桜庭かなめ

文字の大きさ
12 / 118
本編

第11話『君と見た夕焼け空』

しおりを挟む
 会長と副会長さんに手伝ってもらいながら、庶務係としての初仕事は無事に終わった。告示の紙と生徒会広報の号外を貼るだけだったけれど、校内全ての掲示板に貼ったので意外と時間がかかったな。
 生徒会室に戻ってきたときには、陽が大分傾いていた。壁に掛かっている時計を見たら、時刻は午後5時を過ぎていた。

「ようやく終わりましたね」
「そうね。お疲れ様、玲人君」

 さすがに会長だけあって生徒会の仕事中はしっかりとしているように見えた。副会長さんが側にいたからかもしれないけれど。

「沙奈ちゃんと2人きりだと広々としているけれど、こうして逢坂君を加えて3人っていうのも良さそうだね。1年生だけれど、逢坂君がいると心強いよ」
「先輩の言うとおりですね。期待しているよ、玲人君」
「……そうなれるよう、俺なりに頑張ります」

 今は元気そうだけれど、一昨日や昨日は会長の具合が悪かった。そういうときは少しでも手助けできるようになりたいな。

「ねえ、玲人君。そろそろ着信拒否を解除してくれないかな。あれ、地味にショックなんだよね……」

 会長は耳元でそう囁いた。
 そういえば、会長が家に来た直前に着信拒否していたんだっけ。今まですっかりと忘れていた。

「執拗に連絡しないと約束すれば」
「もちろん」
「守ってくださいよ。これからは生徒会として連絡手段があった方がいいですもんね。改めて、連絡先を交換しましょう」
「うん!」

 俺は会長のスマートフォンからの着信拒否を解除し、連絡先を交換した。そのときの会長はとても嬉しそうだった。

「ありがとう、玲人君。これでいつでも連絡できる」
「夜中に電話をするのは止めてくださいよ」
「……ど、努力するわ」

 会長の視線がちらついている。どうやら、時間を問わずに電話を掛けるつもりだったんだな。できれば、夜中の電話とかメッセージは避けてほしいところ。俺も気を付けないと。

「あと、もう一つお願いあるんだけど……」
「何ですか?」
「生徒会に入ったんだし、私のことを下の名前で呼んでほしいなって」
「ああ、そういえば……俺、今まで会長のことを苗字で呼んでいましたね。分かりました。では、沙奈会長」
「……もう少し恥ずかしがると思ったんだけどな。でも、玲人君から名前で言われるとキュンとする」

 えへへっ、と会長は頬を赤くしながらデレデレしている。しつこくて時に恐いときもあるけれど、こういった何気ないことで嬉しそうにするところは可愛らしい。

「沙奈ちゃんと逢坂君の仲もそれなりに良くなったみたいだし、これなら3人で生徒会をやっていけそうだね」
「そうですね。これからよろしくね、玲人君」
「よろしく、逢坂君」
「はい。これからよろしくお願いします、沙奈会長、副会長さん」

 俺は2人に向かって深く頭を下げた。
 まさか、高校生になってすぐに生徒会の一員になるとは。入学式で沙奈会長を見たときには想像もできなかったな。むしろ、一般生徒としてどの委員会にも入らずに過ごすつもりだったから。
 今日の生徒会の仕事は終わったので俺達は学校を後にする。沙奈会長が家の前まで送ろうかと強く迫られたけれど、そこまでしてもらっては申し訳ないので丁重にお断りした。

「まだ日が暮れていないし、猫がいるかどうか確かめてみようかな」

 そう思って公園に行ってみる。すると、ベンチには茶トラ猫を抱きながらウトウトとしているアリスさんの姿があった。その光景を見て何だか安心する。

「にゃーん」

 おっ、茶トラ猫の方が先に俺に気付いたか。
 また、今の鳴き声のせいかアリスさんは目を覚ます。

「あら、逢坂さん。こんにちは」
「こんにちは。2日ぶりですね、アリスさん」
「そうですね。昨日は色々とあって来ることができなかったのですが、今日、ここに来てみたらこの猫ちゃんが近寄ってきて……陽の光も気持ちよくて眠りそうになってしまいました」

 アリスさんはいつもの落ち着いた笑みを浮かべながらそう言った。
 アリスさんの隣に座ると、茶トラ猫は俺の方に移動して香箱座り。定期的に移動しながらゆっくりとしたいのかな。そんな茶トラ猫のことを撫でる。この様子を会長がもし見ていたら、きっと変に勘違いしそうだ。

「何だかいい表情をされていますが、もしかして、以前にあたしに相談したことについて解決されたのですか?」
「はい。あれから、色々なことがあったんですけど、身近にいる人と話をして、生徒会に入ることに決めました」
「そうなのですか。本当にその決断で良かったですか?」

 口元では笑ってくれているけれど、目つきはとても真剣だ。

「いつか、この決断が間違っていたと思うときが来てしまうかもしれません。後悔もしてしまうかもしれません。でも、これも自分で決めたことですからね。何よりも今、生徒会に入って良かったなと思っているので、これから頑張ってみようと思います」

 これから先どうなるかは分からないけれど、今は沙奈会長や副会長さんと一緒に生徒会の仕事をやってみようと思ったんだ。

「そうですか。逢坂さんの顔を見ていれば、生徒会に入ると選択したことに納得していたことは分かっていましたよ。ただ、その気持ちを言葉で聞いてみたかったのです。すみません、試すようなことをしてしまいまして」
「いえ、気にしないでください。ただ、こういう決断をするきっかけを作ってくれたのはアリスさんです。本当にありがとうございました」

 多分、火曜日にアリスさんに相談していなかったら、絶対に入らないと意固地になり、もう一度考え直してみようかと思うことはなかったかもしれない。

「あたしはただ、自分の考えを逢坂さんにお伝えしただけですよ。生徒会に入ったということは、しつこいと仰っていた会長さんとも?」
「……まあ、たまに悩まされますけど、彼女と何とかやっていけそうかなと」

 今はそう思っていたい。さすがに告示の紙を勝手に発行されるレベルのことはしないと思うけれど、色々な意味で底知れぬ人だからなぁ。
 一応、周りを見てみるけれど、沙奈会長の姿は確認できない。どこか隠れて俺達のことを見ているかもしれないので、今後、このことを訊かれるかもしれないと思っておこう。

「あの、アリスさん」
「何ですか?」
「今回のことで何かお礼がしたいのですが」
「いえいえ、そんな! あたしなんかが、逢坂さんからお礼をしてもらっていいのでしょうか」

 そう言いながらも、アリスさんは照れた様子を見せる。

「じゃあ、頭を撫でてもらってもいいですか? 逢坂さんに撫でてもらっているときの猫ちゃんがとても気持ち良さそうだったので」
「分かりました」

 ハンカチで一度手を拭いてから、アリスさんの頭をそっと撫でる。アリスさんの髪、とても柔らかいな。

「……猫ちゃんの気持ちが分かったような気がします。とても気持ちいいですね」

 アリスさんは柔らかい笑みを見せる。心なしか彼女の頭から伝わってくる温もりが強くなったような。

「あぁ、満足しました。ありがとうございました」
「いえいえ」

 それから少しの間、俺はアリスさんと一緒に茶トラ猫と戯れることに。茶トラ猫を撫でるアリスさんは、これまでよりも嬉しそうに見えたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...