サクラブストーリー

桜庭かなめ

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本編-新年度編-

第53話『合流』

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 4月18日、土曜日。
 今日はサクラ、一紗、杏奈と一緒に映画を観に行く。
 四鷹市は朝からよく晴れている。四鷹市も映画館のある琴宿区も雨が降る心配はないという。今日のメインは映画だけど、いい天気になって良かった。映画はもちろんのこと、3人とのお出かけも楽しみたい。
 午前9時10分。
 俺はサクラの部屋の前で、サクラが部屋から出てくるのを待っている。先週のデートと同じように、サクラとはここで待ち合わせをしているのだ。約束の時間は午前9時15分。
 ちなみに、杏奈とは午前9時半に四鷹駅の改札口前で待ち合わせ。杏奈と3人で電車に乗り、途中で停車する萩窪駅で一紗が乗車して合流する予定だ。

「そういえば、今日のメンバーで出かけるのは初めてか」

 家では、杏奈に古典の課題を教えた後に4人での時間を過ごしたけど。杏奈の歓迎会の帰りに4人で歩いたことはあるけど、ほんの少しの間だったしあれはノーカンで。
 どのようなお出かけになるのか楽しみだ。

「ダイちゃん、お待たせ」

 扉が開くと、ジーンズに淡い桃色の長袖のブラウス姿のサクラが姿を現す。先週と同じく、シルバーのネックレスを付け、赤いショルダーバッグを肩に掛けている。
 俺と目が合うと、サクラはニッコリと笑い小さく手を振る。サクラに返事をするように俺も手を振り返す。

「今日の服も似合ってるな」
「ありがとう。ダイちゃん、今日はジャケットじゃなくて、ロングカーディガンなんだね。それもいいと思う。似合ってるよ」
「ありがとう。じゃあ、出発するか」
「うんっ」

 俺はサクラと一緒に、杏奈との待ち合わせ場所の四鷹駅に向かって出発する。今日も春の日差しが暖かい。
 四鷹駅に着いたら、それ以降は2人きりではなくなる。なので、駅に着くまでの間はサクラと手を繋ごうかな……とか考えていると、

「駅まで繋ごうよ」

 と言って、サクラから手を繋いでくれた。ああ、と俺が頷くと、サクラは「えへっ」と楽しげに笑ってくれる。サクラの一連の言動がとても可愛くて、嬉しくも思えた。

「『名探偵クリス』の劇場版を一緒に観るのは4年ぶりだよね。ただ、中1の夏休みにも、アニメ映画を観に行った記憶があるな。ええと、作品の名前は……」
「それはたぶん『あなたの名は。』じゃないかな」
「それそれ! 映像がとても綺麗だったよね」
「その作品の監督は、映像美に定評があるからね。サクラと一緒に映画を観に行ったのはそれが最後だったな」
「そうだね。3年前のクリスの公開直前に、あのことがあったからね。ダイちゃんと仲直りできて、また一緒に映画を見に行けるようになって良かった。まさか、その1回目が一紗ちゃんと杏奈ちゃんと4人で行くことになるとは思わなかったけど」
「確かに」

 春休みの終わり頃にサクラと仲直りしたので、今年のクリスはサクラと一緒に観に行けるかなとは思っていた。まさか、クラスメイトの女子と、学校とバイトの後輩の女子と一緒なのは予想外だった。

「彼女達なら、一緒に観に行っても楽しいだろう。それに……これからはきっと、2人きりで映画を見に行くことはたくさんあると思う。な、仲直りしたし、一緒に住んでいるからな」
「そ、そうだね! 仲直りしたし、一緒に住んでいるから誘いやすいもんね! これからは2人きりでも映画を観に行こうね!」
「お、おう!」

 大きな声で、気合いの入った感じで返事をしてしまった。ただ、それがツボにはまったのか、サクラは駅が見えるまでずっと笑っていた。
 待ち合わせ時間の10分ほど前に、四鷹駅に到着。
 土曜日の午前中で、天候にも恵まれているからか人が結構多い。見たところ、俺達のように休日を楽しむ人が大多数だけど、スーツ姿の人もいれば、部活なのか制服姿の人もいる。その中には四鷹高校制服姿の生徒もいて。小泉さんがいるかもと、サクラと一緒に周りを見たけど小泉さんらしき姿は見えなかった。
 杏奈との待ち合わせ場所である改札前に行くと、

「あっ、大輝先輩に文香先輩!」

 グレーと白のチェック柄のワンピースを着た杏奈が、俺達に向かって元気良く手を振ってくる。服装は落ち着いているけれど、綺麗な金髪と顔が可愛らしいから結構目立つ。
 サクラと俺は無事に杏奈と落ち合えた。

「おはようございます!」
「おはよう、杏奈」
「おはよう、杏奈ちゃん! そのワンピース可愛いね!」
「ありがとうございます! ブラウス姿の文香先輩も可愛いですよ」
「ありがとう」
「……大輝先輩はどうですか?」
「よく似合っていると思うよ。可愛いな」

 俺の勝手なイメージだけど、杏奈はもっと明るくて派手な服装を好むのかなと思っていた。ワンピースの色や柄もあってか、普段よりも大人っぽく見える。
 杏奈は頬を赤くしながら俺のことを見て、

「ありがとうございます。2人に可愛いと言ってもらえましたから、迷った甲斐がありましたね。大輝先輩のカーディガン姿もかっこいいですよ」
「ありがとう。……少し早めに会えたな。最初に来る電車に乗ると、一紗とは電車で合流できないかもしれないな」
「そうだね。まあ、萩窪駅は途中の駅だから、その電車に乗って萩窪駅のホームで一紗ちゃんを待つのも一つの手だけど」
「文香先輩の案もありですね。とりあえず、グループトークにあたし達は集まったとメッセージを送りましょうか?」
「そうだな」

 そう思って、カーディガンのポケットからスマホを取り出したときだった。
 ――プルルッ。
 と、スマホが鳴る。俺だけでなくサクラと杏奈のスマホも鳴っている。ということは、一紗からグループトークにメッセージが送られたのかな。
 確認してみると、予想通り、LIMEの4人のグループトークに一紗からメッセージが入っていた。

『萩窪駅に着いたわ。3人が集まったら、電車に乗って。そのときに、四鷹駅の発車時刻とどこに乗ったのかを教えてくれるかしら。でも、萩窪駅は特快列車が止まらないから、そこは注意してね。電車の中で会いましょう』

 というメッセージが一紗から送られてきた。
 四鷹駅は複数の路線が乗り入れており、これから乗るのは東京中央線快速という路線だ。この路線は快速と特快列車の種別がある。四鷹駅と琴宿駅はどちらの路線も停車するけど、萩窪駅は快速電車しか停車しないのだ。

「一紗ちゃん、駅に着いたんだね」
「じゃあ、もう電車に乗っても大丈夫ですね」
「そうだな」

 俺達は了解の旨のメッセージを送り、都心方面に行く電車のホームへと向かう。あと3分で快速電車が到着する。
 座れる可能性が高く、琴宿駅で降りたとき、映画館に近い出口へ行きやすいという杏奈の勧めで、先頭車両で待つことに。これから映画を見に行くからか、2人は楽しげな様子。
 そして、定刻通りに快速電車が四鷹駅に到着する。
 四鷹駅で降車する人も多いからか、乗車すると車内は結構空いている。席も空いており、乗った出入り口の近くに、3席連続で空いている席があった。
 どこに座ろうか迷ったけど、サクラの指示で、俺はサクラと杏奈の間に座ることになった。空席の両隣には女性が座っているからなのだろうか。
 電車が発車してすぐに、俺がグループトークに四鷹駅の発車時刻と乗った車両が1号車であること、座っている席に近い扉の位置をメッセージで送った。グループトークを見ていたのか、一紗からすぐに『分かった』と返信が届いた。

「これで大丈夫だな」
「そうだね。萩窪駅は……2つ先で、7分で到着なんだ。近いね」
「ですね。今のように空いているときに乗る7分はあっという間でしょうけど、満員電車の7分はとても長そうですよね」
「分かるかも。7分でも疲れちゃいそう」
「電車に10分乗る友達がいますけど、慣れていないのか、毎朝疲れた表情をしてますね」
「慣れはあるかもな」

 高1のときに仲良くなった電車通学の友達も、4月の間は毎朝疲れた様子だった。
 一紗は……出会ったのがつい最近なのもあってか、朝、疲れているところは見たことがないな。やはり、満員電車に慣れたのだろうか。小泉さんはテニス部の朝練の後に教室に来るけど、小泉さんはいつも元気そうだ。

「高校に入っても通学は徒歩だから、電車に乗るとちょっとワクワクしちゃう」
「あたしもです。電車に乗るときは、どこかへ遊び行くときくらいですから。大輝先輩はどうですか?」
「俺も2人の気持ちが分かるよ。いつとは違う時間を過ごすんだって、気持ちが高まってくる。高校生に入ってから電車に乗ったのは、映画を観に行くときと、羽柴達と一緒にアニメのイベントや同人誌即売会へ行ったときくらいだし」

 あとは、和奏姉さんの通う大学の学祭に行ったときにも乗ったか。

「先輩らしいですね。アニメイクを含めて、四鷹駅周辺にお店が揃っていますから、電車に乗る機会ってあまりないですよね」
「そうだな。高校で出会った友人とも、四鷹駅の周りで遊ぶことが多かったし」
「私もそうだね。青葉ちゃんと遊ぶときも、四鷹駅で会って、駅近くのお店に行くことが多いな。杏奈ちゃんの言うとおり、お店は多いし、定期券があるから交通費のことを考えなくていいからね」

 確かに、交通費は大きいな。
 それからも、電車に関わる話題で盛り上がる。だからか、あっという間に萩窪駅に到着した。
 一紗に連絡したこともあり、停車する際に萩窪駅のホームに立っている一紗の姿が確認できた。一紗も俺達の姿を見つけられたからか、こちらに向かって手を振ってきた。
 扉が開き、車内にいるお客さんが降車した後、紺色のロングスカートにベージュのVネックのニット縦セーター姿の一紗が乗車してくる。だからか、男女問わず、周囲にいる大客さんの多くが一紗のことを見てくる。

「みんな、おはよう。3人とちゃんと会えて良かったわ」
「そうだね、一紗ちゃん」
「大輝先輩が場所を教えましたけど、会えると安心しますよね」
「一紗と会えたから、4人みんなで映画館に行けるな。一紗、俺が座っていた場所で良ければ座ってくれ」
「ありがとう!」

 一紗は嬉しそうな様子で、俺と入れ替わるようにして席に座る。
 俺は一紗の目の前で向かい合うようにして立つ。つり革を掴んでから程なくして発車した。
 それにしても、こうして3人を見てみると、みんな可愛くて美人だな。3人並ぶととても華やかな雰囲気になる。

「みんな。私の服装はどうかしら?」
「可愛いし、綺麗だよ。凄く一紗ちゃんらしいなって思う」
「大人っぽい雰囲気がありますよね」
「よく似合っていると思うよ」
「ありがとう、嬉しいわ。みんなの服もよく似合っているわ」

 ふふっ、と上品に笑う姿は高校生とは思えない大人っぽさと艶っぽさがある。和奏姉さんと一緒に大学にいても、きっと在学中の学生に思われるんじゃないだろうか。

「あぁ、お尻から大輝君の温もりを感じるわ。……興奮してきた」
「一紗、ここは電車だぞ」

 何を考えて興奮しているのか察し、注意できてしまった。だから、何とも言えない気分に。
 ふふっ、と一紗は上品に笑う。

「あら、ごめんなさい。……目の前には大好きな大輝君。両隣には可愛い文香さんと杏奈さん。幸せな気持ちでいっぱいだわ」

 言葉通りの幸せそうな表情をして、一紗は両隣にいるサクラと杏奈の手をそっと掴む。そんな一紗にサクラはもちろんのこと、杏奈も優しげな笑みを浮かべている。
 バイト初日のお持ち帰り発言のせいで、出会った直後は杏奈と一紗の間にちょっと距離があったように思えた。だけど、あのときに比べると縮まったように見える。
 萩窪駅から琴宿駅まではおよそ10分間。萩窪駅まで話していた電車関連の話や、これから観る『名探偵クリス』などのことについて楽しく話すのであった。
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