トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣

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stargazer - S

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 ◇◇

 およそ二時間半、アンコールまでしっかりとこなした後、手早くシャワーを浴びてから用意させていた車に乗って会場を飛び出した。公演が終わって、三十分も経っていなかったはず。会場周辺ではテンションの上がったファンの子たちがまだたくさん残っていて、グッズを持って記念撮影をしていた。


 「あの、行き先はホテルでいいんですよね……?」


 ハンドルを握るマネージャーが、様子を伺うようにおずおずと尋ねてくる。思わず鼻歌を歌ってしまうほど、上機嫌な俺を不気味に思っているらしい。


 「あー、うん。ホテルでいいよ」
 「かしこまりました」


 きっと、ホテルからでも歩いてたどり着ける。会場からも香りを確認できたんだ。陽が「ここだよ」って呼んでいるのが分かるから。

 部外者兼邪魔者のマネージャーを陽の元へ連れて行きたくない。こいつが茨木のように何か言えるとは思わないけれど、マネージャーという立場の人間に陽がトラウマを抱いていてもおかしくない。

 それに、再会は二人きりがいい。
 全てやるべきことは済ませてきたんだ。
 あとはもう、俺と陽だけの時間だろう?

 想像だけで、勝手に口角が上がる。陽がいなくなってから二年、自然と笑みが溢れるのは初めてのことだった。


 「私はまだ仕事があるので戻りますが、今日の公演のチェックは本当にいらないんですよね?」
 「ああ、今日の公演は改善点が特にないから。明日軽く見直すぐらいでいいよ」
 「分かりました。では、明日もあるので今日はゆっくり休んでください」
 「はいはい、お疲れ」
 「お疲れ様です。失礼します」


 運転席から会釈をした後、去っていく車を見送って、深く息を吸う。朝よりも濃くなったフェロモンに心臓がうるさく主張する。

 お前の番が待っているぞ。早くしろ。
 そう言っているのが分かる。

 ホテルに一歩も入ることすらせず、俺はただ導かれるように足を進めた。初めて来る土地だっていうのに、迷いはない。海に面したこの街は階段が多くて、コンサート終わりなのもあって、さすがの俺も息が切れる。だけど、一秒たりとも足を止めることはしなかった。一刻も早く、陽に会いたいから。

 運命の赤い糸に導かれるように、一軒のアパートにたどり着いた。オートロックすらない年季の入ったアパートの一室から、陽の香りが漏れ出ているのがすぐに分かる。

 ここへ来て、今更だけど少し緊張する。この瞬間をどれだけ待ち望んでいたか。なるべく音を立てないようにゆっくりと階段を上り、震える指でインターホンを押す。しかし、家の中はシーンとしたまま、何も返事がない。隣の家からだろうか、子どもの泣く声が聞こえてくることさえ、今は疎ましく感じる。

 俺に気づいて、居留守を使っている? ここまで来て、まだ俺を拒絶するつもりなの?

 再びインターホンを押しながら、ぎりと歯を食いしばる。こんなにフェロモンを出しながら俺を誘っているくせに、引き下がれるはずがない。
 
 近所迷惑だと頭の中では理解していながら、三度四度と立て続けにインターホンを鳴らしていれば、隣の家のドアががちゃりと開いた。

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