落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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六章

大人しく

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「ど、どうしたの…?」

メイド達に見送られながら迎えに来てくれた馬車へと乗り込めば、やたら元気がない様子のバルドが静かに座っており、ただならず雰囲気を出していた。そんな様子に何かあったのかと、席へと座りながら問い掛ければ、下を向いていた顔が僅かに動いた。

「久しぶりに、母さんからこっぴどく叱られた…」

僕とは違って髪の毛まで泥で汚して帰ったからか、ラザリア様から手酷く叱られてしまったようで、いつもよりダメージが大きいようだった。でも、叱られ慣れているバルドがここまで意気消沈している理由が分からなくて、さりげなく隣に座っているコンラットへと視線を向ければ、少し困ったような顔で眉を下げた。

昨日の一件で一番汚れたのはバルドだったけれど、そうなってしまったのには理由があった。僕達が慌てて駆け寄って行った時、ヒナノ達が多少汚れているのには気づいていたけれど、黒狼だったルドは一目見ただけじゃそれが分からなかった。だから、バルドも普通に駆け寄って行ってしまい、ルドの方もそれを喜んでいるようで尻尾を振っていた。だけど、途中で自身に着いている泥に気付き、それを付けてはいけないと思ったのか、その場で泥を払うように身震いをした。それはルドなりの配慮だったのかもしれないけれど、バルドの足の速さが災いしてしまい、その払った泥をまともに浴びてしまった。

「ねぇ?そんなに叱られたの?」

「おそらくそうだと思います。昨日別れた時はそこまででもなかったのですが、朝からこの調子で詳しくはまだ聞けていないんです…」

汚れて帰ったら、おそらく叱られるだろうとバルドも分かっているようだった。でも、僕と別れる時も普通だったのにと思って、僕が小さな声で事情を知っていそうなコンラットへと問いかけると、コンラットの方も一晩で様変わりしたのが不思議なようだった。

「コンラットの方は大丈夫だったの?」

「私は袖口くらいしか汚れていませんでしたし、昔からバルドに付き合わされていましたからね。私の家族はすぐに察してくれました」

僕よりも被害は少なかったけれど、それでも汚れて帰った事には変わらないのに、家の人から何も言われなかったかと思って聞いたら、こういう事が初めてじゃなかったからか、すんなりと家族に受け入れられたようだった。

「なんだよ。俺が無理やり連れ回してたみたいじゃんか…」

僕達が小声でバルドの事を話していても何も言わなかったのに、最後の一言には不服そうな態度で拗ねたような声を上げる。そうすると、何故かコンラットは落ち込んでいるバルドを煽るような事を言う。

「みたいではなくて、その通りだったと思いますよ。私が嫌だと言っても連れ回していたではないですか?」

「そんなこと言って!コンラットだって楽しんでただろう!」

「そんな事ありませんよ。アナタの勘違いです」

「そんな事なかったって!リュカだってそう思うよな!?」

「僕に言われても…」

実際に見たわけじゃないのに聞かれても困ると思いながら、興奮しているバルドと落ち着き払ったコンラットの板挟みのようになっていると、狭い馬車の中で騒ぐなとでも言うようにネアが口を開いた。

「どっちでも良いが、今日は汚れるのは勘弁しろよ。掃除するのだって大変なんだからな?」

「……分かってるって」

ネアから注意されれば、貸しがあるからか、少し不満そうではあるけれど素直に返事を返す。もし、僕達が管理している馬車を使っていたら、僕達の予定が終わるまで御者はその場に待機していただろうから、僕達の行動が筒抜けになってしまう可能性があった。それに、御者を下手に追い返したら不審なため、父様達に気付かれないようにする意味で、商会で使っている馬車をネアから用意してもらっていた。だけど、僕達が汚れて乗ってしまったことで、馬車にも泥が付いてしまい、一番汚れが付いていたバルドはその事には何も言えないようだった。

「それで?今日はどうするんだ?もし、昨日と同じ場所に行こうとしているんだったら、それは止めておけよ。おそらく昨日の連中が張り付いて、俺達を探しているだろうからな」

一人だけ身奇麗なまま帰って行ったからか、ネアだけは余裕そうだったけど、あの人達に関わらると面倒事になりそうだと思っているのか、2度と会いたくなさそうだった。でも、昨日出会った人達は、騎士で偉い人に仕えていると言っていたから、できることなら僕も接触しない方が良いと思う。

「幸い、こっちの移動手段は知られていないだろうから、あの町の周囲にさえ近寄らなければ大丈夫だとは思うがな」

あちこちに移動できる手段があるなんて思わないだろうし、ましてや人外の者が手を貸しているなんて想像もしていないだろうから、ネアの言う通り大丈夫そうではあるけれど、一番はしゃぎそうなバルドが難色を示した。

「それがさぁ…どうしようか悩んでるんだよなぁ…」

「お前にしては珍しいな?」

バルドの反応はネアも意外だったのか、少し驚きを持って問いかけると、面倒事が嫌で関わりたくないというよりも、彼らとは関係ない別の何か事で悩んでいる様子で答える。

「ほら、ルドとも次は一緒に遊ぶ約束してたのに、今日も留守番は可愛そうかなってのもあるんだけどよ…。昨日の事でルドが気落ちしてるんだよな…」

「そんなに?」

僕達が出かけている間、みんなでお留守番をしてもらう代わりに遊ぶ約束をしていたし、泥を掛けられて怒るどころか、さらに泥が付くのも気にしないで慰めていたけれど、そこまで落ち込んでいる様子はなかった。

「ルドは俺が泥だけになって叱られてる所を何度も見てるからさ…。自分のせいで俺が叱られたと思ってるんだよなぁ…」

詳しく事情を聞くと、学院に通い出してからは遊ぶ頻度が減っただけでなく、長期休みには屋敷を空けることも多かったからか、今年は一緒に遊びに連れて行くと、昨日よりも前からルドと約束していて、嬉しそうに尻尾を振っていたらしい。それがあったからか、ルドも気分が高揚してしまい、羽目を外して遊び過ぎたようだった。

「ルドは主人と違って賢いですからね」

「俺より賢いのは認めるけど一言余計だぞ…」

バルドの話を聞いてコンラットが褒めれば、バルドの方も褒められて悪い気はしないけれど、自分の事を引き合いに出されるのは面白くないといった様子で、少し不満そうな顔をするけど、自分の不用意な発言のせいでルドが落ち込んでいるから、バルドもそれで責任を感じているみたいだった。

「ルドの頭が良いのもあるんだけど、親父の召喚獣のカムイを普段から見てるからさ…。上下関係もあるかもだけど、自分もこうあるべきって思ってるというか、強い憧れみたいなのがあるんだよなぁ…」

バルドに言われて、凛々しくて格好いい銀色のフェンリルの姿を思い出し、憧れる気持ちが分かる気がした。それに、あの手の種族はそういったのにも厳しい認識が僕にもある。

「怒られたりしたの?」

「親父と同じで反省している奴を叱るような性格じゃないから、それはないとは思うんだけど…。俺に泥を掛けた事も含めて、お前らにも迷惑掛けたと思ってるんだよ…」

昨日、ルドが身震いして泥を掛けてしまったのはバルドだけじゃなくて、鼻先や足元しか汚れていなかったグラニの灰色の毛並みを半分だけ汚し、傍にいたヒナノにも少し泥が掛かっていた。もともと汚れてはいたけれど、急に飛んで来た泥にびっくりしたヒナノが僕の方に駆け寄って来て、それを避けることも出来なかった僕の服にも付いてしまっていた。だけど、それはルドのせいではない。

「もともとヒナノも汚れてたし、それがなくてもヒナノは駆け寄って来てたと思うからルドのじゃないよ」

「私達の不注意ですかね」

「俺より小さいんだから、そんなの気にしなくても良いと思うし、我慢もしなくて良いと思うんだけどなぁ…」

まだ子狼で遊びたいだろうに、日頃から自分を律するように振る舞ってばかりいるルドに、バルドはそんな事気にせずに甘えてもらいたいようだった。

「しかし、本当にお前より賢いな」

「いや、まぁ…そうなんだけどよ…」

ルドの賢さを否定したくないのか、コンラットに言われた事と同じような事を言うネアに文句を言おうとするも、途中でその言葉を飲み込んでいた。

「そんな事もあって、今日はルド達と過ごそうかと思ってさ…。それで、お前達の方からも、昨日の件は気にしないようにルドに言ってくれないか…?」

「良いよ」

「えぇ、ルドのせいというよりも、アナタの不注意な発言の方が原因のようですからね」

「だから、お前は一言多いんだよ!」

少し躊躇いがちに言ってきた提案に快く返事を返せば、そんな殊勝な態度はらしくないといった様子でコンラットが答える。そうすれば、バルドの方も調子を取り戻したようだった。だけど、そんな僕達の話を聞いたネアが、懸念材料を出してきた。

「俺としてもそれで良いが、一緒遊ぶのならあの国には行かない方が良いぞ。誰かに紋を見られでもしたら、どこの国から来たのか一発で分かるからな」

「あぁ、そうだよなぁ…」

ネアの言う通り、紋を隠すのにも限度があるうえに、ふとしたことで外れてしまう可能性だってある。それに、昨日言われていたばかりの事を思い出して呟く。

「父様に気付かれる可能性があるから気を付けろって、兄様も言ってたしね」

「はぁっ!?どういうことだよ!?もしかして、もう気付かれたのか!?」

「僕は何も言ってないよ!それに、兄様は誰にも言わないって言ってたし、詳しくも聞かないって言ってくれたから、僕達が昨日何をしてたかまでは知らないよ!」

僕が何気なく言った言葉に、バルドがうっかり口を滑らせたのかというように聞いてくたので、僕はそれを直ぐに否定しながら兄様の体験談の部分を除いて、昨日あった件を話した。

「そんな僅かな違いで気付くとは、さすがと言えば良いのでしょうか…」

「……本当に油断ならないな」

「やっぱり、今日は大人しくしてた方が良さそうだな…」

最初から反対はしていなかった事もあり、今日は大人しくルド達と一緒にオスカーさんの店で遊ぶことになった。でも、そのおかげで帰る頃にはルドも多少は元気を取り戻したようだった。
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