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本編
第12話『好きになった理由』
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4月20日、金曜日。
今日を乗り切れば週末の2連休が待っている。月曜日に沙奈会長に縛られたときには無事に週末を迎えることができるかどうか不安だったけれど、何とかなりそうだ。
今日も途中の公園で猫と触れ合ってから学校へと向かう。
周りの生徒から変な目で見られてしまうのは相変わらずだけれど、佐藤先輩のおかげなのか、それとも生徒会に入ったからなのか、そんな生徒の数が昨日までと比べてちょっと減ったような気がする。
生徒会室に向かうと、そこには沙奈会長と副会長さんがいた。
「おはようございます」
「おはよう、玲人君」
「おはよう、逢坂君」
沙奈会長の様子からして、昨日、俺がアリスさんと一緒にいたときところは見ていないのかな。
「生徒会の一員になったので、教室じゃなくて生徒会室に来たんですけど、これからも朝は一度、ここに来た方がいいですか?」
「そうだね。一日の仕事内容をみんなで確認したいからね。あと、火曜日の朝みたいに、風紀委員会と一緒に朝の身だしなみチェックをする日もあるの。そのときは今日よりも早く来てもらうことになるから。30分くらい早くなるのかな」
「登校する生徒をチェックしないといけないですもんね。分かりました」
俺がチェックする立場になるのか。この金髪は校則違反じゃないけれど、俺が注意しても言うことを聞かない生徒がいそうだ。この髪の色については一度、考えてみる必要がありそうだな。
「身だしなみチェックの日は分かり次第、私か沙奈ちゃんが伝えるよ」
「分かりました」
「だけど、今日は玲人君のことをチェック……」
沙奈会長は俺の着る制服の匂いを嗅いでいる。あれか? 匂いを嗅いで女性と関わっていないかどうか調べているのかな。
「……OK。何か、昨日嗅いだ2人のうちの1人の匂いが強くなっているけれど」
「ああ、姉さんですね、それ。昨日も帰ってきたときに抱きしめられたので」
「随分と弟想いのお姉さんなのね」
「……ええ」
一昨日、一緒にお風呂に入ったことは話さないでおこう。
あと、アリスさんの匂いは感じなかったのか。思い返せば、彼女の髪は撫でたけれど抱きしめたり、彼女に腕を絡められたりしたことはないから匂いはつかないのかな。
「ねえ、玲人君。今、私以外の女の子のことを考えていたでしょう」
「知り合いの女性の顔を思い浮かべていましたけど、その人は友人ですよ」
そう言って、昨日、アリスさんにしてあげたように沙奈会長の頭を優しく撫でる。
すると、鋭い視線が段々と柔らかいものになっていく。
「今回は玲人君のことを信じるよ」
「沙奈会長に信じてもらえて嬉しいです」
疑り深いところがありそうだけれど、しっかりと話せば沙奈会長はきちんと信じてくれるのかな。
「凄いね、逢坂君。さっそく沙奈ちゃんの扱い方をマスターしてる」
「……これまでに色々とありましたからね」
束縛されたり、執拗に連絡されたり、家の前まで押しかけられたり、こっちが嫌がっているのに勝手に告示の紙を作ったり。これに並ぶことがこれからも起こるかもしれないと思うと段々と気分が重くなってきたぞ。
「大丈夫? 逢坂君、具合が悪かったら無理しなくていいんだよ?」
「そうだよ。私が家まで行って、週末はずっと看病してあげるから」
「お気持ちだけで十分です。というか、別に具合は悪くなっていませんよ」
会長が家にいると思うと、治る病気も治らなくなっちゃいそうな気がする。むしろ、悪化してしまう可能性も。
「それならいいけれど。じゃあ、玲人君、樹里先輩。今日の生徒会の活動について確認しましょうか」
「そうだね。といっても、今日までにやらないといけない仕事もないし、期限が近くて大変な仕事もないよね」
「ええ。雑務はありますので、今日の放課後はそれを手早く終わらせて、あとは玲人君の歓迎会をしようかなと」
歓迎会か。そういえば、先週の金曜日は父親が今年の新入社員の歓迎会で帰りが遅かったな。まさか、俺が誰かに歓迎される立場になるとは。
「おっ、いいね! この部屋でやる? それともどこかお店に行く?」
「そうですね……どっちがいい? 玲人君」
「やってくれるというお気持ちで十分に嬉しいので……じゃあ、お金があまりかからない方で」
「お金がかからないってことは……ここで歓迎会しますか」
「じゃあ、お昼休みに、近くのコンビニへ飲み物やお菓子を買いに行こうか、沙奈ちゃん」
「そうですね」
沙奈会長と副会長さん、やる気満々だな。生徒会室でやることになったし、盛り上がりすぎて変なことにならなければいいけれど。
期待とほんの少しの不安を抱きながら、今日の授業を受ける。
生徒会の一員になったので、クラスメイトからは今まで以上に注目を浴びることに。ただし、担任の松風先生以外から話しかけられることはなかった。昼休みは会長と副会長さんが買い出しに行くということなので、俺は教室で過ごした。
あっという間に放課後になる。
「逢坂君、生徒会の仕事を頑張ってね」
「はい。今日の仕事は少しだけなので、それが終わったら会長と副会長さんが俺の歓迎会をしてくれるそうです」
「そうなの、良かったわね。じゃあ、先生も暇ができたら覗きに行こうかな」
「是非、来てください」
暇ができたらと言っておきながら絶対に来そうな気がする。
あと、生徒会室で歓迎会をするし、副会長さんもいるので沙奈会長が変なことをすることはないだろう、たぶん。
途中、自販機でボトル缶のコーヒーを買って、生徒会室に向かう。
「お疲れ様で――」
『逢坂玲人君! 月野学園生徒会へようこそ!』
猫耳カチューシャを付けた沙奈会長と、ウサギ耳カチューシャを付けた副会長さんが俺のことを出迎えてくれる。一瞬、入った部屋を間違えたと思ったよ。
「ありがとうございます。その動物のカチューシャも近くのコンビニで買ったんですか?」
「ううん、実は昨日の帰りに買ったんだよ。今日の仕事が全然ないことは昨日の段階で分かっていたし、歓迎会とかやりたいなって思っていたんだ」
「そうだったんですね」
そういえば、今朝に歓迎会をしようと提案したのは会長だったっけ。
「テーブルの上には飲み物やお菓子ばかりで、書類などは一切ありませんけど、仕事はもう終わったんですか?」
「たいした量じゃないから、沙奈ちゃんと一緒に昼休みに終わらせたの。だから、緊急のことが舞い込んで来ない限り、今日はもうのんびり過ごすよ」
「そうですか」
庶務としての仕事を頑張ろうと意気込んでいたんだけれど。まあ、今日くらいは先輩達に甘えて歓迎会を楽しむことにするか。
「それで、どう? 樹里先輩や私のこのカチューシャは似合ってる?」
「……似合っていますよ。可愛い猫さんとウサギさんですね」
スマートフォンで沙奈会長と副会長さんの写真を撮り、その後によしよしと2人の頭を優しく撫でる。すると、会長はもちろんのこと副会長さんも嬉しそうな表情を見せた。
「玲人君は優しくて可愛い男の子だね」
沙奈会長はまるで猫になったかのようにデレデレしながら、俺の胸に頭をすりすりさせてくる。
「ねえ、沙奈ちゃん。今までそうなのかなって思っていたんだけれど、沙奈ちゃんって逢坂君のことが好きなの?」
「もちろんですよ!」
沙奈会長、今までの中で一番いいんじゃないかと思わせる笑みを見せる。副会長さんの前でも俺のことを抱きしめたりすることもあったので、さすがに副会長さんも会長の想いに気付いていたようだ。
「やっぱりね。それで、逢坂君はそんな彼女のことをどう想っているの?」
「いい人だっていうことは分かり始めましたけれど、これまで色々とあったのであまり印象は良くないですかね……」
近頃、頻繁に耳にする忖度なんてことは沙奈会長にはしないぞ。今みたいな言葉を言われる理由は会長自身が一番分かっていることでしょう。
「玲人君って意外と毒舌キャラだったりするの?」
「そんなことありませんよ」
会長、今にも泣きそうなんですけど。キツく言い過ぎちゃったかな。
「告示の紙を勝手に作ったことが響いているのかも。生徒会の仕事とかを通して、逢坂君からの信頼を得られるようにしようね」
「……はい」
副会長さんが知っている限りのことでは、告示の紙を勝手に作成したことが一番の理由だと思うよな。実際にはそれを含めた様々なことが原因となっているのだ。
「じゃあ、気を取り直して乾杯しようか。逢坂君は何にする?」
「コーラがいいですね」
「私が用意するね」
会長、好感度を上げるためなのかさっそく動き始めている。
各々の飲み物を用意したところで、
「じゃあ、玲人君が生徒会に入ったことを祝して、乾杯!」
『乾杯!』
沙奈会長の音頭で俺の歓迎会が始まった。といっても、生徒会室で3人だけでやっているから、普段とあまり変わらない雰囲気だけれど。
「さっそくなんだけど、沙奈ちゃん。逢坂君を好きになったきっかけって何なの?」
「えっ、そ、そうですね……」
沙奈会長は頬を赤くしながらはにかんでいる。
そういえば、きっかけについては全然気にしていなかったな。月曜日に突然、この部屋で縛られてしまい、拘束されている状態で好きであると告白されたから。
「先週、私、ここに来ることなく帰った日があったじゃないですか」
「うん、あったね」
「実は、髪を金色にした態度の悪い新入生がいるっていう話を複数の友達から聞いて。それが玲人君だったんです。なので、彼の様子を探るために、途中までなんですけど彼の後を尾行していたんですよ」
えっ、先週から会長に尾行されていたのか? 全然気付かなかった。
「顔はかっこいいですけど、確かに無愛想な子だなと思いました。でも、玲人君は学校の近くの公園で急に木に登り始めて。少し経ったら、木から落ちて」
「木から落ちてって……俺がノラ猫を助けたときのことですか?」
「うん。そうだよ。木から落ちたときの玲人君は痛がっていたけれど、助けた猫に優しい笑顔を向けた様子を見たときに、まるで私に笑顔を見せてくれたかのようにキュンとなって。そのときの笑顔が玲人君の本当の姿なんだってすぐに分かったよ。それからずっと玲人君のことが好きで、現在進行形で夢中になってる」
えへへっ、とはにかんでいる沙奈会長はとても可愛らしい。
俺があの茶トラ猫を助けた様子を見たことをきっかけに芽生えた恋が色々な方向に膨らんでいき、ついに今週の月曜日になって俺のことを縛り上げたと。
しっかし、あの猫がアリスさんだけでなく、沙奈会長まで引き寄せる結果になるとは。これぞ招き猫と言うのだろうか。
「告白を何度も断った沙奈ちゃんも、何気ないことがきっかけで恋をするんだね」
「……ええ。私に告白してきてくれた人達の気持ちがちょっと分かった気がします」
才色兼備という言葉がよく似合う人だから、そんな彼女に恋心を抱く生徒は結構多そうだ。会長が俺のことを好きだということが広まっても、俺にとってはあまり状況が変わることはないか。
「玲人君、今の話を聞いて私と付き合う気になった?」
「いいえ、まったく」
というか、そもそもきちんとした形で沙奈会長から告白された記憶がない。縛られたときに俺のことが好きだと言われたことはあるけれども。
それに、しばらくの間は恋人として誰とも付き合うつもりはない。
「ううっ……玲人君、手強い」
「沙奈ちゃん、今は逢坂君からの信頼を得ることが大切じゃないかな。それは一緒に生徒会の仕事をしていく上でも重要なことだから」
涙ぐんでいる沙奈会長に副会長さんが優しい笑みを浮かべながらそう言った。副会長さんという人が生徒会にいてくれて本当に良かったと思う。
「まあ、その……沙奈会長と付き合う気は全然ありませんけど、好きになったきっかけを聞いて可愛らしいと思いましたし、好感度もちょっとは上がったので、元気出してください」
今の俺の気持ちをありのままに伝えた。些細なことがきっかけで俺のことが好きになった会長はとても可愛らしいと思う。
「……ありがとう。凄く元気出たよ」
涙を拭って笑みを見せる今の会長も。
その後も好きなお菓子を食べて、好きな飲み物を飲んで。会長に狼のカチューシャを付けさせられて。あと、今日の仕事はもう終わったそうで、途中から松風先生も参加してきた。思ったよりも楽しい歓迎会となったのであった。
今日を乗り切れば週末の2連休が待っている。月曜日に沙奈会長に縛られたときには無事に週末を迎えることができるかどうか不安だったけれど、何とかなりそうだ。
今日も途中の公園で猫と触れ合ってから学校へと向かう。
周りの生徒から変な目で見られてしまうのは相変わらずだけれど、佐藤先輩のおかげなのか、それとも生徒会に入ったからなのか、そんな生徒の数が昨日までと比べてちょっと減ったような気がする。
生徒会室に向かうと、そこには沙奈会長と副会長さんがいた。
「おはようございます」
「おはよう、玲人君」
「おはよう、逢坂君」
沙奈会長の様子からして、昨日、俺がアリスさんと一緒にいたときところは見ていないのかな。
「生徒会の一員になったので、教室じゃなくて生徒会室に来たんですけど、これからも朝は一度、ここに来た方がいいですか?」
「そうだね。一日の仕事内容をみんなで確認したいからね。あと、火曜日の朝みたいに、風紀委員会と一緒に朝の身だしなみチェックをする日もあるの。そのときは今日よりも早く来てもらうことになるから。30分くらい早くなるのかな」
「登校する生徒をチェックしないといけないですもんね。分かりました」
俺がチェックする立場になるのか。この金髪は校則違反じゃないけれど、俺が注意しても言うことを聞かない生徒がいそうだ。この髪の色については一度、考えてみる必要がありそうだな。
「身だしなみチェックの日は分かり次第、私か沙奈ちゃんが伝えるよ」
「分かりました」
「だけど、今日は玲人君のことをチェック……」
沙奈会長は俺の着る制服の匂いを嗅いでいる。あれか? 匂いを嗅いで女性と関わっていないかどうか調べているのかな。
「……OK。何か、昨日嗅いだ2人のうちの1人の匂いが強くなっているけれど」
「ああ、姉さんですね、それ。昨日も帰ってきたときに抱きしめられたので」
「随分と弟想いのお姉さんなのね」
「……ええ」
一昨日、一緒にお風呂に入ったことは話さないでおこう。
あと、アリスさんの匂いは感じなかったのか。思い返せば、彼女の髪は撫でたけれど抱きしめたり、彼女に腕を絡められたりしたことはないから匂いはつかないのかな。
「ねえ、玲人君。今、私以外の女の子のことを考えていたでしょう」
「知り合いの女性の顔を思い浮かべていましたけど、その人は友人ですよ」
そう言って、昨日、アリスさんにしてあげたように沙奈会長の頭を優しく撫でる。
すると、鋭い視線が段々と柔らかいものになっていく。
「今回は玲人君のことを信じるよ」
「沙奈会長に信じてもらえて嬉しいです」
疑り深いところがありそうだけれど、しっかりと話せば沙奈会長はきちんと信じてくれるのかな。
「凄いね、逢坂君。さっそく沙奈ちゃんの扱い方をマスターしてる」
「……これまでに色々とありましたからね」
束縛されたり、執拗に連絡されたり、家の前まで押しかけられたり、こっちが嫌がっているのに勝手に告示の紙を作ったり。これに並ぶことがこれからも起こるかもしれないと思うと段々と気分が重くなってきたぞ。
「大丈夫? 逢坂君、具合が悪かったら無理しなくていいんだよ?」
「そうだよ。私が家まで行って、週末はずっと看病してあげるから」
「お気持ちだけで十分です。というか、別に具合は悪くなっていませんよ」
会長が家にいると思うと、治る病気も治らなくなっちゃいそうな気がする。むしろ、悪化してしまう可能性も。
「それならいいけれど。じゃあ、玲人君、樹里先輩。今日の生徒会の活動について確認しましょうか」
「そうだね。といっても、今日までにやらないといけない仕事もないし、期限が近くて大変な仕事もないよね」
「ええ。雑務はありますので、今日の放課後はそれを手早く終わらせて、あとは玲人君の歓迎会をしようかなと」
歓迎会か。そういえば、先週の金曜日は父親が今年の新入社員の歓迎会で帰りが遅かったな。まさか、俺が誰かに歓迎される立場になるとは。
「おっ、いいね! この部屋でやる? それともどこかお店に行く?」
「そうですね……どっちがいい? 玲人君」
「やってくれるというお気持ちで十分に嬉しいので……じゃあ、お金があまりかからない方で」
「お金がかからないってことは……ここで歓迎会しますか」
「じゃあ、お昼休みに、近くのコンビニへ飲み物やお菓子を買いに行こうか、沙奈ちゃん」
「そうですね」
沙奈会長と副会長さん、やる気満々だな。生徒会室でやることになったし、盛り上がりすぎて変なことにならなければいいけれど。
期待とほんの少しの不安を抱きながら、今日の授業を受ける。
生徒会の一員になったので、クラスメイトからは今まで以上に注目を浴びることに。ただし、担任の松風先生以外から話しかけられることはなかった。昼休みは会長と副会長さんが買い出しに行くということなので、俺は教室で過ごした。
あっという間に放課後になる。
「逢坂君、生徒会の仕事を頑張ってね」
「はい。今日の仕事は少しだけなので、それが終わったら会長と副会長さんが俺の歓迎会をしてくれるそうです」
「そうなの、良かったわね。じゃあ、先生も暇ができたら覗きに行こうかな」
「是非、来てください」
暇ができたらと言っておきながら絶対に来そうな気がする。
あと、生徒会室で歓迎会をするし、副会長さんもいるので沙奈会長が変なことをすることはないだろう、たぶん。
途中、自販機でボトル缶のコーヒーを買って、生徒会室に向かう。
「お疲れ様で――」
『逢坂玲人君! 月野学園生徒会へようこそ!』
猫耳カチューシャを付けた沙奈会長と、ウサギ耳カチューシャを付けた副会長さんが俺のことを出迎えてくれる。一瞬、入った部屋を間違えたと思ったよ。
「ありがとうございます。その動物のカチューシャも近くのコンビニで買ったんですか?」
「ううん、実は昨日の帰りに買ったんだよ。今日の仕事が全然ないことは昨日の段階で分かっていたし、歓迎会とかやりたいなって思っていたんだ」
「そうだったんですね」
そういえば、今朝に歓迎会をしようと提案したのは会長だったっけ。
「テーブルの上には飲み物やお菓子ばかりで、書類などは一切ありませんけど、仕事はもう終わったんですか?」
「たいした量じゃないから、沙奈ちゃんと一緒に昼休みに終わらせたの。だから、緊急のことが舞い込んで来ない限り、今日はもうのんびり過ごすよ」
「そうですか」
庶務としての仕事を頑張ろうと意気込んでいたんだけれど。まあ、今日くらいは先輩達に甘えて歓迎会を楽しむことにするか。
「それで、どう? 樹里先輩や私のこのカチューシャは似合ってる?」
「……似合っていますよ。可愛い猫さんとウサギさんですね」
スマートフォンで沙奈会長と副会長さんの写真を撮り、その後によしよしと2人の頭を優しく撫でる。すると、会長はもちろんのこと副会長さんも嬉しそうな表情を見せた。
「玲人君は優しくて可愛い男の子だね」
沙奈会長はまるで猫になったかのようにデレデレしながら、俺の胸に頭をすりすりさせてくる。
「ねえ、沙奈ちゃん。今までそうなのかなって思っていたんだけれど、沙奈ちゃんって逢坂君のことが好きなの?」
「もちろんですよ!」
沙奈会長、今までの中で一番いいんじゃないかと思わせる笑みを見せる。副会長さんの前でも俺のことを抱きしめたりすることもあったので、さすがに副会長さんも会長の想いに気付いていたようだ。
「やっぱりね。それで、逢坂君はそんな彼女のことをどう想っているの?」
「いい人だっていうことは分かり始めましたけれど、これまで色々とあったのであまり印象は良くないですかね……」
近頃、頻繁に耳にする忖度なんてことは沙奈会長にはしないぞ。今みたいな言葉を言われる理由は会長自身が一番分かっていることでしょう。
「玲人君って意外と毒舌キャラだったりするの?」
「そんなことありませんよ」
会長、今にも泣きそうなんですけど。キツく言い過ぎちゃったかな。
「告示の紙を勝手に作ったことが響いているのかも。生徒会の仕事とかを通して、逢坂君からの信頼を得られるようにしようね」
「……はい」
副会長さんが知っている限りのことでは、告示の紙を勝手に作成したことが一番の理由だと思うよな。実際にはそれを含めた様々なことが原因となっているのだ。
「じゃあ、気を取り直して乾杯しようか。逢坂君は何にする?」
「コーラがいいですね」
「私が用意するね」
会長、好感度を上げるためなのかさっそく動き始めている。
各々の飲み物を用意したところで、
「じゃあ、玲人君が生徒会に入ったことを祝して、乾杯!」
『乾杯!』
沙奈会長の音頭で俺の歓迎会が始まった。といっても、生徒会室で3人だけでやっているから、普段とあまり変わらない雰囲気だけれど。
「さっそくなんだけど、沙奈ちゃん。逢坂君を好きになったきっかけって何なの?」
「えっ、そ、そうですね……」
沙奈会長は頬を赤くしながらはにかんでいる。
そういえば、きっかけについては全然気にしていなかったな。月曜日に突然、この部屋で縛られてしまい、拘束されている状態で好きであると告白されたから。
「先週、私、ここに来ることなく帰った日があったじゃないですか」
「うん、あったね」
「実は、髪を金色にした態度の悪い新入生がいるっていう話を複数の友達から聞いて。それが玲人君だったんです。なので、彼の様子を探るために、途中までなんですけど彼の後を尾行していたんですよ」
えっ、先週から会長に尾行されていたのか? 全然気付かなかった。
「顔はかっこいいですけど、確かに無愛想な子だなと思いました。でも、玲人君は学校の近くの公園で急に木に登り始めて。少し経ったら、木から落ちて」
「木から落ちてって……俺がノラ猫を助けたときのことですか?」
「うん。そうだよ。木から落ちたときの玲人君は痛がっていたけれど、助けた猫に優しい笑顔を向けた様子を見たときに、まるで私に笑顔を見せてくれたかのようにキュンとなって。そのときの笑顔が玲人君の本当の姿なんだってすぐに分かったよ。それからずっと玲人君のことが好きで、現在進行形で夢中になってる」
えへへっ、とはにかんでいる沙奈会長はとても可愛らしい。
俺があの茶トラ猫を助けた様子を見たことをきっかけに芽生えた恋が色々な方向に膨らんでいき、ついに今週の月曜日になって俺のことを縛り上げたと。
しっかし、あの猫がアリスさんだけでなく、沙奈会長まで引き寄せる結果になるとは。これぞ招き猫と言うのだろうか。
「告白を何度も断った沙奈ちゃんも、何気ないことがきっかけで恋をするんだね」
「……ええ。私に告白してきてくれた人達の気持ちがちょっと分かった気がします」
才色兼備という言葉がよく似合う人だから、そんな彼女に恋心を抱く生徒は結構多そうだ。会長が俺のことを好きだということが広まっても、俺にとってはあまり状況が変わることはないか。
「玲人君、今の話を聞いて私と付き合う気になった?」
「いいえ、まったく」
というか、そもそもきちんとした形で沙奈会長から告白された記憶がない。縛られたときに俺のことが好きだと言われたことはあるけれども。
それに、しばらくの間は恋人として誰とも付き合うつもりはない。
「ううっ……玲人君、手強い」
「沙奈ちゃん、今は逢坂君からの信頼を得ることが大切じゃないかな。それは一緒に生徒会の仕事をしていく上でも重要なことだから」
涙ぐんでいる沙奈会長に副会長さんが優しい笑みを浮かべながらそう言った。副会長さんという人が生徒会にいてくれて本当に良かったと思う。
「まあ、その……沙奈会長と付き合う気は全然ありませんけど、好きになったきっかけを聞いて可愛らしいと思いましたし、好感度もちょっとは上がったので、元気出してください」
今の俺の気持ちをありのままに伝えた。些細なことがきっかけで俺のことが好きになった会長はとても可愛らしいと思う。
「……ありがとう。凄く元気出たよ」
涙を拭って笑みを見せる今の会長も。
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