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夢現
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しおりを挟む「……陽」
あまりにも切なくて、どうしようもないほど優しい声が僕を呼ぶ。胸の奥がきゅんとなって、言葉が出せない。目で返事を送れば、翠の顔が近づいてきて予感する。
――あ、これって……。
僕にその資格はないのに。そう分かっているけれど、最愛の彼を突き飛ばすことなんてできるはずがなくて、心中で懺悔しながら、僕はただ目を瞑ってそれを受け止めた。
初めてのキス。多分、三秒もしなかった。それなのに心はとてつもなく満たされて、じんわりとあたたかくなる。幸せの意味を、生まれて初めてちゃんと理解した気がした。
ゆっくりと目を開ければ、ぱちんと目が合って照れくさい。心臓がうるさいけれど、翠から与えられたものだと思えば、それすらも今は心地よかった。
世界中を虜にする、極上のアルファ。誰もが羨望の視線を送り、彼のハートを射止めたいと願っている。そんな男が、今この瞬間は僕だけをその眼に映している。
手に入れたなんて、そんな傲慢なことは考えようとも思わない。けれど、渇きにも似た欲望はどうしようもなく、この男が欲しいと思った。骨の髄まで愛されたいと、そう思ってしまった。
「……もっと」
「ッ、あんまり俺を煽らないで」
掠れた声で呟くと、ちゃんと耳に届いたらしい翠が余裕のない表情に変わる。浅ましい俺の望みを叶えるべく、彼はまた唇を寄せた。
息付く暇も与えないほど、繰り返されるキスにくらくらする。唇と唇を合わせているだけでこんなにも満たされるなんて、僕は知らなかった。
何も言葉を交わさない。次第に全身の力が抜けてきて、後ろに倒れそうになる。それを察した翠が頭を打たないように支えてくれた。
火照った体にひんやりとした床が気持ちいい。横たわる僕に覆い被さった翠は、僕の手を取り、指先に口付けた。
「舌、出して」
言われるがまま、何の疑問も持たずに素直に従う。間髪入れずに、べと出した舌が翠のそれと絡まり合う。さっきまでの啄むようなキスとは違う、直接的な刺激に下半身が疼いた。
「ッふ、」
溢れる吐息すらも飲み込まれているような感覚に背筋が震える。我が物顔で咥内を弄られて臆病に舌先を引っ込めれば、それは駄目だと言わんばかりに絡め取られる。耳に届く水音、口端から零れる唾液。肌が粟立って、そこだけ別の生きものになったみたい。自分の身体だとは思えなかった。
――気持ちいい。もっと欲しい。
体中の血液が沸騰してるみたいに全身が熱い。頭の中はそれしか考えられなくて、ただ与えられる刺激を享受することしかできない。止めなくちゃなんて考えは、すっかり消え去っていた。
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