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本編
第17話『アルバム』
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喫茶店でお昼ご飯を食べ、俺達は真っ直ぐ家に帰ることに。
途中、公園でアリスさんに会えるかと思って立ち寄ってみたけれど、今日も彼女の姿はなかった。2日連続で会えないとなると、彼女も故郷の国に帰ったの可能性がありそうだ。
琴葉のお見舞いに行き、美味しいお昼ご飯を一緒に食べたので、今日はもう十分だと思って家に帰ってくれるかもしれないと思っていた。
しかし、そんな俺の読みは甘いもので。
「今日は泊まりつもりで玲人君のお家に来たんだもん! 帰るわけがないじゃない!」
むしろ、お見舞いに行ったことを通じて一緒にいたい気持ちがより強くなったようで、帰ることはおろか、今夜は俺の部屋で寝泊まりすると言い出した。これも想定内だけれど、実際にそうなると正直げんなりする。
「会長。変なことはしないって約束できますか」
「しません!」
「……本当ですね?」
「……努力します」
どうやら、絶対にしないという約束はできないようで。それでも、努力しますって言われるとあまり悪い気はしないから不思議だ。
ここで沙奈会長を追い返しても後々面倒なことになりそうなので、
「分かりました。いいですよ、俺の部屋で寝ても」
「ありがとう、玲人君!」
会長は嬉しそうな表情を浮かべながらお礼を言った。興奮しすぎて彼女が暴走しないように俺がしっかりと監視しないと。
「そういえば、会長は外泊することを御両親から許可はもらっているんですか? 後輩の男子の家に泊まるんですよ」
「もちろん許可はもらってきたよ! 大好きな人の家に泊まってくることを。だから、こうして大きめの荷物を持ってきたんじゃない」
「……なるほど」
沙奈会長の親御さんはよく許可を出したな。それだけ会長の説得が上手だったのか。それとも、俺のことが大好きな気持ちが強すぎて御両親が何も言えなくなったのか。何にせよ、許可をもらっていることが分かって一安心だ。
「でも、本当に泊まっていいのかな」
「えっ?」
「その……恩田さんと一緒にいるときの玲人君を見ていたら、2人は凄く親密な感じがして。もしかして、恩田さんのことが好きなの? 彼女と恋人として付き合っているの?」
会長はいつものように恐ろしい様子ではなく、汐らしい様子で訊いてくる。琴葉を考えることができるなら、どうしてさっきまで強引に俺の部屋で寝泊まりしたいって言ってきたんだろうか。
ただ、ここで正直に答えないと、会長は俺の部屋で過ごす時間を思う存分楽しむことはできないだろう。
「琴葉が俺に抱いている本当の気持ちは分かりません。ただ、俺にとって琴葉は仲のいい幼なじみです。恋人として付き合ってはいません。女性という意味で好意も抱いていないです。ですから、会長が俺の部屋で寝泊まりしても問題はないかと思います」
ただ、中学のときの琴葉の様子を思い返せば……きっと、琴葉は沙奈会長と同じなんじゃないかと思っている。俺の勘違いかもしれないけれど。
「分かった。今の玲人君の話を聞いて安心した。ただ、節度を持って玲人君との時間を楽しく過ごそうと思う」
「……そうですか」
沙奈会長が「節度を持って」という言葉を言ってくれるなんて。これにはさすがに感動してしまった。
「それで、玲人君ってえっちな本は持っているの? 玲人君の部屋に来たら色々と物色したいと思っていてさ。もしあるなら、今後の参考にしたいと思ってね」
感動した俺が馬鹿だったよ。この人、節度って言葉を一瞬にして捨てたな。
「成人向けの本はありませんね。恋愛漫画とか小説でそういったシーンが過激に描写されている一般向け作品は何冊か持っていますが」
「……ふうん、何だか玲人君らしいね」
会長、ニヤニヤとした笑みを浮かべて。あと、俺らしいってどういうことなのか。そもそも、俺の言ったことを信じてくれているのか。
「物色は止めておくよ。ここに来るのは今日だけじゃないから」
「今後も来るつもりなんですね」
「当たり前じゃない! 好きな人の家だもん。ところで、玲人君。玲人君さえよければ、アルバムを見てみたいな。小さい頃の玲人君や恩田さんの姿を見てみたくて」
「ええ、いいですよ」
本棚からアルバムを取り出す。そういえば、アルバムを見るのは何年ぶりだろう。前の家でも、こうしていつでも手に取れる場所に置いておいたけれど。
「これですね。俺の写真が中心ですけど、家族や琴葉が写っている写真もあります」
「そうなんだ。早く早く!」
俺は会長と一緒にアルバムを見始める。
髪を初めて金色に染めてから20日ちょっとしか経っていないのに、写真に写っている黒髪の自分が別人のように思える。
「うわあ、玲人君かわいい。髪の黒い玲人君もいいなぁ」
会長が喜んで見てくれている。アルバムを見せた甲斐があったな。
「幼い頃のお姉様も恩田さんもかわいい。こんなに昔から玲人君と一緒にいられるなんて羨ましいな……」
いいなぁ、と会長はうっとりとした表情になる。
ただ、こうして幼い自分の姿を写真で見ると、恥ずかしい気持ちになってくるな。
「それにしても、琴葉……可愛いな」
出会った頃は幼稚園のときだったかな。家が近所だったこともあって、琴葉とは現在まで家族ぐるみの付き合いをしている。
この写真に写っているような笑みを琴葉はずっと見せていたのに。本当に……あの一瞬とも言える出来事さえなければ、琴葉も一緒にアルバムを見ていたかもしれない。
「玲人君、どうしたの? 顔色があまり良くないけれど」
「久しぶりにアルバムを見たので、色々なことを思い出してしまって。アルバムには良い思い出ばかりが残りますけど、記憶には悪い思い出の方が残りやすいですから」
「確かに、それは言えるかもしれないわね。ただ、そんな悪い思い出もいつかは笑えるようになるといいよね。どうしても笑えないことはもちろんあるだろうけど」
「……そうですね。ただ、アルバムを出して良かったですよ。まさか、会長がここまで楽しそうに見てくれるとは思わなくて」
「ふふっ。でも、好きな人の小さい頃の姿って、一度は見てみたくならない?」
「その気持ちは……分からなくはないです」
沙奈会長のことは別に好きじゃないけれど、小さい頃からこんな性格だったのかは興味があるな。
「あれ、アルバム見ているんだ」
気付けば、姉さんが部屋の中に入ってきており、俺の隣でアルバムを見る。
「小さい頃の玲人君、とても可愛いですよね」
「うんうん! あたしが小学生の頃は琴葉ちゃんや友達と一緒に、玲人のことをよく弄ってたなぁ」
琴葉だけが遊びに来ていたときは平和だけれど、姉さんの友達が遊びに来たときは色々と付き合わされていたっけ。おもちゃにされていたと言っても過言ではない。
「そうだ、あたしの部屋にもアルバムがあるから持ってくるね」
「是非、見てみたいです! お願いします!」
「うん、ちょっと待っててね」
姉さんの持っているアルバムにはどんな写真があったかな。何度か見せてもらったことはあるけれど、昔のことなので全然覚えていない。
「玲人君って昔から美少年だよね。小学校低学年くらいまでなら女の子の服も似合いそうなくらいに可愛いよ」
「……あっ!」
今の会長の言葉をきっかけに、昔のことを段々と思い出してきた。それと同時に、姉さんのアルバムを会長に見せてはまずいような気がしてきたぞ。
「アルバム持ってきたよ、玲奈ちゃん」
「ありがとうございます!」
「姉さん、俺のアルバムはここにあるんだし、もう十分じゃない?」
「多少の被りはあるかもしれないけれど、あたしのアルバムにも玲人や琴葉ちゃんの写っている写真は結構あるよ。……あっ、もしかして」
何か心当たりがあるのか、姉さんは俺に向かってニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。
「あたしの服を着た姿の写真を沙奈ちゃんに見られるのが嫌なの?」
「それだ! 今すぐに燃やそう!」
思い出したぞ。似合いそうだからって、定期的に姉さんの服を着させられたんだ。馬鹿にされたことはなかったけれど、携帯やデジカメで写真を撮られたりして恥ずかしかった。
「燃やすことないよ。凄く似合ってたよ」
「馬鹿にして笑ったりしないから、とりあえず一度見させてくれるかな、玲人君」
「……絶対に笑わないでくださいね」
どういう写真だったかは思い出さないでおこう。羞恥心を抱いてしまうだけだ。
沙奈会長は姉さんと一緒にアルバムを見ている。今頃、姉さんの服を着た俺の写真も見ているんだろう。馬鹿にされたら嫌だなぁ。
「玲人君」
「何ですか?」
「……今でも十分いけると思うよ。今度、一緒に女子の制服着てみる?」
「絶対に着ませんから!」
女の子の服装がそんなにも似合っていたのだろうか。それにしても、このことで沙奈会長に弱みを一つ握られてしまったように思えるのは気のせいかな。
さっき、アルバムには良い思い出ばかりが残ると沙奈会長に言った。ただ、同じ写真でも微笑ましい思い出となる人もいれば、恥ずかしい思い出となってしまう人もいる。そんなことを思い知らされた土曜の午後なのであった。
途中、公園でアリスさんに会えるかと思って立ち寄ってみたけれど、今日も彼女の姿はなかった。2日連続で会えないとなると、彼女も故郷の国に帰ったの可能性がありそうだ。
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しかし、そんな俺の読みは甘いもので。
「今日は泊まりつもりで玲人君のお家に来たんだもん! 帰るわけがないじゃない!」
むしろ、お見舞いに行ったことを通じて一緒にいたい気持ちがより強くなったようで、帰ることはおろか、今夜は俺の部屋で寝泊まりすると言い出した。これも想定内だけれど、実際にそうなると正直げんなりする。
「会長。変なことはしないって約束できますか」
「しません!」
「……本当ですね?」
「……努力します」
どうやら、絶対にしないという約束はできないようで。それでも、努力しますって言われるとあまり悪い気はしないから不思議だ。
ここで沙奈会長を追い返しても後々面倒なことになりそうなので、
「分かりました。いいですよ、俺の部屋で寝ても」
「ありがとう、玲人君!」
会長は嬉しそうな表情を浮かべながらお礼を言った。興奮しすぎて彼女が暴走しないように俺がしっかりと監視しないと。
「そういえば、会長は外泊することを御両親から許可はもらっているんですか? 後輩の男子の家に泊まるんですよ」
「もちろん許可はもらってきたよ! 大好きな人の家に泊まってくることを。だから、こうして大きめの荷物を持ってきたんじゃない」
「……なるほど」
沙奈会長の親御さんはよく許可を出したな。それだけ会長の説得が上手だったのか。それとも、俺のことが大好きな気持ちが強すぎて御両親が何も言えなくなったのか。何にせよ、許可をもらっていることが分かって一安心だ。
「でも、本当に泊まっていいのかな」
「えっ?」
「その……恩田さんと一緒にいるときの玲人君を見ていたら、2人は凄く親密な感じがして。もしかして、恩田さんのことが好きなの? 彼女と恋人として付き合っているの?」
会長はいつものように恐ろしい様子ではなく、汐らしい様子で訊いてくる。琴葉を考えることができるなら、どうしてさっきまで強引に俺の部屋で寝泊まりしたいって言ってきたんだろうか。
ただ、ここで正直に答えないと、会長は俺の部屋で過ごす時間を思う存分楽しむことはできないだろう。
「琴葉が俺に抱いている本当の気持ちは分かりません。ただ、俺にとって琴葉は仲のいい幼なじみです。恋人として付き合ってはいません。女性という意味で好意も抱いていないです。ですから、会長が俺の部屋で寝泊まりしても問題はないかと思います」
ただ、中学のときの琴葉の様子を思い返せば……きっと、琴葉は沙奈会長と同じなんじゃないかと思っている。俺の勘違いかもしれないけれど。
「分かった。今の玲人君の話を聞いて安心した。ただ、節度を持って玲人君との時間を楽しく過ごそうと思う」
「……そうですか」
沙奈会長が「節度を持って」という言葉を言ってくれるなんて。これにはさすがに感動してしまった。
「それで、玲人君ってえっちな本は持っているの? 玲人君の部屋に来たら色々と物色したいと思っていてさ。もしあるなら、今後の参考にしたいと思ってね」
感動した俺が馬鹿だったよ。この人、節度って言葉を一瞬にして捨てたな。
「成人向けの本はありませんね。恋愛漫画とか小説でそういったシーンが過激に描写されている一般向け作品は何冊か持っていますが」
「……ふうん、何だか玲人君らしいね」
会長、ニヤニヤとした笑みを浮かべて。あと、俺らしいってどういうことなのか。そもそも、俺の言ったことを信じてくれているのか。
「物色は止めておくよ。ここに来るのは今日だけじゃないから」
「今後も来るつもりなんですね」
「当たり前じゃない! 好きな人の家だもん。ところで、玲人君。玲人君さえよければ、アルバムを見てみたいな。小さい頃の玲人君や恩田さんの姿を見てみたくて」
「ええ、いいですよ」
本棚からアルバムを取り出す。そういえば、アルバムを見るのは何年ぶりだろう。前の家でも、こうしていつでも手に取れる場所に置いておいたけれど。
「これですね。俺の写真が中心ですけど、家族や琴葉が写っている写真もあります」
「そうなんだ。早く早く!」
俺は会長と一緒にアルバムを見始める。
髪を初めて金色に染めてから20日ちょっとしか経っていないのに、写真に写っている黒髪の自分が別人のように思える。
「うわあ、玲人君かわいい。髪の黒い玲人君もいいなぁ」
会長が喜んで見てくれている。アルバムを見せた甲斐があったな。
「幼い頃のお姉様も恩田さんもかわいい。こんなに昔から玲人君と一緒にいられるなんて羨ましいな……」
いいなぁ、と会長はうっとりとした表情になる。
ただ、こうして幼い自分の姿を写真で見ると、恥ずかしい気持ちになってくるな。
「それにしても、琴葉……可愛いな」
出会った頃は幼稚園のときだったかな。家が近所だったこともあって、琴葉とは現在まで家族ぐるみの付き合いをしている。
この写真に写っているような笑みを琴葉はずっと見せていたのに。本当に……あの一瞬とも言える出来事さえなければ、琴葉も一緒にアルバムを見ていたかもしれない。
「玲人君、どうしたの? 顔色があまり良くないけれど」
「久しぶりにアルバムを見たので、色々なことを思い出してしまって。アルバムには良い思い出ばかりが残りますけど、記憶には悪い思い出の方が残りやすいですから」
「確かに、それは言えるかもしれないわね。ただ、そんな悪い思い出もいつかは笑えるようになるといいよね。どうしても笑えないことはもちろんあるだろうけど」
「……そうですね。ただ、アルバムを出して良かったですよ。まさか、会長がここまで楽しそうに見てくれるとは思わなくて」
「ふふっ。でも、好きな人の小さい頃の姿って、一度は見てみたくならない?」
「その気持ちは……分からなくはないです」
沙奈会長のことは別に好きじゃないけれど、小さい頃からこんな性格だったのかは興味があるな。
「あれ、アルバム見ているんだ」
気付けば、姉さんが部屋の中に入ってきており、俺の隣でアルバムを見る。
「小さい頃の玲人君、とても可愛いですよね」
「うんうん! あたしが小学生の頃は琴葉ちゃんや友達と一緒に、玲人のことをよく弄ってたなぁ」
琴葉だけが遊びに来ていたときは平和だけれど、姉さんの友達が遊びに来たときは色々と付き合わされていたっけ。おもちゃにされていたと言っても過言ではない。
「そうだ、あたしの部屋にもアルバムがあるから持ってくるね」
「是非、見てみたいです! お願いします!」
「うん、ちょっと待っててね」
姉さんの持っているアルバムにはどんな写真があったかな。何度か見せてもらったことはあるけれど、昔のことなので全然覚えていない。
「玲人君って昔から美少年だよね。小学校低学年くらいまでなら女の子の服も似合いそうなくらいに可愛いよ」
「……あっ!」
今の会長の言葉をきっかけに、昔のことを段々と思い出してきた。それと同時に、姉さんのアルバムを会長に見せてはまずいような気がしてきたぞ。
「アルバム持ってきたよ、玲奈ちゃん」
「ありがとうございます!」
「姉さん、俺のアルバムはここにあるんだし、もう十分じゃない?」
「多少の被りはあるかもしれないけれど、あたしのアルバムにも玲人や琴葉ちゃんの写っている写真は結構あるよ。……あっ、もしかして」
何か心当たりがあるのか、姉さんは俺に向かってニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。
「あたしの服を着た姿の写真を沙奈ちゃんに見られるのが嫌なの?」
「それだ! 今すぐに燃やそう!」
思い出したぞ。似合いそうだからって、定期的に姉さんの服を着させられたんだ。馬鹿にされたことはなかったけれど、携帯やデジカメで写真を撮られたりして恥ずかしかった。
「燃やすことないよ。凄く似合ってたよ」
「馬鹿にして笑ったりしないから、とりあえず一度見させてくれるかな、玲人君」
「……絶対に笑わないでくださいね」
どういう写真だったかは思い出さないでおこう。羞恥心を抱いてしまうだけだ。
沙奈会長は姉さんと一緒にアルバムを見ている。今頃、姉さんの服を着た俺の写真も見ているんだろう。馬鹿にされたら嫌だなぁ。
「玲人君」
「何ですか?」
「……今でも十分いけると思うよ。今度、一緒に女子の制服着てみる?」
「絶対に着ませんから!」
女の子の服装がそんなにも似合っていたのだろうか。それにしても、このことで沙奈会長に弱みを一つ握られてしまったように思えるのは気のせいかな。
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