴の6本の剣が自分の剣を弾いたとき、それは起こった。
バキィィィッッッ!!!
耳をつんざく破裂音が響き渡る。
奴は剣を捨て、また新しい剣に持ち替えた。
自分の剣はというと……、先ほどの打ち合いでヒビが走ってしまった。これまで数十合も打ち合っても平気だった剣のど真ん中。横に走ったヒビは長く黒い線を走らせている。恐らくだが次の打ち合いで折れてしまうだろう。
よくここまで持ったものだ。これまでに叩き折った奴の剣は十数本以上。それを考えれば頑張ったのだろうが、奴を倒しきるまで持たなかったのは完全に想定外。
もう自分には最後の一撃を放つことしか残されていなかった。それは、自分の体内の魔力の全てを注ぐ一撃。この一撃の後、奴が立っていれば自分の負けが確定する。そんな最終兵器、まさか初戦から使うハメになるとは思わなかった。
だが、目の前の存在はその技を使うのに躊躇していては勝てないのだ。これまでの闘いで嫌というほど思い知らされた。奴は強い。それも圧倒的に強い男なのだ。
素直に目の前の男を認めたとき、自らの剣を失ってでも最後の技を放つ決意をすることが出来たのだった。
「ブモアアアアアッッッ!!!」
今までに無い巨大な咆哮がブッピーから放たれた。
突然の咆哮にズールの足が止まる。その隙にブッピーは大きくジャンプして後退した。
その着地の直後のことであった。
「あぁーーーっと、ブッピーがまた大きく口を開けました! まさか、あの猛毒攻撃をまた放とうと言うんでしょうか?」
「いや、様子が違うようですよ! リサさん! これは違う技になるようです!」
ブッピーは巨大な剣を高々と空に掲げた。そして、大きく開いた口の中に刀身を飲み込んでいく。
「それが貴様の隠し球というわけか。だが技を放つ前に片づけてやろうではないか!」
ズールは左右2つの手のひらを3組合わせ、呪文の詠唱を始める。
「ズールが魔法の準備に入りました! 何やら呪文を唱えているようです!」
「リ、リサさん! こ、これは恐らく極大魔法でしょう! 見て下さいあの魔方陣の大きさを! 普通なら二、三十名がかりで造るような大きさです!」
ズールの足下に刃直径10メルはあろうかという特大の魔方陣が描かれた。
一方、ブッピーはズールが向かってこないのを見ると大きく息を吸い込み始めた。
「ブッピーがまたその腹を大きく膨らませていくーーー! 一体何が飛び出すんだーーーっ!!!」
「ブモアアアアアッッッ!!!」
ブッピーの吐き出したのは黒いマグマのような液体。それがレーザービームのように真っ直ぐにズールへ放たれた。
「喰らうがいい! 我が最大の魔法! フレアーテンペストォォォ!!!」
ズールの詠唱が終わり、3つの組み合わさった手からそれぞれ大魔法フレアーが放たれる。その炎の塊が一つに合わさって、特大の炎の渦を巻き起こし、ブッピーの方へ向かって飛んでいった」
「二人の間で、意地と意地のの攻撃が交錯するーーーーッッッ!!!」
ズガガガガガガガガーーーーーーッッッ!!!!!!
「この結界は相当に強力なものですが、試合場の爆発の威力が結界の外にも吹き荒れております!!!」
二人の攻撃による余波は観客席にまで暴風を巻き起こした。
「くっ、くうううぅぅぅ!!! マイクやヘッドフォンが吹き飛ばされそうですーーーっ!」
ブッピーは後悔などしていなかった。自らの剣を犠牲にした一撃。それはズールの魔法をぶつかり合ってもなお、突き進んだのだ。そして、凄まじい煙の中、ズールに命中した手応えが返ってくる。
(だが、どうやらここまで……か……)
ブッピーの攻撃が突き抜けたと同時にズールの攻撃もまた衝突を突き抜け、自分の身体を焼いたのだ。最早、立っていることも適わず、前のめりに身体が沈んでいくのがまるでスローモーションのように感じる。
ズウウウウウン!!!
今だ土煙に包まれている中、うっすらと最後の瞳に映ったのは片側3本の腕を失いつつも、もう片側の腕に剣を杖にようについて立っている奴の姿が見えた。
(忌々しい奴め……、だが貴様が……勝者だ……)
ブッピーの視界は霞み、意識は途絶えるのだった。
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