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本編
第50話『ゼロ-後編-』
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──俺の本当の目的は……逢坂玲人! お前を苦しめることだったんだよ!
菅原が琴葉をいじめていた本当の目的は、僕を苦しめることだったのか。
「……思い返せば、それも頷けるな」
僕の幼なじみがいじめられているんだ。僕だって多少なりとも傷付く。今になって、僕を傷つけるためだと菅原から明言されたところで、さほどショックはない。
「どういうことか教えてほしい」
「……坂崎を覚えているか」
「もちろん。僕に告白してきたクラスメイトの女子生徒だね」
「じゃあ、玲人君が前に言っていた、恩田さんをいじめていた女の子って?」
「ええ、その坂崎さんのことです。カーストって言うんですかね。クラスの女子の中では順位の最も高い位置にいて。彼女に逆らえる女子はほぼいなかった。坂崎さんは僕にフラれてから何日か経ってから、琴葉をいじめるようになりました」
琴葉はいつも僕の側にいたこともあってか、坂崎さんがどうして琴葉をいじめるのかは容易に想像がついた。
でも、学校に訴えるための証拠集めをしていく中で、実は菅原が坂崎さんにいじめについて、色々と助言していたことが分かったんだ。
「表面上は坂崎さんを中心にした琴葉へのいじめだった。でも、実態を調べていくうちに、菅原が彼女に色々と助言していたことを知ったよ。そこに僕を傷つけることが関係しているのかな」
「ああ、そうだ。元々、俺はお前が気に入らなかったんだ。物静かで地味で恩田といつも一緒にいるのに、俺以上に女子から人気がある。何だかんだで、男子からも信頼されていた。それまでは俺が一番だと思っていたのに」
「でも、衆議院議員の息子だけあって、クラスの中じゃ一番上だったじゃないか。クラス委員もやっていたくらいだし」
「それでも、俺には色々と感じることがあったんだよ!」
僕にとっては非常にくだらないことだけど、菅原にとっては自分の地位というものはとても重要な要素だったのだろう。そして、誰よりも上でなければ気が済まなかったのだろう。
「逢坂のことが目障りだと思う中、坂崎がお前にフラれたことを知った。それを口実に逢坂をいじめようと考えていたとき、いつもお前の側に恩田がいるからフラれたんだっていう坂崎の文句を小耳に挟んでね。その瞬間に考えが変わったよ。逢坂を直接いじめるよりも、恩田をいじめた方が逢坂をより深く傷つけられるんじゃないかって」
「だから、坂崎さんに琴葉へのいじめについて助言したのか」
「ああ。そうしたら、あいつ……これなら上手くいくって馬鹿みたいに喜んで。俺の言うように、何人かの女子と一緒に恩田のことをいじめていたよ。滅茶苦茶笑えた」
ははっ、と菅原は笑う。本当に腹立たしいな、こいつ。きっと、今みたいな感じで琴葉がいじめられているのを陰から笑っていたんだろう。
「逢坂の表情もそれまでと変わってきて本当に嬉しかったよ。まあ、お前が何か動いていることは気付いていた。でも、そんなことがどうでも良くなるくらいに上手くいっていると思った」
当時のことを思い出すと、教師達にバレないように陰で琴葉をいじめていたことが多かったな。菅原や坂崎さんというカースト上位の生徒がいじめの中心人物なのもあってか、普段から琴葉に冷たい視線を送るクラスメイトは多かった。
「坂崎さん達を利用して琴葉をいじめ、僕を傷つけることも順調に進んでいたのに、どうしてあの日は琴葉を雑居ビルの前に呼び出したんだ?」
「俺達の欲求を満たすためさ。恩田も可愛い顔をしているからな。逢坂玲人を傷つけたくなかったら、例のビルまで来いって書いた紙を恩田の机の中に入れておいた。もちろん、見たら破って処分するようにして」
「でも、その計画は僕によって阻止された。それどころか、菅原達に殴りかかろうとした僕を止めようとした琴葉が意識不明になってしまった」
「ああ。最初はまずいとおもったけど、よく考えればお前が恩田を振り払ったことが決定打だった。だから、与党所属の衆議院議員という父親の力を使えば、お前を逮捕という形で嵌められて、俺には火の粉が全く降りかからないと思ったんだ。そう考えて父親にあのときのことを話したら、自分の地位を守るためなのか必死になった。それにも本当に笑えたよ。世間からは大物とか言われているけど、俺にとっては小物な父親だよ」
その「小物」の血は、しっかりと息子に受け継がれているようだけど。
菅原親子の策略通り、僕は琴葉を意識不明にさせたことで逮捕され、菅原達のことを警察官に言ってもろくに捜査してもらえなかった。結局、僕に執行猶予なしの禁固1年の実刑判決が下ってしまった。
「……菅原の思惑通りになってしまったわけか」
「その通り。あのときは凄く楽しませてもらったよ。だから、あれ以降……色々な奴をいじめても全然楽しくなかった。だから、SNSで金髪になったお前の写真を見たときは嬉しかったよ。あのときのような楽しい時間をまた過ごせるかもしれないと思ってさぁ」
「それで、僕の過去をネット上に流し、一昨日、実際に月野学園まで足を運んだのか。そして、休みとなった今日に僕を襲おうと考えた」
「ああ、そうだ。お前は一生、俺のことを楽しませてくれりゃいいんだよ。人一人を長い眠りにつかせた犯罪者なんだからさ!」
あははっ、と菅原は大きな声で高らかに笑う。
菅原の考えていることはよく分かった。じゃあ、これまで色々としてくれたお礼を、こいつが逮捕されてしまう前にしておかないと。
僕は菅原に向けて拍手を送る。
「おめでとう。菅原も今日から犯罪者。僕と同じになったんだ」
僕がそう言うと、さっきまでの笑顔が嘘だったかのように菅原は僕を睨んでくる。
「何だと……?」
「菅原はきちんと父親の血を引き継いでいるな。自分の地位ばかり考え、周りを見下している。自分の地位を維持したり上にしたりするために他人を利用し、不当に傷つける。呆れてものが言えないよ」
「うるせえ! 犯罪者が何を──」
「犯罪者が何を言っているんだって? お前も犯罪者だろう。……何も言えなくしてやろうか?」
僕は菅原の目の前に立ち、着ているジャケットからカッターを取り出す。
「玲人君、何を……」
「あの事件に関わりのない人は黙っていてもらえませんか」
カッターの刃を取り出して菅原の首元に当てる。
すると、菅原の顔は一気に青ざめ、怯えた表情で僕のことを見てくる。
「このまま一気にカッターを引いたら、お前の首から勢いよく血しぶきが飛ぶんだろうな」
「うっ、うううっ……」
「僕は何度も何度もお前達のことを心の中で殺してきた。首を切り落としたこともあれば、心臓にナイフを何回も突き刺したこともあった。想像の中で人を殺しても罪にならないからな。自由の身になったら、お前を何度も極限までに痛みつけて殺し、惨めな姿の遺体を世間に晒すことまで考えていたこともあった」
「や、やめろ……やめろ……」
「恐いか? その気持ちは、2年前……琴葉がずっと思い抱いていた気持ちなんだろう。このカッターは元々、お前が自分のやったことをなかなか認めないとき、事実を吐かせるために使おうと思って持ってきたんだ。だけど、どうやら、逆に何も言わせなくするために使うことになりそうだな。僕は琴葉を眠らせて、実刑も受けた人間なんだよ。これまで体験してきたことがお前とはまるで違う」
「罪を認める! 今後、一切……お前や恩田達を傷つけない! 関わらない! それを約束する! だから、命だけは勘弁してくれ!」
「……そんな短い言葉だけで僕が信用すると思ってるのか?」
「じゃあ、金か? 名誉か? 謝罪か? お前の望むことは何でもするから!」
果てには菅原は涙を流し始めてしまった。これが行く末の姿か。
「琴葉や僕を散々傷つけて喜んでいたのに、自分が傷つけられるかもしれないと分かった途端にこの態度か。本当に腹が立つよ。……殺人を犯したら罪になる。僕は元々、これ以上の罪を重ねるつもりは全くない。ただ、お前からこれまでの過ちを認め、今後は一切傷つけないことや、関わらないことを誓わせたかったんだ。でも、良かったな。父親はお前を守り切れなかったけど、法律が命を守ってくれて」
こいつを本当に殺すつもりはなかったけれど。ただ、殺しても何にも刑罰を受けないなら、どうしていたかは分からない。
「それなら、あたしがこの男を始末します!」
気付けば、アリスさんが僕の持っていたカッターナイフを掴んで、菅原の喉元に突き刺そうとしていた。
「アリスさん!」
僕はカッターナイフを持つアリスさんの手をぎゅっと掴んだ。
「止めてください、アリスさん。彼らとは決着がつきましたから。琴葉のために約束は果たしましたよ」
「それでも許せません! この男はひどすぎます! 琴葉や逢坂さんがどれだけ傷付いたか! どれだけ苦しんだか……」
アリスさんは悔しそうな表情を浮かべ、目からは大粒の涙をいくつもこぼしていた。僕らが菅原達と決着を付けたと分かっていても、菅原の態度を見て我慢できなくなってしまったのだろう。
「彼らが犯した罪については、今後……法律に則った正統な方法で裁かれます。アリスさんの気持ちも分かりますが、菅原を殺害することはやめてください。それに、彼らには死ぬよりも生かす方が、苦しい罰を与えられそうですから」
「……あなたがそう言うのであれば。分かりました。これはお返しします」
アリスさんは僕にカッターナイフを返し、右手で涙を必死に拭った。
菅原は殺されないと思って安心したのか、無表情になって口が半開き。顔も青ざめているし、もしかして意識が飛んでいるんじゃないのか?
「……これまでの事情を考慮し、情状酌量ということで逢坂君と銀髪の少女の今の行動については不問にしましょう。ただ、このようなことは二度としないように」
「分かりました、羽賀さん。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
カッターナイフは護身用に持っておいたんだけど。まあ、菅原にあそこまで過激なことを言ったら問題になるか。
「君達。菅原和希達を四鷹警察署に連行してください。大山太志への傷害についてはもちろんのこと、彼らが2年前からやってきたことを徹底的に調べるように」
「はっ!」
菅原達はその場にいた警官によって、警察署へと連行された。ここから去っていく彼らの姿は見た感じよりもずっと小さく思えた。
「もう、玲人君ったら。さすがにあれはヒヤヒヤしたよ」
さすがに、会長も怒った表情を見せてくる。
「彼らを殺してやりたい気持ちも分かるけどね。玲人君と恩田さんをあんなにも苦しめたんだもん。そのカッターで首をサックリと切っちゃいたいよね。もちろんやらないけど」
はっきりと恐ろしいことを言う。新たな事件が発生することがなくて良かった。ただ、沙奈会長が問い詰めたら、菅原達がどんな反応をしていたかは興味がある。
「驚かせてすみません。ただ、彼から、今後、僕達を傷つけないことや、関わらないことを約束させたかったので。一部は本音でしたけど」
「次からはもっと平穏な方法を考えること。会長命令です。今回と似たようなことが一切ないことを祈るけど」
「そうですね。気を付けます」
「……約束だよ」
すると、僕のことを許してくれたのか、沙奈会長はいつもの可愛らしい笑みを浮かべ、僕の頭を優しく撫でてくれる。
「アリスさん。これで……ミッションは達成ということでいいですよね?」
羽賀さん達に聞かれないように、僕は小さな声でアリスさんにそう問いかける。
すると、アリスさんは僕達のことを見ながらゆっくりと頷き、
「もちろんです。よくやってくれました。ですから……琴葉の病室に行きましょう」
菅原が琴葉をいじめていた本当の目的は、僕を苦しめることだったのか。
「……思い返せば、それも頷けるな」
僕の幼なじみがいじめられているんだ。僕だって多少なりとも傷付く。今になって、僕を傷つけるためだと菅原から明言されたところで、さほどショックはない。
「どういうことか教えてほしい」
「……坂崎を覚えているか」
「もちろん。僕に告白してきたクラスメイトの女子生徒だね」
「じゃあ、玲人君が前に言っていた、恩田さんをいじめていた女の子って?」
「ええ、その坂崎さんのことです。カーストって言うんですかね。クラスの女子の中では順位の最も高い位置にいて。彼女に逆らえる女子はほぼいなかった。坂崎さんは僕にフラれてから何日か経ってから、琴葉をいじめるようになりました」
琴葉はいつも僕の側にいたこともあってか、坂崎さんがどうして琴葉をいじめるのかは容易に想像がついた。
でも、学校に訴えるための証拠集めをしていく中で、実は菅原が坂崎さんにいじめについて、色々と助言していたことが分かったんだ。
「表面上は坂崎さんを中心にした琴葉へのいじめだった。でも、実態を調べていくうちに、菅原が彼女に色々と助言していたことを知ったよ。そこに僕を傷つけることが関係しているのかな」
「ああ、そうだ。元々、俺はお前が気に入らなかったんだ。物静かで地味で恩田といつも一緒にいるのに、俺以上に女子から人気がある。何だかんだで、男子からも信頼されていた。それまでは俺が一番だと思っていたのに」
「でも、衆議院議員の息子だけあって、クラスの中じゃ一番上だったじゃないか。クラス委員もやっていたくらいだし」
「それでも、俺には色々と感じることがあったんだよ!」
僕にとっては非常にくだらないことだけど、菅原にとっては自分の地位というものはとても重要な要素だったのだろう。そして、誰よりも上でなければ気が済まなかったのだろう。
「逢坂のことが目障りだと思う中、坂崎がお前にフラれたことを知った。それを口実に逢坂をいじめようと考えていたとき、いつもお前の側に恩田がいるからフラれたんだっていう坂崎の文句を小耳に挟んでね。その瞬間に考えが変わったよ。逢坂を直接いじめるよりも、恩田をいじめた方が逢坂をより深く傷つけられるんじゃないかって」
「だから、坂崎さんに琴葉へのいじめについて助言したのか」
「ああ。そうしたら、あいつ……これなら上手くいくって馬鹿みたいに喜んで。俺の言うように、何人かの女子と一緒に恩田のことをいじめていたよ。滅茶苦茶笑えた」
ははっ、と菅原は笑う。本当に腹立たしいな、こいつ。きっと、今みたいな感じで琴葉がいじめられているのを陰から笑っていたんだろう。
「逢坂の表情もそれまでと変わってきて本当に嬉しかったよ。まあ、お前が何か動いていることは気付いていた。でも、そんなことがどうでも良くなるくらいに上手くいっていると思った」
当時のことを思い出すと、教師達にバレないように陰で琴葉をいじめていたことが多かったな。菅原や坂崎さんというカースト上位の生徒がいじめの中心人物なのもあってか、普段から琴葉に冷たい視線を送るクラスメイトは多かった。
「坂崎さん達を利用して琴葉をいじめ、僕を傷つけることも順調に進んでいたのに、どうしてあの日は琴葉を雑居ビルの前に呼び出したんだ?」
「俺達の欲求を満たすためさ。恩田も可愛い顔をしているからな。逢坂玲人を傷つけたくなかったら、例のビルまで来いって書いた紙を恩田の机の中に入れておいた。もちろん、見たら破って処分するようにして」
「でも、その計画は僕によって阻止された。それどころか、菅原達に殴りかかろうとした僕を止めようとした琴葉が意識不明になってしまった」
「ああ。最初はまずいとおもったけど、よく考えればお前が恩田を振り払ったことが決定打だった。だから、与党所属の衆議院議員という父親の力を使えば、お前を逮捕という形で嵌められて、俺には火の粉が全く降りかからないと思ったんだ。そう考えて父親にあのときのことを話したら、自分の地位を守るためなのか必死になった。それにも本当に笑えたよ。世間からは大物とか言われているけど、俺にとっては小物な父親だよ」
その「小物」の血は、しっかりと息子に受け継がれているようだけど。
菅原親子の策略通り、僕は琴葉を意識不明にさせたことで逮捕され、菅原達のことを警察官に言ってもろくに捜査してもらえなかった。結局、僕に執行猶予なしの禁固1年の実刑判決が下ってしまった。
「……菅原の思惑通りになってしまったわけか」
「その通り。あのときは凄く楽しませてもらったよ。だから、あれ以降……色々な奴をいじめても全然楽しくなかった。だから、SNSで金髪になったお前の写真を見たときは嬉しかったよ。あのときのような楽しい時間をまた過ごせるかもしれないと思ってさぁ」
「それで、僕の過去をネット上に流し、一昨日、実際に月野学園まで足を運んだのか。そして、休みとなった今日に僕を襲おうと考えた」
「ああ、そうだ。お前は一生、俺のことを楽しませてくれりゃいいんだよ。人一人を長い眠りにつかせた犯罪者なんだからさ!」
あははっ、と菅原は大きな声で高らかに笑う。
菅原の考えていることはよく分かった。じゃあ、これまで色々としてくれたお礼を、こいつが逮捕されてしまう前にしておかないと。
僕は菅原に向けて拍手を送る。
「おめでとう。菅原も今日から犯罪者。僕と同じになったんだ」
僕がそう言うと、さっきまでの笑顔が嘘だったかのように菅原は僕を睨んでくる。
「何だと……?」
「菅原はきちんと父親の血を引き継いでいるな。自分の地位ばかり考え、周りを見下している。自分の地位を維持したり上にしたりするために他人を利用し、不当に傷つける。呆れてものが言えないよ」
「うるせえ! 犯罪者が何を──」
「犯罪者が何を言っているんだって? お前も犯罪者だろう。……何も言えなくしてやろうか?」
僕は菅原の目の前に立ち、着ているジャケットからカッターを取り出す。
「玲人君、何を……」
「あの事件に関わりのない人は黙っていてもらえませんか」
カッターの刃を取り出して菅原の首元に当てる。
すると、菅原の顔は一気に青ざめ、怯えた表情で僕のことを見てくる。
「このまま一気にカッターを引いたら、お前の首から勢いよく血しぶきが飛ぶんだろうな」
「うっ、うううっ……」
「僕は何度も何度もお前達のことを心の中で殺してきた。首を切り落としたこともあれば、心臓にナイフを何回も突き刺したこともあった。想像の中で人を殺しても罪にならないからな。自由の身になったら、お前を何度も極限までに痛みつけて殺し、惨めな姿の遺体を世間に晒すことまで考えていたこともあった」
「や、やめろ……やめろ……」
「恐いか? その気持ちは、2年前……琴葉がずっと思い抱いていた気持ちなんだろう。このカッターは元々、お前が自分のやったことをなかなか認めないとき、事実を吐かせるために使おうと思って持ってきたんだ。だけど、どうやら、逆に何も言わせなくするために使うことになりそうだな。僕は琴葉を眠らせて、実刑も受けた人間なんだよ。これまで体験してきたことがお前とはまるで違う」
「罪を認める! 今後、一切……お前や恩田達を傷つけない! 関わらない! それを約束する! だから、命だけは勘弁してくれ!」
「……そんな短い言葉だけで僕が信用すると思ってるのか?」
「じゃあ、金か? 名誉か? 謝罪か? お前の望むことは何でもするから!」
果てには菅原は涙を流し始めてしまった。これが行く末の姿か。
「琴葉や僕を散々傷つけて喜んでいたのに、自分が傷つけられるかもしれないと分かった途端にこの態度か。本当に腹が立つよ。……殺人を犯したら罪になる。僕は元々、これ以上の罪を重ねるつもりは全くない。ただ、お前からこれまでの過ちを認め、今後は一切傷つけないことや、関わらないことを誓わせたかったんだ。でも、良かったな。父親はお前を守り切れなかったけど、法律が命を守ってくれて」
こいつを本当に殺すつもりはなかったけれど。ただ、殺しても何にも刑罰を受けないなら、どうしていたかは分からない。
「それなら、あたしがこの男を始末します!」
気付けば、アリスさんが僕の持っていたカッターナイフを掴んで、菅原の喉元に突き刺そうとしていた。
「アリスさん!」
僕はカッターナイフを持つアリスさんの手をぎゅっと掴んだ。
「止めてください、アリスさん。彼らとは決着がつきましたから。琴葉のために約束は果たしましたよ」
「それでも許せません! この男はひどすぎます! 琴葉や逢坂さんがどれだけ傷付いたか! どれだけ苦しんだか……」
アリスさんは悔しそうな表情を浮かべ、目からは大粒の涙をいくつもこぼしていた。僕らが菅原達と決着を付けたと分かっていても、菅原の態度を見て我慢できなくなってしまったのだろう。
「彼らが犯した罪については、今後……法律に則った正統な方法で裁かれます。アリスさんの気持ちも分かりますが、菅原を殺害することはやめてください。それに、彼らには死ぬよりも生かす方が、苦しい罰を与えられそうですから」
「……あなたがそう言うのであれば。分かりました。これはお返しします」
アリスさんは僕にカッターナイフを返し、右手で涙を必死に拭った。
菅原は殺されないと思って安心したのか、無表情になって口が半開き。顔も青ざめているし、もしかして意識が飛んでいるんじゃないのか?
「……これまでの事情を考慮し、情状酌量ということで逢坂君と銀髪の少女の今の行動については不問にしましょう。ただ、このようなことは二度としないように」
「分かりました、羽賀さん。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
カッターナイフは護身用に持っておいたんだけど。まあ、菅原にあそこまで過激なことを言ったら問題になるか。
「君達。菅原和希達を四鷹警察署に連行してください。大山太志への傷害についてはもちろんのこと、彼らが2年前からやってきたことを徹底的に調べるように」
「はっ!」
菅原達はその場にいた警官によって、警察署へと連行された。ここから去っていく彼らの姿は見た感じよりもずっと小さく思えた。
「もう、玲人君ったら。さすがにあれはヒヤヒヤしたよ」
さすがに、会長も怒った表情を見せてくる。
「彼らを殺してやりたい気持ちも分かるけどね。玲人君と恩田さんをあんなにも苦しめたんだもん。そのカッターで首をサックリと切っちゃいたいよね。もちろんやらないけど」
はっきりと恐ろしいことを言う。新たな事件が発生することがなくて良かった。ただ、沙奈会長が問い詰めたら、菅原達がどんな反応をしていたかは興味がある。
「驚かせてすみません。ただ、彼から、今後、僕達を傷つけないことや、関わらないことを約束させたかったので。一部は本音でしたけど」
「次からはもっと平穏な方法を考えること。会長命令です。今回と似たようなことが一切ないことを祈るけど」
「そうですね。気を付けます」
「……約束だよ」
すると、僕のことを許してくれたのか、沙奈会長はいつもの可愛らしい笑みを浮かべ、僕の頭を優しく撫でてくれる。
「アリスさん。これで……ミッションは達成ということでいいですよね?」
羽賀さん達に聞かれないように、僕は小さな声でアリスさんにそう問いかける。
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