桜庭かなめ

文字の大きさ
9 / 118
本編

第8話『ジュリー』

しおりを挟む
 図書委員の佐藤先輩の手伝いを終わらせ、昇降口に向かっている途中で副会長さんと鉢合わせた。

「お疲れ様、逢坂君」
「お疲れ様です、副会長さん」

 お疲れ様という言葉からして、偶然ここで俺と会ったとは考えにくい。

「会長からの命令ですか? 俺のことをこっそりと見に行くように言われたんですよね」
「……何でもお見通しなんだね」

 さすがだね、と副会長さんは可愛らしく笑う。決断するまではコソコソ見ないようにしてほしいと言われたけれど、俺のことが気になるので副会長さんに様子を見てほしいと頼んだというところか。

「逢坂君がまだ校内にいれば、こっそりと様子を見てきてって言われたの。本当に沙奈ちゃんは逢坂君のことが気に入っているみたいね」
「……ですね」

 束縛したいほどに好きだというのは、副会長さんはまだ知らないんだろうな。知らない方がいいこともあるのでこのことは言わないでおこう。

「ちなみに会長は今、どうしてます?」
「生徒会室で仕事してるよ。デスクワークだけれど、昨日から体調が悪そうだから無理はしないように言っておいた」
「なるほど。そういえば、会長って元々体が弱いんですかね?」
「ううん、丈夫な方だと思うよ。だから、今の状況は正直心配かな」
「……そうですか」

 体調不良になることは如月会長にとって珍しいのか。もしかして、それが原因で俺のことを生徒会に入れたいって言ってきたのかな。でも、それなら明日の放課後までに決めてほしいって言ったのかがよく分からない。

「そうだ、図書委員会のお仕事を手伝った逢坂君にご褒美をあげる。ついてきて」
「はい」

 俺は副会長さんの後についていく。
 副会長さんがいい人であることは分かっているけれど、会長の命令で俺の様子を見張っている最中なので不安だ。

「さっ、好きな飲み物を1本買っていいよ」

 そんなことを考えていたら、自動販売機のある休憩スペースに来ていた。数人の生徒が駄弁っていたり、勉強していたり、昼寝をしていたり。みんな、自分のやりたいことに集中しているからか、俺達の方を見てくる生徒はいない。

「いいんですか、買ってもらっても」
「うん、いいよ」
「買ってもらったから生徒会に入れって、会長から入れ知恵されていませんよね?」
「そんなことないって。今も疑っているんだね」
「……告示の紙を勝手に作られてしまったら、さすがに疑ってしまいます」

 まだ、何かの手を使って俺を生徒会に入れる可能性は捨てきれない。

「大丈夫だよ、これは私個人でやっていることだから」
「……では、このブラックコーヒーを」
「うん」

 副会長さんにブラックコーヒーを買ってもらって、俺達は近くにある椅子に座った。ちなみに、彼女はミルクティーを買った。

「コーヒー、いただきます」
「どうぞ」

 そういえば、学校でこうして飲むのは初めてだな。俺はそんなお初のコーヒーを一口飲む。苦味で落ち着くことができるようになるとは、少しは大人になったのかな。

「あっ、飲んだ」
「ごほっ!」

 驚いて咳き込んでしまった。とっさに手で押さえたから、手が汚れただけで済んだけれど。

「可愛い反応するんだね、逢坂君は」
「これ、やっぱり賄賂なんですか?」
「そんなわけないよ。気にしないで飲んで」

 副会長さんはニヤニヤ笑いながらそう言う。もう、ブラックコーヒーを飲んだからってブラックなジョークは言ってほしくないよ。

「ふふっ、ミルクティー美味しい」
「……ブラックコーヒーも美味しいですよ」

 ただ、さっきよりも苦く感じるのはなぜなのか。

「まさか、逢坂君が図書委員会の仕事を手伝うことになるとは思わなかったよ。さっさと帰るだけだと思っていたからさ」
「本をたくさん持った佐藤先輩という図書委員の生徒が転びそうだったので。図書委員会の事情は分かりませんけど、本を入荷する日くらいは人員を増やすとか、1つでもいいので図書委員会としてカートを持っていた方がいいと思いました」
「おっ、それはいい意見だね。メモしておこう」

 そう言って、副会長さんはスマートフォンを弄っている。メモ帳の機能を使っているのか。これを如月会長や職員に報告するのかな。

「その場面から見ていたけれど、藍沢君は自分から率先して手伝ったじゃない。しっかりとやっていたし。あの子と普通に喋ることもできていたように見えたよ」
「あれは、佐藤華先輩だからこそっていう部分もあると思います。彼女曰く、一度に多くの本を持って、往復する回数を減らしたいとのことでしたが、あのときの彼女を見たら、1人で運ぶのはまずいだろうって思ったんですよ」
「ただ、そう思った逢坂君は自分から動いた。しかも、相手が満足できるところまで仕事をした。これができるってとても凄いことだと思うよ? 私個人の考えだけれど、彼女との様子を見て生徒会でも十分にやれるなって思うよ」
「……そう言ってくれることは素直に嬉しいです」

 自分のことをやるのが精一杯で、誰かのために何かできるなんて全然思っていなかったから。

「ふふっ、意外と逢坂君って素直で優しいよね。髪を染めているし、普段の様子を見ると捻くれているイメージもあるけれど」
「そ、そうですか」

 黒髪ばかりの中で金髪にしたり、全然友人を作らなかったりしたら、捻くれていると思われても仕方ないのかな。

「少しずつでも考えはまとまってきてる?」
「まだ、そんなには。家に帰ったらゆっくり考えようと思っていたので」
「そっか。あまり時間経っていないもんね。せっかくだし、何か生徒会について分からないことがあったら質問していいよ。どんなことでも」
「じゃあ、生徒会のメンバーって今、何人いるんですか?」

 思い返せば、如月会長と副会長さんとしか会ったことがない。生徒会室に行ったのは3回しかないから、まだ会ったことのないメンバーがいると思うんだけど。

「私と沙奈ちゃんだけだよ」
「えっ? 2人だけなんですか? 書記も会計もいないんですか?」
「うん、2人で難なくこなせているからね」

 副会長さんはさらりとそう言うけれど、それってかなり凄いことなのでは。

「それって、今の体制だけ……ですか?」
「2年前は違ったけれど、去年は私の1学年上の女性の先輩が会長をやって、私は副会長だったの。その会長さんも沙奈ちゃんと同じくらいに何でもできちゃう人で……」

 そんなハイスペックの人が会長だから、会長と副会長の2人体制でやった方が効率よくできるだろうって考えたのかな。きっと、副会長さんもかなり仕事ができる人なんだろう。あと、副会長さんは2年連続で生徒会副会長として活動しているんだ。

「次は会長をやろうかどうか考えたとき、1学年下で沙奈ちゃんが入学してきて、才色兼備で人気も抜群だったの。だから、私が彼女に会長になってみないかって誘ってみたんだ」
「それで、実際に会長になって仕事をこなしているんですから凄いですね」
「そうだね」

 そんな如月会長を生徒会に誘った副会長さんも凄いと思うけれど。当時1年生の子にしかも会長にならないかって。相当な自信がなければできないと思う。

「2人でも十分にやれていたから、今朝、逢坂君を庶務係として生徒会に入れさせたいって沙奈ちゃんが言ってきたときは正直驚いたよ。でも、それを言われる前から逢坂君の名前を口にすることはあったかな」

 きっと、それは俺に対して非常に強い好意を抱き始めたからだと思います。
 そういえば、会長が俺のことが好きになったきっかけとか聞いたことないな。ロープで縛られたあのときまで彼女と喋ったことはなかったので、一目惚れとかだと思うけれど。

「でも、もしかしたら具合が悪くなったから、生徒会のメンバーを増やそうと思ったのかもしれないね。今後、何かあったときも生徒会が変わらず運営できるように」
「そうかもしれませんね」

 どうやら、俺を自分の側にいさせたいだけではなさそうだ。

「でも、あの告示はやり過ぎだった。あれから彼女には叱っておいたからね。改めて謝罪するわ。迷惑をかけてごめんなさい」
「……もう、気にしないでください」

 如月会長が、俺のことを生徒会に入れさせたい気持ちが非常に強いということは伝わってきたから。

「さてと、私はそろそろ生徒会室に戻るね。沙奈ちゃんにもこのことを報告しないといけないし」
「俺は……家に帰ろうと思います。副会長さんも無理はしないでください」
「ありがとう。そういえば、まだ連絡先を交換していなかったよね」
「そうでしたね」

 連絡先を交換すると、副会長さんはミルクティーを持って生徒会室の方に向かって歩いて行った。
 残りのブラックコーヒーを飲んで、俺は学校を後にする。図書委員会の仕事を手伝った後に副会長さんと話して時間が結構経ったからか、陽も大分傾いていた。
 夕陽の風景を見るとアリスさんのことを思い出す。今日も彼女がいるかと思って公園に行ってみるけれど、彼女の姿はない。

「にゃー」
「……お前はいたのか。よしよし」

 茶トラ猫の頭を撫でると気持ちが安らぐ。俺にとって猫は癒しの存在だ。
 アリスさんがいたら、生徒会のことでまた相談したかったけれど。ここは自分自身でしっかりと考えることにしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...