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一章
街の視線
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不安を抱えたまま店に入ると、フェリコ先生は広場が見える窓際の席を選んで座った。席に着いた後も、何度も外へ視線を送っている。僕も真似して外を見てみたけれど、特に変わった様子は見当たらない。
「どうかしたの?」
我慢できずに尋ねると、フェリコ先生は肩をびくりと揺らし、慌てて笑顔を作った。
「い、いえ、何でもありません。それより、何か頼みませんか? ここはチョコのお菓子が美味しいらしいですよ」
「チョコ!!」
その言葉だけで、一瞬で意識がチョコに持っていかれ、渡されたメニュー表を開けば、料理の隣に絵が添えられていて、どんな料理か一目で分かるようになっていた。
夢中で目を走らせるながら、僕はお菓子のページを探し、途中にあった、カラフルなフルーツケーキや、いちごが乗ったカップケーキを横目に読み飛ばす。そして、最後のページにずらりと並んだチョコ菓子の一覧が目に飛び込んできた。
チョコのメニューだけがやけに豊富で、ザッハトルテにガトーショコラ、チョコレートタルトまで、綺麗な絵と一緒にずらりと並んでいる。どれも魅力的で、見ているだけで甘い香りがしてきそうだった。
(本当は全部食べたいけど……夕食が食べられなくなったら、また禁止令が復活するかも……)
そう思うと、ひとつに絞らなきゃいけない気がして、真剣に悩んでしまう。
「どれにするか、決まりましたか?」
しばらくして聞かれたけれど、まだ一つに絞れない。
「フォンダンショコラと、チョコレートタルト……その2つで悩んでます……」
「それなら、2つ頼んで私と半分こにしましょうか?」
「いいんですか!!」
「半分ずつなら、“二つ食べた”ことにはなりませんよ。それに……アルノルド様たちには内緒、ということで」
「はい!!」
悪戯っぽく笑いながらそう言うフェリコ先生に、つい僕も嬉しくなって、元気いっぱいに返事をしてしまった。
「飲み物はどうしますか?」
「何でもいいです!」
「分かりました」
先生が店員を呼ぶと、まるで慣れた様子で手際よく注文を済ませていった。
「フォンダンショコラとチョコレートタルト、それとアールグレイを二つ」
僕達の素早く注文を取り終えると、店員は軽やかに厨房へと戻っていった。その様子を見送ったあと、フェリコ先生はどこか微笑ましそうな表情で、そっと僕の方を見つめてきた。
「それにしても、リュカ様は本当にチョコがお好きですね」
「はい! 甘くて、美味しくて、幸せな気持ちになるので大好きです」
「ふふっ、このお店はお菓子の持ち帰りもできるみたいですよ?」
「本当ですか!!」
思わずメニューを持ち直した僕を見て、先生が小さく笑い声を漏らした。なぜ笑われたのか分からず首を傾げていると、ちょうどそのタイミングで注文したお菓子がテーブルに並べられた。
「ご注文のショコラとタルト、それからアールグレイを二つお持ちしました」
「うわぁ~!」
運ばれてきた甘い香りに胸が弾み、僕は嬉々としてケーキを半分に切り分けてくれる先生の手を見ていた。そして、ケーキを渡されると、夢中になって食べ始めた。
濃厚なチョコが口いっぱいに広がる幸せを感じていると、目の前にいる先生が、まだ一口も食べず、何かメモのような物を見つめていた。
「……何ですかそれ?」
(さっきまでそんなもの持っていなかったのに…?)
「な、何でもありませんよ。それよりも……美味しそうですね!」
フェリコ先生は慌てて紙切れをポケットに押し込み、目の前のお菓子へと手を伸ばした。だけど、さっきしまった紙のことが気になって仕方がなくて、つい先生の様子を探るように見つめてしまう。
そんな僕の視線に気付いたのか、フェリコ先生がふっと目を細め、からかうように言った。
「食べないのでしたら、私が貰いますよ?」
「ダメ!!」
先生のスプーンが本当に僕のお菓子へと迫ってきて、僕は思わず声を裏返しながら、慌てて皿を抱えるようにして守りながら、必死に食べ始めた。
「リュカ様は……そのまんまでいてくださいね」
「?」
そんな僕を見ながら、先生はどこか苦笑いを浮かべて呟くけれど、突然そんなことを言われても、何のことかよく分からない。とりあえず、今は僕のお菓子を守る事に集中することにした。
「ふ~」
お菓子を食べ終えて、お腹を撫でしながら一息ついていると、先生が言った。
「お菓子も食べ終わりましたし、そろそろ帰りましょうか」
「え~……」
僕としては色々とまだ見たいので帰りたくないし、食べたばかりだから動きたくない。それに、馬車が置いてある場所まで歩くなら、もう少しだけ休んでから行きたい。そう思っていると、そんな気持ちを察しながらも、まるで僕を説得でもするかのように言葉を続ける。
「馬車が店の外で待機していますから歩かなくても大丈夫ですよ。それに、あまり遅くなると、お土産を渡す時間もなくなりますし」
「……なら帰る」
お土産が渡せないのは困る。その一心で僕が頷くと、フェリコ先生はほっとしたように表情を緩め、穏やかに問いかけてきた。
「それでは帰りましょうか。お土産に持ち帰るものは、もう決まっていますか?」
「チョコプリン!!」
きっぱり答えると、先生が少しだけ目を丸くする。プリンなら馬車で揺られても形が崩れにくいし、無事に届けられる。持ち帰りやすさを重視しながら、僕の好きな物を買って行く事にした。
店員から箱入りのチョコプリンを受け取り店を出ると、そこには僕達が乗ってきた馬車が停まっており、僕達の姿を見た御者が降りてきて、丁寧に会釈をする。
その瞬間、街の人々の視線が馬車から僕達へと移った。
最初はただの視線だと思ったのに、次第に笑顔が増え、手を振る子供までいる。
(……え? なんで急に?)
店に入る前とは明らかに違う、好意的すぎる視線に、理由が分からず戸惑うけれど、フェリコ先生は気にも留めず、そのまま馬車へ向かって行く。僕も慌てて後を追って馬車に乗れば、その扉がゆっくりとだけど閉まり、その瞬間、ようやく外の視線から解放された気がして、胸の奥の緊張がふっと抜けた。
(……あの視線、なんだったんだろう?)
揺れる馬車の中で、膝に抱えたうさぎの人形とチョコプリンの箱をそっと撫でながら、街の人達の視線を考えていた。
「どうかしたの?」
我慢できずに尋ねると、フェリコ先生は肩をびくりと揺らし、慌てて笑顔を作った。
「い、いえ、何でもありません。それより、何か頼みませんか? ここはチョコのお菓子が美味しいらしいですよ」
「チョコ!!」
その言葉だけで、一瞬で意識がチョコに持っていかれ、渡されたメニュー表を開けば、料理の隣に絵が添えられていて、どんな料理か一目で分かるようになっていた。
夢中で目を走らせるながら、僕はお菓子のページを探し、途中にあった、カラフルなフルーツケーキや、いちごが乗ったカップケーキを横目に読み飛ばす。そして、最後のページにずらりと並んだチョコ菓子の一覧が目に飛び込んできた。
チョコのメニューだけがやけに豊富で、ザッハトルテにガトーショコラ、チョコレートタルトまで、綺麗な絵と一緒にずらりと並んでいる。どれも魅力的で、見ているだけで甘い香りがしてきそうだった。
(本当は全部食べたいけど……夕食が食べられなくなったら、また禁止令が復活するかも……)
そう思うと、ひとつに絞らなきゃいけない気がして、真剣に悩んでしまう。
「どれにするか、決まりましたか?」
しばらくして聞かれたけれど、まだ一つに絞れない。
「フォンダンショコラと、チョコレートタルト……その2つで悩んでます……」
「それなら、2つ頼んで私と半分こにしましょうか?」
「いいんですか!!」
「半分ずつなら、“二つ食べた”ことにはなりませんよ。それに……アルノルド様たちには内緒、ということで」
「はい!!」
悪戯っぽく笑いながらそう言うフェリコ先生に、つい僕も嬉しくなって、元気いっぱいに返事をしてしまった。
「飲み物はどうしますか?」
「何でもいいです!」
「分かりました」
先生が店員を呼ぶと、まるで慣れた様子で手際よく注文を済ませていった。
「フォンダンショコラとチョコレートタルト、それとアールグレイを二つ」
僕達の素早く注文を取り終えると、店員は軽やかに厨房へと戻っていった。その様子を見送ったあと、フェリコ先生はどこか微笑ましそうな表情で、そっと僕の方を見つめてきた。
「それにしても、リュカ様は本当にチョコがお好きですね」
「はい! 甘くて、美味しくて、幸せな気持ちになるので大好きです」
「ふふっ、このお店はお菓子の持ち帰りもできるみたいですよ?」
「本当ですか!!」
思わずメニューを持ち直した僕を見て、先生が小さく笑い声を漏らした。なぜ笑われたのか分からず首を傾げていると、ちょうどそのタイミングで注文したお菓子がテーブルに並べられた。
「ご注文のショコラとタルト、それからアールグレイを二つお持ちしました」
「うわぁ~!」
運ばれてきた甘い香りに胸が弾み、僕は嬉々としてケーキを半分に切り分けてくれる先生の手を見ていた。そして、ケーキを渡されると、夢中になって食べ始めた。
濃厚なチョコが口いっぱいに広がる幸せを感じていると、目の前にいる先生が、まだ一口も食べず、何かメモのような物を見つめていた。
「……何ですかそれ?」
(さっきまでそんなもの持っていなかったのに…?)
「な、何でもありませんよ。それよりも……美味しそうですね!」
フェリコ先生は慌てて紙切れをポケットに押し込み、目の前のお菓子へと手を伸ばした。だけど、さっきしまった紙のことが気になって仕方がなくて、つい先生の様子を探るように見つめてしまう。
そんな僕の視線に気付いたのか、フェリコ先生がふっと目を細め、からかうように言った。
「食べないのでしたら、私が貰いますよ?」
「ダメ!!」
先生のスプーンが本当に僕のお菓子へと迫ってきて、僕は思わず声を裏返しながら、慌てて皿を抱えるようにして守りながら、必死に食べ始めた。
「リュカ様は……そのまんまでいてくださいね」
「?」
そんな僕を見ながら、先生はどこか苦笑いを浮かべて呟くけれど、突然そんなことを言われても、何のことかよく分からない。とりあえず、今は僕のお菓子を守る事に集中することにした。
「ふ~」
お菓子を食べ終えて、お腹を撫でしながら一息ついていると、先生が言った。
「お菓子も食べ終わりましたし、そろそろ帰りましょうか」
「え~……」
僕としては色々とまだ見たいので帰りたくないし、食べたばかりだから動きたくない。それに、馬車が置いてある場所まで歩くなら、もう少しだけ休んでから行きたい。そう思っていると、そんな気持ちを察しながらも、まるで僕を説得でもするかのように言葉を続ける。
「馬車が店の外で待機していますから歩かなくても大丈夫ですよ。それに、あまり遅くなると、お土産を渡す時間もなくなりますし」
「……なら帰る」
お土産が渡せないのは困る。その一心で僕が頷くと、フェリコ先生はほっとしたように表情を緩め、穏やかに問いかけてきた。
「それでは帰りましょうか。お土産に持ち帰るものは、もう決まっていますか?」
「チョコプリン!!」
きっぱり答えると、先生が少しだけ目を丸くする。プリンなら馬車で揺られても形が崩れにくいし、無事に届けられる。持ち帰りやすさを重視しながら、僕の好きな物を買って行く事にした。
店員から箱入りのチョコプリンを受け取り店を出ると、そこには僕達が乗ってきた馬車が停まっており、僕達の姿を見た御者が降りてきて、丁寧に会釈をする。
その瞬間、街の人々の視線が馬車から僕達へと移った。
最初はただの視線だと思ったのに、次第に笑顔が増え、手を振る子供までいる。
(……え? なんで急に?)
店に入る前とは明らかに違う、好意的すぎる視線に、理由が分からず戸惑うけれど、フェリコ先生は気にも留めず、そのまま馬車へ向かって行く。僕も慌てて後を追って馬車に乗れば、その扉がゆっくりとだけど閉まり、その瞬間、ようやく外の視線から解放された気がして、胸の奥の緊張がふっと抜けた。
(……あの視線、なんだったんだろう?)
揺れる馬車の中で、膝に抱えたうさぎの人形とチョコプリンの箱をそっと撫でながら、街の人達の視線を考えていた。
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