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本編
第46話『告発』
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「なるほど。そうですか……」
時々、羽賀さん達は分からないところを訊くことはあったけれど、真剣な様子でして僕の話を聞いてくれた。
「羽賀さん、今の玲人さんの話をまとめました」
「ありがとうございます、浅野さん」
「しかし、こうして文字に書き起こしてみると、氷室さんが誤認逮捕されてしまった2年前の事件に似ているところがありますよね」
「特に背景は似ていますね。1人の女子生徒が、クラスメイトにいじめられていたということが。そして、首謀者と言える生徒が事件に関わっていたこと。僕の場合は、いじめられていた子の父親と一緒に学校に行って、学校側にいじめの事実を認めさせましたけど。複数の証拠が手に入ったというのもありますが」
氷室さん、穏やかな雰囲気の方なのに結構な行動派なんだな。琴葉のこともあるので、いじめの事実を認めただけでもいい学校なんじゃないかと思うと思えてしまう。
「羽賀さん。息子の今の話や、息子と琴葉ちゃんが頑張って集めた証拠を確認して、事件の……再捜査と言えばいいのでしょうか。警察側は動いてくれますでしょうか」
「玲人君や恩田さんのために、捜査をしていただけませんか。お願いします」
父さんと沙奈会長がそう言うと、僕の家族と沙奈会長、副会長さんが羽賀さんに向かって頭を下げてくれる。
「今までこの事実を隠し続けたことを申し訳なく思っております。このことについて捜査をして、菅原達を逮捕していただけないでしょうか。お願いします」
僕も羽賀さんに向かって深く頭を下げる。
2年前のことについて、羽賀さんはどう考えているのだろうか。事件直後ではないから難しいのかな。無言の時間がやけに長く感じる。
「羽賀、こんなにたくさんの証拠があるんだ。第三者である民間人の僕が意見できる立場じゃないけど、再捜査をする理由は十分だと思うぞ」
氷室さんがそう助言をしてくれる。羽賀さんも同じような考えを持ってくれると嬉しいけれど。
羽賀さんは腕を組んで、真剣に考えている様子だ。
「……逢坂君」
「は、はい!」
「2年前の恩田琴葉さんの受けた傷害事件について話を聞きました。彼女の受けたいじめについても。菅原和希と彼の取り巻きとなった生徒。捜査や裁判に圧力をかけた菅原博之に対して告発をするということでよろしいですか?」
告発……つまり、第三者がある犯罪について捜査機関に申告すること、だよな。
「はい。僕は……彼らを告発します。2年前、琴葉がケガをした事件と彼女が受けたいじめについて。そして、琴葉がケガをした事件の捜査に圧力がかかったことについて」
「分かりました。では、逢坂君からの告発を受理し、告発された内容について捜査をしていきます」
その言葉を聞いた瞬間、目の前がぱっと明るくなっていくような気がした。2年かけて進むべき道を歩んでいけるような感じがして。
沙奈会長達も嬉しそうな表情を浮かべている。
「やったじゃない、玲人君!」
「これで大きく前進だね、逢坂君」
「……ええ。とりあえずは」
何だか勝利ムードになっているけど、まだ決着がついたわけではない。
2年前の事件の担当警察官が、羽賀さんや浅野さんのような人だったら良かったな。警察関係者の中にもまともな人はいたのか。
「しかし、どうしますか、羽賀さん。相手は現職の与党所属の国会議員とその息子ですよ」
「2年前の経験からして、私達が動いたことを知った途端に、再び圧力をかけてくる可能性はありますね。それでも捜査を続けるつもりですが」
「僕らの事件のように、捜査妨害のために逮捕されることだけは避けたいよな、羽賀」
「ああ。だからこそ、一気にたたみ掛けるつもりで捜査をした方がいいだろう。幸いにも、逢坂君や恩田さんが集めたことで、有力な証拠が豊富だ。それに加えて逢坂君の証言も武器にして、逮捕すべき人達を逮捕しよう。例の事件があった地域を管轄する警察署に、私の知り合いの警察官がいるので彼に頼んでみます」
羽賀さんはスマートフォンで電話をしている。パソコンも操作しているけれど。
政治家の菅原博之や警察上層部から圧力をかけられる危険を考慮したら、事実確認をしたらすぐに菅原達を逮捕するのが一番いいということだろう。ミッションのこともあるので、素早く動いてくれるのは本当に助かる。
「どういう風に羽賀さん達は動くのかな、玲人君」
「理想的な流れだと、琴葉や僕が集めた証拠を基に、2年前の事件に菅原和希と彼の取り巻き達が深く関わっていたこと。そして、その事実を隠蔽しようと菅原博之が警察や司法関係者に圧力をかけたことを認めさせて逮捕……ということだと思います」
「上手くいけばいいよね」
「……ええ」
2年前に圧力をかけてきた菅原博之を相手にするんだ。こちらの思惑通りに事が運ぶとは考えにくい。
「今送ったデータを見てほしいのですが……」
話し声からして、羽賀さんはきっと知り合いの刑事さんに僕の事件について捜査協力を要請しているんだと思う。
「羽賀が協力してくれるんだ。絶対にいい結果に辿り着けると思うよ。僕が誤認逮捕された事件の担当警察官も羽賀だったからね」
「……凄く説得力がありますね」
「ははっ、そうかな。それにしても、お互いに色々と経験しているね。僕は誤認逮捕だったけど、メディアに名前と顔がはっきりと出たこともあって、しばらくの間は色々な人から変な視線で見られたり、心ない言葉を言われたりしたこともあったよ」
僕の場合は琴葉にケガさせてしまった事実があるけど、事実無根のことで逮捕された氷室さんはかなり不憫だ。しかも、氷室さんの場合は成人なので、名前や顔が公表されてしまっている。もちろん、無実だと分かっている人もいるだろうけど、前科者として見る人もいるかもしれない。
「僕は……学校で元々変な感じで見られていました。ただ、2年前の事件のことがネット上に広まってからはそれに拍車がかかった感じです。記者からは罪の意識はないのかと言われ、一部の生徒からは退学した方がいいと言われてしまって」
「今はSNSで気軽に写真や動画を投稿できるからね。テレビなどでは名前や顔を伏せてくれても、SNSを使う一般人は容赦ないもんね。僕の方も自分の名前を検索すると、当時のニュース記事が今もたくさんヒットするし……」
「……お互いに大変ですね」
「そうだね。僕は恋人や羽賀のような親友のおかげで元気にやれているよ。それに、自分のそんな経験が玲人君に活かせるなら嬉しいよ」
氷室さん、大変な目に遭って……無実だと分かってからも辛い想いをしてきたはずなのに。そんな経験を活かせると嬉しいと言えるなんて。事実が明らかになり、2年経てばそう思えるのだろうか。それとも、氷室さんだからなのか。
「そうだ、連絡先を交換しようか、玲人君。何か相談したくなったら連絡してきて」
「分かりました」
僕は氷室さんと連絡先を交換する。頼れる大人の方と繋がりができたと思うと凄く安心感がある。
「氷室君、ありがとう。息子のことでここまでしてくれて」
「いえいえ、そんな。ただ……いい息子さんですね」
「……自慢の家族のうちの1人だからな」
「ただ、きっかけを作ってくれたのは父さんだよ。……ありがとう」
「……大切な息子のためだ」
父さんは右手で両眼を覆う。そんな父さんの頭を母さんや姉さんが優しく撫でている。
「はい。以上のことをよろしくお願いします。責任は私が取りますので、圧力がかかっても気にせずに捜査をしてください。……失礼します」
羽賀さんはスマートフォンをテーブルの上に置いた。
「さあ、これでどうなるか」
「羽賀、電話は終わったのか?」
「ああ。逢坂君、今……事件の起こった地域を管轄している警察署にいる私の知り合いに電話をし、逢坂君と恩田さんが集めた証拠のデータを送りました。彼は信頼できる刑事ですから大丈夫ですよ。逢坂君が逮捕された事件の捜査資料を調べ、担当警察官に圧力があったかどうかを確かめること。そして、菅原博之と息子の和希の自宅に行って、事情聴取をするようお願いしました」
「ありがとうございます」
「いえいえ。これはとても重大な事件だと私は考えています。必ずこの一連の事件について解決しましょう。それまで、私が責任を持って操作していきます」
「よろしくお願いします」
警察がついに動き始めた。果たして今回はどうなるか。2年前と同じような結果にならなければいいけれど。今は琴葉と一緒に集めた証拠と、羽賀さん達の力を信じるしかないか。
時々、羽賀さん達は分からないところを訊くことはあったけれど、真剣な様子でして僕の話を聞いてくれた。
「羽賀さん、今の玲人さんの話をまとめました」
「ありがとうございます、浅野さん」
「しかし、こうして文字に書き起こしてみると、氷室さんが誤認逮捕されてしまった2年前の事件に似ているところがありますよね」
「特に背景は似ていますね。1人の女子生徒が、クラスメイトにいじめられていたということが。そして、首謀者と言える生徒が事件に関わっていたこと。僕の場合は、いじめられていた子の父親と一緒に学校に行って、学校側にいじめの事実を認めさせましたけど。複数の証拠が手に入ったというのもありますが」
氷室さん、穏やかな雰囲気の方なのに結構な行動派なんだな。琴葉のこともあるので、いじめの事実を認めただけでもいい学校なんじゃないかと思うと思えてしまう。
「羽賀さん。息子の今の話や、息子と琴葉ちゃんが頑張って集めた証拠を確認して、事件の……再捜査と言えばいいのでしょうか。警察側は動いてくれますでしょうか」
「玲人君や恩田さんのために、捜査をしていただけませんか。お願いします」
父さんと沙奈会長がそう言うと、僕の家族と沙奈会長、副会長さんが羽賀さんに向かって頭を下げてくれる。
「今までこの事実を隠し続けたことを申し訳なく思っております。このことについて捜査をして、菅原達を逮捕していただけないでしょうか。お願いします」
僕も羽賀さんに向かって深く頭を下げる。
2年前のことについて、羽賀さんはどう考えているのだろうか。事件直後ではないから難しいのかな。無言の時間がやけに長く感じる。
「羽賀、こんなにたくさんの証拠があるんだ。第三者である民間人の僕が意見できる立場じゃないけど、再捜査をする理由は十分だと思うぞ」
氷室さんがそう助言をしてくれる。羽賀さんも同じような考えを持ってくれると嬉しいけれど。
羽賀さんは腕を組んで、真剣に考えている様子だ。
「……逢坂君」
「は、はい!」
「2年前の恩田琴葉さんの受けた傷害事件について話を聞きました。彼女の受けたいじめについても。菅原和希と彼の取り巻きとなった生徒。捜査や裁判に圧力をかけた菅原博之に対して告発をするということでよろしいですか?」
告発……つまり、第三者がある犯罪について捜査機関に申告すること、だよな。
「はい。僕は……彼らを告発します。2年前、琴葉がケガをした事件と彼女が受けたいじめについて。そして、琴葉がケガをした事件の捜査に圧力がかかったことについて」
「分かりました。では、逢坂君からの告発を受理し、告発された内容について捜査をしていきます」
その言葉を聞いた瞬間、目の前がぱっと明るくなっていくような気がした。2年かけて進むべき道を歩んでいけるような感じがして。
沙奈会長達も嬉しそうな表情を浮かべている。
「やったじゃない、玲人君!」
「これで大きく前進だね、逢坂君」
「……ええ。とりあえずは」
何だか勝利ムードになっているけど、まだ決着がついたわけではない。
2年前の事件の担当警察官が、羽賀さんや浅野さんのような人だったら良かったな。警察関係者の中にもまともな人はいたのか。
「しかし、どうしますか、羽賀さん。相手は現職の与党所属の国会議員とその息子ですよ」
「2年前の経験からして、私達が動いたことを知った途端に、再び圧力をかけてくる可能性はありますね。それでも捜査を続けるつもりですが」
「僕らの事件のように、捜査妨害のために逮捕されることだけは避けたいよな、羽賀」
「ああ。だからこそ、一気にたたみ掛けるつもりで捜査をした方がいいだろう。幸いにも、逢坂君や恩田さんが集めたことで、有力な証拠が豊富だ。それに加えて逢坂君の証言も武器にして、逮捕すべき人達を逮捕しよう。例の事件があった地域を管轄する警察署に、私の知り合いの警察官がいるので彼に頼んでみます」
羽賀さんはスマートフォンで電話をしている。パソコンも操作しているけれど。
政治家の菅原博之や警察上層部から圧力をかけられる危険を考慮したら、事実確認をしたらすぐに菅原達を逮捕するのが一番いいということだろう。ミッションのこともあるので、素早く動いてくれるのは本当に助かる。
「どういう風に羽賀さん達は動くのかな、玲人君」
「理想的な流れだと、琴葉や僕が集めた証拠を基に、2年前の事件に菅原和希と彼の取り巻き達が深く関わっていたこと。そして、その事実を隠蔽しようと菅原博之が警察や司法関係者に圧力をかけたことを認めさせて逮捕……ということだと思います」
「上手くいけばいいよね」
「……ええ」
2年前に圧力をかけてきた菅原博之を相手にするんだ。こちらの思惑通りに事が運ぶとは考えにくい。
「今送ったデータを見てほしいのですが……」
話し声からして、羽賀さんはきっと知り合いの刑事さんに僕の事件について捜査協力を要請しているんだと思う。
「羽賀が協力してくれるんだ。絶対にいい結果に辿り着けると思うよ。僕が誤認逮捕された事件の担当警察官も羽賀だったからね」
「……凄く説得力がありますね」
「ははっ、そうかな。それにしても、お互いに色々と経験しているね。僕は誤認逮捕だったけど、メディアに名前と顔がはっきりと出たこともあって、しばらくの間は色々な人から変な視線で見られたり、心ない言葉を言われたりしたこともあったよ」
僕の場合は琴葉にケガさせてしまった事実があるけど、事実無根のことで逮捕された氷室さんはかなり不憫だ。しかも、氷室さんの場合は成人なので、名前や顔が公表されてしまっている。もちろん、無実だと分かっている人もいるだろうけど、前科者として見る人もいるかもしれない。
「僕は……学校で元々変な感じで見られていました。ただ、2年前の事件のことがネット上に広まってからはそれに拍車がかかった感じです。記者からは罪の意識はないのかと言われ、一部の生徒からは退学した方がいいと言われてしまって」
「今はSNSで気軽に写真や動画を投稿できるからね。テレビなどでは名前や顔を伏せてくれても、SNSを使う一般人は容赦ないもんね。僕の方も自分の名前を検索すると、当時のニュース記事が今もたくさんヒットするし……」
「……お互いに大変ですね」
「そうだね。僕は恋人や羽賀のような親友のおかげで元気にやれているよ。それに、自分のそんな経験が玲人君に活かせるなら嬉しいよ」
氷室さん、大変な目に遭って……無実だと分かってからも辛い想いをしてきたはずなのに。そんな経験を活かせると嬉しいと言えるなんて。事実が明らかになり、2年経てばそう思えるのだろうか。それとも、氷室さんだからなのか。
「そうだ、連絡先を交換しようか、玲人君。何か相談したくなったら連絡してきて」
「分かりました」
僕は氷室さんと連絡先を交換する。頼れる大人の方と繋がりができたと思うと凄く安心感がある。
「氷室君、ありがとう。息子のことでここまでしてくれて」
「いえいえ、そんな。ただ……いい息子さんですね」
「……自慢の家族のうちの1人だからな」
「ただ、きっかけを作ってくれたのは父さんだよ。……ありがとう」
「……大切な息子のためだ」
父さんは右手で両眼を覆う。そんな父さんの頭を母さんや姉さんが優しく撫でている。
「はい。以上のことをよろしくお願いします。責任は私が取りますので、圧力がかかっても気にせずに捜査をしてください。……失礼します」
羽賀さんはスマートフォンをテーブルの上に置いた。
「さあ、これでどうなるか」
「羽賀、電話は終わったのか?」
「ああ。逢坂君、今……事件の起こった地域を管轄している警察署にいる私の知り合いに電話をし、逢坂君と恩田さんが集めた証拠のデータを送りました。彼は信頼できる刑事ですから大丈夫ですよ。逢坂君が逮捕された事件の捜査資料を調べ、担当警察官に圧力があったかどうかを確かめること。そして、菅原博之と息子の和希の自宅に行って、事情聴取をするようお願いしました」
「ありがとうございます」
「いえいえ。これはとても重大な事件だと私は考えています。必ずこの一連の事件について解決しましょう。それまで、私が責任を持って操作していきます」
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