高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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本編

第22話『スイーツ部に来ませんか?』

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『今日もバイトお疲れ様。低変人さん』
『ありがとうございます』

 夜。入浴後に桐花さんとチャットする。
 高嶺さんのおかげで、この週末は今までとは違う時間を過ごした。それも良かったけど、桐花さんと話すといつもの時間を過ごしているのだと思えて安心する。

『連休が明けて初めての週末なのに、2日ともバイトだなんて。よく働くね』
『先輩方や店長もいい方ですし、結構楽しいので。知り合いも来てくれますから』
『そうなんだ。知り合いって……例の女の子も?』
『ええ。彼女は2日とも来てくれました』
『……相当好きなんだね。低変人さんのこと』

 やっぱり、桐花さんもそう思うか。今日のバイトの休憩中にも、中野先輩から「高嶺ちゃんに凄く愛されてるねぇ」って言われたし。
 あと、将野さんという嫌な方の知り合いも来てしまったけど。ただ、店長が出禁と伝えたし、しばらくの間はムーンバックスに来ることはないだろう。

『勉強とか読書とか、彼女にとって充実した時間を送れたそうですし、こちらとしても売上に繋がっているのでいいかなと。桐花さんはこの週末はどうでしたか?』
『楽しい週末だったよ! 『鬼刈剣』のアニメが土曜日の夜に放送されているし。2クール放送するから、9月末までは毎週末楽しくなると思う!』
『それは良かったですね』

 そういえば、桐花さんも前に『鬼刈剣』が好きだと言っていたな。本当に人気なんだなぁ。今の時点でこの人気だと、アニメが終わった後には社会現象になっているんじゃないだろうか。

『あと、今日は母の日だから、お母さんにスイーツをプレゼントしたの』
『桐花さんもですか。俺もスイーツを母親にプレゼントしました』

 桐花さんも母の日のプレゼントにスイーツをあげたのか。定番なのかな。 
 高嶺さんの家から帰る途中に、俺はムーンバックスでマカロンを購入した。
 母さんにプレゼントしたらとても喜んでくれ、夕食後のデザートとしてさっそく食べていたな。ちなみに、芹花姉さんはバイトがなかったので、抹茶ムースを作ってプレゼントしていた。

『低変人さんらしいね。低変人さんもスイーツ好きだもんね』
『桐花さんこそ』

 お互いにスイーツ好きなのもあって、これまでにスイーツについて話したことは何度もある。

『明日からはまた学校だね。来週はまた5日間だし、中間試験も近いから気が重くなるなぁ』
『ですね。お互いに頑張りましょう。夜になったらこうして話しましょう』
『そうだね。じゃあ、また明日ね!』
『はい。おやすみなさい』
『おやすみ~』

 そのメッセージの直後に、桐花さんのアイコンがオフライン状態になる。
 火曜日には中間試験1週間前になる。そろそろ、中間試験に向けて勉強していかないと。今のところ、授業の内容は難しくないけど、油断していたら痛い目に遭いそうだ。
 俺はパソコンをシャットダウンして、すぐに眠るのであった。



 5月13日、月曜日。
 週の始まりである月曜日は気怠い日が多い。だけど、今日は高嶺さんと伊集院さんの存在もあって、今までに比べると気持ちが軽かった。
 午前中の授業があっという間に過ぎていき、昼休みに。今日も高嶺さんと伊集院さんが俺の席にやってくる。窓側の一番後ろだからかもしれないけど、これが定番になってきたな。

「じゃあ、さっそく食べようか。いただきます!」
「そうですね。いただきます」
「……いただきます」

 まさか、クラスメイトの女子生徒2人と一緒に昼ご飯を食べるようになるとは。連休明けには想像できなかったことだ。
 話題は週末のことだけど、毎週土曜日の夜にアニメが放送されたり、伊集院さんが原作漫画を読んだりしていることから、最も盛り上がったのは『鬼刈剣』についてだった。伊集院さんはこの週末で更にハマったそうで、土曜日放送のアニメと、来月に発売される原作漫画の新刊が待ち遠しいという。

「そうだ、話は変わるんだけど。悠真君、今日の放課後って予定は空いてるかな?」

 高嶺さんはワクワクとした様子でそんなことを訊いてくる。

「バイトもないし予定は空いてるけど。どこか遊びに行きたいところがあるのか?」
「ううん。ただ、今日の放課後にスイーツ部の活動があるから、悠真君を誘いたいなって思って。悠真君は甘い物は好き?」
「好きな方だぞ。この前のタピオカミルクティーみたいに、凄く甘いのは一口で十分だけど」
「そうなんだ。じゃあ、スイーツ部に来てみませんか? もちろん、見学って意味で」
「いい考えなのですよ、結衣。来週は定期試験で部活動がないのですからね。仮入部や大々的な勧誘期間は終わりなのですが、スイーツ部は年中部員を募集しているのです」

 つまり、今の時期に俺が行っても不自然ではないのか。俺は1年生だし。
 そういえば、高嶺さんは伊集院さんとスイーツ部に入っているって言っていたな。あと、華頂さんもスイーツ部にいるか。

「どうかな、悠真君。あと、スイーツ部は女子生徒しかいないから、空気的に居づらいかもしれないけど」
「高嶺さんと伊集院さんが一緒だから大丈夫だよ。あとは、華頂さんっていう知り合いもいるし。それに、俺には姉がいて、小さい頃は姉と姉の友達との遊びに付き合わされたからさ。女子ばかりいる場には慣れているし、女子の方が男子よりも話しやすいから」
「なるほど。じゃあ、大丈夫そうだね」
「ですね。それに、顧問は杏樹先生なのですよ」
「……そうなのか」

 福王寺先生、スイーツ部の顧問だったのか。家庭科の先生でもないのに。ただ、思い返してみると、入学時のオリエンテーションで、福王寺先生がスイーツ部云々と言っていたような気が。
 この前もそうだったけど、福王寺先生はムーンバックスに来るとドリンクの他にスイーツを頼むことが多い。
 そういえば、土曜日に高嶺さんは福王寺先生と楽しく喋っていたな。それは担任だけじゃなく、入部しているスイーツ部の顧問でもあるからなんだろうな。
 福王寺先生がスイーツ好きなのは分かったけど、先生がスイーツ作りを教えるイメージが湧かない。

「悠真君。じゃあ、今日の放課後は一緒に部活へ行くってことでいいかな?」
「ああ。一緒に行くよ。ちなみに、今日作るスイーツって何なんだ?」
「白玉ぜんざいだよ。新茶の季節だし、新茶と一緒にいただこうって」
「そうなのか」

 和風のスイーツもいいよな。コンビニなどでたまに買うことがある。思い返すと、そういったときは、日本茶や麦茶と一緒に食べることが多いな。

「結衣。今日の部活に低田君が来るのを福王寺先生に伝えた方がいいでしょうか?」
「伝えた方が良さそうだね。じゃあ、私からLIMEで伝えるよ」
「よろしくなのです」

 俺がスイーツ部の活動に来ることを知ったら、福王寺先生はどうなるだろうな。まあ、授業やホームルームのときはクールだから、部活動でも変わりないか。仕事中だし。

「先生にメッセージを送ったら、すぐに『分かった』って返信来たよ」
「そうなのですか。何だか杏樹先生らしいのです」
「そうだね。じゃあ、放課後には一緒に部活へ行こうね」
「ああ」

 高校生になったら部活に入ろうとは全然思わなかったけど、一度くらいは部活見学するのもいいだろう。白玉ぜんざいも好きだし。
 ――プルルッ。
 スマホが鳴ったので確認すると、福王寺先生からLIMEでメッセージが届いていた。

『低変人様がスイーツ部にご降臨されるとは! 今日の部活は気合いを入れるね! 放課後を楽しみにしております!』
「ははっ」

 ご降臨って。俺は神様じゃないんだから。せいぜい来訪じゃないだろうか。思わず笑ってしまった。

「どうしたの、悠真君。スマホを見ながら笑って」
「えっ? ああ……実は俺も福王寺先生と連絡先を交換してて。俺、何度も呼び出されているし。俺にもすぐに『今日はよろしく』ってメッセージが来たことが微笑ましくてさ」
「そうなんだね」

 何度も進路指導室に呼び出されたことが初めて有効活用できた気がする。

『今日の放課後はスイーツ部にお邪魔しますね。ただ、そのような反応をするのに、今まで一度もスイーツ部に誘わなかったのはどうしてですか?』

 福王寺先生からして、スイーツ部にしつこく誘ってきそうなのに。
 ――プルルッ。
 福王寺先生からすぐに返信が届いた。

『確かに、スイーツ部に入部してくれたらこの上なく嬉しいよ。低変人様の側にいられるし。ただ、低変人様にも放課後の過ごし方があると思って。作曲活動はもちろんのこと、ムーンバックスでのバイトもあるし。そこに、私のわがままで部活に誘うのはいけないかなと思って。もちろん、低変人様がスイーツ部に入りたいと思って、入部を決めた際にはしっかりと歓迎するからね!』

 こんなにもたくさんの文量をこの短時間で打ち込むとは。
 作曲活動だけでなく、バイトもしている俺を考えてくれているからこそ、スイーツ部に勧誘しなかったのか。私情もあるから。それも先生らしい気がする。

『そうだったんですね。教えてくれてありがとうございます。今日の放課後はよろしくお願いします』

 俺がそう返信を送ると、福王寺先生から『了解!』という敬礼する白い猫のスタンプが送られてきた。本当に教室でのクールな先生とかけ離れているな。

「うわあっ、可愛い猫ちゃんスタンプ!」
「おっと、人のスマホを勝手に覗いちゃダメだぞ」

 俺は素早くスマホの画面を消して、制服のポケットの中に入れる。ここで福王寺先生とメッセージのやり取りをするのはまずかったな。

「ごめんなさい。ところで、今の猫ちゃんスタンプって杏樹先生が送ってくれたの?」
「ああ。放課後はよろしくお願いしますって返信したら、あんなスタンプが送られてきたんだ」
「へえ、そうなんだ。先生って意外と可愛いもの好きなのかな」
「学校や職場でクールな人の自宅には可愛いものがたくさんあるパターン、漫画やアニメにもあるのです。杏樹先生がもしそうなら、凄く可愛いと思うのですっ!」
「そうだねっ!」

 高嶺さんと伊集院さんは盛り上がっている。俺と2人きりのときの先生を考えれば、家に可愛らしいものがある可能性は十分にありそうだ。
 猫スタンプのおかげか、どうやら福王寺先生からのメッセージの中にある『低変人様』の文字を高嶺さんに見られずに済んだようだ。そのことに安心するのであった。
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