48 / 55
第3章
8.シュゼットに相談会
しおりを挟む
「こんにちは、マリエル」
「いらっしゃい、シュゼット、それにブロンも。どうぞ入って」
夜中からの雨が降り続く翌日、シュゼットは一か月ぶりにマリエルの家を訪ねていた。雨に濡れるのが嫌いなブロンは、シュゼットの腕の中で満足気だ。
食堂に入ると、アナイスやカミーユたちおなじみの顔ぶれの他に、初めて見る女性が一人すでにお茶を始めていた。
「お先にごめんね、シュゼット」とアナイス。
「ううん。わたしこそ遅くなってごめん」
「大丈夫よ。シュゼットは家が遠いんだから」
マリエルは「座って座って」と言って、シュゼットの背中を優しく押した。シュゼットは椅子に座る前に、ブロンを床に下した。するとブロンはエメたち子どもが座っている方に一目散にかけていった。
「さあ、これでみんなそろったわね」
マリエルはシュゼットの分のお茶を注いだ。
「それじゃあ、『シュゼットに相談会』を始めましょうか」
「シュゼットに相談会」とは、夏のハーブランチの日からできた定例会のことだ。マリエルたち新米母さんたちが体の悩みをシュゼットに相談するというもので、これまでに四回開催されている。
「今日は新しい人も来てるの。ベアトリスよ」
ベアトリスは少し緊張した顔で、会釈をした。シュゼットも笑顔で会釈をする。
「わたしで良ければ力になるので、なんでも相談してくださいね」
ベアトリスは肩を強張らせ、緊張した表情で「ありがとう」と答えた。
はじめはマリエルの親しい友人だったこの会は、回を追うごとに少しずつ人数が増えている。今日はシュゼットとマリエルの他に十人もいる大所帯だ。その中には、エクトルとコラリーの母親であるオロールや、ロラの母親であるフランセットもいる。
「さてと。何か相談したいことがある人は?」
司会のマリエルが挙手を求めると、カミーユがサッと手を挙げた。
「今回は何といっても冬風邪じゃない?」
「そうね。毎年のこととはいえ、怖いわあ」
「子どもがいるとなおさらよね。子どもの体調はもちろん、自分が倒れるわけにはいかないし」
マリエルは、ブロンとクッションを引っ張り合って遊んでいるエメの方を見た。
「確かにね。学校がないって言っても、子どもたちは外で遊びたがるし。どうやってわからせれば良いのか」
少々やんちゃなエクトルに手を焼いているオロールは、ため息交じりに言った。
――やっぱりみんなの心配は冬風邪なんだな。毎年少なからず亡くなる人がいるから、不安に決まってるよね。
「それなら、力になれるかもしれません」
シュゼットはカゴの中からハーブチンキを取り出した。
「これ、風邪予防に効くハーブで作ったチンキなんです。これを数滴垂らした水で定期的にうがいをして、手洗いも定期的にすると、予防になりますよ」
「予防って、冬風邪にならないってこと?」とベアトリス。
「絶対に罹らないってわけではないですけど、確率を下げることはできます」
「へえ、良いじゃない! わたし、一つ買うわ。藁にも縋りたい気持ちなの」
アナイスはすぐに銅貨を取り出して、ハーブチンキと交換した。
「水に数的落とせば良いのよね」
「はい。ちなみに使えるのは十六歳以上の大人だけです。アルコール度数が高いお酒で作ってるから、大人の中でも妊娠中・授乳中の人、高血圧の人、それからてんかんの人には与えないこと。それから子どもにも絶対に与えないでください」
シュゼットは「代わりに……」と言いながら、カバンの中から別の瓶を取り出した。
「子どもたちはハーブティーを使えば風邪予防になります! ローズヒップとエルダーフラワーのハーブティーを飲んでも良いし、うがいに使っても良いと思います」
「さすが! 抜かりないわね、シュゼット」
フランセットはパチパチと手をたたいた。
「えへへ。でも、すごいのは植物ですよ。ちょっと待ってくださいね。全員分あるかな……」
シュゼットが瓶を軽く振りながら首をひねると、マリエルが「ねえ」と声を上げた。
「シュゼットがそんなにいろいろな風邪予防を知ってるなら、たくさんの人が実践するべきじゃない?」
シュゼットは顔をあげながら「えっ?」と言った。全員がシュゼットに注目している。
「確かにみんなが気を付ければ、そもそも風邪が流行らないものね」とアナイス。
「それならわたしたちが評判を広げましょうよ。シュゼットのおかげでいつも助かってるって」とカミーユ。
「良いかも! まだシュゼットのことを知らない人もいるかもしれないしね」
「どうする、この町だけ冬風邪が流行らなかったら」
どんどん盛り上がる婦人たちに、シュゼットは急いで声を上げた。
「ま、待ってください! わたしのはあくまで民間療法だから、病気になったらちゃんと病院にはかかった方が良いものだし。さっきも言った通り、罹る確率を下げるだけで、絶対にならないわけじゃないから、そんなに過信されると……」
マリエルは慌てるシュゼットの手をそっと握ってきた。
「あなたの民間療法を過信してるわけじゃないわ。あくまで民間療法だものね」
「うん。自分の知識と……」
シュゼットは「神様のお告げ」という言葉を飲み込んでから、口を開いた。
「勘と、経験だけが根拠だから」
「わかってるわ。でもね、わたしたちは『シュゼットのこと』は信頼してる。わたしたちのことを本気で考えて、心配して、知恵を分けてくれてる、最高に素敵な子だって。だから、シュゼットに頼ってみたいのよ。あなたに頼れば絶対に悪いことにはならない。そう確信できるの」
マリエルは優しく微笑んだ。
「まあ、シュゼットが嫌なら、無理には広めるのはやめましょうよ。わたしたちと、わたしたちの仲間だけでも良いじゃない」
アナイスの言葉に、すぐにフランセットも同意した。
「シュゼットが忙しくなって、体調を崩したりしたら大変だもの」
「確かにそうね。ごめんね、シュゼット。困らせちゃって」
「ううん! 困ってはないよ! むしろ、うれしかった。みんながそんなにわたしを信頼してくれてるって知れて……」
口にするのが照れ臭い言葉に、シュゼットの声はしりすぼみになっていった。
マリエルたちはそんなシュゼットを優しいまなざしで見守った。
「いらっしゃい、シュゼット、それにブロンも。どうぞ入って」
夜中からの雨が降り続く翌日、シュゼットは一か月ぶりにマリエルの家を訪ねていた。雨に濡れるのが嫌いなブロンは、シュゼットの腕の中で満足気だ。
食堂に入ると、アナイスやカミーユたちおなじみの顔ぶれの他に、初めて見る女性が一人すでにお茶を始めていた。
「お先にごめんね、シュゼット」とアナイス。
「ううん。わたしこそ遅くなってごめん」
「大丈夫よ。シュゼットは家が遠いんだから」
マリエルは「座って座って」と言って、シュゼットの背中を優しく押した。シュゼットは椅子に座る前に、ブロンを床に下した。するとブロンはエメたち子どもが座っている方に一目散にかけていった。
「さあ、これでみんなそろったわね」
マリエルはシュゼットの分のお茶を注いだ。
「それじゃあ、『シュゼットに相談会』を始めましょうか」
「シュゼットに相談会」とは、夏のハーブランチの日からできた定例会のことだ。マリエルたち新米母さんたちが体の悩みをシュゼットに相談するというもので、これまでに四回開催されている。
「今日は新しい人も来てるの。ベアトリスよ」
ベアトリスは少し緊張した顔で、会釈をした。シュゼットも笑顔で会釈をする。
「わたしで良ければ力になるので、なんでも相談してくださいね」
ベアトリスは肩を強張らせ、緊張した表情で「ありがとう」と答えた。
はじめはマリエルの親しい友人だったこの会は、回を追うごとに少しずつ人数が増えている。今日はシュゼットとマリエルの他に十人もいる大所帯だ。その中には、エクトルとコラリーの母親であるオロールや、ロラの母親であるフランセットもいる。
「さてと。何か相談したいことがある人は?」
司会のマリエルが挙手を求めると、カミーユがサッと手を挙げた。
「今回は何といっても冬風邪じゃない?」
「そうね。毎年のこととはいえ、怖いわあ」
「子どもがいるとなおさらよね。子どもの体調はもちろん、自分が倒れるわけにはいかないし」
マリエルは、ブロンとクッションを引っ張り合って遊んでいるエメの方を見た。
「確かにね。学校がないって言っても、子どもたちは外で遊びたがるし。どうやってわからせれば良いのか」
少々やんちゃなエクトルに手を焼いているオロールは、ため息交じりに言った。
――やっぱりみんなの心配は冬風邪なんだな。毎年少なからず亡くなる人がいるから、不安に決まってるよね。
「それなら、力になれるかもしれません」
シュゼットはカゴの中からハーブチンキを取り出した。
「これ、風邪予防に効くハーブで作ったチンキなんです。これを数滴垂らした水で定期的にうがいをして、手洗いも定期的にすると、予防になりますよ」
「予防って、冬風邪にならないってこと?」とベアトリス。
「絶対に罹らないってわけではないですけど、確率を下げることはできます」
「へえ、良いじゃない! わたし、一つ買うわ。藁にも縋りたい気持ちなの」
アナイスはすぐに銅貨を取り出して、ハーブチンキと交換した。
「水に数的落とせば良いのよね」
「はい。ちなみに使えるのは十六歳以上の大人だけです。アルコール度数が高いお酒で作ってるから、大人の中でも妊娠中・授乳中の人、高血圧の人、それからてんかんの人には与えないこと。それから子どもにも絶対に与えないでください」
シュゼットは「代わりに……」と言いながら、カバンの中から別の瓶を取り出した。
「子どもたちはハーブティーを使えば風邪予防になります! ローズヒップとエルダーフラワーのハーブティーを飲んでも良いし、うがいに使っても良いと思います」
「さすが! 抜かりないわね、シュゼット」
フランセットはパチパチと手をたたいた。
「えへへ。でも、すごいのは植物ですよ。ちょっと待ってくださいね。全員分あるかな……」
シュゼットが瓶を軽く振りながら首をひねると、マリエルが「ねえ」と声を上げた。
「シュゼットがそんなにいろいろな風邪予防を知ってるなら、たくさんの人が実践するべきじゃない?」
シュゼットは顔をあげながら「えっ?」と言った。全員がシュゼットに注目している。
「確かにみんなが気を付ければ、そもそも風邪が流行らないものね」とアナイス。
「それならわたしたちが評判を広げましょうよ。シュゼットのおかげでいつも助かってるって」とカミーユ。
「良いかも! まだシュゼットのことを知らない人もいるかもしれないしね」
「どうする、この町だけ冬風邪が流行らなかったら」
どんどん盛り上がる婦人たちに、シュゼットは急いで声を上げた。
「ま、待ってください! わたしのはあくまで民間療法だから、病気になったらちゃんと病院にはかかった方が良いものだし。さっきも言った通り、罹る確率を下げるだけで、絶対にならないわけじゃないから、そんなに過信されると……」
マリエルは慌てるシュゼットの手をそっと握ってきた。
「あなたの民間療法を過信してるわけじゃないわ。あくまで民間療法だものね」
「うん。自分の知識と……」
シュゼットは「神様のお告げ」という言葉を飲み込んでから、口を開いた。
「勘と、経験だけが根拠だから」
「わかってるわ。でもね、わたしたちは『シュゼットのこと』は信頼してる。わたしたちのことを本気で考えて、心配して、知恵を分けてくれてる、最高に素敵な子だって。だから、シュゼットに頼ってみたいのよ。あなたに頼れば絶対に悪いことにはならない。そう確信できるの」
マリエルは優しく微笑んだ。
「まあ、シュゼットが嫌なら、無理には広めるのはやめましょうよ。わたしたちと、わたしたちの仲間だけでも良いじゃない」
アナイスの言葉に、すぐにフランセットも同意した。
「シュゼットが忙しくなって、体調を崩したりしたら大変だもの」
「確かにそうね。ごめんね、シュゼット。困らせちゃって」
「ううん! 困ってはないよ! むしろ、うれしかった。みんながそんなにわたしを信頼してくれてるって知れて……」
口にするのが照れ臭い言葉に、シュゼットの声はしりすぼみになっていった。
マリエルたちはそんなシュゼットを優しいまなざしで見守った。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる