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四章
番外編 探検の裏で(レクス視点)
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子供達が部屋から出て行くと、さっきまで賑わっていただけにやたら部屋が静かに感じる。それに加え、この部屋に残った2人の人間も、愉快な話しをするような人間ではないため、静寂になっただけで無駄に重苦しような雰囲気になったりする。
「それで、今も君が直々に援助している店は今は順調なのかい?」
2人に任せておけば、何時まで経っても話し出す事はないだろうと、気になる最近の出来事をを話題として振れば、何とも渋い顔が返って来た。
「店事態は順調だ。ただ、身辺を整理するのに時間が掛かっている…」
「ん?あの店からは、特に不審な点は何も出て来なかったはずだが?」
ある程度の実績を見せて貰わなくては起用は出来ないが、コイツが主導で動いている以上それも時間の問題だと思い、こちらの方でもあの店の帳簿や身辺調査などの調査を進めていた。今の所、運営事態に問題があるものの、他には何もなかったと記憶している。それに、子供等が出入りしている店であるなら、そういった点は必要以上に調べたうえで出入りを許可しているはずだ。だからこそ、何時もように指示だけを出して部下に任せたりするのではなく、自身が出向いて話しを付けに行ったのではなかったのか?
私が顔に疑問を浮かべていると、資金集めに無理矢理協力させられたベルも不可解そうな目を向けていた。
「身辺に問題はなかったのだが、例の奴等の仕入れ先として目を付けられていたようでな…」
「あぁ…」
去年の騒動がまだ記憶に新しい私の口からは、納得すると同時に疲れたような声が漏れる。私の横で聞いていたベルの方も、苦い記憶が呼び起こされると共に、その件で暫く城を離れなければならなかったためか、何時もの強面気味の顔も憂鬱そうに曇っていた。
「自身で狩るよりも、そういった場所で仕入れた方が何かと速いのは理解できるが、まさか王都内にもいたとは思わなかった」
「まぁ、君だって全てを見通せるわけでもないからそこは仕方がないにしても、そういった報告は迅速にして貰えるとこちらとしても助かるのだけどね。それで、今の状況はどうなっている?」
コイツ1人に任せておいても抜かりなく処理はするだろうが、手が足りていなければその分時間も掛かる。可能性は低いが、仮に余計な事態が引き起こされて王都内に混乱が起きれば、その後処理が面倒になる。ベルの方も、包み隠さずに全て話せとばかりに睨んでいた。
「王都内にいる者は、ある程度は片付けたのだが、前回とは別にまだ国内に残っているようでな。全く、害虫はしぶとくて困る」
不愉快そうに眉を寄せながら語るが、実際、あの国の連中は力任せに解決しようとする脳筋地味た所があるのに、小狡いやり方だけは得意だったりする。だが、それ以外にも何かを隠しているような気配を何処となく感じる。しかし、確証は何もなく感のような物では、コイツの口を割らせるのは不可能だ。
どうにも気になる点ではあるが、まずは連中を手引きした者を調べる必要がある。さすがに王都内で活動するには、ある程度力のある協力者が必要だ。それに、先の件で反乱分子はある程度片付いているとは言っても、城内にまだ余波が残っている状況の中で、コイツが新たな敵を作っているのは間違いない。そのため、目線だけで警戒するようベルへと指示を出せば、彼からは私達を突き放すような言葉が出た。
「余計な真似はするな」
「君ね。もう少し国の重要な立ち位置にいるという自覚を持ってくれないかな?それに、君の家族にだって累が及ぶかもしれないんだ。断る理由など何もないだろう?」
「それでも、必要以上の干渉はするな」
断固とした態度で私達の提案を断る姿を見る限り、これ以上言っても自分の言葉を曲げる事はないだろう。
「はぁ…分かったよ…」
ため息混じりに返事を返したが、それに素直に納得した理由でもない。ベルの方でも独自に動くだろうが、私の方でも先程の件と共に秘密裏に動く算段を付ける。
「しかし、国全土を巻き込んでの大騒動の原因が、息子に頼まれたからというのはなんとも君らしいと言うかね」
「子供の願い一つ叶えれない程、私もまだ落ちぶれていないからな」
「そのような事を言っているから、間諜に腑抜けていると報告されるんだ」
「ふんっ、言いたい奴には好きに言わせておけば良い」
素直に受け入れようとしない奴を皮肉るように言ったベルの言葉に、まるで他者の評価などどうでも良いと言わんばかりの態度で返事が返って来た。
「だが、少しは仕事を急に増やされる方の身にもなれ」
「道すがら押収して来るだけなのだから、大した手間ではないだろう。私など、多方にいる貴族と面会をしていたのだぞ」
「それは、貴様の自業自得であろう」
「私も、その言葉をそっくりそのまま返させて貰うよ」
「……」
夏に起きた件が未だに尾を引いているのか、冷ややかな笑みと共に冷たい声で返して来る。だが、私もその案件とは無関係ではないだけに、何とも言えない気分でその声を聞く。妹はその後も何かやらかしたのか、奴の怒りを買っていたようだった。だが、これに凝りて本能のままに行動する所を少しは改めて欲しいものだ。妹に似た私の息子も、もう少し私か妻のどちらかに似ていたならば、私が今抱える心労も僅かばかりでも減るのだろうが、そんな事を今さら考えた所で意味の無いことだ。
「それよりも、今まで君が隠していた能力を披露しても良かったのか?その事で、去年の件で君に帝国から疑いが向く危険性もあっただろう?」
考えても仕方がない事から頭を離し、彼が普段から見せようともしなかった魔法を使ってまで地方にいる貴族に会いに行った事を問い掛ければ、その話しに触れて欲しくないような顔で事務的なまでの声が返って来た。
「隠していたわけじゃない。今まで使う必要がなかっただけだ。それに、巣穴を失い掛けている状況で、他に手を出している暇もないだろう」
彼の中では余程急を要していたのか、あの時は希望的観測で動いていた所があるようだ。彼にしては何とも不用意な行動だ。しかし、私としては便利だと思うのだが、その場を動く事なく物事を解決してしまう奴にとっては、それ程価値を感じるものでもないのだろう。
「それにしても、その店を移転したりとかはしないんだな?」
比較的治安が良い場所から近いとは言っても、あのような路地裏で、連中にも目を付けられているような場所へ子供達だけで通う事を許すとは、過保護な奴にしては珍しいと思い問い掛ければ、私の視線から逃れるように静かに目を閉じた。
「表通りに移そうにも、あの手の店は周辺との兼ね合いもあって移し難いうえ、その分管理もしにくいからな。むしろ、ああいった場所の方が色々と監視などもしやすい。それに、あの周辺は何処かの子供が遊びに行ったりする場所であるようだしな。あの店を移転した所で大した意味はないだろう」
アルの言葉を聞いた途端、ベルが何とも頭が痛そうな顔で額を押さえていた。一見厳しいように見えるが、アルとはまた違た意味でベルも甘い所がある。そのため、今回もどのように対処すれば良いか苦慮しているようだった。だが、ラザリアが容赦ない分、ベルとは釣り合いが取れているかもしれない。しかし、まだ彼女には話すつもりはないようだ。
「まぁ、あの辺一帯も既に私の管理下に置いたからな。何かあれば私に報告が入るはずだ。だから、治安面においては何も問題はない」
「一帯も?君、まさか他にもあるとは言い出さないよね…?」
「裏社会にもある程度通じていた方が、色々と情報が入るのも速いからな。そういった意味合いもあって、裏社会の人間とはある程度の付き合いをするようにしていた。その中で、王城付近の一帯を管理していたのは私だ」
聞き捨てならないような事をサラリと言い放った奴に、間違いであって欲しいと願いながら聞き返せば、奴は天気の話しでもするかのような調子でさらに問題になりそうな言葉を口にする。
「君ね…仮に国の中核を担う人間が、そんな堂々と裏社会に通じてるなんて言わないでくれないかな…?」
「次の仕事が、貴様の捕縛案件にはならないだろうな…」
「安心しろ。証拠を残すようなヘマはしていない」
あの周囲は他と違って治安が良いと部下からは報告を受けていたが、城の警備兵などを警戒して大人しくしているのかと思っていた。だが、そこを指揮っていた人間がこんな近くにいて、コイツの影響だったとは思っても見なかった。毎度、何に対して安心すれば良いのか分からないが、この件がもし外に漏れればただでは済まない。
「……十分に気を付けてくれよ」
「言われるまでもない」
私の忠告めいた言葉に、奴に珍しく素直な変事が返って来る。しかし、コイツとは長い付き合いにはなるが、未だに何処を目指しているのか理解出来ない所がある。私がその事に頭を痛めていると、その不意を付くように奴が口を開いた。
「だが、前回の件ではお前達に手間を掛けた。それだけは礼を言う」
「「……」」
私達に礼など言わないと思っていただけに、奴に何を言われたのかを直ぐに把握する事が出来ず、ベルと共に言葉を失う。
「今度は何を企んでいる」
「お前は私を何だと思っているんだ?」
「それは、君の日頃の行いだと思うよ?」
怪しげにな様子で言うベルに不機嫌そうに返しているが、私は呆れたような声しか出て来ない。そんな時、部屋の扉を叩く音が響き、私達がそちらへと視線を向けると、部屋に控えていた部下が静かに扉を開けた。
「遅くなってごめんなさい。あれ?リュカ達は一緒じゃないの?」
「エレナ、おかえり。リュカ達は今、他の子達と一緒に城の探検に出掛けているんだよ。それと、女性は色々と準備もあるだろうから、もっとゆっくりでも大丈夫だったよ」
女性陣が戻って来た途端、先程とは態度ががらりと違った優しげな雰囲気で話す奴の姿に、既に見慣れているとはいっても薄ら寒いものを感じる。
「ありがとう、アル。だけど、城の方々にご迷惑を掛けていないと良いんだけど…」
「エレナ。その時は、お灸をすえるすえれば良いと思うわよ?」
「お前は、エレナに余計な事は言わないで良い。それに、オルフェやコイツ等の息子共が一緒に付いて行ったから、その心配はない」
「君、人の息子をおまけのように言わないでくれないかな?」
ラザリアからの言葉を止めたかったようだが、奴のぞんざいな言い方に、言葉には出さなくとも私と同様にベルも不満そうな様子で黙っている。そんな私達に一触即発でも感じたのか、それを止めるように部下が声を掛けて来た。
「陛下。そろそろ…」
「そうだな。悪いが、私は此処で一端失礼させて貰うよ」
「何だ?何かあるのか?」
「私は君と違って、仕事をサボったりはしないんだよ」
「おい、エレナの前で人聞きが悪い事を言うな」
私の行動に疑問を感じた奴の問い掛けに冗談めかしに答えれば、ラザリアからは面白げな顔をしているが、夫人から直ぐに睨むような視線が飛んでいて、アルが慌てた様子で私に抗議して来た。だが、私はそれに悪戯めいた笑みで返す。
「冗談だよ。では、後ほど会場で会おう」
アルが他の事に気を取られているのを良い事に、私はその場を後にするように歩き出すと、部下と共に部屋を出る。そして、懐に入れていた物を取り出した。
「さて、この手紙はどうしたものか…」
少し前、彼の身内から一通の手紙が私の下へと届いていた。その事を特に隠す必要もなく、何か理由があったわけではないが、進んで関わりたいと思う相手ではなかったため、今もアルに言わずに終わってしまった。それに、奴も私が彼女と関わる事にいい顔はしないだろう。だが、この取引を蹴って目の届かない場所にでも行かれた方が逆に厄介だ。
「やはり、こちらで内々に処理するか…」
「あの…一言ご相談された方が宜しいのではないでしょうか…?」
元々時を見て声を掛けるように命じていた部下が、不安気な様子で部屋の中にいる奴を振り替えるが、それを落ち着けるように私は冷静な声で答える。
「心配するな。最近では手に入らない素材が手に入ると考えれば、こちらとしても損はない。それに、彼のようにとまでは行かないが、私もこういった裏工作地味た事は苦手ではないんだよ」
実際、彼が裏で動く前まで、こういった事は私の仕事だった。昔を思い出しつつ、後で知った時の奴の顔を想像しながら歩き出そうとした私は、ある事を思いだしその場で立ち止まる。
「そういえば、君が私の下で働き出して暫く立つな?」
「はい?それが何か?」
「今、この部屋で聞いた話しはすぐ忘れた方が良い。そうでなければ、幾ら役に立つとはいえ、君には消えて貰う必要があるからな」
何処へとも告げずにそれだけ伝えれば、何を言われたのかを察したようで、直ぐに怯えたような顔で返事が返って来た。
「はい…私は何も聞いておりません…」
「懸命だな」
それだけ確認すると、今度こそ私はその者に背を向け、手紙を書くためにその場を後にした。
「それで、今も君が直々に援助している店は今は順調なのかい?」
2人に任せておけば、何時まで経っても話し出す事はないだろうと、気になる最近の出来事をを話題として振れば、何とも渋い顔が返って来た。
「店事態は順調だ。ただ、身辺を整理するのに時間が掛かっている…」
「ん?あの店からは、特に不審な点は何も出て来なかったはずだが?」
ある程度の実績を見せて貰わなくては起用は出来ないが、コイツが主導で動いている以上それも時間の問題だと思い、こちらの方でもあの店の帳簿や身辺調査などの調査を進めていた。今の所、運営事態に問題があるものの、他には何もなかったと記憶している。それに、子供等が出入りしている店であるなら、そういった点は必要以上に調べたうえで出入りを許可しているはずだ。だからこそ、何時もように指示だけを出して部下に任せたりするのではなく、自身が出向いて話しを付けに行ったのではなかったのか?
私が顔に疑問を浮かべていると、資金集めに無理矢理協力させられたベルも不可解そうな目を向けていた。
「身辺に問題はなかったのだが、例の奴等の仕入れ先として目を付けられていたようでな…」
「あぁ…」
去年の騒動がまだ記憶に新しい私の口からは、納得すると同時に疲れたような声が漏れる。私の横で聞いていたベルの方も、苦い記憶が呼び起こされると共に、その件で暫く城を離れなければならなかったためか、何時もの強面気味の顔も憂鬱そうに曇っていた。
「自身で狩るよりも、そういった場所で仕入れた方が何かと速いのは理解できるが、まさか王都内にもいたとは思わなかった」
「まぁ、君だって全てを見通せるわけでもないからそこは仕方がないにしても、そういった報告は迅速にして貰えるとこちらとしても助かるのだけどね。それで、今の状況はどうなっている?」
コイツ1人に任せておいても抜かりなく処理はするだろうが、手が足りていなければその分時間も掛かる。可能性は低いが、仮に余計な事態が引き起こされて王都内に混乱が起きれば、その後処理が面倒になる。ベルの方も、包み隠さずに全て話せとばかりに睨んでいた。
「王都内にいる者は、ある程度は片付けたのだが、前回とは別にまだ国内に残っているようでな。全く、害虫はしぶとくて困る」
不愉快そうに眉を寄せながら語るが、実際、あの国の連中は力任せに解決しようとする脳筋地味た所があるのに、小狡いやり方だけは得意だったりする。だが、それ以外にも何かを隠しているような気配を何処となく感じる。しかし、確証は何もなく感のような物では、コイツの口を割らせるのは不可能だ。
どうにも気になる点ではあるが、まずは連中を手引きした者を調べる必要がある。さすがに王都内で活動するには、ある程度力のある協力者が必要だ。それに、先の件で反乱分子はある程度片付いているとは言っても、城内にまだ余波が残っている状況の中で、コイツが新たな敵を作っているのは間違いない。そのため、目線だけで警戒するようベルへと指示を出せば、彼からは私達を突き放すような言葉が出た。
「余計な真似はするな」
「君ね。もう少し国の重要な立ち位置にいるという自覚を持ってくれないかな?それに、君の家族にだって累が及ぶかもしれないんだ。断る理由など何もないだろう?」
「それでも、必要以上の干渉はするな」
断固とした態度で私達の提案を断る姿を見る限り、これ以上言っても自分の言葉を曲げる事はないだろう。
「はぁ…分かったよ…」
ため息混じりに返事を返したが、それに素直に納得した理由でもない。ベルの方でも独自に動くだろうが、私の方でも先程の件と共に秘密裏に動く算段を付ける。
「しかし、国全土を巻き込んでの大騒動の原因が、息子に頼まれたからというのはなんとも君らしいと言うかね」
「子供の願い一つ叶えれない程、私もまだ落ちぶれていないからな」
「そのような事を言っているから、間諜に腑抜けていると報告されるんだ」
「ふんっ、言いたい奴には好きに言わせておけば良い」
素直に受け入れようとしない奴を皮肉るように言ったベルの言葉に、まるで他者の評価などどうでも良いと言わんばかりの態度で返事が返って来た。
「だが、少しは仕事を急に増やされる方の身にもなれ」
「道すがら押収して来るだけなのだから、大した手間ではないだろう。私など、多方にいる貴族と面会をしていたのだぞ」
「それは、貴様の自業自得であろう」
「私も、その言葉をそっくりそのまま返させて貰うよ」
「……」
夏に起きた件が未だに尾を引いているのか、冷ややかな笑みと共に冷たい声で返して来る。だが、私もその案件とは無関係ではないだけに、何とも言えない気分でその声を聞く。妹はその後も何かやらかしたのか、奴の怒りを買っていたようだった。だが、これに凝りて本能のままに行動する所を少しは改めて欲しいものだ。妹に似た私の息子も、もう少し私か妻のどちらかに似ていたならば、私が今抱える心労も僅かばかりでも減るのだろうが、そんな事を今さら考えた所で意味の無いことだ。
「それよりも、今まで君が隠していた能力を披露しても良かったのか?その事で、去年の件で君に帝国から疑いが向く危険性もあっただろう?」
考えても仕方がない事から頭を離し、彼が普段から見せようともしなかった魔法を使ってまで地方にいる貴族に会いに行った事を問い掛ければ、その話しに触れて欲しくないような顔で事務的なまでの声が返って来た。
「隠していたわけじゃない。今まで使う必要がなかっただけだ。それに、巣穴を失い掛けている状況で、他に手を出している暇もないだろう」
彼の中では余程急を要していたのか、あの時は希望的観測で動いていた所があるようだ。彼にしては何とも不用意な行動だ。しかし、私としては便利だと思うのだが、その場を動く事なく物事を解決してしまう奴にとっては、それ程価値を感じるものでもないのだろう。
「それにしても、その店を移転したりとかはしないんだな?」
比較的治安が良い場所から近いとは言っても、あのような路地裏で、連中にも目を付けられているような場所へ子供達だけで通う事を許すとは、過保護な奴にしては珍しいと思い問い掛ければ、私の視線から逃れるように静かに目を閉じた。
「表通りに移そうにも、あの手の店は周辺との兼ね合いもあって移し難いうえ、その分管理もしにくいからな。むしろ、ああいった場所の方が色々と監視などもしやすい。それに、あの周辺は何処かの子供が遊びに行ったりする場所であるようだしな。あの店を移転した所で大した意味はないだろう」
アルの言葉を聞いた途端、ベルが何とも頭が痛そうな顔で額を押さえていた。一見厳しいように見えるが、アルとはまた違た意味でベルも甘い所がある。そのため、今回もどのように対処すれば良いか苦慮しているようだった。だが、ラザリアが容赦ない分、ベルとは釣り合いが取れているかもしれない。しかし、まだ彼女には話すつもりはないようだ。
「まぁ、あの辺一帯も既に私の管理下に置いたからな。何かあれば私に報告が入るはずだ。だから、治安面においては何も問題はない」
「一帯も?君、まさか他にもあるとは言い出さないよね…?」
「裏社会にもある程度通じていた方が、色々と情報が入るのも速いからな。そういった意味合いもあって、裏社会の人間とはある程度の付き合いをするようにしていた。その中で、王城付近の一帯を管理していたのは私だ」
聞き捨てならないような事をサラリと言い放った奴に、間違いであって欲しいと願いながら聞き返せば、奴は天気の話しでもするかのような調子でさらに問題になりそうな言葉を口にする。
「君ね…仮に国の中核を担う人間が、そんな堂々と裏社会に通じてるなんて言わないでくれないかな…?」
「次の仕事が、貴様の捕縛案件にはならないだろうな…」
「安心しろ。証拠を残すようなヘマはしていない」
あの周囲は他と違って治安が良いと部下からは報告を受けていたが、城の警備兵などを警戒して大人しくしているのかと思っていた。だが、そこを指揮っていた人間がこんな近くにいて、コイツの影響だったとは思っても見なかった。毎度、何に対して安心すれば良いのか分からないが、この件がもし外に漏れればただでは済まない。
「……十分に気を付けてくれよ」
「言われるまでもない」
私の忠告めいた言葉に、奴に珍しく素直な変事が返って来る。しかし、コイツとは長い付き合いにはなるが、未だに何処を目指しているのか理解出来ない所がある。私がその事に頭を痛めていると、その不意を付くように奴が口を開いた。
「だが、前回の件ではお前達に手間を掛けた。それだけは礼を言う」
「「……」」
私達に礼など言わないと思っていただけに、奴に何を言われたのかを直ぐに把握する事が出来ず、ベルと共に言葉を失う。
「今度は何を企んでいる」
「お前は私を何だと思っているんだ?」
「それは、君の日頃の行いだと思うよ?」
怪しげにな様子で言うベルに不機嫌そうに返しているが、私は呆れたような声しか出て来ない。そんな時、部屋の扉を叩く音が響き、私達がそちらへと視線を向けると、部屋に控えていた部下が静かに扉を開けた。
「遅くなってごめんなさい。あれ?リュカ達は一緒じゃないの?」
「エレナ、おかえり。リュカ達は今、他の子達と一緒に城の探検に出掛けているんだよ。それと、女性は色々と準備もあるだろうから、もっとゆっくりでも大丈夫だったよ」
女性陣が戻って来た途端、先程とは態度ががらりと違った優しげな雰囲気で話す奴の姿に、既に見慣れているとはいっても薄ら寒いものを感じる。
「ありがとう、アル。だけど、城の方々にご迷惑を掛けていないと良いんだけど…」
「エレナ。その時は、お灸をすえるすえれば良いと思うわよ?」
「お前は、エレナに余計な事は言わないで良い。それに、オルフェやコイツ等の息子共が一緒に付いて行ったから、その心配はない」
「君、人の息子をおまけのように言わないでくれないかな?」
ラザリアからの言葉を止めたかったようだが、奴のぞんざいな言い方に、言葉には出さなくとも私と同様にベルも不満そうな様子で黙っている。そんな私達に一触即発でも感じたのか、それを止めるように部下が声を掛けて来た。
「陛下。そろそろ…」
「そうだな。悪いが、私は此処で一端失礼させて貰うよ」
「何だ?何かあるのか?」
「私は君と違って、仕事をサボったりはしないんだよ」
「おい、エレナの前で人聞きが悪い事を言うな」
私の行動に疑問を感じた奴の問い掛けに冗談めかしに答えれば、ラザリアからは面白げな顔をしているが、夫人から直ぐに睨むような視線が飛んでいて、アルが慌てた様子で私に抗議して来た。だが、私はそれに悪戯めいた笑みで返す。
「冗談だよ。では、後ほど会場で会おう」
アルが他の事に気を取られているのを良い事に、私はその場を後にするように歩き出すと、部下と共に部屋を出る。そして、懐に入れていた物を取り出した。
「さて、この手紙はどうしたものか…」
少し前、彼の身内から一通の手紙が私の下へと届いていた。その事を特に隠す必要もなく、何か理由があったわけではないが、進んで関わりたいと思う相手ではなかったため、今もアルに言わずに終わってしまった。それに、奴も私が彼女と関わる事にいい顔はしないだろう。だが、この取引を蹴って目の届かない場所にでも行かれた方が逆に厄介だ。
「やはり、こちらで内々に処理するか…」
「あの…一言ご相談された方が宜しいのではないでしょうか…?」
元々時を見て声を掛けるように命じていた部下が、不安気な様子で部屋の中にいる奴を振り替えるが、それを落ち着けるように私は冷静な声で答える。
「心配するな。最近では手に入らない素材が手に入ると考えれば、こちらとしても損はない。それに、彼のようにとまでは行かないが、私もこういった裏工作地味た事は苦手ではないんだよ」
実際、彼が裏で動く前まで、こういった事は私の仕事だった。昔を思い出しつつ、後で知った時の奴の顔を想像しながら歩き出そうとした私は、ある事を思いだしその場で立ち止まる。
「そういえば、君が私の下で働き出して暫く立つな?」
「はい?それが何か?」
「今、この部屋で聞いた話しはすぐ忘れた方が良い。そうでなければ、幾ら役に立つとはいえ、君には消えて貰う必要があるからな」
何処へとも告げずにそれだけ伝えれば、何を言われたのかを察したようで、直ぐに怯えたような顔で返事が返って来た。
「はい…私は何も聞いておりません…」
「懸命だな」
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『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
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