高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
91 / 279
特別編2

前編

しおりを挟む
特別編2



 6月17日、月曜日。
 梅雨に突入してから10日ほどが経った。
 今日も朝から雨がシトシトと降っている。ただ、空気はジメジメとしておらず肌寒く感じる。授業中に窓を少し開けていたけど、外から入ってくる空気がひんやりとして寒かったから、午前中の間に窓を閉めてしまったほどだ。
 俺・低田悠真ひくたゆうまは今日の授業中に何度か空模様を見たけど、ずっとどんよりとした曇り空だった。

「では、これで終礼を終わります。また明日。週が変わり、掃除当番も変わったので当番の生徒は忘れずに」

 1年2組の担任・福王寺杏樹ふくおうじあんじゅ先生がそう言い、今日の日程が終了した。部活のある生徒を中心にさっそく教室を出て行く。
 個人的には月曜日が終わると、それだけで週末にだいぶ近づいた感じがする。先週担当した掃除当番も交代なので、いつも以上に開放感がある。今日はムーンバックスという喫茶店でのバイトもないし。

「悠真君。廊下で姫奈ちゃんを待っていようか」
「そうだな」
「すみません。あたしのために待っていただいて」
「気にしないで。掃除当番は定期的に回ってくるんだから」

 俺の恋人・高嶺結衣たかねゆいは、親友の伊集院姫奈いじゅういんひなさんの頭を優しく撫でる。
 うちのクラスの掃除当番は出席番号順によって決められた班で、週単位で変わる。今週は伊集院さんのいる班が掃除当番だ。ちなみに、先週は俺のいる班が当番だった。

「姫奈ちゃん。悠真君と一緒に廊下で待ってるね」
「分かったのです」

 俺は結衣と一緒に教室を出て、廊下の窓側で伊集院さんを待つことに。
 どうして、俺達は伊集院さんを待っているのか。実は、午前中にあった英語や数学の授業で課題が出たため、放課後に俺の家で一緒に課題をすることになったのだ。伊集院さんは英語が苦手な方なので、俺達に分からないところを教えてほしいという。昼休みにお昼ご飯を食べたときに決めた。

「あっ、結衣ちゃんとゆう君。今日もお疲れ様」

 隣の1年3組からバッグを持って姿を現した、俺達の友人の華頂胡桃かちょうくるみがこちらにやってくる。俺達と目が合うと、胡桃は持ち前の優しい笑みを浮かべながら手を振ってきた。
 胡桃もお昼ご飯を一緒に食べている。胡桃も今日は本屋でのバイトはなく、俺達とは別の教科だけど課題が出たので、放課後に一緒に課題をすることになっているのだ。

「2人がここにいるってことは、姫奈ちゃんを待っているの?」
「うん! 姫奈ちゃん、今週は掃除当番があるから」
「そうだったんだ。じゃあ、ここで待つのがいいね」

 胡桃は俺の隣に立つ。そのことでよりいい匂いに包まれる。
 こうやって結衣と胡桃に挟まれると、先月、3人で『ひまわりと綾瀬さん。』というアニメーション作品を劇場まで観に行ったときのことを思い出すな。

「ねえ、悠真君、胡桃ちゃん。こうして並んでいると、3人で花宮まで映画を観に行ったことを思い出すね」
「あたしも同じことを思ってたよ。映画館の座席もそうだったけど、花宮まで行く電車の席も3人で並んだよね」
「2人とも思い出していたのか。また3人で……いや、伊集院さんを含めて4人で映画を観に行きたいよな」
「そうだね! 悠真君!」

 楽しげな様子で言う結衣。
 結衣と2人きりで映画を観に行きたい気持ちもあるけれど、先日のこともあってか、胡桃や伊集院さんと一緒に行きたい気持ちもあるのだ。

「でも、個室を借りて、悠真君と2人きりになって、悠真君とイチャイチャしながら観る映画もありかも……」

 えへへっ、と頬を赤くしながら笑う結衣。そんな結衣を見て、胡桃は口を押さえながら笑う。

「結衣ちゃんらしいね。ただ、イチャイチャしちゃうと、映画を観るよりもそっちがメインになっちゃうんじゃない?」
「胡桃の言う通りだな」

 結衣のことだから、キスシーンのときにはキスを、ベッドシーンのときにはそれよりも先のことをしてきそう。「4D映画疑似体験だよ!」とか言いそうだ。
 ただ、個室でも、監視カメラで従業員には中の様子が見えると思われる。キスならまだしも、それよりも先のことをしたら即出禁処分になってしまいそうだ。
 それから15分ほどで、掃除が終わった伊集院さんがやってきた。3人で映画などの話をしていたから、伊集院さんを待っている時間があっという間に感じられた。
 校舎を出ると、登校したときと同じように雨がシトシトと降っている。今日みたいに天候が悪いと、徒歩数分で通学できる学校で良かったと強く思う。
 途中のコンビニでお菓子を買い、俺達は4人で自宅に帰る。飲み物については俺が家でアイスティーを作ることになった。

「ただいま」

 結衣と胡桃、伊集院さんと一緒に家の中に入ると、リビングから母さんが姿を現す。

「悠真、おかえり。あら、3人ともいらっしゃい」
「お邪魔します!」
「お邪魔いたします」
「こんにちは、お邪魔します」
「3人と一緒に課題をやることになったんだ」
「あら、そうなの」
「悠真君。バッグ、部屋まで運んであげるよ。だから、悠真君はアイスティーを作ってくれるかな」
「それは助かる。じゃあ、バッグの方はお願いするよ」
「はーい」

 俺はスクールバッグを結衣に渡す。3人が2階へ上がっていくのを確認し、アイスティーを作るためにキッチンへ向かう。

「そういえば、悠真。お昼前にこれが届いたわ」

 母さんから緑色の封筒をもらう。その封筒にははっきりと『都民税・市民税』と書かれていた。『納税通知書在中』とも書かれている。今年もこの季節が来たんだな。
 俺は『低変人ていへんじん』として動画サイトで楽曲を公開している。YuTubuというサイトからは、広告収入という形でお金をもらっている。その収入にかかる税金のうちの2つである都民税と市民税についての通知が来たのだ。
 一昨年と比べ、去年はかなり再生され、広告収入もかなり多くなったから、それに伴って払う税金も多くなっているだろう。そんなことにため息をつきながら、封筒をズボンのポケットに入れた。

「ありがとう、母さん」
「いえいえ。子供宛にそういうものが来ると、お母さん歳を取ったなって思うわ」
「こういうのは大人が払うイメージがあるもんな」

 俺も低変人の活動を行なう前はそう思っていた。
 ただ、低変人の楽曲をネット上で公開し、広告収入をもらうことにした際、父さんから「お金のことはしっかりしないといけない」とアドバイスされた。そして、いい機会だからと家族全員で収入や税金、確定申告関連のことを勉強したのだ。その甲斐もあってか、低変人の活動を始めてから毎年申告しているが、直前に慌ててしまったり、提出書類に不備があったりしたといった問題は起きていない。
 そういえば、俺が低変人の活動で収入を得ていると福王寺先生に伝えたとき、

「お金関連のことは大丈夫? 低変人様ほど再生回数が多いと、税金を払わないといけないかも。もし、そういったことを勉強していないなら、先生と一緒にお勉強しよう!」

 と張り切って言われたっけ。家族と一緒に勉強しているから大丈夫だと言ったら、結構がっかりされたな。なので、お気持ちは嬉しいとか、何かあったときは相談すると言ったら凄く嬉しそうにしていたっけ。

「低変人の人気が拡大し続けているから、今回はさらに支払う税金が多くなっていそう」
「……申告するときに、市のホームページのシミュレーションで目安を計算したら、かなり多くなってたよ」

 一昨年と比べて、新曲中心に再生回数の伸びがかなり良くなったからな。実際に広告収入もかなり増えたし。
 そういえば、ネットには『低変人は1年にどれだけ稼いでいるのか?』というブログ記事がいくつもあったな。正解に近い予想記事はあまりなかった。

「悠真はそんなにたくさんお金を使っていないだろうし、ムーンバックスのバイトもしているから、大丈夫だとは思うけど」
「お金のことで信頼してくれて嬉しいよ。大丈夫だ」

 稼いだお金の多くは貯金しているし。
 4人分のアイスティーを作って、2階にある自分の部屋に行くのであった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...