桜庭かなめ

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本編

第9話『シスバス』

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 明日までに提出しなければならない課題は一切ないので、家に帰ったら生徒会のことを考えることに集中できている。けれど、全然考えがまとまらない。

「生徒会か……」

 中学までに図書委員や保健委員をやったことはあるけれど、生徒会の経験は一切ない。
 以前から、生徒会は凄く仕事をやるイメージがある。実際に如月会長も副会長さんもテキパキと仕事ができるそうだし。たとえ庶務係でも、俺に生徒会の一員として務まるかどうかが不安なのだ。会長も副会長さんも、俺が生徒会に向いているとは言ってくれたけれども。

「あと1日で決めることができるかな……」

 大事なことだからゆっくり考えたいのが本音だけれど、あのときの如月会長の様子からして期限の延長は無理そうだ。

 ――コンコン。
「はーい」

 俺が返事をすると、すぐに部屋の扉が開き、姉さんが中に入ってくる。

「玲人、一緒にお風呂に入ろうよ」

 今日も高校生の弟に混浴を誘いに来たのか。昔は一緒にお風呂に入ることが多かったから、久しぶりに入りたいんだろう。

「分かった。一緒に入るか」
「うん!」

 姉さんは嬉しそうな顔を浮かべる。1年以上の間、大学進学などの理由で離ればなれになっていたけれど、姉さん……ちゃんと1人暮らしできていたのだろうか。

「久しぶりに入るからって変な気は起こさないでよね」
「……起こさないよ」

 自分からお風呂に誘う姉さんの方がよっぽど変な気を起こしそうだけれど。それに、姉さんは昔と比べて……あまり体は成長していない気がするので、変な気は起きないだろう。

「じゃあ、お風呂に行こうよ」
「そうだな」

 俺は姉さんと一緒に久しぶりの入浴をすることに。
 住み始めてからおよそ1ヶ月の浴室だけれど、姉さんがいるからか懐かしい感覚だ。俺が小学生くらいまでの間は姉さんと一緒に入ることが多かったからかな。こうして湯船に浸かりながら、髪や体を洗っている姿を見ていた――。

「って、ごめん、姉さん。昔みたいに姉さんのことを見て」
「えっ、別にいいのに。久しぶりだから、正直ちょっとドキドキしているけれどね」

 ふふっ、と笑いながら姉さんは体を洗っている。改めて見てみると、さすがに今年20歳になるだけあって、昔よりはちょっと大人になった……のかな?
 そんなことを考えていると、姉さんにシャワーで顔にお湯を掛けられる。

「何するんだよ」
「ぼうっとしていたから。ほら、髪と体を洗ってあげるからこっちに来なさい」
「別にいいって」
「ええ、昔はよく洗ってあげたじゃない。甘えられるときには甘えないと。それが姉のいる弟の役目なんだよ?」
「その役目とやらには納得できないけど……分かったよ。今日は姉さんのご厚意に甘えさせてもらう」

 きっと、このまま断り続けても姉さんは粘り続けるだろうし。
 俺は湯船から出て、姉さんの前に腰を下ろす。

「さあ、玲人。髪と体のどっちから洗う?」
「……髪から」
「りょーかい」

 姉さんに髪を洗ってもらうことに。何だか小学生の頃に戻った感じだ。当時とは違って今は金髪だけれど。

「しっかし、玲人……綺麗に金色に染めたね。この髪って校則違反じゃないんだよね?」
「もちろんだよ。違反だったらさすがにしてない」
「そっか。そういえば、ずっと気になっていたけれど、どうして金髪にしたの? 玲人ってそんなことをするタイプじゃないでしょ?」
「……イ、イメチェンだよ」
「えっ、何それ」

 らしくないんだけど、と姉さんは爆笑し笑い声が浴室の中に響き渡る。色々と理由はあるけれど、人生に一度くらいは金髪にしてもいいんじゃないかと思って。

「でも、似合ってるよ、玲人」
「……ありがとう」
「それで、髪を染めてイメチェンをした玲人君は高校生活を楽しんでいるのかな?」
「まあ、ぼちぼちと……」

 ぼっちだけれど、先週までは穏やかな高校生活を送ることができていた。
 しかし、今週に入ってから如月会長が原因でそれまでとは一転して慌ただしくなった。あの会長のことだから、今後も俺に絡んでくるんだけれど、少しは平和になってほしいものである。

「姉さんこそ、大学生活はどうなんだ? ……何か嫌なことはされてないか?」
「全然ないよ。楽しいキャンパスライフを送っているよ」
「それなら良かった」

 もし、何かあったら俺が大学まで乗り込むつもりだったけれど。楽しく大学生活を送ることができているようで安心だ。
 特に悩みとかがないみたいだから、姉さんに生徒会のことを相談してみようかな。

「あのさ、姉さん。学校関係で相談したいことがあるんだけど、話してもいいかな」
「うん、もちろん。お姉ちゃんに相談してみなさい」

 鏡越しで姉さんを見てみると、嬉しそうな笑みを浮かべている。
 姉さんに生徒会入りを打診されていることについて簡単に話す。話している間に髪と体は洗い終えて、姉さんと向かい合うような形で一緒に湯船に浸かる。

「玲人が生徒会かぁ。そういえば、一昨日の夜だっけ。生徒会長さんが家に来たみたいじゃない。お母さんから聞いたよ」
「ああ。姉さんが風呂に入っている間に来たよ」

 あのときは家まで来たという驚きと恐ろしさで、早く帰ってほしいという気持ちでいっぱいだった。確か、あの時は俺に抱きしめてほしいから家に来たんだっけ。

「会長さんがわざわざ家に来るなんて、玲人のことを相当に気に入っているんだね」
「そう……だろうね。凄くしつこいし……」

 実はあの日の放課後に会長から束縛されていたことは、姉さんにも黙っておこう。

「これまでにも、図書委員とか保健委員はやったことがあるよね。庶務係だったら十分にやっていけるんじゃない?」
「会長や副会長さんにも同じようなことを言われたよ」
「それならチャレンジしてみてもいいんじゃない? それに、分からないことや不安なことがあったら生徒会の人や先生に相談すればいいと思うし」
「そういうものなのかなぁ。生徒会に入ることは凄く責任を伴うことだと思っているから、しっかりとやっていけるかどうか凄く不安なんだ……」

 俺がいることで生徒会の足を引っ張ってしまうかもしれないし。

「玲人は本当に真面目だね。もし、生徒会の庶務係になって辛くなったら、そのときは周りに相談してみればいいんじゃないかな。それこそ今みたいにお姉ちゃんに言ってくれてもいいんだし。きっと、会長さんや副会長さんなら相談に乗ってくれると思うよ」

 考えてみれば、副会長さんはいい人そうだし、俺に対する激しい好意による強烈な行動を除けば、如月会長もきっといい人……なんだと思う。

「どうしても嫌ならもちろん断るべきだよ。でも、そうじゃなかったら、まずはやってみるっていうのも1つの方法なんじゃないかってお姉ちゃんは思う」
「やってみる、か……」

 姉さんの今の一言で急に心が軽くなったような気がした。あと、なぜか、昨日の昼休みに生徒会室で3人一緒にお昼ご飯を食べたときのことをふと思い出す。

「……納得できる答えが見つかりそうな顔をしているね、玲人」
「えっ?」
「だって、生徒会のことを話したときよりも表情がいいもん」
「……そうかな」

 鏡を見ようとしたけれど、どういう顔をしているのかが不安だったので止めた。

「でも、お姉ちゃん安心したよ。高校で玲人のことをちゃんと見てくれる人達がいて。たまに、心配だから月野学園の制服を借りて玲人の側にいたくなるときがあるの」
「そうなんだ」

 制服を借りる必要はないと思うけれど。ただ、姉さんが月野学園の制服を着たらどんな感じなのか一度見てみたい気持ちはある。

「玲人が側にいると安心するな。そういえば、背中を流しているときにも思ったけれど、凄くしっかりとした体になったよね。前はもっと細かったじゃない」
「ここ2年くらいは色々とあったからね。それに、体を鍛えるのはいいことだと思って、前よりは運動するようになったかな」
「その努力が実ったわけだね。それで、あたしはどうかな? 少しは成長した?」
「……今年20歳になる女子大生が、高校生の弟にそれを訊くのはまずいのでは」

 一緒にお風呂に入ってしまっているので、その言葉に説得力がないかもしれないけれど。

「別にあたしは気にしないよ? 玲人が弟だからっていうのもあるけれど。……それで? 姉ちゃんはどうなった?」

 忘れずに本題に戻してきたな。俺は女子大生の姉の成長についてコメントしていいのだろうか。

「……ちょっとは成長したと思う」

 結局、悩んだ末に正直に答えてしまった。

「そっか」

 良かった、と姉さんはとても嬉しそうな笑みを浮かべる。今のような子供らしい反応は昔から変わっていない。だからこそ安心できる部分もあって。

「……俺も姉さんとまた一緒に暮らすことができて安心しているよ」
「ふふっ、玲人がお姉ちゃんっ子なのは昔から変わらないね。ツンデ玲人」
「好き勝手なこと言いやがって」

 会長にもツンデレって言われたけれど、そんなに俺、ツンツンしているのかな。デレっとした覚えもないし。

「そんな玲人にはこうだぞ」

 そう言って、姉さんはぎゅっと俺のことを抱きしめてきた。湯船の中で高校生の弟のことを抱きしめるなんて、姉さんのことが心配になってきたよ。

「また、玲人とこうすることができて嬉しいよ」
「姉さんは本当に変わらないな」
「玲人だって変わってないよ。髪の色が金色になっても、筋肉が付いても玲人は玲人だから」
「……そうかい」

 俺は姉さんのことをそっと抱きしめる。見た目では以前から少ししか変わっていないと思ったのに、こうして抱きしめると前よりも姉さんの体が結構小さく思えたのであった。
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