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五章
嫌な慣れ
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「…き…さ…」
「お…な…い…」
「起きなさいって!」
ガタゴトと揺れる振動の中、何度も何かを叫ぶ誰かの声が聞こえてくる。最初は遠くで聞こえているような途切れ途切れの声だったけど、次第にその声は近くなり、聞き覚えのある声に呼ばれるように目を覚ますと、目の前には焦れったそうな顔をしたティが立っていた。
「やっと起きた?」
そう言って腰に手を当てながら小首を傾げながら問い掛けるティ越しに見える壁は、町で見るような壁ではなく、少し古びた木面だった。まだはっきりとしない頭で周りを見渡してみると、四方を壁に囲まれた場所にいるようだった。起きてからも揺れ続けている揺れ具合からすると、荷馬車か何かの中にいるんだろうけど、他に荷物は何も乗せている様子もない。何が身体を起こそうとしても、手足が縛られているのか身動きが取れない。
「逃げられないように念入りに縛っとけ声が聞こえたから、動けないと思うわよ?」
まるで他人事のように、一人だけ身軽なティがそんな事を言うから、僕は憤りの気持ちを隠す事なく不満を口にする。
「それなら、その時に助けてくれても良かったんじゃない?」
「あのねぇ!?見なくても分かるような大柄な男の気配が2、3人もあるのに、私一人で敵うわけないでしょう!?それに、気絶したアンタを私一人で運べると思う!?だったら、下手にアンタを助けようとして見つかるよりも、一度身を隠して機会を窺った方が良いでしょう!!?」
ティが発した言葉は確かに正論だけど、それでも言い訳にしか聞こえる僕が、納得がいかない表情でじっと恨みがましい視線を向けていると、日頃から大きな事を言っている事もあってその視線をずらす。そしてティは責任転換でもするように、兄様がくれた魔道具の文句を口にする。
「私を責めるよりも先に、何の役に立たない魔道具を寄越したアイツの事をまず責めないさいよ!」
ティに言われてその存在を思い出した僕は、動かせる範囲で足を擦り合わせてみると、ふくらはぎ辺りに硬い物がある感触があった。裾に隠れていたうえに、足に魔道具を付けているなんて思ってもみなかったのか、そのまま足に付けたままになっていたようだった。でも、足首付近を縄で縛られているだけに、本当に気付かなかったのかなと疑問に思いはしても、今はそれを考えても仕方がないと、兄様は悪くない事を推論を交えながらティへと返事を返す。
「危機を感じたらって言ってたけど、兄様は気配に敏感で判断能力も高いから、たぶん父様も認識するだけで使えるようにしてたんじゃないの?」
「それって、アンタには意味ないじゃない?」
どっちも持っていないと自分でも分かっている僕に、ティは辛辣にしか聞こえない言葉を平然と言ってくる。そのせいで、胸にトゲが刺さったような痛みを感じながらも、まずはこの事態を何とかしないといけないと思って、状況を確認するためにも僕は気になった事をティへと問い掛けた。
「ねぇ?あれから、どれくらいの時間が経ったの?」
「えっ?うーん?1、2時間くらい?」
「それくらいあったら、せめて縄くらいは切ってくれてても良かったんじゃないの…?」
ティに時間を尋ねれば、少なくない時間が経っていて、それだけあれば兄様が宿に戻っている可能性が高い。だからこそ、その間に縄を切っておいてくれれば良かったのにと思わざるをえない。そんな思いでティを見ていれば、途端に怒りをあらわにした。
「アンタが起きる前に見張りが戻って来たらヤバいと思ったから、アンタが起きてから切ろうと思ったのよ!なのに、アンタときたら小突いてもなかなか起きないんだもの!!こっちの苦労も知らないで勝手な事言わないでよね!!」
「ご、ごめん…」
「はぁ、まぁ、良いわ。面倒くさくなって休んでたら、途中で寝ちゃった私も悪かったから」
僕が素直に謝れば、さっきの怒りは何処に行ったのかと言いたくなるくらいの態度を見せ、自身の非礼を詫びてくる。だけど、それなら僕の謝り損じゃないかなと思っていると、僕からの追及をかわすためなのか、それともたまたまだったのかは分からないけれど、ティはやれやれといった感じの声を上げた。
「とりあえず、アンタも目が覚めたことだし、魔法でその縄を今切ってあげるから待ってなさい」
僕の縄を切るために、後ろでに縛られている背後へと飛んで回ろうとするけれど、羽を広げようとしたちょうどその時、それまで揺れながら走っていた馬車がピタリと止まった。そうして、何かに気付いたか小さく焦ったような声を上げる。
「ヤバ!誰か来た!」
人の気配がしたようで、ティは急いで僕の胸元からローブの中へと隠れてしまった。そうしていると、足元の方でガタガタと扉でも開けようとしている音が聞こえて来て、僕も慌てたように目をつぶると寝た振りをする事にした。
「まだ起きてねぇようですね」
「下手に暴れられて怪我をされるよりは、薬が効いて眠ってて貰った方が良い」
「俺は多少分からせた方が楽だと思いますがねぇ?」
「いくら町から離れたとは言っても、追ってが何時来るか分からない。万が一を考えて下手に手を出さない方が良い。だが、こんな収穫物が手に入るとは今回は幸運だったな。取引相手に違約金を払っても十分に釣りがくる」
「金のなる木ってやつですね」
「あぁ、あこぎな商売してるより余程金になる。だからこそ、さっさとこの森を抜けてルークスに入るぞ」
「ルークスへの近道って話でしたが、この森はアイツ等にとっての聖域?って事で、なるべく避けてたんじゃなかったですかい?もし、森から出て来る所でも見られたら不味いんじゃ…」
「なるべくは避けたいが背に腹は変えられない。しかし、滅多な事では人が寄り付きもしない森だ。誰かに見られる可能性も低いだろう。それに、誰かに見られたとしても、ソイツに消えて貰えば良いだけだ」
片方の男が何かを含むような言葉を言った後、周囲には沈黙が流れるけれど、それも少しの間だけで、今と同じ声の持ち主が容赦のない声を上げる。
「少し馬を休ませたら直ぐに進む。お前はそれまで此処で見張ってろ」
他に誰かいたようで、叱責でもするかのような厳しい声で命令を下すと、それまで話していた2人組はその一人だけ此処に残して、去って行くようだった。扉が閉まるような音が響き、何も聞こえなくなると静けさが残る。そして、その静けさを破るように、あの2人に残されたその人が僕に声を掛けて来た。
「お前、起きてるだろ?」
どこか確信めいたような口調と聞き覚えのある声で言われ、窺うようにそっと目を開けると、そこにいたロウさんとしっかりと目線が合ってしまった。起きている事を知られているのなら、寝た振りをしてもしょうがないと思って問い掛ける。
「どうして起きてるって分かったの?」
「話していてあの2人は気付いていなかったようだが、お前が少し身動きしているのが後ろから見えたからな。それと、下手に希望でも持たれても面倒だから先に言っておくが、俺はお前を助けるつもりはないからな。帰れって行ったのに、人の忠告を素直に聞かないお前が悪い」
片膝を上げながら胡座をかくようにして座ったロウさんが、悪びれた様子もなくそう言うと、今度は向こう側から僕へと問い掛けて来た。
「お前、誘拐されてる最中なのに妙に落ち着いてるな?誰かが助けに来るとでも思ってんのか?」
「うーん…?それもあるけど、慣れてるから…かな…?」
「どんな慣れだよ…。アイツの時も思ったが、本当に変わった奴等だなぁ…」
何度か危ない目にあったせいか、どうにも場馴れしてしまって、これくらいの事なら前ほど驚かなくなってしまった。それに、ティが側にいてくれているというのもあって、意外と冷静になれている部分もある。だけど、それを知らないロウさんは、変わったな生き物でも見るような視線を向けてくる。だけど、途中で何を思ったのか、納得したような顔をする。
「まぁ、足なんかに魔道具を付けているような奴だからなぁ…。だが、気付いたのが俺じゃなかったら、あんな高そうなもん直ぐに盗られてたぞ」
そう言った声はどこか呆れているようだった。だけど、ロウさんは僕が付けていた魔道具に気付いていても、そのままにしておいてくれたようだった。
「これ取らなかったの?」
「そんなこそ泥みたいな真似するか」
不思議に思って問い掛ければ、吐き捨てるような言葉が返って来て、少し怒っているようでもあった。でも、その言動を見る限り悪事を嫌ってそうな様子なのに、何でそんな人達と一緒にいるのか理由が分からない。
「何で、あんな人達と一緒にいるの?」
「店にいた悪巧みしてそうなアイツ等に、ちょっと腹いせのつもりで情報を売るだけのつもりで声を掛けたんだが、あの時の俺は何考えてたんだか、喋って不味い事も言っちまってな。それで、後に引けなくなっちまって一緒にいるんだが、王都でもこそ泥みたいな事をしてる連中だったみたいでな。そのうえ、ソイツ等の扱いが雑過ぎて、俺が見るに見かねて世話してたら、今では完全に雑用係ってわけだ」
僕の見張り役なんてしたくないかのように、全くやる気がみえないロウさんだったけど、途中で気になった言葉があった僕は、その事を尋ねてみる。
「あの人達って、町で騒ぎになってた召喚獣にも関わってたりするの?」
「何でそれを…って、下町では噂になっていたうえに、下町に詳しい奴がお前の側にいたな…。はぁ…そうだよ。アイツ等の仕業だよ」
疑問を口にしようとするも、直ぐに思い当たる人物が頭に浮かんだからか、ロウさん何とも言えないような表情を浮かべていた。だけど、その後は拍子抜けするくらいに、簡単にそれを認めていた。
「さっき俺に命令してた奴がいただろ?ソイツが今回の主犯だ。どうやらハンデル出身らしいが、あの国の人間らしく金儲けが好きで無駄を嫌うようでな。王都に目を付けたのだって、王都には召喚獣を連れた連中が大勢いるから、ルーカスから依頼されていた物を探すのも楽だって理由だったようだしな」
「でも、その国での扱いが酷いって兄様が言ってたよ」
扱いが雑だからという理由で自分から進んで世話をするのに、酷いと分かっている国に売るのかと思って尋ねれば、苦笑地味た笑みが返って来た。
「知ってるよ。だが、一生ってわけじゃなかったからな」
「どういうこと?」
「今回標的になってた奴等は、就学前の奴の召喚獣だけだったからな。だから、学院に入って召喚方法さえ習えば、何処に至って、それこそ他国に居たって呼び戻せる。だから、それを知っている衛兵共は、喧嘩でもして愛想つかされたのかとまともに探さないし、下町の奴の話なんてろくに聞かずに信じない。なのに、途中から真面目な捜索が始まったらしくてな。そのせいで焦っているアイツ等の姿は、何とも滑稽で笑えたな。まぁ、そんなわけで、お前の変わりに店に残された奴等は、そこまで遅くない時期に手元に戻る予定だったんだよ」
「でも、それだと相手は損をするんじゃないの?」
「そんなの騙される方が悪いんだよ」
違法な商品を買う奴に同情する価値もないとでもいうような態度を見せるロウさんだったけど、自身の事も皮肉っているような笑みを浮かべていた。そんな顔をするロウさんに、なんとなく声が掛けづらくて見つめていると、カリカリと扉を引っ掻くような音が聞こえて来て、立ち上がったロウさんがその扉を開けると、小さな影が掛けながら入って来た。
「その子ロウさんの?」
薄茶いの小さな子狼が、中へと戻ろうとしているロウさんの歩みを邪魔するかのように足元をグルグルと走り回っていた。そうして、さっきまで座っていた場所まで戻って座り直すと、今しがた加えて来た枝を褒めて欲しそうにロウさんへと渡す。ロウさんはそれを仕方なさそうにしながらそれを受け取ると、褒めるように子狼の頭を撫でれば、嬉しそうに尻尾を元気に振っていた。
ティがロウさんは魔力持ちだって言っていたから、心底懐いているその姿に、てっきりロウさんの召喚獣だと思って問い掛けたのに、それを否定する寂しげな声が返って来た。
「いや、違う。王都からさっきの町に行くまでの間に会ったんだ。どうやら酷く腹が空いてたらしくてな。気まぐれにエサをやったら、それから変に懐かれちまってな。最初はアイツ等に見つかったら面倒だと思って追い払ってたんだが、アイツ等も今は興味もないようでな。もう隠す必要もねぇなら、コイツの好きにさせてやろうと思ってな」
小さな笑みを浮かべながら子狼を撫でる姿を見ていると、やっぱり悪い人には見えなかった。何より、あのバルドが慕っている人に悪い人がいるとは思えなかった。
「……なのは分かってるが……思わなかったら………」
僕が考えている間、子狼を撫でながら何やら呟いていたやうだけれど、その声が小さ過ぎて途切れ途切れにしか聞き取れなかった。
「お…な…い…」
「起きなさいって!」
ガタゴトと揺れる振動の中、何度も何かを叫ぶ誰かの声が聞こえてくる。最初は遠くで聞こえているような途切れ途切れの声だったけど、次第にその声は近くなり、聞き覚えのある声に呼ばれるように目を覚ますと、目の前には焦れったそうな顔をしたティが立っていた。
「やっと起きた?」
そう言って腰に手を当てながら小首を傾げながら問い掛けるティ越しに見える壁は、町で見るような壁ではなく、少し古びた木面だった。まだはっきりとしない頭で周りを見渡してみると、四方を壁に囲まれた場所にいるようだった。起きてからも揺れ続けている揺れ具合からすると、荷馬車か何かの中にいるんだろうけど、他に荷物は何も乗せている様子もない。何が身体を起こそうとしても、手足が縛られているのか身動きが取れない。
「逃げられないように念入りに縛っとけ声が聞こえたから、動けないと思うわよ?」
まるで他人事のように、一人だけ身軽なティがそんな事を言うから、僕は憤りの気持ちを隠す事なく不満を口にする。
「それなら、その時に助けてくれても良かったんじゃない?」
「あのねぇ!?見なくても分かるような大柄な男の気配が2、3人もあるのに、私一人で敵うわけないでしょう!?それに、気絶したアンタを私一人で運べると思う!?だったら、下手にアンタを助けようとして見つかるよりも、一度身を隠して機会を窺った方が良いでしょう!!?」
ティが発した言葉は確かに正論だけど、それでも言い訳にしか聞こえる僕が、納得がいかない表情でじっと恨みがましい視線を向けていると、日頃から大きな事を言っている事もあってその視線をずらす。そしてティは責任転換でもするように、兄様がくれた魔道具の文句を口にする。
「私を責めるよりも先に、何の役に立たない魔道具を寄越したアイツの事をまず責めないさいよ!」
ティに言われてその存在を思い出した僕は、動かせる範囲で足を擦り合わせてみると、ふくらはぎ辺りに硬い物がある感触があった。裾に隠れていたうえに、足に魔道具を付けているなんて思ってもみなかったのか、そのまま足に付けたままになっていたようだった。でも、足首付近を縄で縛られているだけに、本当に気付かなかったのかなと疑問に思いはしても、今はそれを考えても仕方がないと、兄様は悪くない事を推論を交えながらティへと返事を返す。
「危機を感じたらって言ってたけど、兄様は気配に敏感で判断能力も高いから、たぶん父様も認識するだけで使えるようにしてたんじゃないの?」
「それって、アンタには意味ないじゃない?」
どっちも持っていないと自分でも分かっている僕に、ティは辛辣にしか聞こえない言葉を平然と言ってくる。そのせいで、胸にトゲが刺さったような痛みを感じながらも、まずはこの事態を何とかしないといけないと思って、状況を確認するためにも僕は気になった事をティへと問い掛けた。
「ねぇ?あれから、どれくらいの時間が経ったの?」
「えっ?うーん?1、2時間くらい?」
「それくらいあったら、せめて縄くらいは切ってくれてても良かったんじゃないの…?」
ティに時間を尋ねれば、少なくない時間が経っていて、それだけあれば兄様が宿に戻っている可能性が高い。だからこそ、その間に縄を切っておいてくれれば良かったのにと思わざるをえない。そんな思いでティを見ていれば、途端に怒りをあらわにした。
「アンタが起きる前に見張りが戻って来たらヤバいと思ったから、アンタが起きてから切ろうと思ったのよ!なのに、アンタときたら小突いてもなかなか起きないんだもの!!こっちの苦労も知らないで勝手な事言わないでよね!!」
「ご、ごめん…」
「はぁ、まぁ、良いわ。面倒くさくなって休んでたら、途中で寝ちゃった私も悪かったから」
僕が素直に謝れば、さっきの怒りは何処に行ったのかと言いたくなるくらいの態度を見せ、自身の非礼を詫びてくる。だけど、それなら僕の謝り損じゃないかなと思っていると、僕からの追及をかわすためなのか、それともたまたまだったのかは分からないけれど、ティはやれやれといった感じの声を上げた。
「とりあえず、アンタも目が覚めたことだし、魔法でその縄を今切ってあげるから待ってなさい」
僕の縄を切るために、後ろでに縛られている背後へと飛んで回ろうとするけれど、羽を広げようとしたちょうどその時、それまで揺れながら走っていた馬車がピタリと止まった。そうして、何かに気付いたか小さく焦ったような声を上げる。
「ヤバ!誰か来た!」
人の気配がしたようで、ティは急いで僕の胸元からローブの中へと隠れてしまった。そうしていると、足元の方でガタガタと扉でも開けようとしている音が聞こえて来て、僕も慌てたように目をつぶると寝た振りをする事にした。
「まだ起きてねぇようですね」
「下手に暴れられて怪我をされるよりは、薬が効いて眠ってて貰った方が良い」
「俺は多少分からせた方が楽だと思いますがねぇ?」
「いくら町から離れたとは言っても、追ってが何時来るか分からない。万が一を考えて下手に手を出さない方が良い。だが、こんな収穫物が手に入るとは今回は幸運だったな。取引相手に違約金を払っても十分に釣りがくる」
「金のなる木ってやつですね」
「あぁ、あこぎな商売してるより余程金になる。だからこそ、さっさとこの森を抜けてルークスに入るぞ」
「ルークスへの近道って話でしたが、この森はアイツ等にとっての聖域?って事で、なるべく避けてたんじゃなかったですかい?もし、森から出て来る所でも見られたら不味いんじゃ…」
「なるべくは避けたいが背に腹は変えられない。しかし、滅多な事では人が寄り付きもしない森だ。誰かに見られる可能性も低いだろう。それに、誰かに見られたとしても、ソイツに消えて貰えば良いだけだ」
片方の男が何かを含むような言葉を言った後、周囲には沈黙が流れるけれど、それも少しの間だけで、今と同じ声の持ち主が容赦のない声を上げる。
「少し馬を休ませたら直ぐに進む。お前はそれまで此処で見張ってろ」
他に誰かいたようで、叱責でもするかのような厳しい声で命令を下すと、それまで話していた2人組はその一人だけ此処に残して、去って行くようだった。扉が閉まるような音が響き、何も聞こえなくなると静けさが残る。そして、その静けさを破るように、あの2人に残されたその人が僕に声を掛けて来た。
「お前、起きてるだろ?」
どこか確信めいたような口調と聞き覚えのある声で言われ、窺うようにそっと目を開けると、そこにいたロウさんとしっかりと目線が合ってしまった。起きている事を知られているのなら、寝た振りをしてもしょうがないと思って問い掛ける。
「どうして起きてるって分かったの?」
「話していてあの2人は気付いていなかったようだが、お前が少し身動きしているのが後ろから見えたからな。それと、下手に希望でも持たれても面倒だから先に言っておくが、俺はお前を助けるつもりはないからな。帰れって行ったのに、人の忠告を素直に聞かないお前が悪い」
片膝を上げながら胡座をかくようにして座ったロウさんが、悪びれた様子もなくそう言うと、今度は向こう側から僕へと問い掛けて来た。
「お前、誘拐されてる最中なのに妙に落ち着いてるな?誰かが助けに来るとでも思ってんのか?」
「うーん…?それもあるけど、慣れてるから…かな…?」
「どんな慣れだよ…。アイツの時も思ったが、本当に変わった奴等だなぁ…」
何度か危ない目にあったせいか、どうにも場馴れしてしまって、これくらいの事なら前ほど驚かなくなってしまった。それに、ティが側にいてくれているというのもあって、意外と冷静になれている部分もある。だけど、それを知らないロウさんは、変わったな生き物でも見るような視線を向けてくる。だけど、途中で何を思ったのか、納得したような顔をする。
「まぁ、足なんかに魔道具を付けているような奴だからなぁ…。だが、気付いたのが俺じゃなかったら、あんな高そうなもん直ぐに盗られてたぞ」
そう言った声はどこか呆れているようだった。だけど、ロウさんは僕が付けていた魔道具に気付いていても、そのままにしておいてくれたようだった。
「これ取らなかったの?」
「そんなこそ泥みたいな真似するか」
不思議に思って問い掛ければ、吐き捨てるような言葉が返って来て、少し怒っているようでもあった。でも、その言動を見る限り悪事を嫌ってそうな様子なのに、何でそんな人達と一緒にいるのか理由が分からない。
「何で、あんな人達と一緒にいるの?」
「店にいた悪巧みしてそうなアイツ等に、ちょっと腹いせのつもりで情報を売るだけのつもりで声を掛けたんだが、あの時の俺は何考えてたんだか、喋って不味い事も言っちまってな。それで、後に引けなくなっちまって一緒にいるんだが、王都でもこそ泥みたいな事をしてる連中だったみたいでな。そのうえ、ソイツ等の扱いが雑過ぎて、俺が見るに見かねて世話してたら、今では完全に雑用係ってわけだ」
僕の見張り役なんてしたくないかのように、全くやる気がみえないロウさんだったけど、途中で気になった言葉があった僕は、その事を尋ねてみる。
「あの人達って、町で騒ぎになってた召喚獣にも関わってたりするの?」
「何でそれを…って、下町では噂になっていたうえに、下町に詳しい奴がお前の側にいたな…。はぁ…そうだよ。アイツ等の仕業だよ」
疑問を口にしようとするも、直ぐに思い当たる人物が頭に浮かんだからか、ロウさん何とも言えないような表情を浮かべていた。だけど、その後は拍子抜けするくらいに、簡単にそれを認めていた。
「さっき俺に命令してた奴がいただろ?ソイツが今回の主犯だ。どうやらハンデル出身らしいが、あの国の人間らしく金儲けが好きで無駄を嫌うようでな。王都に目を付けたのだって、王都には召喚獣を連れた連中が大勢いるから、ルーカスから依頼されていた物を探すのも楽だって理由だったようだしな」
「でも、その国での扱いが酷いって兄様が言ってたよ」
扱いが雑だからという理由で自分から進んで世話をするのに、酷いと分かっている国に売るのかと思って尋ねれば、苦笑地味た笑みが返って来た。
「知ってるよ。だが、一生ってわけじゃなかったからな」
「どういうこと?」
「今回標的になってた奴等は、就学前の奴の召喚獣だけだったからな。だから、学院に入って召喚方法さえ習えば、何処に至って、それこそ他国に居たって呼び戻せる。だから、それを知っている衛兵共は、喧嘩でもして愛想つかされたのかとまともに探さないし、下町の奴の話なんてろくに聞かずに信じない。なのに、途中から真面目な捜索が始まったらしくてな。そのせいで焦っているアイツ等の姿は、何とも滑稽で笑えたな。まぁ、そんなわけで、お前の変わりに店に残された奴等は、そこまで遅くない時期に手元に戻る予定だったんだよ」
「でも、それだと相手は損をするんじゃないの?」
「そんなの騙される方が悪いんだよ」
違法な商品を買う奴に同情する価値もないとでもいうような態度を見せるロウさんだったけど、自身の事も皮肉っているような笑みを浮かべていた。そんな顔をするロウさんに、なんとなく声が掛けづらくて見つめていると、カリカリと扉を引っ掻くような音が聞こえて来て、立ち上がったロウさんがその扉を開けると、小さな影が掛けながら入って来た。
「その子ロウさんの?」
薄茶いの小さな子狼が、中へと戻ろうとしているロウさんの歩みを邪魔するかのように足元をグルグルと走り回っていた。そうして、さっきまで座っていた場所まで戻って座り直すと、今しがた加えて来た枝を褒めて欲しそうにロウさんへと渡す。ロウさんはそれを仕方なさそうにしながらそれを受け取ると、褒めるように子狼の頭を撫でれば、嬉しそうに尻尾を元気に振っていた。
ティがロウさんは魔力持ちだって言っていたから、心底懐いているその姿に、てっきりロウさんの召喚獣だと思って問い掛けたのに、それを否定する寂しげな声が返って来た。
「いや、違う。王都からさっきの町に行くまでの間に会ったんだ。どうやら酷く腹が空いてたらしくてな。気まぐれにエサをやったら、それから変に懐かれちまってな。最初はアイツ等に見つかったら面倒だと思って追い払ってたんだが、アイツ等も今は興味もないようでな。もう隠す必要もねぇなら、コイツの好きにさせてやろうと思ってな」
小さな笑みを浮かべながら子狼を撫でる姿を見ていると、やっぱり悪い人には見えなかった。何より、あのバルドが慕っている人に悪い人がいるとは思えなかった。
「……なのは分かってるが……思わなかったら………」
僕が考えている間、子狼を撫でながら何やら呟いていたやうだけれど、その声が小さ過ぎて途切れ途切れにしか聞き取れなかった。
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『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
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桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
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