桜庭かなめ

文字の大きさ
20 / 118
本編

第19話『ナイトベッド』

しおりを挟む
「やっぱり、レイ君は生徒会長さんと付き合っているんだね」

 中学の制服姿の琴葉は悲しげな表情をして、僕にそう言ってきた。

「違うんだ、これは……」
「だって、会長さんがレイ君の家に泊まりに来て、一緒に寝ているじゃない」
「……琴葉だって昔は家に泊まりに来て、僕と一緒に寝たじゃないか」
「……そうだったね」

 琴葉は苦笑いをして、視線をちらつかせている。天然なところがあるからな。

「でも、それはお互いに幼い頃の話! 今はレイ君も会長さんも高校生同士じゃない! レイ君だって会長さんのことを意識せざるを得ないって言っていたし……」
「……言ったな、確かに」

 昔は幼なじみということもあり、姉さんと一緒に寝ることも多かったためか、琴葉のことを女性というよりは友人のように感じていた。

「もう、レイ君にとってあたしはいなくてもいい存在なんだね」
「そんなことない!」
「……でも、レイ君があの会長さんと一緒にいるなんて嫌だ」

 気付けば、十字架に張り付けられている沙奈会長がいた。月野学園の制服を着ている。しかし、会長は意識を失っているようだ。

「彼女なんていなくなっちゃえばいいよ」

 琴葉のその言葉が合図だったのか、沙奈会長を張り付けた十字架は勢いよく燃え出す。その炎は会長のことを包み込んでゆく。

「沙奈会長!」

 くそっ、体が動かない! 沙奈会長のことを助けなければいけないのに。

「じゃあね、レイ君。これがあの時についてのあたしからの処罰だよ」

 そう言って、琴葉はすっと遠くへと消えていき、沙奈会長も炎に包まれて姿が見えなくなってしまったのであった。



「はあっ、はあっ……」

 気付いたときには真っ暗で何も見えなかったけれど、暗さに慣れ、窓の方から注がれる月光によってうっすらと天井が見えるようになった。

「夢だったのか……」

 あんな夢を見てしまうなんて。この前以上に息苦しい。
 俺のすぐ近くで可愛らしい寝息が聞こえてくるけれど、沙奈会長が側にいることを確かめたくてベッドライトを点ける。

「玲人君、えへへっ……」

 沙奈会長は寝る前と同じように俺に腕枕をしながら、幸せそうに眠っていた。そのことにとても安心する。
 部屋の壁に掛かっている時計を見ると、まだ午前2時半過ぎか。

「ううん……」

 ベッドライトが眩しかったのか、会長が目を覚ましてしまった。

「れいと……くん?」
「ごめんなさい、目を覚まさせてしまいましたね」
「それは別にいいんだけれど、どうしたの? こんな時間に目を覚まして。あっ、もしかして……私に色々としたくなっちゃったのかな? それとも、もうしちゃったのかな?」

 ニヤニヤしながらそう言うと、沙奈会長は自分の体を触っている。むしろ、会長の方が俺の寝ている間に何かしてきそうだけれど。

「何もしていませんよ。ただ、目を覚ましたから会長の様子を見ただけです。ちゃんと寝ているのかなって」
「玲人君が寝てから15分くらいで寝たよ。その間に玲人君に頭をすりすりさせたり、頬にキスをしたり、匂いを堪能したり、寝顔の写真を撮ったりしたけれどね。決してやましいことはしていないから安心して」

 そこまで言われたら普通は安心できないだろ。
 ただ、匂いを嗅がれて、キスをされて、寝顔を撮影されて……俺、よく今まで目が覚めなかったな。まさか、あんな夢を見てしまった原因は……さすがに違うか。

「けほっ、けほっ」
「大丈夫ですか」

 沙奈会長が咳き込んでいるところは、学校でも何度も見たけれど。

「私、病気には全然ならないんだけれどね。生徒会の仕事の疲れが気付かないうちに溜まって、今になって体に影響が出ちゃっているのかも」
「無理はしないでくださいね」
「うん。それに、玲人君が生徒会に入ってくれたし。月曜日から、樹里先輩と一緒に少しずつ仕事を教えていくからね」
「分かりました」

 会長と副会長の2人体制でやるというのはさすがにキツいと思う。沙奈会長と副会長さんの負担が少しでも減るように頑張らなければ。

「それにしても、まだ2時半過ぎなんだね。まだまだ夜中だし、体を使ってコミュニケーションを取ってみる? 何だったら、コネクションしちゃう?」
「いえ、結構です。それに、沙奈会長が俺の隣でぐっすり眠っているのを見ることができたので十分なんです」
「……そっか。玲人君、もしかして何か悪い夢でも見ちゃった?」
「……そうですね」

 ただ、沙奈会長が十字架に張り付けられ、その上に火あぶりにされてしまったという夢の内容は言えない。どうして、こういう夢だけは鮮明に覚えてしまっているのだろう。

「そっか……」

 そう呟くと、沙奈会長は俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。

「もし、私のせいで悪い夢を見ちゃったらごめんね。こうしていれば、少しは安心できると思うよ」

 ちょうど目のあたりに沙奈会長の柔らかな胸が当たる。ただ、そんな胸も豊満なことが幸いし、何とか呼吸することができている。息を吸う度に彼女の甘い匂いを強く感じてしまうけれど。

「昔、泣いたり怒ったりしたときに、お母さんがこうやってぎゅっと抱きしめてくれて。そうすると、不思議と気持ちが安らぐんだよね。お母さんの匂いや柔らかさを感じられたからなのかな……」

 昔、姉さんや琴葉がご機嫌斜めのときに、俺のことをぎゅっと抱きしめることがあった。大抵の場合、抱きしめた後はとても機嫌が良くなっていたな。

「私もお母さんの真似で、小さい頃、妹が泣いているときによく抱きしめてた。あと、喧嘩しちゃったときも」
「……会長、妹がいたんですね」
「うん、3歳年下の妹が1人いるよ。大人しい性格だけれど、可愛い自慢の妹なんだ」

 会長に似て活発な妹さんかと思ったら大人しい子なのか。ただ、沙奈会長と一緒で好意を抱く相手には物凄く積極的になるかもしれない。

「玲人君、どうかな。少しは落ち着いた?」
「急に抱きしめられたので驚きましたけど……多少は」
「そっか、良かった。玲人君がお望みなら、私のおっぱいをもっと堪能してくれてもいいんだよ? ミルクは出ないけれど」
「遠慮しておきますよ」

 まったく、沙奈会長はすぐにイチャイチャの方向に持っていくんだから。ただ、彼女にとっては、好きな人と過ごす初めての夜だから気持ちが高ぶっているのかも。

「そんな、遠慮しなくていいんだよっ!」

 沙奈会長はさらにぎゅっと抱きしめてくる。
 それに抵抗しようともがいているうちに、

「れ、玲人君……」

 沙奈会長のことを押し倒したような体勢になってしまった。しかも、会長の寝間着のボタンがいくつも外れた状態で。

「……好きな場所から味わってくれていいよ、玲人君」
「何もしませんよ」
「遠慮しなくていいのに」

 そう言うと、会長は再び俺のことを抱きしめてきて、脚も絡ませてくる。そのことでお互いの体の前面が密着する形となる。会長の力が思いの外に強いので、この体勢を解くことができない。

「あぁ、玲人君はやっぱりいいな。もう一生離したくない気分だよ」
「そう思っていただけるのは幸せですけど、ここまで力強くぎゅっとされると気分が悪くなってくるんですが……」
「本当に?」
「本当ですって」

 会長の大きな胸がクッション代わりになっていて、痛みとかはあまりないけれど。

「じゃあ、私のことをお姉ちゃんって言ってくれたら離してあげる」

 お姉ちゃんって、小学生くらいまでしか言っていないな。今は姉さんのことは姉さんって呼んでいるし。会長にも妹がいるから、年下の俺にも同じように言ってほしいのだろう。

「沙奈お姉ちゃん。お願いだから、俺のことを解放してください」

 会長のことを見つめながらそう言う。やっぱり恥ずかしいな。真夜中で良かったよ。姉さんがいる前だったら今すぐにここから逃げてる。

「……分かったよ、玲人君」

 沙奈会長は満足そうな表情をして抱擁を解いてくれた。
 再び俺達は仰向けになり、寄り添うような体勢に。

「お姉ちゃんって言ったときの玲人君、とても可愛かったよ。でも、玲人君には弟じゃなくて夫になってほしいな」

 言葉は違うけれど、伝えたい気持ちは前からずっと変わっていない。そこまで強い気持ちを抱き続けているところは尊敬する。

「そうですか。今のところ、俺は沙奈会長を姉や妻にする気はないですけどね」
「妻っていう響きいいね。妻になりたーい」

 沙奈会長はニヤニヤしている。きっと、今の俺の言葉は聞き流したのだろう。

「会長と話していたら眠くなってきました」
「そっか。じゃあ、また悪い夢を見たときには私が助けに行くからね」
「お気持ちだけ受け取っておきます」

 さっき見た夢では沙奈会長が火に包まれてしまったけど。ただ、会長だったらそのくらいのことでは死なないかもしれない。

「おやすみなさい、会長」
「うん。おやすみ、玲人君」

 沙奈会長は俺の頬にキスをしてきた。
 もう、さっきのような辛い夢は見たくないな。
 ベッドライトを消し、沙奈会長の温もりや匂いに安心感を抱きつつ、俺は再び眠りにつくのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...