落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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一章

課外授業

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「今日は、気分を変えて課外授業に行きましょう」

「課外…授業?」

朝食後、元気を取り戻した僕が部屋で待っていると、いつもより少し遅れて部屋にやって来たフェリコ先生が、開口一番そう告げた。

「はい。今日は、少し趣向を変えて下街に行ってみようと思います」

「下街に!?」

下街は僕にとって、“冒険”に限りなく近い未知の場所で、思わず大きな声が出てしまった。

これまで、屋敷の外へ出る事はあっても、行き先は貴族街の店や劇場ばかりで、通りを歩く人といえば、お使いの使用人くらいしか見たことがなかった。だから、家族で王都の外に出かける際、馬車の中から街並みを見るくらいで、一度も足を踏み入れた事がない。

賑わう町並みに興味を引かれていたが、父様からは「危ないから、もう少し大きくなったら」と言われていて、まだいけないと諦めていた。だからこそ、胸の奥が高鳴る。

「リュカ様はまだ自分でお金を使ったことがありませんでしたので、学院へ行く前に知っておいた方がいいと思いまして」

「でも、良いの!?」

「アルノルド様には、此処に来る前に許可をいただいて来ましたので、ご安心ください」

「 じゃあ、早く行こう!」

僕が今すぐ飛び出していきたい勢いで、先生の手を掴んで扉へ引っ張れば、その場を動くことなく僕を宥めるように優しげな声で言う。

「リュカ様、落ち着いてください。まずはお金の説明が先です」

はやる気持ちはあるけれど、ここで我儘を言って街行きを中止にされたら困るので、ぐっと堪えることにした。すると、そんな様子を見たフェリコ先生は、鞄から袋を取り出し、机の上に硬貨を一つ一つ丁寧に並べ始めた。

「いいですか? ここに並べた硬貨は、それぞれ価値が違います」

速く街へ行くために、僕は言われた通り硬貨を見つめる。

「では、通貨の単位はルピアと言います。そして、これが貨幣なのですが、順番に説明していきますね。まず、一番右にあるのが小さい単位である鉄貨です。これは十ルピアの価値があります。そして、これが十枚集まると銅貨になり百ルピア、さらにその十倍で銀貨の千ルピアになります。ここまでは、良いですか?」

「大丈夫です!」

順番に硬貨を指し示しながら、僕の反応を確認していたフェリコ先生は、続いて次の硬貨へ指を移した。

「そして、そこからまた十倍すると金貨の一万ルピアになり、その上に十万ルピアである大金貨、そして最高位の白金貨が続きます。どの貨幣も“十倍ずつ価値が上がる”という仕組みになっていますので、そこまで難しくはないと思います」

先生は僕が緊張しないように、やわらかい声でゆっくりと説明してくれる。

「お金を初めて使うとなれば、きっと色々と戸惑うこともあるでしょう。でも、ゆっくり慣れていけば大丈夫ですよ。今日の街での課外授業も、その練習のひとつですからね」

「はい!」

フェリコ先生の言う通り、仕組みは思っていたほど難しくない。硬貨の種類さえ覚えてしまえば、僕でもちゃんと使える。そう思っていると、僕はあることに気がついた。

(なんか……袋の中、ほとんど金貨と大金貨しかない……)

説明のために使用した硬貨をしまった袋を渡されたけれど、中を覗いて見れば、あまりの金額に指先が震えて、思わず袋の口を握りしめた。

「フェリコ先生って、いつもこんな大金持ち歩いてるの…?」

さすがに白金貨はなかったけれど、それでも十分すぎるほどの大金だ。どう考えても“説明用にちょっと持ってきました”なんて量じゃない。不安になって先生を見上げると、つい先ほどまで優しげだった表情が、なぜか困ったような、気まずそうなものに変わっていた。

「……いえ。ここに来る前にアルノルド様から渡されました。『街に行くだけですので必要ありません』と私、申し上げたのですが……これでも、量を減らしたんですよ……」

最後の一言は少し小さくて、先生の肩がほんの少しだけ落ちて見えた。

(これで……“減らした”……?)

今日のちょっとした“お買い物の練習”に、ここまでの金額を渡され、少し怖くなってしまった僕は、そっと袋を抱きしめたまま固まってしまった。

本当は白金貨まで入っていたらしいけど、なかなか受け取ろうとしない父様に何とか返したそうだが、その応酬が長引いてしまい、今日も遅れてしまったと説明してくれたけれど、それに苦笑いを浮かべてしまった。

その流れでというように、白金貨の上位に“大白金貨”というものが存在すると教えてもらった。けれど、それは本当に“特別な時”にしか使われないらしく、持っているのも王族か、ごく一部の高位貴族のみだという。フェリコ先生も、「存在は知っていても、実物は見たことがありません」と少し苦笑しながら肩をすくめた。

「アルノルド様なら、おそらくお持ちですよ。もし、興味があるのでしたら、頼んで見せてもらうといいと思います。リュカ様が相手ならば、とても嬉しそうに見せてくださると思います」

父様の良い笑みが思い浮かんで、僕はぶんぶんと首を横に振った。

「い、いいです! ぼ、僕も使うことなんてないと思うので、本当に大丈夫です!」

思わず声が裏返るけど、硬貨一枚で一千万ルピアの価値がある物を失くしたらと考えたら、怖くて触れない…。

(絶対……触っちゃダメなやつだ……)

僕は持った袋を落とさないよう、両腕をぎゅっと握りしめながら、小さく震えてしまった。そんな僕の様子を見て、フェリコ先生は気を紛らわせるように、優しく声をかけてくれた。

「そうですね。使う機会は今はないと思いますから、あまり気にしなくて大丈夫ですよ。……さて、他に気になることはありますか?実際に使ってみないと分からないことも多いでしょうし、まずは街に向かってみようと思うのですが…その前に、着替えをしましょうか?」

「このままじゃ駄目なの?」

「はい。このままだと“貴族だ”というのが、周囲の人達に一目で分かってしまいます。街には色々な者がいますからね。あまり目立たない格好の方が安全なんですよ」

促されるまま、僕は隣の衣装部屋へ向かったけど、そもそも下街へ出ることなんてなかった僕の衣装部屋には、派手ではなくても「良い生地を使っている」と一目で分かる服ばかりが並んでいた。それでも、フェリコ先生と一緒にあれこれ選んで、なんとか“裕福な商人の息子”くらいには見える服装に落ち着いた。

「では、準備もできたので、街へ行ってみましょうか?」

「はい!!」

「リュカ様。外の風は冷たく、風邪を引いては大変ですから、こちらも着て言ってくださいね」

「「……」」

いざ出かけようとしたその時、リタがふわりと暖かそうな上着を抱えてやって来たけれど、僕とフェリコ先生は、そろって何とも言えない微妙な表情になってしまった。

(これ、どう見てもいい上着なんだけど……)

善意で持って来て貰っただけに、さすがに「いりません」とも言えず、僕は苦笑いしながらそれを受け取り、素直に袖を通す。でも、こうなると…

(結局、中の服って何でも良かったんじゃ……?)

そんな小さな疑問がむくむくと顔を出したけれど、それ以上に“町へ行く”という期待で胸がいっぱいになって、すぐにどうでもよくなってしまった。僕は高鳴る気持ちをなんとか抑えながら、フェリコ先生と並んで屋敷を後にした。
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