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本編
第52話『光芒』
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琴葉の御両親が来るまでの間、病室にあるテレビを観ていると、緊急ニュースで現役の国会議員が逮捕されたことと、2年前の事件の事実が報じられる。名前は出ていないけど、息子の菅原和希達による犯罪や琴葉のいじめについても。僕と琴葉が卒業した中学校もこれで、琴葉のいじめについて見過ごすことはできないだろう。
僕のことについては被害者の琴葉を守っていた際に起きた過失であり、2年前の捜査によって断定された『故意による殺人未遂事件』ではないと報じてくれた。僕の名前も公表されていないけど。
事実がこうして世間に知られたので、学校に抗議や僕の退学を求める電話やメールは減っていく……はず。
連絡をしてから小一時間ほどが経って、琴葉の御両親が病室に到着。娘と約2年ぶりの再会を果たした。
2年前の事件といじめについて菅原達と決着を付けたことを伝えると、御両親から何度もお礼の言葉を言ってくださった。
御両親との再会を果たしたところで、琴葉は検査をすることになった。
明日もお見舞いに行くことを約束して、僕らは国立東京中央病院を後にする。アリスさんは病室を出るときには一緒だったけど、外の駐車場に行く間に姿を消してしまった。
羽賀さんの運転する車に乗って自宅まで送ってもらうことに。
行くときと同じように、僕は後部座席に座って沙奈会長にベッタリとくっつかれる形に。ただ、菅原達と決着を付けることができ、琴葉が意識を取り戻したからか、沙奈会長は行くときよりも嬉しそうな様子だ。
「良かったね、玲人君。菅原君達と決着を付けられて。恩田さんも意識を取り戻したし」
「そうですね。みなさんには大変お世話になりました。本当にありがとうございました」
羽賀さん、氷室さん、浅野さんの協力がなければここまで早く、そしてスムーズに決着までこぎつけられなかったと思う。
「私や浅野さんは解決していない事件を、正しい方向へと動かしただけです。個人的に今回の事件に潜む闇のようなものに関心を持っていました。氷室はその闇を取り払う機会を作ってくれました。これからも、私達が中心となって捜査していきますので安心してください」
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
事実は僕の手の中にあった。
でも、菅原達を逮捕して、その事実を世間に公表するためには、圧力に屈しない警察官の方の協力が必要だった。
今回、見事に羽賀さんと浅野さんという人と巡り会えたことは本当に運が良かったんだな。そんな親友を持つ氷室さんという人が、父さんの職場にいたことを含めて。
「しかし、2年前に氷室さんが誤認逮捕された件も、今回の玲人さんの件も……警察関係者が犯罪に助力する結果となってしまいました。こういう事件に関わると、警察官という職業の存在意義が分からなくなってきます」
氷室さんの事件については詳しく知らないけど、琴葉の事件の場合は、菅原博之が事件捜査や裁判について圧力をかけてきた。その通りになったということは、圧力に従った警察関係者がいるということ。本来ならあってはならないことが起きてしまったのだ。
「浅野さんの気持ちも分かります。ただ、私達は犯罪があったことを知ったら、相手が誰であろうと事実を徹底的に調べ上げ、犯人を逮捕する。それを繰り返して、犯罪への抑止力となる。そういう形で市民が安心して暮らすことができるようにするのです。私にとっての警察官という職業はそういうものだと思っています」
「羽賀さん……」
「ですから、今後もたとえ警察関係者や政治家が関わっていたとしても、私はいつも通りに事件解決に向けて動くつもりですよ。何年かかっても」
その考えを持っているから、常に冷静で堂々としていたんだな。それに、菅原達を告発するとお願いした直後に、一緒に事件を解決しようと言ってくれたとき、とても安心した。
「……そうですか。何だか羽賀さんは光のようですね」
「それは面白い表現ですね、浅野さん。それなら、逢坂君や恩田さんが今回の事件の光だと思っています。この事件、実に闇の深い事件だと思いましたが、お二人の真摯な証拠集めによってすぐに光が照らされた。今日中に逮捕まで辿り着いたのは、お二人が2年前から尽力したおかげです。ご協力いただきありがとうございました」
「僕はただ、琴葉を守りたいと思って動いただけです。羽賀さんの言葉を借りれば……その光をあるべき方向に照らしてくれたのは、3人のお力があったからだと思います。それに、警察に相談する勇気をくれたのは沙奈会長達のおかげですから」
2年前からやってきたことが、琴葉にとっての光となっていたのなら僕は嬉しい。また、菅原達と決着を付けたことで、僕の知らない人達を含めて誰かの兆しとなっていけばいいなと思っている。
「ありがとうございます、沙奈会長。ずっと僕の側にいてくれて」
感謝の言葉を伝えて、僕は沙奈会長の頭を抱き寄せた。ミッションがあったとはいえ、沙奈会長が僕の側にいてくれたのは本当に安心したんだ。出会った当初は顔を見ることさえ嫌だったのに、今はこうして側にいてくれないと不安に思えるなんて。
「私は……側にいたいから側にいるだけだよ。この先ずっとそうじゃないかな。玲人君も同じ気持ちだったら嬉しいなって思ってる」
えへへっ、と沙奈会長は可愛らしい笑みを浮かべている。
「僕の恋人も似たようなことを言いそうだな……」
「私も同じことを考えていた」
「お二人もですか。私もです」
氷室さんの恋人は相当な行動派で肉食系……なのかな。何度も話に出てきているのでいつか会ってみたいな。
「ねえ、玲人君。今、私や恩田さん以外の女の子のことを考えていたでしょ」
「……よく分かりましたね」
「その人のことが気になるんだったら、始末しないといけないよね」
「……会長が心配するようなことはないですよ」
だって、一度も会ったことがない女性のことだし。あと、腕をそんなにぎゅっと締め付けないでほしい。かなり痛いんですけど。
「そういうところも僕の恋人に似ているかな。信頼してくれているんだけど、女性の話になると嫉妬しやすいところがある」
氷室さんの恋人もそういう性格なのか。ただ、恋人から他の女性の話をされたら、心がざわついたり、嫉妬したりするのは自然なことなのかな。
――ぐううっ。
盛大にお腹の音が鳴ってしまった。そういえば、朝ご飯から何も食べていなかったな。色々とあって時間を忘れていたけれど、もう午後3時過ぎなのか。
「ふふっ、そういえば何も食べていなかったね。私もお腹空いちゃったな」
「……ええ。家に帰ったらカップ麺でも食べましょうか」
「うん、そうだね」
そういえば、カップ麺って最近食べていないな。学校がある日は朝食と夕食は母親の作ったものを食べるし、お昼ご飯はお弁当。コンビニには行くけれど、大抵はコーヒーとスイーツを買ってしまうし。カップ麺のことを考えたら余計にお腹が空いてきた。
「私も夕食はひさしぶりにインスタント麺にするか」
「羽賀は1人暮らしなのに、インスタント麺は食べないのか? 僕が1人暮らししているときはカップ麺とかインスタント麺にはお世話になったよ」
「すぐに作れるから私もたまに食べるが……栄養のことを考えると」
僕も多少の料理はできるけれど、好きってほどではないから1人暮らしを始めたらカップ麺にはお世話になるかも。
「大丈夫だよ、玲人君は。仮に私と付き合うことになったら、玲人君には栄養満点のご飯を作ってあげるよ。1人暮らしをするタイミングで私と同棲決定だね」
「……そのお気持ちだけは有り難く受け取っておきます」
どうやら、沙奈会長の頭の中では僕との未来予想図がしっかりとできているようだ。
僕が誰とも付き合っていなければ、1人暮らしの僕の家に沙奈会長が定期的に来そう。それで、いつの間にか住んでいそう。一緒に住んでいるんだから付き合っているのと一緒だよねとか言ってきそう。それも悪くないと思えてきた。
お腹の音をきっかけに和やかに変わった車内の空気に包まれながら、僕らは自宅に到着した。出発時と同じように門のところには2人の警察官が見張っている。
「到着しました」
「送っていただいてありがとうございました」
「……君達、あれから怪しい人物は?」
「いえ、特におりませんでした!」
ここでうろついていた男達以外に、菅原は僕の家の住所は教えなかったのかな。
「分かりました。私達の追っていた事件も犯人が逮捕され、とりあえず一段落しました。ここでの見張りはこれで終わりです。ありがとうございました」
「はっ! では、失礼します!」
2人の警察官は家の前から立ち去っていった。土曜日まで、お仕事お疲れ様でした。
病院で色々なことがあったからか、数時間しか経っていないのに随分とひさしぶりに帰ってきた気分だ。
「ただいま~」
玄関を開けた途端にとても甘い匂いがする。時間を考えると、3時のおやつでも作っているのかな。
リビングからエプロン姿の姉さんと副会長さんが姿を現し、
「あっ、玲人に沙奈ちゃん! おかえり!」
「みなさん、おかえりなさい。そして、お疲れ様です」
僕は姉さんに、沙奈会長は副会長さんに抱きしめられる。
そういえば、自由の身になってから初めて姉さんと会ったときも、今みたいにぎゅっと抱きしめられたっけ。
「玲人、よくやったね。琴葉ちゃんも目が覚めて。とても嬉しいよ」
「ああ。何とかやりきれたよ。今、琴葉は検査を受けているけれど、元気そうだったからきっと大丈夫さ。明日、改めてお見舞いに行くことになったから姉さんも行く?」
「もちろんだよ! 琴葉ちゃんに会いたい!」
「私も行っていいかな? 恩田さんに一度会ってみたいし」
「いいですよ。みんなで行きましょう」
僕の今の生活を知ってもらうためにも、副会長さんも一緒に来てくれるのは嬉しい。きっと2人はすぐに仲良くなれると思う。
「そういえば、姉さん。甘い匂いがするけど、何かおやつを作ってるの?」
「うん、ホットケーキ! この前食べて美味しかったし。それに、病院を出たってメッセージをくれたじゃない。だから、みんなで食べようと思ってお母さんや樹里ちゃんと一緒に作ってたの。とにかくたくさん」
「そっか、たくさん作ったんだね」
甘いものは好きだけど、この前、姉さんと沙奈会長にたくさん食べさせられて苦しくなったことを忘れてしまったのか? 今日は副会長さんや両親もいるので大丈夫か。
「羽賀さん達もパンケーキいかがですか? 樹里ちゃんと一緒にたくさん作りましたので、ぜひ」
「朝から何も食べていないから僕はいただこうかな。羽賀と浅野さんはどうします? これから、捜査や菅原君達の取り調べとかするんですか?」
「今のところは所轄がやってくれているが、私は逢坂君から告発を受けた立場でもある。いずれは取り調べをすることになるだろう。そのためにも、一口パンケーキをいただこう」
「私もいただきます! 車の中で玲人さんのお腹の音を聞いてからペコペコで」
「では、全員で食べましょう!」
その後、僕らは副会長さんと姉さんが作ったパンケーキを食べた。とてもお腹が空いているからなのか。それとも、菅原達と決着を付けられたからなのか。この前よりもとても美味しく思えた。
そういえば、琴葉も甘いものが好きだったな。琴葉が退院したら一緒に何かスイーツを食べることにしよう。
僕のことについては被害者の琴葉を守っていた際に起きた過失であり、2年前の捜査によって断定された『故意による殺人未遂事件』ではないと報じてくれた。僕の名前も公表されていないけど。
事実がこうして世間に知られたので、学校に抗議や僕の退学を求める電話やメールは減っていく……はず。
連絡をしてから小一時間ほどが経って、琴葉の御両親が病室に到着。娘と約2年ぶりの再会を果たした。
2年前の事件といじめについて菅原達と決着を付けたことを伝えると、御両親から何度もお礼の言葉を言ってくださった。
御両親との再会を果たしたところで、琴葉は検査をすることになった。
明日もお見舞いに行くことを約束して、僕らは国立東京中央病院を後にする。アリスさんは病室を出るときには一緒だったけど、外の駐車場に行く間に姿を消してしまった。
羽賀さんの運転する車に乗って自宅まで送ってもらうことに。
行くときと同じように、僕は後部座席に座って沙奈会長にベッタリとくっつかれる形に。ただ、菅原達と決着を付けることができ、琴葉が意識を取り戻したからか、沙奈会長は行くときよりも嬉しそうな様子だ。
「良かったね、玲人君。菅原君達と決着を付けられて。恩田さんも意識を取り戻したし」
「そうですね。みなさんには大変お世話になりました。本当にありがとうございました」
羽賀さん、氷室さん、浅野さんの協力がなければここまで早く、そしてスムーズに決着までこぎつけられなかったと思う。
「私や浅野さんは解決していない事件を、正しい方向へと動かしただけです。個人的に今回の事件に潜む闇のようなものに関心を持っていました。氷室はその闇を取り払う機会を作ってくれました。これからも、私達が中心となって捜査していきますので安心してください」
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
事実は僕の手の中にあった。
でも、菅原達を逮捕して、その事実を世間に公表するためには、圧力に屈しない警察官の方の協力が必要だった。
今回、見事に羽賀さんと浅野さんという人と巡り会えたことは本当に運が良かったんだな。そんな親友を持つ氷室さんという人が、父さんの職場にいたことを含めて。
「しかし、2年前に氷室さんが誤認逮捕された件も、今回の玲人さんの件も……警察関係者が犯罪に助力する結果となってしまいました。こういう事件に関わると、警察官という職業の存在意義が分からなくなってきます」
氷室さんの事件については詳しく知らないけど、琴葉の事件の場合は、菅原博之が事件捜査や裁判について圧力をかけてきた。その通りになったということは、圧力に従った警察関係者がいるということ。本来ならあってはならないことが起きてしまったのだ。
「浅野さんの気持ちも分かります。ただ、私達は犯罪があったことを知ったら、相手が誰であろうと事実を徹底的に調べ上げ、犯人を逮捕する。それを繰り返して、犯罪への抑止力となる。そういう形で市民が安心して暮らすことができるようにするのです。私にとっての警察官という職業はそういうものだと思っています」
「羽賀さん……」
「ですから、今後もたとえ警察関係者や政治家が関わっていたとしても、私はいつも通りに事件解決に向けて動くつもりですよ。何年かかっても」
その考えを持っているから、常に冷静で堂々としていたんだな。それに、菅原達を告発するとお願いした直後に、一緒に事件を解決しようと言ってくれたとき、とても安心した。
「……そうですか。何だか羽賀さんは光のようですね」
「それは面白い表現ですね、浅野さん。それなら、逢坂君や恩田さんが今回の事件の光だと思っています。この事件、実に闇の深い事件だと思いましたが、お二人の真摯な証拠集めによってすぐに光が照らされた。今日中に逮捕まで辿り着いたのは、お二人が2年前から尽力したおかげです。ご協力いただきありがとうございました」
「僕はただ、琴葉を守りたいと思って動いただけです。羽賀さんの言葉を借りれば……その光をあるべき方向に照らしてくれたのは、3人のお力があったからだと思います。それに、警察に相談する勇気をくれたのは沙奈会長達のおかげですから」
2年前からやってきたことが、琴葉にとっての光となっていたのなら僕は嬉しい。また、菅原達と決着を付けたことで、僕の知らない人達を含めて誰かの兆しとなっていけばいいなと思っている。
「ありがとうございます、沙奈会長。ずっと僕の側にいてくれて」
感謝の言葉を伝えて、僕は沙奈会長の頭を抱き寄せた。ミッションがあったとはいえ、沙奈会長が僕の側にいてくれたのは本当に安心したんだ。出会った当初は顔を見ることさえ嫌だったのに、今はこうして側にいてくれないと不安に思えるなんて。
「私は……側にいたいから側にいるだけだよ。この先ずっとそうじゃないかな。玲人君も同じ気持ちだったら嬉しいなって思ってる」
えへへっ、と沙奈会長は可愛らしい笑みを浮かべている。
「僕の恋人も似たようなことを言いそうだな……」
「私も同じことを考えていた」
「お二人もですか。私もです」
氷室さんの恋人は相当な行動派で肉食系……なのかな。何度も話に出てきているのでいつか会ってみたいな。
「ねえ、玲人君。今、私や恩田さん以外の女の子のことを考えていたでしょ」
「……よく分かりましたね」
「その人のことが気になるんだったら、始末しないといけないよね」
「……会長が心配するようなことはないですよ」
だって、一度も会ったことがない女性のことだし。あと、腕をそんなにぎゅっと締め付けないでほしい。かなり痛いんですけど。
「そういうところも僕の恋人に似ているかな。信頼してくれているんだけど、女性の話になると嫉妬しやすいところがある」
氷室さんの恋人もそういう性格なのか。ただ、恋人から他の女性の話をされたら、心がざわついたり、嫉妬したりするのは自然なことなのかな。
――ぐううっ。
盛大にお腹の音が鳴ってしまった。そういえば、朝ご飯から何も食べていなかったな。色々とあって時間を忘れていたけれど、もう午後3時過ぎなのか。
「ふふっ、そういえば何も食べていなかったね。私もお腹空いちゃったな」
「……ええ。家に帰ったらカップ麺でも食べましょうか」
「うん、そうだね」
そういえば、カップ麺って最近食べていないな。学校がある日は朝食と夕食は母親の作ったものを食べるし、お昼ご飯はお弁当。コンビニには行くけれど、大抵はコーヒーとスイーツを買ってしまうし。カップ麺のことを考えたら余計にお腹が空いてきた。
「私も夕食はひさしぶりにインスタント麺にするか」
「羽賀は1人暮らしなのに、インスタント麺は食べないのか? 僕が1人暮らししているときはカップ麺とかインスタント麺にはお世話になったよ」
「すぐに作れるから私もたまに食べるが……栄養のことを考えると」
僕も多少の料理はできるけれど、好きってほどではないから1人暮らしを始めたらカップ麺にはお世話になるかも。
「大丈夫だよ、玲人君は。仮に私と付き合うことになったら、玲人君には栄養満点のご飯を作ってあげるよ。1人暮らしをするタイミングで私と同棲決定だね」
「……そのお気持ちだけは有り難く受け取っておきます」
どうやら、沙奈会長の頭の中では僕との未来予想図がしっかりとできているようだ。
僕が誰とも付き合っていなければ、1人暮らしの僕の家に沙奈会長が定期的に来そう。それで、いつの間にか住んでいそう。一緒に住んでいるんだから付き合っているのと一緒だよねとか言ってきそう。それも悪くないと思えてきた。
お腹の音をきっかけに和やかに変わった車内の空気に包まれながら、僕らは自宅に到着した。出発時と同じように門のところには2人の警察官が見張っている。
「到着しました」
「送っていただいてありがとうございました」
「……君達、あれから怪しい人物は?」
「いえ、特におりませんでした!」
ここでうろついていた男達以外に、菅原は僕の家の住所は教えなかったのかな。
「分かりました。私達の追っていた事件も犯人が逮捕され、とりあえず一段落しました。ここでの見張りはこれで終わりです。ありがとうございました」
「はっ! では、失礼します!」
2人の警察官は家の前から立ち去っていった。土曜日まで、お仕事お疲れ様でした。
病院で色々なことがあったからか、数時間しか経っていないのに随分とひさしぶりに帰ってきた気分だ。
「ただいま~」
玄関を開けた途端にとても甘い匂いがする。時間を考えると、3時のおやつでも作っているのかな。
リビングからエプロン姿の姉さんと副会長さんが姿を現し、
「あっ、玲人に沙奈ちゃん! おかえり!」
「みなさん、おかえりなさい。そして、お疲れ様です」
僕は姉さんに、沙奈会長は副会長さんに抱きしめられる。
そういえば、自由の身になってから初めて姉さんと会ったときも、今みたいにぎゅっと抱きしめられたっけ。
「玲人、よくやったね。琴葉ちゃんも目が覚めて。とても嬉しいよ」
「ああ。何とかやりきれたよ。今、琴葉は検査を受けているけれど、元気そうだったからきっと大丈夫さ。明日、改めてお見舞いに行くことになったから姉さんも行く?」
「もちろんだよ! 琴葉ちゃんに会いたい!」
「私も行っていいかな? 恩田さんに一度会ってみたいし」
「いいですよ。みんなで行きましょう」
僕の今の生活を知ってもらうためにも、副会長さんも一緒に来てくれるのは嬉しい。きっと2人はすぐに仲良くなれると思う。
「そういえば、姉さん。甘い匂いがするけど、何かおやつを作ってるの?」
「うん、ホットケーキ! この前食べて美味しかったし。それに、病院を出たってメッセージをくれたじゃない。だから、みんなで食べようと思ってお母さんや樹里ちゃんと一緒に作ってたの。とにかくたくさん」
「そっか、たくさん作ったんだね」
甘いものは好きだけど、この前、姉さんと沙奈会長にたくさん食べさせられて苦しくなったことを忘れてしまったのか? 今日は副会長さんや両親もいるので大丈夫か。
「羽賀さん達もパンケーキいかがですか? 樹里ちゃんと一緒にたくさん作りましたので、ぜひ」
「朝から何も食べていないから僕はいただこうかな。羽賀と浅野さんはどうします? これから、捜査や菅原君達の取り調べとかするんですか?」
「今のところは所轄がやってくれているが、私は逢坂君から告発を受けた立場でもある。いずれは取り調べをすることになるだろう。そのためにも、一口パンケーキをいただこう」
「私もいただきます! 車の中で玲人さんのお腹の音を聞いてからペコペコで」
「では、全員で食べましょう!」
その後、僕らは副会長さんと姉さんが作ったパンケーキを食べた。とてもお腹が空いているからなのか。それとも、菅原達と決着を付けられたからなのか。この前よりもとても美味しく思えた。
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