陽キャと陰キャの恋の育て方

金色葵

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「ハァ……ハッ……」
 行く当てもなく走り出した結月は、日頃の運動不足がたたってすぐに息が切れてしまう。そして。
「待って! 白石っ」
 あっという間に結月は陽太に捕まった。二人は廊下の端でハアハアと肩で息をする。腕を強く握りしめられた。
「あ……ごめんね、何でもないんだ……」
 視線を感じるが結月は顔を上げられない。すると、落ち着かせるように陽太が結月と手を繋いだ。ギュッと力が入ったそこから、陽太の温かい体温を感じる。
「こっちきて」
 手を引っ張られ、二人は隠れるように空き教室の中に入った。
 結月は陽太に背を向ける。
「ハハッ……朝日くんがあまりにかっこよくて思わず逃げちゃった……ほんとこんなに素敵ならみんな夢中になっちゃうね……キスシーンもある、し……」
 何も聞かれていないのに、気まずくて結月は自分から喋り出す。そして、自分が言った言葉を反芻して、強く胸元を握りしめた。
 今、結月が感じているのは嫉妬だ。みんなが陽太をかっこいいと言う。当たり前だ、こんな素敵な人なんて他にいない。だけど、女性に囲まれている姿を目の当たりにし、キスシーンがあると聞いて、ショックを受けている自分がいた。
(ダメだ……こんな気持ち、朝日くんに気づかれないようにしないと……)
 気持ちを切り替えるように息を吐くと、陽太の方に振り返ろうとした。
「っ……」
 けど、できなかった。何故なら、後ろから陽太に抱きしめられたからだ。ふわりと陽太の匂いがして、腕が結月を閉じ込めるように抱きしめた。
「何で逃げたか、教えてもらってもいい?」
 とてもとても、優しい声で尋ねられる。体に回された腕が、ギュッと結月を引き寄せた。
 その声が、体温があまりに温かくて、抑え込もうとした気持ちごと、結月を包み込んだ。
 結月はそっと、陽太の腕を掴む。
「……キスシーンがあるなんて知らなかった……」
「うん」
「知ってたら、朝日くんに投票しなかったのに」
 するフリだけだというのは分かっている。それでも、嫌だと思ってしまうのを止められなくて。
 陽太の雰囲気が、甘さを孕んでいて、結月からぽろぽろと素直な気持ちが零れ落ちた。
「そっか」
 そう言うと、陽太はくるりと結月の体を反対に向けて、向かい合わせの形で、再度抱き直す。
「だからロミオ役、断るって言ったのに」
「え……」
 結月は驚く。先日陽太が言い出したのには、そういう意味があったのか。
「でもよかった。俺ちょっとショックだったんだ、白石は俺が他の奴とキスシーンしてもいいんだって」
 だから嬉しい、陽太は結月の頬を両手で包むと、目を細めて微笑んだ。
「そうだったんだ……」
 陽太は結月のために断ろうとしていた。その事実がじわじわと胸に広がって、キュンとした甘さがこみ上げてくる。
 おずおずと陽太を見上げると、見つめる瞳と視線が合う。
「俺には、白石だけ」
 陽太が真っすぐに、結月の瞳を覗き込む。
「白石だけが好き」
「朝日くん……」
 真摯な愛の言葉が、心の中に降りてきて、結月の中にあったざわざわや嫉妬を、あっという間に溶かしていく。
 頬に触れる手に、結月は手を重ねた。
「うん、俺も朝日くんだけが好き」
 嬉しくて、へへ、と結月ははにかんだ。
 そっと顔が近づく。
 綺麗な形の瞳が、結月を甘く見つめるのに、誘われるまま目を閉じた。
 二人の唇が重なる。長めのキスは、最後に結月の唇を、啄むように食んで、離れていった。
「キスしたいのも白石だけだから」
「っ……」
 甘いキスと言葉に、結月は頬をピンクに染める。
 二人、同時にふふ、と笑みを零した。
 強く抱きしめる体に、結月はすりとすり寄った。
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