高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ

文字の大きさ
92 / 279
特別編2

後編

しおりを挟む
 自分の部屋に行くと、結衣と胡桃、伊集院さんはローテーブルの上に課題を出しているものの、まだ取り組んではいなかった。俺を待っていてくれたのかな。

「お待たせ。アイスティーを淹れたよ。コンビニで甘いお菓子をたくさん買ったから無糖にした」
「確かに、このラインナップなら無糖が一番いいと思うのです」
「さすがは悠真君!」
「ゆう君、ありがとう」

 俺は3人それぞれの前と、1つ空いているクッションの前にアイスティーを置いた。ちなみに、俺が座る予定のクッションから時計回りに胡桃、伊集院さん、結衣という並びで座っている。
 カップを乗せていたトレーを置こうと勉強机の方を見ると、そこには俺のスクールバッグが置かれていた。

「結衣。バッグを運んでくれてありがとう」
「いえいえ。……ところで、さっきから気になっていたんだけど、スラックスのポケットに入っている緑色の封筒ってなに?」
「あたしも気になっていたのです」
「さっきまではなかったもんね」

 スラックスのポケットを見てみると……あっ、税金の封筒がポケットからはみ出ている。だから、3人とも気になったのか。
 お金絡みだけど、みんな低変人の活動を知っているし、ざっくりとなら話しても大丈夫かな。

「この封筒に都民税と市民税の納付通知書が入っているんだ。俺は低変人として動画サイトに楽曲を公開しているけど、YuTubuの方で広告収入を得ているからさ。まあ、その……それなりに収入があるから、ちゃんと税金も払わなきゃいけなくて」
「一定以上の収入があると、申告して税金などを払わないといけないのですよね?」
「ざっくり言えばそうだな」
「最近は新曲を公開すると、すぐに100万再生を突破するもんね。『道』とかは1億回突破してなかった?」
「ああ。一番人気の曲だし、1年半以上前に公開した作品だからな」

 1億回を突破した作品は代表曲と言える『道』という曲だけだけど、何千万回も再生された作品はいくつもある。

「今回の税金は、去年1年間の収入についてだけど、YuTubuで何十曲も公開しているからね。それを全て集計すると……かなり多く再生されて、収入も結構あるね」
「さすがは低変人さん!」
「カリスマ音楽家と言われるだけあるのです!」

 こういう税金を払う高校生は珍しいからなのか、結衣と伊集院さんは目を輝かせて俺を見てくる。そんな2人とは違って、胡桃は落ち着いた笑みを浮かべており、アイスティーを一口飲んでいる。

「さすがだよね、結衣ちゃん、姫奈ちゃん。そして、今年も税金の季節がやってきたね、低変人さん」
「そうだね。……桐花とうかさん」

 胡桃を『桐花さん』と言ったのには理由がある。
 実は、2年以上前から、低変人として胡桃とはネットを通じて交流があり、メッセンジャーを使ってよく会話をしているのだ。その際、胡桃は『桐花』というハンドルネームを使っているのだ。
 胡桃は俺が低変人なのは交流するときから知っていたけど、俺の方はつい最近まで『桐花=胡桃』だとは知らなかった。それが分かってからも、ネットでは低変人と桐花として交流を続けており、俺は桐花さんに対して今まで通り敬語で喋っている。
 思い返すと、交流し始めてから毎年、「納付書が来た」とか「確定申告した」という話をしていたな。毎年、確定申告については始まる直前の時期になると、桐花さんから「申告の準備は大丈夫?」と言われたっけ。

「そういえば、胡桃と低田君はネットでも何年もの付き合いがあるのでしたね」
「去年はどんな感じの反応をしていたの? 胡桃ちゃん」
「結構払うのかぁ、ってメッセージをくれたよ。だから、『税金を払うほど稼いでいるのは凄いし、偉いよ』って励ましたのを覚えてる。それに、正体は中学生のゆう君だって分かっていたからね。本当にゆう君は偉いなぁって思ったよ」
「そうなんだね! 今年も税金を払って偉いよ、悠真君!」

 明るい笑みを浮かべながらそう言うと、結衣はゆっくりと立ち上がり、俺を抱きしめてきて、頭を優しく撫でてくれる。胡桃と伊集院さんは拍手を送ってくれる。

「今年も偉いのですよ、低田君」
「ゆう君、偉いね!」
「……どうもありがとう」

 今の話で、一昨年も去年も桐花さんから『税金払って偉いよ!』と褒められたことを思い出した。ただ、こうして低変人の活動を知っている上で、面と向かって偉いと言われると凄く嬉しい気持ちになるな。褒めてくれる人達のうちの1人が、恋人の結衣だからかな。

「さてと、どのくらい払うのか確認するか……」

 俺がそう呟くと、結衣は素早く自分の座っていたクッションへと戻る。さすがに、納付通知書を見てはまずいと思ったのだろう。部屋の外で見ようと思ったけど、今の結衣の反応もあったので、部屋の端に行って見ることに。
 封筒を丁寧に開けて、納付通知書を見てみる。口座振替なので、納付する日付とその日に口座から差し引かれる金額が書いてある。

「……おぉ」

 差し引かれる金額を見て、思わず声を上げてしまった。市のホームページの税金シミュレーションで、どの程度の金額を支払うのかは分かっていた。それでも、実際に差し引かれる金額の数字を見ると胸にくるものがある。去年払った税金よりもかなり多いからかな。散財せず、貯金しておいて良かった。

「高校生からはなかなか聞くことのない唸り声が聞こえたね」
「ですね、結衣。あと、持っているのが納税通知書だと分かると、低田君が高校生のコスプレをした大人に見えてくるのですよ」
「ふふっ、姫奈ちゃんの言うことも分かるなぁ。一昨年や去年も、通知書を見たときはあんなリアクションをしていたのかなって思った」

 3人とも好きなことを言っているな。まあ、納付通知書を見て、こんな声を上げる高校生は全国でもあまりいないんじゃないだろうか。

「悠真君。その……大丈夫? 凄い声を上げていたけど。税金は払える?」
「大丈夫だよ。広告収入が増えたから、買う本やCDが増えたり、たまーに大好きなアニメのBlu-rayやBlu-ray BOXを買ったりするけど、納付に関しては問題ないよ。だから、安心して」

 去年と比べて、払う税金の額が倍以上になったけど。去年もそうだったけど、税金の通知書を見て低変人の人気が拡大や、関心を持ってくれる人が多くなっているんだって実感するな。
 これからも金銭関連はしっかりしないと。これからは結衣という恋人もいるんだし。結衣にお金の心配をさせたくない。

「低変人さんレベルになると、支払う額は凄そうなのです」
「まあ……はっきりは言わないけど、高校生にとってはかなり大きな額かな。これ以外にも所得税もあって、それを加えたらさらに大きくなるね。それでも、ちゃんと問題なく納付できるから安心して。有り難いことに、今もまとまった広告収入があるし、ムーンバックスでのバイト代も入ったからね」

 低変人の広告収入に比べると、バイト代は小さな額になってしまうけど。ただ、あくまでも、低変人は趣味でありマイペースに活動しているので、これからもムーンバックスのバイトを続けていくつもりだ。ようやく仕事にも慣れてきたし。

「じゃあ、悠真君。もしかして、確定申告ってやつをしたのかな?」
「もちろん、毎年してるよ。その時期が近くなると、胡桃が準備は大丈夫なのかって訊いてくれたよな」
「大切なことだからね」
「今年は高校受験の時期と被ったから、早い段階から準備したよ。収入は広告収入だけだし、経費になるものもあまりなかったから、受験に響くことはなかったけど」
「そうだったんだ。本当に悠真君は偉いね」
「ありがとう」

 低変人の活動はこれからも続ける予定だ。3年後に確定申告するときは大学受験と重なるから、そのときも早めに準備しないと。
 勉強机の金銭関連の引き出しに、納付通知書を入れる。
 テーブルの方に戻り、空いているクッションに腰を下ろす。
 さっき偉いと言っていたからか、再び結衣が俺の頭を撫でてくれて、今回はキスまでしてくれた。今年、確定申告をした自分に、高校生になったら恋人ができて、税金のことで褒められると教えてあげたいな。

「低変人として活動しているから納税も大事だけど、本業は高校生だから勉強が一番大事だ。さあ、みんなで頑張って課題を終わらせよう。たまにお菓子を食べながら」
「そうだね、悠真君! 頑張ろう!」
「英語については3人にたくさん訊いてしまうと思うのですが、頑張りましょう!」
「みんなで頑張ろうね!」

 それから、俺は結衣と胡桃、伊集院さんと一緒に課題を取り組んでいく。
 分からないところは助け合って。俺が言った通り、たまにはお菓子を食べて。だからか、時間はかかったけど、楽しみながら課題を終わらせられたのであった。



特別編2 おわり
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

処理中です...