怪蒐師

うろこ道

文字の大きさ
45 / 58
第六話 悪夢

2②

しおりを挟む
  *

 駅を出ると、景色は夕焼けの濃いオレンジ一色に染まっていた。
 ただ、そこは大学の最寄り駅前ではなく、まったく見知らぬ場所だった。どこか鄙びた駅前商店街が広がっているはずなのに、整然とした街並みが広がっていたのだ。
 視界に映る、焦点の合わない道路標識に目を凝らす。——都営地下鉄光が丘駅。
(は? 地下鉄?)
 先程まで普通に地上のホームにいたはずである。目の前は海で普通ではなかったのだが――とにかく地下鉄ではなかった。
 間宮はまったく疑問に思ってないようだった。帰路を急ぐあまりそれどころでないのかもしれない。
 だがそこは間宮にとってはよく見知った場所のようだった。迷いない足取りで歩道を駆けてゆく。
(あれ、そういえばしょうちゃんは――)
 いつの間にか一人だった。夢あるあるである。
 俺は、彼がいないことに酷く不安を抱いた。
 一方で、間宮の意識からはしょうちゃんはすっかり消えているようだった。その胸中は、恐怖にも似た切迫感に押しつぶされそうになっていた。
 早く、早く帰らないと間に合わなくなる——。激しくそう思いながらも、家に帰ることへの尋常でない怯えを感じていた。
 早く帰らなきゃだけど怒られるから帰りたくない。そういった子供じみた葛藤なんかじゃない。帰らなければ恐ろしいことが起ってしまうのに、帰ってしまったら終わりが来るように思う。——家で、一体何が待っているというのだ?
 その時、車道を挟んだ向かいの歩道に立つ一人の男に目がとまった。
 男は一見背景に紛れているようで、ものすごく浮いていた。それぞれ往来している夢の登場人物たちの中で、一人、こっちをむいて突っ立っているのだ。
 焦点があってないのでやけてよく認識できないが、三十代か四十代くらいの、汚らしい格好をした男だった。無精髭を生やし、白髪まじりの髪もぼさぼさで、緑がかったグレーの作業着を着ている。
(……何だあいつ)
 間宮は男に気付いた様子なく、そのままバス停に向かってゆく。
 すでにバスは着いていて、間宮は開きっぱなしのドアに駆け込んだ。ICカードをパネルに当て、大きく息を吐く。その時、視界に入った運転手の姿に、俺はぎょっとした。制帽の下に黒いケープのようなものを下げ、顔を隠しているのだ。
 乗客は五人しか乗っておらず、車内はがらがらだった。皆、黒のケープを被り、そろって首を垂れてうつむいている。
 明らかに異様にもかかわらず、間宮は気にもしないようすで座席に向かう。もしかして、同じ展開の夢を何回も見ているのかもしれない。
 なんだかぞっとしながら間宮の視界越しにあたりを眺めていると、一番後ろの端の席に座った男がケープをかぶっていないことに気付いた。
 ぎくりとした。あの浮浪者然とした作業着の男だった。無表情でじっとこっちを見ている。
 間宮は降車ドアに一番近い、中ほどの席に座った。男の姿は視界から外れ、見えなくなる。
 ——出発します。お立ちの方はおつかまり下さい——。
 合成音声の放送が入り、ドアが閉まった。
 背後——というか、男の姿が見えないのがなんだか怖かった。背後から何かされないか。すぐ後ろにいたらどうしよう。いや、何をされたってそれは所詮夢の中の話なのだ——。俺がそんなことをぐだぐだと考えている一方で、当の間宮は膝の上で拳をぐっと握りしめ、フロントガラスを見据えていた。
 何個目かの停留所で、間宮は停車ボタンを押した。
 ――次、停まります。
 単調な車内アナウンスが入った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...