管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ

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特別編2

中編

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 美優先輩と俺が着替え終わってすぐに、風花が101号室にやってきた。キュロットスカートにTシャツというラフな格好が可愛らしい。
 俺達4人はリビングの食卓で勉強会を始める。ちなみに、俺と風花、美優先輩と花柳先輩が隣同士で、俺の正面に美優先輩が座っている。
 俺は数学Ⅰの課題を取り組みながら、隣に座っている風花の分からないところを教えていく。
 たまに、美優先輩達の方を見ると、美優先輩が花柳先輩に勉強を教えているときもあった。ロングスカートにVネックの縦セーターという服装もあって、勉強を教える美優先輩がとても大人っぽく見える。家庭教師のバイトをしている女子大生のようだ。美優先輩の姿に癒やされながら勉強を進めていった。

「よし、終わった」
「お疲れ様。ねえ、由弦。最後の問題が難しいから教えてくれる?」
「分かった」

 これで何度目の質問だろう。でも、風花が頑張っているのは伝わってくるし、何も言わないでおくか。

「それで、この答えになるんだ」
「なるほどね! 教えてくれてありがとう! これで数Ⅰの課題終わったよ!」
「お疲れ様、風花ちゃん。あぁ、肩凝ってきた……」

 そう言って、両肩をゆっくりと回す美優先輩。先輩は胸が大きいので肩が凝りやすい体質なのだ。

「美優先輩。肩を揉みましょうか? 風花と俺は課題終わりましたし」
「ありがとう、由弦君。お願いします」

 俺は席から立ち上がり、美優先輩のところまで行き、先輩の両肩を揉み始める。

「あっ、気持ちいい……」
「良かったです。今回も結構凝っていますね」

 こうして美優先輩の肩を揉むことが、あけぼの荘に住み始めてからの習慣の一つになった。気持ちいいと言ってくれるので毎回嬉しくなる。
 ただ、肩凝りは美優先輩が抱える悩みの一つ。少しでも、マッサージ効果が長続きする揉み方を研究したいな。

「そういえば、今日は成実先生ってお休みだったんですよね」
「そうだよ、風花ちゃん」
「今日になって急に高熱が出たんだって。桐生君から風邪をもらったりしてね」
「……否定はできませんね」

 先週の金曜日、俺は風邪を引いてしまい、学校を休んだ。
 その日の夕方に、大宮先生は風花と霧嶋先生と一緒にお見舞いに来てくれた。そのときは既に俺の体調もだいぶ良くなっていたけど、そのときに大宮先生に風邪をうつしてしまった可能性は否めない。

「話は変わりますけど、美優先輩。由弦に肩を揉まれるときって、本当に気持ち良さそうにしていますよね。あたしは肩凝りってあまりしませんけど、もし肩が凝ったら由弦に頼もうかな」
「由弦君の肩揉みはとても気持ちがいいよ」
「……今まではあたしが美優の肩揉みを一番していたのにな。でも、こんなに気持ち良さそうな顔をさせられるのは桐生君だけだと思う。悔しいけど、完敗だわ」

 本当に悔しそうな様子で俺を見つめる花柳先輩。美優先輩の肩揉みのポジションを奪われたと思っているのだろう。

「由弦君の方が力はあるよ。でも、瑠衣ちゃんはこれまでたくさん揉んでくれたから、技術が凄いと思ってる。だから、瑠衣ちゃんの肩揉みもとても気持ちいいよ。学校にいるときを中心に、これからも瑠衣ちゃんに肩揉みをお願いすると思うんだけど……いいかな?」
「俺も、花柳先輩にマッサージを師事してもらうことがあるかもしれません」
「……2人がそう言うなら、これからもあたしに頼りなさい。風花ちゃんもあたしに肩を揉んでって遠慮なく言いなさいね」

 花柳先輩はドヤ顔になって、ほんのりと膨らんでいるの分かる胸を張っている。
 ――プルルッ。
 食卓に置いてある俺のスマホが鳴ったので、肩揉みを一旦止める。スマホを確認すると、

「霧嶋先生から電話だ。何があったんだろう?」

 今日は特に何もなかったけど。校舎の中で落とし物でもしちゃったのかな。俺は先生からの電話に出る。

「はい、桐生ですが」
『桐生君、こんにちは。今、家にいるかしら?』
「はい。美優先輩と風花、花柳先輩と一緒に課題をしていました」
『そうなのね。感心だわ。家にいると知って安心したわ。……実は悩ましい状況になってしまったの』

 霧嶋先生は低いトーンでそう話してくる。本当に何があったんだ!?
 今日は終礼まで特に普段と変わりない様子だった。きっと、放課後になってから、先生にとって悩ましい状況に陥る出来事が起きてしまったんだ。

「どうかしたの? 由弦君」
「霧嶋先生にとって良くない状況になっているみたいです。先生、美優先輩達にも聞こえるようにしますね」
『分かったわ』

 スピーカーホンにして、スマホを食卓の上に置いた。すると、美優先輩達はスマホの近くへ集まる。

「霧嶋先生、いったい何があったんですか?」
『……明日、1年生のとあるクラスで調理実習があって。コロッケを作る予定なの。ただ、そのクラスの家庭科を担当する成実さんは高熱で休んでいて、明日出勤できるかどうか分からないの。だから、その調理実習の時間、授業のない私が代わりに担当することになってしまって。授業のない他の先生はやるべき仕事が溜まっていて代われないと。だから、料理部に入っている桐生君達に、コロッケの作り方を教えてほしいの。私、料理はあまりできないから……』

 そういえば、うちのクラスも中間試験が明けたら、家庭科の授業で調理実習をやる予定になっている。早いクラスだと試験前に調理実習をやるんだな。

『小さい頃、母と妹と一緒にコロッケを作ったことがあるのだけど、黒焦げにしたり、爆発させたりした経験があって。だから、ちょっとトラウマで。まあ、今は25歳の大人だから、爆発については平気になっているかもしれないけど』
「そ、そうですか。だから、料理部に入っている俺達にコロッケの作り方を教わりたいと思って、電話を掛けてきたんですね」
『ええ。部活ではなく授業だから。教師である私の事情で、生徒達がコロッケの作り方を学び、実践する機会を潰したくないの』
「なるほど」

 以前、料理部の活動に来たときは、自分にできないことを訊かれたら顧問の大宮先生や、汐見部長、副部長の美優先輩に訊いてみると言っていたのに。ただ、それは部活動の話。担当科目でなくても、教師として授業ではできるだけのことをしたいのだろう。霧嶋先生らしい感じがする。

『これから、あなた達の家に行って、コロッケ作りを教えてほしいのだけれど、いいかしら? 必要な材料はちゃんと買ってくるから』
「……どうします? 美優先輩。俺は作り方が分かっていますのでかまいませんけど」
「私も作り方が分かっているから大丈夫だよ。……一佳先生、白鳥です。私達が作り方を教えますので、これから家に来てください。その代わり、材料を買ってきてくれますか?」
『分かったわ。今日の仕事はもう終わったから、これから材料を買ってそちらに向かうわ』
「分かりました。失礼します」
「切りますね」

 そう言って、俺は通話の終了ボタンを押した。
 まさか、これから霧嶋先生にコロッケ作りを教えることになるとは。この前の風邪といい、予想も付かないことって起こるんだな。

「あたしは料理をたまにしますけど、揚げ物は全然やったことがないですね。なので、あたしは一佳先生が作った失敗作を食べるのを担当で。美優先輩と由弦が一緒なら、食べられないものにはならないでしょうし、食費も浮くんで……」

 霧嶋先生が何度も失敗する前提なのか。ちょっと失礼だな。ただ、風花の言うように美優先輩も一緒なら、食べられないものになってしまう可能性は低いだろう。ちゃっかりしているな。

「あたしはお母さんが作る夕飯があるからね。料理部には入っているけど、美優や桐生君ほど料理が上手くないし、揚げ物は得意じゃないな。だから、あたしはとりあえず見守ろうかな」
「ふふっ、分かった。台所のスペースの問題もあるし、私が中心になって一佳先生に教えていくね。由弦君はサポートをお願い。私が側についているし、大失敗することはないと思うけど、失敗したときには風花ちゃんに食べてもらおうかな」
「了解ですっ!」

 これからコロッケを食べることができるからか、風花はやる気に満ちた様子で敬礼のポーズを取った。
 特に怪我などせず、無事にコロッケ作りの練習ができれば何よりだ。
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