落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ

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二章

面白そう?

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「それはそうと、二人は何の話で盛り上がってたの?」

教室に入る前から引っかかっていた疑問を口にすると、バルドは待ってましたと言わんばかりに胸を張った。

「学院に入学して、まずやることと言えば!?」

唐突な問いかけに、僕は一瞬考え込む。だけど、頭に浮かぶのは、入学してから聞かされた規則や授業の話ばかりだ。

「……え? えっと……勉強?」

「違う!まずは探検だろ!」

探るように答えた瞬間、間髪入れずに否定が飛び、力強く断言された。

「「はぁ?」」

その声の大きさに思わず肩が跳ねた。けれど、意味が分からず、僕とコンラッドはほぼ同時に声を上げ、揃って首を傾げる。

「考えてみろよ! こんなに広い学院だぞ? 隠し扉や隠し部屋 !普通そういうの探すだろ!!」

昨日案内された時にも、迷いそうなくらい広いと思った。だから、隠し扉や隠し部屋があったとしても、不思議じゃない。でも、一息にまくし立てられても、頭の中で考えがまとまらない。僕が黙り込んでいると、今度はそれを真っ向から切り捨てる声が、即座に上がった。

「しません」

さっきのバルドと同じくらい迷いのない即答だった。だけど、その声音には、何度も同じやり取りをしてきた相手に向けるような、慣れた呆れがはっきりと滲んでいた。

「学院なら昨日案内してもらいました。それに、こんな大勢の人が生活する場所に、そんなものがあるわけないじゃないですか。なので、もう調べる必要なんてありません」

「俺の屋敷にもあったんだから、絶対あるって!それに、男なら、そういうのに興味あるもんだろ!? なぁ!?」

きっぱりと言い切るコンラッドに対して、バルドは不満そうに声を荒げながら反論する。そして、今度は僕の方へと視線を向けてきた。

「う、うん……ちょっとは……」

突然話を振られて驚きはしたけれど、正直に言えば、今までやったことのない探検という言葉には心が引かれる。だけど、直前に強く否定する声を聞いたせいか、賛成するには気が引けて、声は自然と小さくなってしまう。すると、やはりそれを許さないように、鋭い声が飛んできた。

「本気ですか!?」

信じられない、といった様子で声を上げる。そして、コンラッドはバルドではなく、僕の方を真っ直ぐに見て、続けざまに止めるような言葉を投げてきた。

「騙されてはいけません! こういう場合、絶対にろくな結末になりません!!」

その声音には、さっきまでの遠慮は残ってなく、本気で止めに来ているのが、はっきりと伝わってくる。けれど、それを聞いたバルドは、再び不満そうに顔を歪めて言い返す。

「そんなことないって」

「あなたに付き合わされて、ひどい目にあった記憶しかありません!!」

「それはコンラッドの体力がないだけだろ?」

「あなたと一緒にしないでください!!」

価値観も物の見方も違うせいか、二人の言葉はどんどん強くなっていく。空気も張り詰めていき、今にも火花が散りそうで、僕が内心ひやひやしていると、静かな声が二人の間にすっと割って入った。

「喧嘩するのもいいが、もうすぐ予鈴だぞ?」

その一言で、感情が先走っていたことに、ようやく気付かされたようだった。二人は同時に言葉を飲み込み、張り詰めていた空気が、わずかに緩む。

「それに、来たくない奴を無理に誘う必要はない。来たい奴だけ来ればいい」

淡々とした声音で、感情を挟まないその言い方は、どこか突き放すようでもあった。

「でもさ、こういうのって、皆で行くから楽しいんじゃないか?」

バルドが不満を滲ませて言うが、その言葉は容赦なく切り捨てられた。

「空気を悪くする奴と一緒に行っても、意味がないだろう。だから、来る気がある奴だけ建物前に放課後集合だ」

それだけ告げると、ネアは空いている席に腰を下ろしてしまった。

あまりにも一方的な締めくくりに、僕達は反応に困ったように視線を合わす。けれど、その戸惑いを置き去りにするように、予鈴が鳴り響き、話は強制的に打ち切られてしまった。仕方なく、僕達もそれぞれ近くの空いている席に着きながら、先生が来るのを待っていると、やがて担任のリオ先生が本鈴と同時に教室に入ってきた。

「おはようございます」

教壇に立ったリオ先生は挨拶をすると、一度だけ教室全体を静かに見渡し、出席確認の確認を始めた。欠席者がいないことを確認し終えると、先生は小さく頷き、再び口を開く。

「では、授業科目などの説明を、もう一度簡単に行った後、本格的に授業を開始していきたいと思います。何か気になることがあれば、その都度、遠慮なく質問してください」

その後、初日で聞いた学院での基本的なルールや授業内容の説明が続いていく。そして、一年生の科目は、算数、国語、歴史、地理、剣術などの基礎科目が中心という説明になった時だった。

「何故、召喚獣の授業が無いんだ!?それに、学院に連れて来れない理由はなんだ!?」

後ろの席から、勢いのある声が上がる。振り返ると、赤茶色の髪の生徒が勢いよく立ち上がり、強気な態度を見せていた。だけど、そんな生徒の対応にも慣れているのか、リオ先生は表情一つ変えず、落ち着いた声で答える。

「過去に、召喚獣同士のトラブルや、授業妨害、喧嘩へと発展した事例が何度かありました。そのため、四学年になるまでは、召喚獣の学院への同行は禁止されています」

「しかし!」

「これは学院の方針であり、貴方のご両親も守ってきた規則です。それを、貴方は守れないということですか?」

食い下がろうとした生徒に、先生は静かに言葉を重ねると、一瞬、生徒の言葉が詰まる。

「そ、それは……」

「規則を守れないというのであれば、それは仕方がありません。ですが、規則違反があった場合、処罰と共にご両親へと連絡を入れることになります。……分かりましたか?」

丁寧でありながらも、有無を言わせないその一言で、勢いは完全に削がれたようだ。

「……はい」

まだ納得していない様子は見て取れたが、両親の名を出されれば逆らえないらしい。その子は視線を落とし、大人しく席へと座り直していた。

僕としては、学院で禁止されていた方が正直ありがたかったため、内心ほっとしていた。なぜなら、その方が召喚獣を連れてこない理由を、わざわざ誤魔化さなくて済む。それに、もし「連れて来い」と言われたとしても、兄様を連れてくるわけにもいかない。そもそも、“召喚獣”という枠に入れていいものなのかさえ、僕には分からない。

「どうしたんだ?」

今から授業が始まることを考え、不安に駆られて思わず頭を抱えていると、隣に座っているネアが、不思議そうにこちらを見ていた。

「な、何でもないよ」

授業中ということもあって、それ以上は何も言えず、曖昧に誤魔化しながら胸に抱えたままの気持ちに蓋をする。そして、その後の授業を受けたけれど、初日ということもあって内容は軽めだった。でも、丸一日机に向かい続けるのは、想像以上に体力を削られる。

放課後。どっと押し寄せる疲労感を引きずりながら、今日はもう帰ろうと荷物をまとめ、建物を出ようとした、その時だった。

「おぅ! リュカ! お前も一緒に行くよな!?」

「う、うん!」

先に教室を出ていたバルドの声に、勢いのまま返事をしてしまってから、此処が待ち合わせ場所だった事を思い出した。少し疲れていたこともあり、「帰りたいな」という気持ちが胸をよぎる。けれど、視線を向けると、ネアの隣には、あれほど嫌がっていたはずのコンラットの姿もあった。

「コンラットも行くの?」

意外で思わずそう尋ねると、彼は渋々といった様子で答える。

「目を離して後で被害に遭うより……一緒にいた方が、まだましなので……」

「コンラットは素直じゃないよな! 行きたいなら行きたいって言えばいいのに!」

「……」

(どう見ても、行きたい顔には見えないんだけど……)

無言で浮かべる表情は、心底嫌そうな顔をしている。だけど、バルドだけが相変わらず陽気だ。すると、そんなバルドに、ネアが淡々と問いかけた。

「で、どこへ行くんだ?」

「え? 特に決めてねぇけど?」

あっけらかんとした答えに、僕は思わず言葉を失う。そして、その無計画さに耐えきれなかったのか、コンラットが苛立ちを滲ませた声を上げた。

「決めてないんですか!?」

「そもそも、何処に何があるかも分からないから、学院を探検するんだろう?」

「そんな、あてもなく探していたら……それだけで日が暮れますよ……」

呆れたように、力なく呟くコンラット。その様子を見て、妥協案を探すように、バルドが声を上げた。

「じゃあ、学院の七不思議とか、そういうのはないのか?」

「私は知りませんよ」

「俺も」

「僕も……」

「誰も知らないのかよ!?」

僕達を見回しながら声を上げるバルドだったけれど、学院に通い始めてまだ日も浅い僕達が、そんな話を知っているはずもなかった。だけど、そんなバルドに鋭い声が飛ぶ。

「貴方も知らないでしょう。では、今日は解散ですね。帰りましょう」

そう言うなり、さっさと踵を返すコンラットだったが、バルドは慌ててその背中を引き止めた。

「まだ早い! 何かあるだろ!?」

「このまま帰りたくない」と、全身で訴えるようなバルドの態度に、ネアがぽつりと呟く。

「物語だと、本棚の裏に隠し通路があることが多いな」

「それだ!!」

その一言で、バルドの目が一気に輝いた。

「学院の不思議とかは後で調べるとして、今日は図書館だな!」

最初に望んでいたものだっただけに、バルドのやる気は凄かった。その勢いに、僕は思わず言葉を飲み込むけれど、学院は広い。昨日案内されたとはいえ、まだ道を全部覚えきれているわけではない。

図書館が何処だったのか思い出そうとしていると、まるで当然のように、バルドの視線がコンラットへと向いた。

「道案内は頼んだ!」

「やっぱり、道を覚えてないんですね……」

「でも、コンラットなら本も好きだし、覚えてるだろ?」

「えぇ……まぁ……」

「じゃあ! 頼むな!」

期待に満ちた目に押し切られ、コンラットは今にもため息をつきそうな顔をしながらも、渋々ながら先に立つ。

(……本当に、大丈夫かな……)

胸の奥に残る小さな不安を抱えるも、この流れに逆らえず、僕も皆の後を追うのだった。
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