高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

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本編

第25話『とても甘い理由』

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「出来上がり!」
「美味しそうにできたのです!」
「そうだね、結衣ちゃん、姫奈ちゃん。甘くていい匂い」

 それから、特に失敗やトラブルもなく、高嶺さん達の班は白玉ぜんざいが完成した。3人とも嬉しそうな笑みを浮かべている。
 俺の分の白玉ぜんざいは高嶺さんによそってもらった。とても美味しそうにできている。
 俺がしたのは団子を丸くすることだけだったけど、少しは役に立てたようで良かった。

「高嶺さん達の班も完成したのね。……美味しそう。団子の形も良くて、見た目もいいわ」

 気付けば、福王寺先生がこちらのテーブルにやってきていた。

「ありがとうございます。一口いかがですか? 食べさせてあげますよ」
「いただくわ、高嶺さん」

 そのとき、福王寺先生は俺の方をチラッと見た。俺に食べさせてほしかったのかな。2人きりのときならまだしも、高嶺さん達がいる前ではさすがにできない。

「は~い、杏樹先生。白玉ぜんざいですよ。あ~ん」
「あ~ん」

 福王寺先生は高嶺さんに白玉ぜんざいを一口食べさせてもらう。その瞬間、周りから黄色い声が。家庭科室の中を見渡すと、好奇の視線で2人を見る女子部員が何人もいて。2人とも女子から人気があるからなぁ。
 あと、「カシャッ」というシャッター音が聞こえた。周りを見てみると、伊集院さんがスマホで2人のことを撮っていた。高嶺さんならともかく、伊集院さんがこういうことをするとは意外だ。その横で、華頂さんが楽しそうに笑う。

「とても美味しくできているわ」
「良かったです」
「白玉ぜんざいはこれでいいとして……今の私の写真を不用意にばらまいたり、ネット上にアップしたりしたらダメよ、伊集院さん」
「あら、バレていたのですか。分かったのです」
「とても可愛かったですよ、杏樹先生」
「……そう」

 頬をほんのりと赤くした福王寺先生は俺達のテーブルから離れた。さっき、メッセージに書いてあったように、華頂さん達に可愛いと言われて照れくさいのだろう。
 また、福王寺先生は別のテーブルに行き、そこでも味見をしていた。毎度、ああいう形で、部活で作ったスイーツを食べているのかな。
 華頂さんが4人分の新茶を淹れてくれる。

「お茶も行き渡ったし、白玉ぜんざいを食べようか!」
「そうですね!」
「あたし、あんこの甘い匂いがしてからずっとお腹が空いてるよ」
「俺もお腹空いたな」
「杏樹先生のお墨付きだからとても美味しいと思うよ! じゃあ、いただきます!」
『いただきます』

 俺は高嶺さんの隣に座り、3人が作ってくれた白玉ぜんざいをいただく。
 お団子がもちもちして美味しいな。あんこの優しい甘さで今日の疲れが取れていく。華頂さんの淹れてくれた日本茶も美味しい。和風スイーツには温かい日本茶が一番合うかもしれない。

「う~ん、美味しい!」
「時には和風スイーツもいいものですね! とても美味しいのです!」
「上手に作れて良かった。福王寺先生の買ってきてくれた新茶も美味しいね」
「そうだね。茶葉もいいけど、胡桃ちゃんの淹れ方が上手なんだと思うよ」
「そうかな? ……そうだったら嬉しいな」

 ふふっ、と俺の正面に座る華頂さんは笑って、俺のことをチラッと見た。俺と目が合うと、華頂さんはすぐに視線を逸らして、白玉ぜんざいを食べる。

「ぜんざいも美味しいし、華頂さんの淹れてくれた日本茶も美味しいよ」
「良かった。ぜんざい美味しくできてて」
「日本茶も美味しく淹れられて良かったよ」
「良かったね、胡桃ちゃん。……あと、少し大きめの団子があるけど、きっと悠真君が丸くしたんだろうね」
「マジか。ゆで加減にばらつきが出ないように、大きさには気を付けたんだけどな」
「ふふっ。でも、その大きめの団子ももちもちして美味しかったよ。2人はどう?」
「あたしは気にならなかったのです。どのお団子ももちもちしていたのですよ」
「あたしも。手作りだし、多少大きさが違うのはご愛嬌ってことでいいんじゃないかな」

 華頂さんはそう言うと、今度は俺の目を見ながら微笑んでくれた。みんな美味しいって言ってくれて安心した。

「ほら、悠真君。この団子、他よりも大きめだよ。はい、食べてさせてあげる!」

 そう言う高嶺さんが持っているスプーンには、白玉団子が一つ掬われている。こういう展開もあるんじゃないかって、昼休みに誘われたときに考えていたよ。スイーツ部員達がいるし断りたいけど……そんなにニコニコされたら、断ることなんてできないじゃないか。

「分かった。だけど、一度だけだぞ」
「ありがとう! はい、あ~ん」
「……あーん」

 高嶺さんに白玉ぜんざいを食べさせてもらう。その瞬間、周りから黄色い声やシャッター音が聞こえた。さっきよりも黄色い声のボリュームが上がったような。

「どうかな、悠真君」
「……うん。大きめの団子だけど、もちもちしていて美味しい」

 あと、さっき自分で食べたときよりもかなり甘く感じる。そういえば、

「伊集院さん。また高嶺さんが食べさせるところを撮ったんだな」
「ええ。今度の相手は低田君ですから。結衣、送っておくのですよ」
「ありがとう!」

 えへへっ、と高嶺さんはとても柔らかい笑みを浮かべている。伊集院さんも楽しそう。もしかして、事前に食べさせるときは写真撮ろうと打ち合わせをしていたのかな。
 華頂さんは今の高嶺さんの行動を見てドキドキしたのか、頬を真っ赤にして、こちらをチラチラ見ながら日本茶をすすっていた。
 そういえば、高嶺さんのスプーンでさっき、福王寺先生にもぜんざいを一口食べさせていたよな。ということは、高嶺さんだけじゃなくて、先生とも間接キスしたことになるのか。
 教卓の方を見てみると、福王寺先生は右手を口に当て、うっとりとした様子でこちらを見ていた。今の先生にはクールさの欠片もないな。
 間接キスをしてしまったものはしょうがない。そう思って、残りの白玉ぜんざいを食べようとしたときだった。
 ――プルルッ。
 スマホが鳴ったので確認すると、案の定、福王寺先生からメッセージが届いていた。

『夢かもしれないけど、低変人様と間接キスしちゃった! 今日という日を一生忘れません!』

 福王寺先生にとって、間接キスの衝撃がどれだけ凄かったのかが伺える。

『現実ですよ。俺も食べさせられた後に気付きました。すみません』

 と返信を送っておいた。
 そして、それか10秒も経たないうちに、再び福王寺先生から返信が届き、

『気にしないで。相手は低変人様だから、全く嫌ではありません!』

 間接キスをしたのが嫌じゃないと分かって一安心。むしろ、喜んでいそうな気もするけど。あまり考えないでおこう。
 その後、自分の残りの白玉ぜんざいを食べる。高嶺さんに食べさせてもらったときよりも甘さが控え目な感じがした。


 部活動が終わって、俺は高嶺さん、伊集院さん、華頂さんと一緒に校舎を後にする。陽がだいぶ長くなったとはいえ、午後6時を過ぎると結構暗くなるんだな。この時間に学校を出るのは初めてなので新鮮だ。

「今日の白玉ぜんざい美味しかったー!」
「美味しかったね、結衣ちゃん。たまには和風もいいよね」
「胡桃の言う通りなのです。定期的に和風のスイーツを作ってみたいのです」

 みんな、今日の白玉ぜんざいに満足したようだ。

「悠真君はどうだった?」
「美味しかった。甘いものを食べたから、週明けの学校の疲れが取れたよ」
「ふふっ、そっか。……今日の活動を見ていて、スイーツ部はどうだったかな? もし、入部をしてくれたら嬉しいんだけど」

 高嶺さんにそう言われたのが、ちょうど校門を出たときだったので、俺はその場で立ち止まった。3人も俺の近くで立ち止まり、こちらを見てくる。

「スイーツ部もいいとは思ったけど、俺はムーンバックスでバイトして、シフトのない日は漫画やラノベを読んだり、ギターを弾いたりして好きなことをしたいなって思った。誘ってもらったのにごめん」

 俺は3人に向かって頭を下げる。
 高校生になって1ヶ月以上経ち、放課後にはバイトをするか、そうでない日は低変人の活動を含め、自分の好きなことをして過ごす日常に慣れてきた。
 甘いものも好きだし、スイーツ部に魅力を感じる部分はある。でも、スイーツを作って食べるのは自宅でできるので、入部したいとまでは思わなかった。

「分かった。悠真君の決断を尊重するよ。ただ、活動のある火曜日にバイトがなかったら遊びに来てくれていいからね。そのときは私達に言ってね」
「分かった。今日は楽しかったよ。誘ってくれてありがとう」
「いえいえ。こちらこそありがとう。楽しかったよ」
「あたしも楽しかったのですよ。低田君に楽しいと言ってもらえて嬉しいのです」
「2人の言う通りだね」

 3人とも笑顔でそう言ってくれて良かった。
 高嶺さんの言うように、今日みたいにスイーツ部の活動日にシフトが入っていなかったら、たまに遊びに行くのはいいかもしれない。

「じゃあ、今日はここでお別れしようか。悠真君と胡桃ちゃんは同じ中学出身だし、帰る方向も同じだよね」
「そうだな。途中まで一緒か」
「そ、そうだね。……あっ、そうだ。お母さんに帰りに買ってきてって言われたものがあったんだった。じゃあ、3人ともまたね!」

 華頂さんは苦笑いをしながら俺達に手を振って、武蔵金井駅の方へ走り出していった。華頂さんの後ろ姿を見ると、ちょっと寂しかったけど気持ちも軽くなった。

「悠真君。1人で帰ることになって寂しくない?」
「大丈夫だ。1人で帰るのは慣れているし。気持ちだけ受け取っておくよ。2人とも、また明日」

 高嶺さんと伊集院さんに手を振って、俺は1人で家に向かって歩き出す。そのときに吹いた風は、夏はまだまだ先だと思わせる肌寒いものだった。
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