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本編
第7話『図書委員ハムスター』
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気持ちが落ち着かなかったので朝礼の後には言えなかったけれど、昼休みになって松風先生に俺を生徒会の庶務係に任命するという告示内容が不当であり、生徒会に入る気持ちは全くないことを伝えた。
ただ、会長は未だに俺のことを諦めていないのか、
「あっ……」
休み時間の度に1年3組の教室の入り口まで来ていて、こっそりと俺のことを見てきている。これが犬や猫なら可愛いけれど、会長だとイライラするだけ。ただ、それではこっちも気持ちが持たなくなってしまうので、昨日よりはマシだと思うことにした。
会長のそんな行動は終礼が終わるまで続いた。
「沙奈ちゃん、ずっとああやって逢坂君のことを見ているの?」
「ええ。休み時間の度に。彼女にキツく言ってしまいましたが、それでも諦めていないようですね」
あとは、俺のことが好きだから見ているとか。まあ、ロープで俺のことを拘束したり、俺のスマホの番号と住所を調べて、実際に家に来たりしまうくらいだからな。
「明日以降もこんな感じだとまずいよね。先生が止めるように言ってこようか?」
「いえ、俺が言ってきます」
俺が教室の外に出ると、扉のすぐ側に如月会長の姿があった。これまでとは違って、俺に怯えている様子で視線もちらついている。
「しつこいですよ、如月会長」
「ご、ごめん。ただ……色々と迷惑を掛けちゃったし、玲人君がどんな様子なのか凄く気になって。だから、休み時間になる度にここに来たんだ」
「そうでしたか」
「それに、まだ玲人君のことが諦めきれなくて。無断で告示の紙を作ったことについては謝るよ。ただ、玲人君には生徒会に入ってほしいんだ。これは本当だよ」
「これまで、何度も言っているじゃないですか。俺は生徒会に入るつもりはないと」
「でも、一度は考え直そうとしてくれたんだよね?」
「そ、それは……」
確かに、昨日の夜に生徒会のことを考えて、仕事の内容とかを調べてから、生徒会に入ろうかどうか決めようとした。
「急で申し訳ないけれど、色々とあって・…明日の放課後までに玲人君には決断してほしいんだ。生徒会に入っても、入らなくても今度は玲人君の気持ちを尊重するから」
「……本当ですね?」
「うん。分からないことや訊きたいことがあったら、私や樹里先輩のところに訊きに来てくれていいからね。もちろん、決断するまでは今日みたいにコソコソと玲人君のことを見たりもしないから」
明日の放課後までという短い時間ではあるけれど、今度は俺にしっかりと考える時間を与えて、入るかどうかは関係なく俺の決断を受け入れるつもりなのか。
「……分かりました。明日までに考えてきます」
もう一晩、考えてみることにするか。気になることがあったら会長や副会長さんに質問しに行けばいいか。
「ありがとう、玲人君。じゃあ、私は生徒会室に行くね」
そう言って会長はやんわりとした笑みを浮かべると、生徒会室の方へと歩いて行った。
「逢坂君、沙奈ちゃんは?」
「明日の放課後までに改めて生徒会に入るかどうか決断することになりました。それまでは今日のようにコソコソ見ることはしないそうです。まあ、一度は考え直そうとしていたのは本当ですから、改めて考えてみたいと思います」
「そっか、分かった。生徒会のことで分からないことがあったら訊きに来てね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、私は職員室に戻るね」
そう言って、松風先生は教室から立ち去っていった。
「……帰るか」
家でゆっくり考えよう。それで、気になることがあったら、生徒会メンバーの生徒や松風先生に訊いてみることにしよう。
俺はバッグを持って教室を後にする。
生徒会の仕事内容、現在のメンバー。庶務係ではあるけれど、本当に俺が生徒会メンバーの一員として務まるかどうか。
入学してから20日も経っていないのに、多くの生徒から距離を置かれてしまっている自分が生徒会に入っていいのだろうか。そのことで生徒会の足を引っ張ってしまってはいけない。現に今も、俺の視界に入ってくる生徒の大半は鋭い目つきや怯えた目つきで俺のことを見てくる。
「一般生徒のままが良さそうな気がしてきた……」
それで、生徒会の方で何かあったら協力するとか。如月会長のことだから、そういうときにはきっと声を掛けてくると思うし。
そんなことを考えていると昇降口が見えてきた。終礼の後に如月会長や松風先生と話をしていたこともあってか、昇降口には数人ほどの生徒しかいなかった。
「はぁ、重い……」
女性の声によるそんな呟きが背後から聞こえてきたので振り返ってみると、そこにはたくさんの本を持った女子生徒がこっちに向かって歩いてきていた。顔も鼻より上しか見えない。小柄な体なのによく頑張っているな。
「うわわわっ!」
「おっと」
女子生徒がよろめいて倒れそうになったので、とっさに俺が抱き留める形に。
「大丈夫ですか?」
「あっ、すみません。図書委員会の仕事で、入荷した本を図書室まで運ぶことになって。往復する回数を減らしたいから、一度にたくさんの本を運ぼうとしたんですけど、やっぱりキツいな」
目元だけしか見えないけれど、この女子生徒がはにかんでいるんだと思った。委員会の仕事で本を運んでいるということは、彼女は図書委員会のメンバーか。カートを使えばいいのに。用意できなかったのかな。
「あの、俺でよければ手伝いましょうか? 今日は何も予定はありませんし」
「えっ、いいの?」
「ええ。それに、ちょうど力仕事をしたい気分なので」
よろめくほどの量の本を持った彼女を放っておけないし、それに……考えてばかりではいい判断ができないと思ったから。あと、中学生のときに図書委員をやったこともある。
「分かった、ありがとう。じゃあ、上から数冊くらい持ってくれるかな」
「分かりました」
彼女の言うように上から数冊ほど持つことに。すると、ようやく彼女の顔全体が見えるように。黒髪のショートヘアが特徴的で、幼さも残る可愛らしい顔をしている。ハムスターみたいな子だ。俺と同じ1年生なのかな?
「ありがとう。あたし、2年4組の佐藤華っていうの。あなたは金髪だから1年生の逢坂君?」
「そうです。1年3組の逢坂玲人といいます」
上級生にも俺の名前が知られているのか。どうやら、この学校で俺は金髪新入生というイメージがついてしまったようだ。校則違反じゃないけれど、異質な新入生として名が広まっているのかも。
「さっ、図書室に行こうか」
「はい」
俺は佐藤先輩についていく形で図書室に本を運ぶことに。
そういえば、図書室はオリエンテーションで校内巡りをしてから一度も行ったことがないな。昼休みもお弁当を食べたら、寝るか、音楽に集中するか、スマホを弄ることしかしないから。
「逢坂君、金髪で無愛想だから恐いって噂されていたけれど、話してみると全然恐くないんだね」
「……ど、どうも」
どう返事をしていいのか分からない。ただ、金髪の生徒は全然いないし、周りの生徒とも必要最低限のことしか話さないので、恐がられても仕方ないのかも。
「でも、逢坂君はイケメンだから意外と女子からは人気はあるんだよ」
「そ、そうなんですね」
これについてもどう返事をすればいいのやら。強烈な如月会長を除けば、俺とまともに接してくれる女子生徒は副会長さんと佐藤先輩くらいしか知らない。今の話はあまり信じられないな。ただ、如月会長が今のことを聞いたらどう思うのか。
段々と茜色に変わっていく陽差しがやけに眩しく思える。俺よりもずっと背が小さい佐藤先輩がとても大きく見えた。
放課後になってから少し時間が経って、図書室に向かっているからなのか、すれ違う生徒は全然いなかった。だからこそ、
「えっ、どうしてあいつが本を運んでいるんだ?」
「何か罰でやらされているんじゃないの?」
などという言葉がやけに響き渡り、まるで背後からナイフで刺されたように心身共に痛む。ここに入学してから、俺は罪を犯したわけでも、校則を違反したわけじゃないのに、どうしてそこまで俺に鋭利な言葉を吐き出すことができるのだろうか。
ただ、中には佐藤先輩の友人なのか、
「彼は手伝ってくれてるの! 悪いことはやっていないんだから!」
佐藤先輩が俺をフォローしてくれるときも。それはとても嬉しいけれど、きっとその場しのぎの微弱な麻酔薬程度の効果しかないだろう。
「酷いね、あんなこと言ってきて。金髪だって校則違反じゃないのに。あたしが逢坂君はいい子だって教えておくよ」
「……ありがとうございます」
俺のことを擁護するような発言をしたことで、佐藤先輩の評判が下がってしまわなければいいけれど。ただ、フォローしてくれる先輩がいるっていうのは心強いな。
佐藤先輩と話していたらあっという間に図書室に到着する。ここに来るのは2度目だけれど、佐藤先輩という人がいるからか安らげそうな場所だなと初めて思った。
「ここに置いてくれるかな?」
「はい」
受付横のスペースに持ってきた本を置く。持っていたときには思わなかったけれど、本を置いた瞬間にそれなりに重いものを持っていたのだと実感する。
「は、華ちゃん。どんな話術を使って、その子を手伝わせたの?」
受付のところに座っていた図書委員らしき女子生徒が怯えながら訊いてくる。
「まったく、みんな逢坂君のことを恐がって。彼は新入荷した本を運んでいた私を見かねて、自主的に手伝ってくれたんだよ」
「そうなんだ……」
女子生徒は意外だと言わんばかりの表情をしている。前に一匹狼という言葉も耳にしたくらいだから、俺が誰かと一緒に何かをするイメージがないのだろう。
「あの、佐藤先輩。新しく入荷した本は今運んできたもので全部ですか?」
「もうちょっとあるかな」
「では、その本のある場所に行きましょう」
「……ありがとう。じゃあ、また一緒に運ぼうか。逢坂君がいればあと1往復で大丈夫だと思うよ」
「そうですか」
その後も佐藤先輩の手伝いをすることに。
彼女の言うように、俺と2人なので1往復で新入荷した本全てを運ぶことができた。
「ありがとう、逢坂君。助かったよ」
「いえいえ、お役に立てて良かったです」
「たまには図書室に遊びに来てね」
「……はい」
佐藤先輩と連絡先を交換して、俺は図書室を後にした。学校の中では比較的落ち着くことのできる場所だと分かったので、これからはたまに来てみることにするか。
「……ありがとう、か」
嬉しそうに言われたのはいつ以来だろう。まさか、こんなに早く誰かから感謝されるときが来るとは思わなかった。
「お疲れ様、逢坂君」
そう言って、副会長さんが爽やかな笑みを浮かべながら、俺の目の前に立ったのであった。
ただ、会長は未だに俺のことを諦めていないのか、
「あっ……」
休み時間の度に1年3組の教室の入り口まで来ていて、こっそりと俺のことを見てきている。これが犬や猫なら可愛いけれど、会長だとイライラするだけ。ただ、それではこっちも気持ちが持たなくなってしまうので、昨日よりはマシだと思うことにした。
会長のそんな行動は終礼が終わるまで続いた。
「沙奈ちゃん、ずっとああやって逢坂君のことを見ているの?」
「ええ。休み時間の度に。彼女にキツく言ってしまいましたが、それでも諦めていないようですね」
あとは、俺のことが好きだから見ているとか。まあ、ロープで俺のことを拘束したり、俺のスマホの番号と住所を調べて、実際に家に来たりしまうくらいだからな。
「明日以降もこんな感じだとまずいよね。先生が止めるように言ってこようか?」
「いえ、俺が言ってきます」
俺が教室の外に出ると、扉のすぐ側に如月会長の姿があった。これまでとは違って、俺に怯えている様子で視線もちらついている。
「しつこいですよ、如月会長」
「ご、ごめん。ただ……色々と迷惑を掛けちゃったし、玲人君がどんな様子なのか凄く気になって。だから、休み時間になる度にここに来たんだ」
「そうでしたか」
「それに、まだ玲人君のことが諦めきれなくて。無断で告示の紙を作ったことについては謝るよ。ただ、玲人君には生徒会に入ってほしいんだ。これは本当だよ」
「これまで、何度も言っているじゃないですか。俺は生徒会に入るつもりはないと」
「でも、一度は考え直そうとしてくれたんだよね?」
「そ、それは……」
確かに、昨日の夜に生徒会のことを考えて、仕事の内容とかを調べてから、生徒会に入ろうかどうか決めようとした。
「急で申し訳ないけれど、色々とあって・…明日の放課後までに玲人君には決断してほしいんだ。生徒会に入っても、入らなくても今度は玲人君の気持ちを尊重するから」
「……本当ですね?」
「うん。分からないことや訊きたいことがあったら、私や樹里先輩のところに訊きに来てくれていいからね。もちろん、決断するまでは今日みたいにコソコソと玲人君のことを見たりもしないから」
明日の放課後までという短い時間ではあるけれど、今度は俺にしっかりと考える時間を与えて、入るかどうかは関係なく俺の決断を受け入れるつもりなのか。
「……分かりました。明日までに考えてきます」
もう一晩、考えてみることにするか。気になることがあったら会長や副会長さんに質問しに行けばいいか。
「ありがとう、玲人君。じゃあ、私は生徒会室に行くね」
そう言って会長はやんわりとした笑みを浮かべると、生徒会室の方へと歩いて行った。
「逢坂君、沙奈ちゃんは?」
「明日の放課後までに改めて生徒会に入るかどうか決断することになりました。それまでは今日のようにコソコソ見ることはしないそうです。まあ、一度は考え直そうとしていたのは本当ですから、改めて考えてみたいと思います」
「そっか、分かった。生徒会のことで分からないことがあったら訊きに来てね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、私は職員室に戻るね」
そう言って、松風先生は教室から立ち去っていった。
「……帰るか」
家でゆっくり考えよう。それで、気になることがあったら、生徒会メンバーの生徒や松風先生に訊いてみることにしよう。
俺はバッグを持って教室を後にする。
生徒会の仕事内容、現在のメンバー。庶務係ではあるけれど、本当に俺が生徒会メンバーの一員として務まるかどうか。
入学してから20日も経っていないのに、多くの生徒から距離を置かれてしまっている自分が生徒会に入っていいのだろうか。そのことで生徒会の足を引っ張ってしまってはいけない。現に今も、俺の視界に入ってくる生徒の大半は鋭い目つきや怯えた目つきで俺のことを見てくる。
「一般生徒のままが良さそうな気がしてきた……」
それで、生徒会の方で何かあったら協力するとか。如月会長のことだから、そういうときにはきっと声を掛けてくると思うし。
そんなことを考えていると昇降口が見えてきた。終礼の後に如月会長や松風先生と話をしていたこともあってか、昇降口には数人ほどの生徒しかいなかった。
「はぁ、重い……」
女性の声によるそんな呟きが背後から聞こえてきたので振り返ってみると、そこにはたくさんの本を持った女子生徒がこっちに向かって歩いてきていた。顔も鼻より上しか見えない。小柄な体なのによく頑張っているな。
「うわわわっ!」
「おっと」
女子生徒がよろめいて倒れそうになったので、とっさに俺が抱き留める形に。
「大丈夫ですか?」
「あっ、すみません。図書委員会の仕事で、入荷した本を図書室まで運ぶことになって。往復する回数を減らしたいから、一度にたくさんの本を運ぼうとしたんですけど、やっぱりキツいな」
目元だけしか見えないけれど、この女子生徒がはにかんでいるんだと思った。委員会の仕事で本を運んでいるということは、彼女は図書委員会のメンバーか。カートを使えばいいのに。用意できなかったのかな。
「あの、俺でよければ手伝いましょうか? 今日は何も予定はありませんし」
「えっ、いいの?」
「ええ。それに、ちょうど力仕事をしたい気分なので」
よろめくほどの量の本を持った彼女を放っておけないし、それに……考えてばかりではいい判断ができないと思ったから。あと、中学生のときに図書委員をやったこともある。
「分かった、ありがとう。じゃあ、上から数冊くらい持ってくれるかな」
「分かりました」
彼女の言うように上から数冊ほど持つことに。すると、ようやく彼女の顔全体が見えるように。黒髪のショートヘアが特徴的で、幼さも残る可愛らしい顔をしている。ハムスターみたいな子だ。俺と同じ1年生なのかな?
「ありがとう。あたし、2年4組の佐藤華っていうの。あなたは金髪だから1年生の逢坂君?」
「そうです。1年3組の逢坂玲人といいます」
上級生にも俺の名前が知られているのか。どうやら、この学校で俺は金髪新入生というイメージがついてしまったようだ。校則違反じゃないけれど、異質な新入生として名が広まっているのかも。
「さっ、図書室に行こうか」
「はい」
俺は佐藤先輩についていく形で図書室に本を運ぶことに。
そういえば、図書室はオリエンテーションで校内巡りをしてから一度も行ったことがないな。昼休みもお弁当を食べたら、寝るか、音楽に集中するか、スマホを弄ることしかしないから。
「逢坂君、金髪で無愛想だから恐いって噂されていたけれど、話してみると全然恐くないんだね」
「……ど、どうも」
どう返事をしていいのか分からない。ただ、金髪の生徒は全然いないし、周りの生徒とも必要最低限のことしか話さないので、恐がられても仕方ないのかも。
「でも、逢坂君はイケメンだから意外と女子からは人気はあるんだよ」
「そ、そうなんですね」
これについてもどう返事をすればいいのやら。強烈な如月会長を除けば、俺とまともに接してくれる女子生徒は副会長さんと佐藤先輩くらいしか知らない。今の話はあまり信じられないな。ただ、如月会長が今のことを聞いたらどう思うのか。
段々と茜色に変わっていく陽差しがやけに眩しく思える。俺よりもずっと背が小さい佐藤先輩がとても大きく見えた。
放課後になってから少し時間が経って、図書室に向かっているからなのか、すれ違う生徒は全然いなかった。だからこそ、
「えっ、どうしてあいつが本を運んでいるんだ?」
「何か罰でやらされているんじゃないの?」
などという言葉がやけに響き渡り、まるで背後からナイフで刺されたように心身共に痛む。ここに入学してから、俺は罪を犯したわけでも、校則を違反したわけじゃないのに、どうしてそこまで俺に鋭利な言葉を吐き出すことができるのだろうか。
ただ、中には佐藤先輩の友人なのか、
「彼は手伝ってくれてるの! 悪いことはやっていないんだから!」
佐藤先輩が俺をフォローしてくれるときも。それはとても嬉しいけれど、きっとその場しのぎの微弱な麻酔薬程度の効果しかないだろう。
「酷いね、あんなこと言ってきて。金髪だって校則違反じゃないのに。あたしが逢坂君はいい子だって教えておくよ」
「……ありがとうございます」
俺のことを擁護するような発言をしたことで、佐藤先輩の評判が下がってしまわなければいいけれど。ただ、フォローしてくれる先輩がいるっていうのは心強いな。
佐藤先輩と話していたらあっという間に図書室に到着する。ここに来るのは2度目だけれど、佐藤先輩という人がいるからか安らげそうな場所だなと初めて思った。
「ここに置いてくれるかな?」
「はい」
受付横のスペースに持ってきた本を置く。持っていたときには思わなかったけれど、本を置いた瞬間にそれなりに重いものを持っていたのだと実感する。
「は、華ちゃん。どんな話術を使って、その子を手伝わせたの?」
受付のところに座っていた図書委員らしき女子生徒が怯えながら訊いてくる。
「まったく、みんな逢坂君のことを恐がって。彼は新入荷した本を運んでいた私を見かねて、自主的に手伝ってくれたんだよ」
「そうなんだ……」
女子生徒は意外だと言わんばかりの表情をしている。前に一匹狼という言葉も耳にしたくらいだから、俺が誰かと一緒に何かをするイメージがないのだろう。
「あの、佐藤先輩。新しく入荷した本は今運んできたもので全部ですか?」
「もうちょっとあるかな」
「では、その本のある場所に行きましょう」
「……ありがとう。じゃあ、また一緒に運ぼうか。逢坂君がいればあと1往復で大丈夫だと思うよ」
「そうですか」
その後も佐藤先輩の手伝いをすることに。
彼女の言うように、俺と2人なので1往復で新入荷した本全てを運ぶことができた。
「ありがとう、逢坂君。助かったよ」
「いえいえ、お役に立てて良かったです」
「たまには図書室に遊びに来てね」
「……はい」
佐藤先輩と連絡先を交換して、俺は図書室を後にした。学校の中では比較的落ち着くことのできる場所だと分かったので、これからはたまに来てみることにするか。
「……ありがとう、か」
嬉しそうに言われたのはいつ以来だろう。まさか、こんなに早く誰かから感謝されるときが来るとは思わなかった。
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