怪蒐師

うろこ道

文字の大きさ
49 / 58
第六話 悪夢

しおりを挟む
 三ツ橋ははっと目を見開いた。
 継ぎ目のない白い天井が目に入る。自分がどこにいるのかわからず、身を起こそうとすると、胴体にベルトが巻かれていて動けないことに気付いた。歯医者の治療台じみた椅子に固定されていて、そこでやっと、目の前の光景が眠りにつく前と同じであることに気付いた。
(……これは、現実なのか……?)
 大きく息を吐き、脱力する。全身汗でびっしょりだった。
 ひどい喉の渇きを覚えたところで、眼前にペットボトルの水が差しだされた。まるで思考を読まれたかのようなタイミングだった。
「おはよう」
 イスルギが上から見下ろしてきた。
 三ツ橋はペットボトルを受け取ろうと腕を伸ばした。その手首に例の測定装置が付けられていることに気付き、目を見開いた。
「何で測定装置……」
「実は新しい体験サービスのテスト運用をしたくてね。君に被験者になってもらったんだ」
 唖然とした。——勝手にを盗られていたのだ。
「ただで間宮くんの夢を観せたんだ。それくらいかまわないだろう」
 お礼もするからとイスルギはベルトのバックルを外しながら言う。
 そのまったく悪びれないさまを、三ツ橋は睨みつけた。
「従来の体験サービスはただ傍観するだけにすぎなかったが、今回、君に協力してもらったのは体験サービスだ。間宮くんの夢の記憶を元に作った体験データにユーザインターフェースを構築したのだよ。わかりやすく言うと、他人の脳内イメージ――つまり夢や記憶の中で、登場人物に成り代わって自由に行動できるというものだ。途中から、自分の意思で動けるようになっただろう?」
「……あのタクシーに乗ってから……」
「そう。タクシー登場以降にに切り替えをしたんだ」
 やっと身を起こした三ツ橋に、イスルギは視線を馳せた。
「間宮くんの姿で動きまわるの、面白かっただろう?」
(……ふざけんな)
 トラウマになりかねないほどの悪夢だった。本当にひどかった。
 三ツ橋は奥歯を噛みしめて震えをこらえた。怯えをイスルギに悟られるのは、絶対に嫌だ。
 そんな三ツ橋の心境も知らずして、イスルギは続けた。
「参加型体験サービスは、参加者の意思を反映できることが大きな特徴だ。つまりその舞台や世界観は、測定装置が読み取った君の脳内イメージと間宮くんの夢をAIが融合させて再構築したものになる。しかもその世界に外部から手を加えたりもできる。例えば――タクシーを送ったりね」
「……あの山羊やぎも、イスルギさんのしわざなんすか」
「山羊?」
 イスルギは身を乗り出した。
「山羊は出してないが、そんなものが出てきたのかね? 参加した人間の意思や行動によって展開が変わってゆくから、どう話が転がるかはこっちもわからないんだ」
 これは試聴が楽しみだなあ——イスルギは上機嫌で言った。
 言いたい文句は百ほどもあったが、三ツ橋は疲れ切った顔で装置から降りた。
 スニーカーに足を突っ込み——ふと顔を上げた。
「……ちょっと待ってください。じゃあ、元の夢ではあのタクシーは来ないんですか?」
「ん? ああ。タクシーは私が挿入したデータだから元の間宮くんの夢には登場しない」
 イスルギは黒いバインダーファイルに何やら書き込みながら言った。
「じゃあ、本当の夢の続きは? タクシーで逃げられなかった間宮はどうなったんです!」
「彼は例の影につかまったよ」
 ぞわっと怖気が立った。思わずイスルギの腕をつかむ。
「あの化け物は間宮に何をしたんですか!!  あの幼い間宮に——」
 夢の最後。三ツ橋は化け物の恐怖に耐えられず、電車に飛び込む方を選んだのだった。だからあの化け物に知らないのだ。
 落ちつきたまえ——言い聞かせる声音に、我に返る。
「あれは夢だよ。現実じゃないんだ」
 イスルギは腕を掴む三ツ橋の手を、そっと外した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...