まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ

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特別編

第12話『みかんゼリー』

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「これで終わりですね」

 優奈に汗を拭いてもらった後、新しい下着と寝間着の着替えを手伝ってもらった。着替えは自分でやる部分もあったけど、至れり尽くせりって感じだったな。

「ありがとう、優奈。おかげでスッキリしたよ」
「良かったです」

 お礼に優奈の頭を優しく撫でる。優奈の髪は今日も柔らかくて、撫で心地がとてもいいな。
 優奈はとても嬉しそうな笑みを顔に浮かべる。いつも頭を撫でるときよりも嬉しそうなのは、今日は俺が学校を休んで一緒にいる時間が全然なかったからだろうか。
 頭を撫で終えると、優奈は部屋の扉の方へ向かい、

「萌音ちゃん、真央さん、終わりました」

 扉を開けて、廊下にいる井上さんと真央姉さんにそう声を掛けた。
 井上さんと真央姉さんが部屋に戻ってくる。井上さん……姉さんの胸を堪能したからなのか、多幸感に満ちた表情をになっている。姉さんも優しい笑顔になっていて。

「あぁ、真央さんの胸……とても良かったわ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。揉んだり、顔を埋めたり、スリスリしたりして。萌音ちゃん可愛かったよ」
「えへへっ。真央さん、ありがとうございました!」

 井上さんはニッコリと笑ってお礼を言った。そんな井上さんの顔は部屋を出て行ったときよりも肌ツヤが良くなっているように見える。この前、優奈のお見舞いに来たときもそうだったような。井上さんにとって、女性の胸を堪能することに美肌効果があるのだろうか。

「長瀬君。汗拭きとお着替えをしてもらって、気分はどう?」
「スッキリしたよ。汗拭きだけじゃなくて、着替えもして正解だった」
「それは良かったわ」
「良かったね、カズ君」

 井上さんと真央姉さんは優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことで気持ちが癒やされていく。

「真央姉さん。ちょっとこっち来て」

 俺が手招きすると、真央姉さんは素直に俺のすぐ近くまでやってくる。不思議そうな表情を顔に浮かべて。どうして呼ばれるのか分かっていないようだ。

「さっき、優奈にもしたから姉さんにも。背中を拭いてくれてありがとう」

 お礼を言って、真央姉さんの頭を優しく撫でる。優奈に負けず劣らずの撫で心地の良さだ。
 頭を撫でられるとは思わなかったのか、真央姉さんは頭を撫でた直後に「ふあっ」と甘い声を漏らし、体をピクッと震わせた。ただ、撫でられるのが嬉しいようで、姉さんの顔にはすぐに嬉しそうな笑みが浮かぶ。

「いえいえ。これまでやってきたことですから。カズ君に頭を撫でられちゃった」

 真央姉さんはニッコリとした笑顔でそう言う。頭を撫でているのもあって、今の姉さんは優奈や井上さんよりも幼く見えた。

「和真君。さっきまで着ていた服とバスタオルを洗面所に置いてきますね」
「ああ、ありがとう」

 優奈はバスタオルとふんわりと膨らんだ寝間着を持って部屋を出た。井上さんがいる場だから、下着は寝間着で包んだのかな。
 俺の部屋から洗面所はとても近いから、優奈はすぐに戻ってきた。

「さっきまで着ていた服とタオルを洗濯カゴに入れてきました。……和真君。他に私達にしてほしいことはありますか?」
「そうだなぁ……」

 井上さんと真央姉さんがお見舞いに来てくれているし、何かお願いしようかな。そう思いながら3人を見ていると、ローテーブルに置かれているレジ袋が目に入る。

「じゃあ、買ってきてくれたみかんゼリーを食べさせてほしいな」

 食べさせてもらったら、きっとみかんゼリーがもっと美味しく感じられるだろうから。

「それ……私がやってもいい?」

 井上さんはそう言い、右手を顔のあたりの高さまで上げる。優奈か真央姉さんがやりたがると思っていたので、井上さんが立候補するのは意外だ。

「優奈と真央さんは汗拭きとお着替えをやったから、私も何か長瀬君にしたいと思って。お見舞いに来たんだし」
「ああ、そういうことか。俺はかまわないけど……優奈と真央姉さんはどうだ?」
「私はかまいませんよ」
「私もいいよ。カズ君に何かしたいっていう気持ちは分かるから」
「そうか。じゃあ、井上さんに食べさせてもらおうかな」
「……うんっ!」

 井上さんはとっても嬉しそうな笑顔で返事をして、ちょこんと頷く。その言動がとても可愛くて、ちょっとドキッとした。お見舞い中とはいえ、俺にそこまでゼリーを食べさせてみたかったのかな。
 みかんゼリーを食べるため、優奈がキッチンからスプーンを持ってきた。 井上さんはローテーブルに置いてあるレジ袋からみかんゼリーを取り出し、蓋を外す。スプーンを持って、俺のすぐ側で膝立ちになった。
 井上さんはスプーンでみかんゼリーを一口掬い、俺の口元まで運ぶ。

「はい、長瀬君。あ~ん」
「あーん」

 井上さんにみかんゼリーを食べさせてもらう。
 ゼリーが口に入った瞬間、みかんの優しい甘味と酸味が口の中に広がって。優奈が井上さんと帰ってきてから少し時間が経つけど、涼しい部屋の中に置いてあったから、ゼリーが程良く冷たくて。その冷たさが心地いいと思いながら、ゼリーを飲み込んだ。

「甘酸っぱくて美味しい。冷たいのもいいな」
「それは良かったわ。優奈と一緒に買ったかしら。自分が作ったものじゃないけど、美味しく食べてもらえて嬉しいわ」
「私も嬉しいです。これも真央さんが、みかんゼリーが大好物だと教えてくれておかげですね。ありがとうございます」
「いえいえ」

 と言いながらも、真央姉さんは結構嬉しそうで。ちょっとドヤ顔にも見えて。大好きな弟の好物をお嫁さんに教えることができたからだろうか。可愛い姉だ。
 それからも俺は井上さんにみかんゼリーを食べさせてもらう。
 美味しく食べてもらえて嬉しいと言ったのもあってか、井上さんはとても楽しそうにしている。
 井上さんは優奈や佐伯さんよりも小柄だし、学校では優奈など女性の胸に顔を埋めたりするから幼い雰囲気がある。ただ、こうしてゼリーを食べさせてもらっているから、普段よりも大人っぽく見える。

「ふふっ、本当に美味しそうに食べるわね、長瀬君」
「大好物だからな、みかんゼリーは」
「そういうものを買えて良かったわ。……こうして食べさせているのもあって、長瀬君が段々と可愛く思えてくるわ」
「分かる! 分かるよ萌音ちゃん!」
「美味しそうに食べる和真君って可愛いですよね! 特に食べさせたときは!」

 井上さんの言葉に、真央姉さんと優奈が物凄く同意している。そんな2人と井上さんも可愛いと思う。
 美味しく食べているときの俺って可愛く思われていたのか。妻帯者の男子高校生だし、かっこいいって言われたいんだけどな。ただ、お嫁さんと実の姉と友達だから可愛いって言われるのも悪い気はしない。
 優奈と真央姉さんに「可愛い」と言われながら、俺は井上さんにみかんゼリーを食べさせてもらい、完食した。

「みかんゼリー美味しかった。ごちそうさま。井上さん、食べてさせてくれてありがとう」
「いえいえ。私も長瀬君にゼリーを食べさせるのが楽しかったわ。ゼリーを完食できるほどに食欲が戻ってて良かった」
「美味しかったし、井上さんが食べさせてくれたからだよ」
「……そ、そう。そう言ってもらえて嬉しいわ」

 井上さんはニコッと笑いながらそう言う。ただ、井上さんの笑顔は頬を中心にほんのりと赤らんでいた。それを含めて結構可愛く思える。

「長瀬君の体調が結構良くなったって分かったし、私はそろそろ帰るわ」
「お姉ちゃんも帰ろうかな。カズ君も元気になってきて安心できたから」
「では、途中まで一緒に帰りましょう、真央さん」
「そうね、萌音ちゃん」
「井上さんも姉さんもお見舞いに来てくれてありがとう。2人のおかげで元気になったよ」
「ありがとうございました」
「いえいえ。大好きな弟のためですから!」
「親友の旦那で友達だからね」

 真央姉さんと井上さんは優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことに気持ちが温かくなっていくよ。真央姉さんが姉で良かったし、優奈を通じて井上さんと友達になれて良かったなって思う。
 優奈は嬉しそうな様子で真央姉さんと井上さんを見ていた。
 真央姉さんと井上さんは荷物を持って俺の部屋を出る。2人を見送るため、俺は優奈と一緒に玄関まで向かう。その際、優奈が横から俺の体を支えてくれて。

「優奈、長瀬君、またね。明日はできれば学校で会おうね、長瀬君。お大事に」
「カズ君、お大事に。また何かあったら連絡してね。2人とも、またね!」
「ああ。2人ともまたな」
「また会いましょう」

 4人で小さく手を振って、真央姉さんと井上さんは家を後にする。次は元気な状態で2人と会いたいな。
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