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一章
新年祭
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リカに手伝ってもらいながら、新年祭のための服に着替え、鏡の前で最後の仕上げをしてもらう。
新年祭まで覚えることがたくさんあったから、せめて前日くらいはゆっくりできるかと思っていたけれど、衣装の最終試着に、細かい礼儀作法の確認。ゆっくりする暇なんてどこにもなかった。
そんな思いをしながら準備した服は、母様と同じ青を基調にした礼装だ。胸元や裾に淡い銀糸で刺繍が入っていて、光の当たり方でキラリと反射する。生地は柔らかいのに、いつもの服より重くて、なんだか“特別な日”の匂いがした。
靴もいつもより硬くて歩きづらい。でも、慣れない服に袖を通すだけで、何だかドキドキがする。
「リュカ様。準備は出来ましたか?」
「はい!」
迎えに来たドミニクに呼ばれ、一緒に部屋を後にすると、そのまま玄関ホールへ向かった。そこには、すでに準備の整った家族が待っていた。
父様は、漆黒の礼装に流れるような白糸の刺繍。銀髪が揺れるたび、刺繍と髪が互いの光を引き立てて、まるで氷の貴公子みたいに見える。
兄様も同じ黒の礼装なのに、父様より少し鋭くて、どこか冷たい美しさがあった。銀髪は父様より少し濃く、光の角度で青みがかるのが印象的だ。
そして母様は、淡い青のドレスに細かい白銀のレースが重ねられ、髪は丁寧にまとめられて青い宝石の髪飾りが添えられていた。
(僕…服に着られてる気がする……)
「では、行こうか」
僕だけが着慣れていない感じがするが、全員の支度が整いのを確認した父様の掛け声で、四人一緒で城へ向かう。いつもは二台に分かれるけれど、今日だけは同じ馬車での移動だった。そんな馬車の中で、これまで忘れないようにこれまで覚えたことを頭の中で反芻する。
でも、初めて行く場所の緊張が勝ってしまい、覚えた内容が頭からこぼれ落ちそうだった。そんな僕を見てか、父様が静かに微笑む。
「リュカ。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。何かあれば、私が何とかするからね?」
「……はい」
でも、父様に迷惑はかけたくない。今日は絶対に失敗しないようにしよう。そう思っているうちに、馬車は城の前へ到着した。
「うわぁ……!」
初めて外からでなく“中に入る”王城。高くそびえる白い城壁は、遠くから見るよりもずっと大きく、まるで空に向けてそびえる山のようだ。
門をくぐった瞬間、ふわり、と暖かい魔法の風が頬を撫でた。魔法でも使っているのか、冷えた空気の中でも、城内に入った瞬間に体がふんわり温まる。
石畳に足を下ろせば、白い石が光を反射してまるで雪の上を歩いているように明るい。でも冷たくはなく、足元から柔らかな温度が伝わってくる。
城の中へと進むと、廊下の壁には、季節を象徴する青と白の布が長く垂れ、銀の飾りが雪の結晶のように揺れている。長い赤い絨毯が奥へと続き、灯された魔石灯がゆらゆらと暖かい光を落としていた。そして、高い天井には細かい模様が彫られていて、見上げるだけで胸がいっぱいになる。
(きれい……!)
緊張も忘れて見入っている僕を、僕を父様が小さく笑って見ていたけど、会場へ向かう扉の前で、静かにささやく。
「何かあったら、私が必ず守るからね?」
「……はい!」
深呼吸をして、扉がゆっくりと開いてゆくと、まばゆい光と音が僕の世界に飛び込んできた。
金や銀の装飾品が光を反射し、壁際には芸術品のように美しい料理が並ぶ。大きなシャンデリアが天井から下がり、会場全体が昼間のように明るく照らされている。色とりどりのドレスも揺れ、香りの違う料理の匂いが混ざり合い、音楽が優しく流れていた。
「リュカが楽しめているようで良かったよ」
「楽しいいのは分かるけど、前に言った通り迷子にならようにね?」
胸が一気に弾けるように高鳴り、そんな両親の声が、少し遠くに聞こえるほどに、僕は目の前の景色に心を奪われていた。そんなふうに、会場へ進んでいた時だった。
「オルフェー!」
「煩いのが来た…」
兄様が顔をしかめた瞬間、背後から元気すぎる声が響いた。
「来たんだったら、たまにはお前の方から挨拶に来いよー!」
「…誰が行くか」
話しかけてきたのは、兄様と同じくらいの年で、金髪に焦げ茶の目をした青年が駆け寄ってきた。髪は顔にかからないように短く整えられ、全体的に爽やかでよく笑う顔だ。兄様とは正反対の明るさで、二人が並ぶとまるで昼と夜の違いのようだった。
「誰?」
「俺か?俺はレオン・エクスシアだ!よろしくな!」
「……別に覚えなくてもいい」
(えっ……レオンって、殿下の名前……だよね?)
僕は慌てて、敬意を払うために向き直る。
「え、えっと……よろしくお願いします。レオン殿下…?」
正しい挨拶を習ったはずなのに、親しげな殿下の勢いに押されて上手く話せないでいると、それを察したように、さらに気さくに声をかけてくれる。
「レオンでいいって!それより、お前がオルフェの弟か? オルフェが言ってた通り、かわ……あだだだだ!!」
「……余計な事を言うな」
兄様が容赦なく片手でレオン殿下の頭を掴むと、そのまま締め上げた。
「!! 母様!兄様が!」
悲鳴に驚きながら母様を振り返れば、母様はまったく動揺していない。
「リュカ。見慣れたら驚かなくなるわよ」
(え……これは母様の経験談……?)
まるで、本当に“いつものこと”として扱う母様の様子に、兄様を止めることなく、その様子を静かに見ていた。
「お前の息子は相変わらずだな」
「はぁ……なんで来たんだ……」
僕の混乱が抜け切らないうちに、また新しい声がした。
「お前の下の息子が来ていると聞いてな。挨拶だけでもしようかと思ったんだ」
そう言って、僕へと視線を向けた。
「はじめまして、レオンの父のレクス・エクスシアだ。そして隣が妻のルーナ。アルの息子ならば、私の身内のようなものだからな。気軽にレクスと呼んでくれて構わんぞ!」
「お前と身内など、死んでも御免だ…」
肩まで伸ばした金髪に緑の瞳、爽やかな笑顔を浮かべるレクス陛下。そして、その隣にはタレ目で優しげな青髪の王妃ルーナ様。二人とも穏やかで、どこか親しみやすい雰囲気だった。でも、小さく呟いた父様の声を、軽く無視していた。
「はじめまして……レクス陛下。ルーナ王妃……」
「レクスでいいと言っているだろう。困ったことがあったら何でも言いに来るといい」
そこへ再度、父様が即座に口を挟んだ。
「リュカ、それは止めておきなさい。詐欺師みたいに質の悪い男だからね」
「ひどい言われようだな。お前の休暇を取り消すぞ?」
「それなら私は、例の件は二度と手伝わないが?」
「それは話が別だろう!!」
(仲がいい……のかな?)
完全に置いてけぼりになって、僕は母様と王妃様に救いを求めるように視線を向けた。
「リュカ。あちらに美味しそうな食べ物があったでしょう?アル達の話が長くなりそうだから、先に食べて来てもいいわよ。でも、必ず私達の見えるところにいるのよ?」
「私の夫がごめんなさいね。でも、あなたとも仲良くしたいから、また今度ゆっくりとね。今は、初めてのパーティを楽しんでね」
優しく微笑む二人に背を押され、僕はお菓子の並ぶテーブルの方へ向かって歩き出したのだった。
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そんな思いをしながら準備した服は、母様と同じ青を基調にした礼装だ。胸元や裾に淡い銀糸で刺繍が入っていて、光の当たり方でキラリと反射する。生地は柔らかいのに、いつもの服より重くて、なんだか“特別な日”の匂いがした。
靴もいつもより硬くて歩きづらい。でも、慣れない服に袖を通すだけで、何だかドキドキがする。
「リュカ様。準備は出来ましたか?」
「はい!」
迎えに来たドミニクに呼ばれ、一緒に部屋を後にすると、そのまま玄関ホールへ向かった。そこには、すでに準備の整った家族が待っていた。
父様は、漆黒の礼装に流れるような白糸の刺繍。銀髪が揺れるたび、刺繍と髪が互いの光を引き立てて、まるで氷の貴公子みたいに見える。
兄様も同じ黒の礼装なのに、父様より少し鋭くて、どこか冷たい美しさがあった。銀髪は父様より少し濃く、光の角度で青みがかるのが印象的だ。
そして母様は、淡い青のドレスに細かい白銀のレースが重ねられ、髪は丁寧にまとめられて青い宝石の髪飾りが添えられていた。
(僕…服に着られてる気がする……)
「では、行こうか」
僕だけが着慣れていない感じがするが、全員の支度が整いのを確認した父様の掛け声で、四人一緒で城へ向かう。いつもは二台に分かれるけれど、今日だけは同じ馬車での移動だった。そんな馬車の中で、これまで忘れないようにこれまで覚えたことを頭の中で反芻する。
でも、初めて行く場所の緊張が勝ってしまい、覚えた内容が頭からこぼれ落ちそうだった。そんな僕を見てか、父様が静かに微笑む。
「リュカ。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。何かあれば、私が何とかするからね?」
「……はい」
でも、父様に迷惑はかけたくない。今日は絶対に失敗しないようにしよう。そう思っているうちに、馬車は城の前へ到着した。
「うわぁ……!」
初めて外からでなく“中に入る”王城。高くそびえる白い城壁は、遠くから見るよりもずっと大きく、まるで空に向けてそびえる山のようだ。
門をくぐった瞬間、ふわり、と暖かい魔法の風が頬を撫でた。魔法でも使っているのか、冷えた空気の中でも、城内に入った瞬間に体がふんわり温まる。
石畳に足を下ろせば、白い石が光を反射してまるで雪の上を歩いているように明るい。でも冷たくはなく、足元から柔らかな温度が伝わってくる。
城の中へと進むと、廊下の壁には、季節を象徴する青と白の布が長く垂れ、銀の飾りが雪の結晶のように揺れている。長い赤い絨毯が奥へと続き、灯された魔石灯がゆらゆらと暖かい光を落としていた。そして、高い天井には細かい模様が彫られていて、見上げるだけで胸がいっぱいになる。
(きれい……!)
緊張も忘れて見入っている僕を、僕を父様が小さく笑って見ていたけど、会場へ向かう扉の前で、静かにささやく。
「何かあったら、私が必ず守るからね?」
「……はい!」
深呼吸をして、扉がゆっくりと開いてゆくと、まばゆい光と音が僕の世界に飛び込んできた。
金や銀の装飾品が光を反射し、壁際には芸術品のように美しい料理が並ぶ。大きなシャンデリアが天井から下がり、会場全体が昼間のように明るく照らされている。色とりどりのドレスも揺れ、香りの違う料理の匂いが混ざり合い、音楽が優しく流れていた。
「リュカが楽しめているようで良かったよ」
「楽しいいのは分かるけど、前に言った通り迷子にならようにね?」
胸が一気に弾けるように高鳴り、そんな両親の声が、少し遠くに聞こえるほどに、僕は目の前の景色に心を奪われていた。そんなふうに、会場へ進んでいた時だった。
「オルフェー!」
「煩いのが来た…」
兄様が顔をしかめた瞬間、背後から元気すぎる声が響いた。
「来たんだったら、たまにはお前の方から挨拶に来いよー!」
「…誰が行くか」
話しかけてきたのは、兄様と同じくらいの年で、金髪に焦げ茶の目をした青年が駆け寄ってきた。髪は顔にかからないように短く整えられ、全体的に爽やかでよく笑う顔だ。兄様とは正反対の明るさで、二人が並ぶとまるで昼と夜の違いのようだった。
「誰?」
「俺か?俺はレオン・エクスシアだ!よろしくな!」
「……別に覚えなくてもいい」
(えっ……レオンって、殿下の名前……だよね?)
僕は慌てて、敬意を払うために向き直る。
「え、えっと……よろしくお願いします。レオン殿下…?」
正しい挨拶を習ったはずなのに、親しげな殿下の勢いに押されて上手く話せないでいると、それを察したように、さらに気さくに声をかけてくれる。
「レオンでいいって!それより、お前がオルフェの弟か? オルフェが言ってた通り、かわ……あだだだだ!!」
「……余計な事を言うな」
兄様が容赦なく片手でレオン殿下の頭を掴むと、そのまま締め上げた。
「!! 母様!兄様が!」
悲鳴に驚きながら母様を振り返れば、母様はまったく動揺していない。
「リュカ。見慣れたら驚かなくなるわよ」
(え……これは母様の経験談……?)
まるで、本当に“いつものこと”として扱う母様の様子に、兄様を止めることなく、その様子を静かに見ていた。
「お前の息子は相変わらずだな」
「はぁ……なんで来たんだ……」
僕の混乱が抜け切らないうちに、また新しい声がした。
「お前の下の息子が来ていると聞いてな。挨拶だけでもしようかと思ったんだ」
そう言って、僕へと視線を向けた。
「はじめまして、レオンの父のレクス・エクスシアだ。そして隣が妻のルーナ。アルの息子ならば、私の身内のようなものだからな。気軽にレクスと呼んでくれて構わんぞ!」
「お前と身内など、死んでも御免だ…」
肩まで伸ばした金髪に緑の瞳、爽やかな笑顔を浮かべるレクス陛下。そして、その隣にはタレ目で優しげな青髪の王妃ルーナ様。二人とも穏やかで、どこか親しみやすい雰囲気だった。でも、小さく呟いた父様の声を、軽く無視していた。
「はじめまして……レクス陛下。ルーナ王妃……」
「レクスでいいと言っているだろう。困ったことがあったら何でも言いに来るといい」
そこへ再度、父様が即座に口を挟んだ。
「リュカ、それは止めておきなさい。詐欺師みたいに質の悪い男だからね」
「ひどい言われようだな。お前の休暇を取り消すぞ?」
「それなら私は、例の件は二度と手伝わないが?」
「それは話が別だろう!!」
(仲がいい……のかな?)
完全に置いてけぼりになって、僕は母様と王妃様に救いを求めるように視線を向けた。
「リュカ。あちらに美味しそうな食べ物があったでしょう?アル達の話が長くなりそうだから、先に食べて来てもいいわよ。でも、必ず私達の見えるところにいるのよ?」
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