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特別編-Lovely Sick-
『晩春』
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特別編-Lovely Sick-
5月25日、金曜日。
火曜日からスタートした高校最初の中間試験が今日で終わった。
定期試験が4日間だったのは今回が初めて。ただ、保健や家庭科など一部の科目は試験がなかったことや、2教科だけ試験を実施する日もあったので、難なく乗り切ることができた。
中間試験が終わったので、放課後は先週の金曜日以来の生徒会活動がある。そのために生徒会室に行くと、そこには既に沙奈会長や副会長さんがおり、試験がよくできたのか2人とも嬉しそうな笑みを浮かべていた。
昼食を食べた後、およそ10日ぶりの生徒会活動を行う。試験期間とその1週間前から生徒会活動が原則禁止されているためである。10日分の仕事量はかなりのものだった。普段とは違って時間はたっぷりとあるけれど、あっという間に過ぎていった。
「これで終わりですね。玲人君、樹里先輩、10日ぶりの生徒会活動お疲れ様でした」
「お疲れ様、沙奈ちゃん、逢坂君」
「お疲れ様です。沙奈会長、副会長さん」
生徒会の仕事が終わったときには、空が暗くなり始めていた。部屋にかかっている時計を見てみると、もう午後6時半過ぎなのか。
「仕事を始めてから数時間も経っていたんですね。だからなのか、かなり寒気がするんですけど」
「そんなに寒いかな? 私は暑いから途中でブレザー脱いで、窓を開けたらちょうどいいくらいだよ」
「私も沙奈ちゃんと一緒だよ。そういえば、逢坂君はブレザーを着てるね。この時期は夜になると涼しいよね」
確かに今の時期は、朝晩は涼しくて、昼間は晴れている日だと暑いかな。今日も午前中から晴れていたけれど、不思議と暑さは感じなかった。
「玲人君、もしかしたら疲れが溜まっているのかも。科目数は少ないけれど、今回が高校で初めての定期試験だったし。それが終わってすぐに、いつもより多く生徒会の仕事をやったから」
「言われてみればそうかもしれないです。定期試験自体は大丈夫だったんですけどね。お昼ご飯を食べてから、ほとんど休憩を入れずにずっと生徒会の仕事をしていたので……」
今日のことを振り返った瞬間、どっと疲れが襲ってくる。定期試験もそうだし、ここまで長い時間集中して生徒会の仕事をしたのは初めてだった。それらのことで疲れが溜まってしまったのだろうか。
「今日は家に帰ったらゆっくりしたいと思います」
「それがいいよ、玲人君。ゆっくり休んで、たっぷり寝るんだよ。あと、何かあったらいつでも連絡してきてね! すぐに玲人君のところに行くから! 体調を崩したら私が看病するし」
「万が一、そうなったとしても逢坂君の体調を悪化させないように気を付けてね、沙奈ちゃん」
「もちろんですって!」
「ありがとうございます。とりあえず、お気持ちは受け取っておきます」
何かあっても、すぐに相談できる人達がいるというのは心強い。そのうちの1人が恋人であるというのは幸せなことだと思う。
定期試験も終わったし、この週末は沙奈会長と一緒に過ごしたい。そのためにも今日はゆっくり休むことにしよう。
家に帰ってからは、夕ご飯を食べて、お風呂に入って、いつもよりもだいぶ早く眠ることにした。
ただ、夕食はいつもよりも食べることができず、お風呂に入ってからすぐにふとんに入ったのに、寒気が消えることはなかった。
目を瞑ってもなかなか眠ることができず、壁に掛かっている時計の針の音がうるさく思えてきた。眠くなるどころか、眠気が飛んでしまってきて。この音が小さくなってほしいと思いふとんを被ると、しばらくして聞こえなくなったのであった。
5月26日、土曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、カーテンの隙間から陽の光が差し込んでいた。昨日はなかなか眠ることができなかったけれど、何とか眠ることができて――。
「あれ?」
体を起こそうと思ったら、頭がクラッとして妙に重く感じる。そういえば、体がとても熱い。喉もおかしくて、頭痛も少しある。
「まずい、風邪引いたか……」
昨日までの疲れが原因だろうな。それに、お風呂に入ってすぐに布団に入ったのに寒気が取れなかったし、眠るまでにもかなり時間がかかった。
幸い、スマートフォンはベッドの上にあった。スマートフォンで時刻を確認すると、もう午前9時過ぎなのか。休日でも遅い起床だ。
俺は沙奈会長に、
『おはようございます、沙奈会長。風邪引いちゃいました。今日と明日はゆっくり休みます』
というメッセージを送る。何かあったらいつでも言ってきてと言ってくれたし。
試験明けの週末なので、沙奈会長もデートしたいとか考えていたかもなぁ。会長、ごめんなさい。
すると、すぐに会長から返信が届く。
『おはよう、玲人君。やっぱり、風邪引いていたんだね。お粥を持っていくね』
お粥を持っていくって。沙奈会長、お粥を作ってお見舞いに来てくれるのかな。それとも、材料を持ってきて家で作ってくれるのかな。申し訳ない気持ちもあるけれど、沙奈会長に会えるのは嬉しいことだ。それだけでも少しだけ体調が良くなった気がする。
――コンコン。
「……はい」
精一杯声を出すけれど、喉をやられているからか掠れてしまっている。なかなか起きないから、姉さんが僕の様子を見に来てくれたのかな。
「玲人君、お粥持ってきたよ」
「さ、沙奈会長! けほっ、けほっ」
まさかの沙奈会長の登場に驚いてしまい、大きな声を出してしまった。それでも会長は優しい笑みを崩さなかった。エプロン姿も可愛いな。
「どうして、沙奈会長がここに……」
「玲人君のことが心配だったからね。思い返せば、昨日、生徒会の仕事が終わったときの玲人君はいつもよりも顔色が良くなかったし。それで、朝ご飯を食べてすぐにここに来たの。寝ている玲人君の額が結構熱かったから、風邪かもしれないと思って、台所でお粥を作ることにしたの。もうすぐ完成ってときに、玲人君からメッセージを受け取ったの」
「……そういうことだったんですね」
さすがは沙奈会長というべきか。彼女らしいとも言えるけれど。そういえば、よく見てみると、勉強机の近くに沙奈会長のバッグが置かれているな。あと、勉強机の椅子がベッドの側に動かされている。
「会長、お見舞いに来てくださってありがとうございます。あと、お粥まで作っていただいて……」
「いえいえ、愛おしい恋人のためですから。お休みの間はずっと看病するからね! それに、前に私が体調を崩したときに玲人君が看病をしてくれたじゃない。まあ、あれはアリスさんのミッションが影響したんだけれどね」
「そういえば、そんなこともありましたね」
「……それに、病気になった今、玲人君のことを管理するのにはうってつけの機会……何でもないよ。玲人君のことを看病してみたかったの」
「全部聞こえてますよ」
体調を崩した今の僕なら自分の言うとおりにできると思っているのか。この人に看病されることが急に不安になってきたぞ。
「そのお粥、見た目は普通のものと変わらないですけど、何か変な調味料とか薬は入っていませんよね?」
「大丈夫だって。ごく普通のお粥だから」
「……それならいいですけど」
さすがの沙奈会長でも、病人である僕に変な物を食べさせるようなことはしないか。
「じゃあ、冷めないうちに食べようか。玲人君、今は食欲ある? お腹とかは大丈夫?」
「お腹の方は大丈夫です。食欲はあまりないですけど、少しでも何か体に入れておいた方がいいですしいただきます」
「うん。ちょっと待っててね。食べさせてあげる」
「……ありがとうございます」
お粥を持っていくというメッセージをもらってから、食べさせてもらうことを予想はしていたけれど、実際にそういう展開になるとドキドキしてくるな。
気付けば、沙奈会長は椅子に座り、ふっー、と息を吹きかけてお茶碗に取り分けたお粥を冷ましている。こうしていると、小さい頃に体調を崩したときの姉さんや琴葉のことを思い出す。
「これで大丈夫かな。玲人君、まずは一口食べてみようか。はい、あ~ん」
「あ~ん。……うん、至って普通のお粥ですね。いいですね」
「ふふっ、お粥は普通が一番いいんだよ。ただし、愛情はたっぷりとね」
その愛情が、味や栄養に悪い影響を及ぼしていなくて本当に良かったと思う。
愛情たっぷりのお粥のおかげで、ちょっと体が楽になったような気もする。
「どうかな、玲人君。まだ食べられそう?」
「はい。体の中に食べ物が入ると、少しですけど元気になりますね」
「それなら良かった。じゃあ、もう一口。はい、あ~ん」
その後も沙奈会長に優しく食べさせてもらったおかげか、お茶碗一杯分のお粥を食べることができた。そのことで気持ち悪くなったり、お腹が痛くなったりはしていない。
「玲人君、凄いね。これだけ食べることができれば、まずは一安心だね。じゃあ、朝ご飯のデザートに」
そう言うと、沙奈会長は俺に口づけをしてきた。そのときに、ほんの少しいちごの匂いがして。まったく、贅沢で甘いデザートで嬉しいけれど、そのおかげで起きたときよりも体が熱くなってしまったよ。
唇を離れると、沙奈会長は嬉しい笑みを見せてくる。
「まったく、沙奈会長は。風邪が移ったらどうするんですか」
「玲人君から移されたなら後悔しないし、そのときには玲人君に看病してもらうから」
「……はいはい」
沙奈会長に病気が移ってしまわないように気を付けないと。みんな元気なのが一番いいからさ。
その後、市販の風邪薬を飲んでゆっくりすることに。眠くなってきたけれど、沙奈会長が側にいるとそれも惜しく思える。
「玲人君、私にしてほしいことってある? 玲人君のためならどんなことでもするよ?」
「そうですね……俺の側にいてくれると一番嬉しいです」
俺がそう言うと、沙奈会長は顔を真っ赤にさせる。
「……今は私の方が熱は高いかも。玲人君から風邪が移っちゃったのかな」
「それは一大事だ」
「……でも、この熱はとても心地よいものです。この週末はずっと玲人君の側にいるから安心して」
「ありがとうございます。優しい沙奈会長のことが僕は大好きですよ」
風邪を引いているからか、そんな想いを恥ずかしげもなく言えてしまう。ただ、そんな僕の言動のせいで沙奈会長は更に熱が高くなっているけれど。
「……ありがとう、玲人君。あなたのことが今まで以上に好きになったよ」
すると、沙奈会長は再び僕に口づけをしてきた。優しく舌を絡ませてきて。本当に風邪が移ってしまいそうだから止めるべきなのだろう。しかし、彼女の口からいちごの甘い味がして心地よいから止めさせることができなかった。
やがて、口づけが終わると沙奈会長に優しく抱きしめられる。
「早く元気になってね、玲人君。そのためなら私は何でもするから。遠慮せずにわがままを言ってね」
「……ありがとうございます。じゃあ、少しの間、手を握ってもらってもいいですか?」
「もちろんいいよ」
沙奈会長は俺の手をそっと掴んでくる。そのときに見せる彼女の笑みはとても可愛らしくて優しかった。
そんな沙奈会長を見ていると、とても安心できて……すぐに眠りにつくことができた。彼女が看病しに来てくれて良かったと思いながら。
それから沙奈会長のおかげもあってか、どんどんと体調が良くなっていった。日曜日になったらすっかりと快復し、彼女とゆっくりお家デートをしたのでした。
特別編-Lovely Sick- おわり
5月25日、金曜日。
火曜日からスタートした高校最初の中間試験が今日で終わった。
定期試験が4日間だったのは今回が初めて。ただ、保健や家庭科など一部の科目は試験がなかったことや、2教科だけ試験を実施する日もあったので、難なく乗り切ることができた。
中間試験が終わったので、放課後は先週の金曜日以来の生徒会活動がある。そのために生徒会室に行くと、そこには既に沙奈会長や副会長さんがおり、試験がよくできたのか2人とも嬉しそうな笑みを浮かべていた。
昼食を食べた後、およそ10日ぶりの生徒会活動を行う。試験期間とその1週間前から生徒会活動が原則禁止されているためである。10日分の仕事量はかなりのものだった。普段とは違って時間はたっぷりとあるけれど、あっという間に過ぎていった。
「これで終わりですね。玲人君、樹里先輩、10日ぶりの生徒会活動お疲れ様でした」
「お疲れ様、沙奈ちゃん、逢坂君」
「お疲れ様です。沙奈会長、副会長さん」
生徒会の仕事が終わったときには、空が暗くなり始めていた。部屋にかかっている時計を見てみると、もう午後6時半過ぎなのか。
「仕事を始めてから数時間も経っていたんですね。だからなのか、かなり寒気がするんですけど」
「そんなに寒いかな? 私は暑いから途中でブレザー脱いで、窓を開けたらちょうどいいくらいだよ」
「私も沙奈ちゃんと一緒だよ。そういえば、逢坂君はブレザーを着てるね。この時期は夜になると涼しいよね」
確かに今の時期は、朝晩は涼しくて、昼間は晴れている日だと暑いかな。今日も午前中から晴れていたけれど、不思議と暑さは感じなかった。
「玲人君、もしかしたら疲れが溜まっているのかも。科目数は少ないけれど、今回が高校で初めての定期試験だったし。それが終わってすぐに、いつもより多く生徒会の仕事をやったから」
「言われてみればそうかもしれないです。定期試験自体は大丈夫だったんですけどね。お昼ご飯を食べてから、ほとんど休憩を入れずにずっと生徒会の仕事をしていたので……」
今日のことを振り返った瞬間、どっと疲れが襲ってくる。定期試験もそうだし、ここまで長い時間集中して生徒会の仕事をしたのは初めてだった。それらのことで疲れが溜まってしまったのだろうか。
「今日は家に帰ったらゆっくりしたいと思います」
「それがいいよ、玲人君。ゆっくり休んで、たっぷり寝るんだよ。あと、何かあったらいつでも連絡してきてね! すぐに玲人君のところに行くから! 体調を崩したら私が看病するし」
「万が一、そうなったとしても逢坂君の体調を悪化させないように気を付けてね、沙奈ちゃん」
「もちろんですって!」
「ありがとうございます。とりあえず、お気持ちは受け取っておきます」
何かあっても、すぐに相談できる人達がいるというのは心強い。そのうちの1人が恋人であるというのは幸せなことだと思う。
定期試験も終わったし、この週末は沙奈会長と一緒に過ごしたい。そのためにも今日はゆっくり休むことにしよう。
家に帰ってからは、夕ご飯を食べて、お風呂に入って、いつもよりもだいぶ早く眠ることにした。
ただ、夕食はいつもよりも食べることができず、お風呂に入ってからすぐにふとんに入ったのに、寒気が消えることはなかった。
目を瞑ってもなかなか眠ることができず、壁に掛かっている時計の針の音がうるさく思えてきた。眠くなるどころか、眠気が飛んでしまってきて。この音が小さくなってほしいと思いふとんを被ると、しばらくして聞こえなくなったのであった。
5月26日、土曜日。
ゆっくりと目を覚ますと、カーテンの隙間から陽の光が差し込んでいた。昨日はなかなか眠ることができなかったけれど、何とか眠ることができて――。
「あれ?」
体を起こそうと思ったら、頭がクラッとして妙に重く感じる。そういえば、体がとても熱い。喉もおかしくて、頭痛も少しある。
「まずい、風邪引いたか……」
昨日までの疲れが原因だろうな。それに、お風呂に入ってすぐに布団に入ったのに寒気が取れなかったし、眠るまでにもかなり時間がかかった。
幸い、スマートフォンはベッドの上にあった。スマートフォンで時刻を確認すると、もう午前9時過ぎなのか。休日でも遅い起床だ。
俺は沙奈会長に、
『おはようございます、沙奈会長。風邪引いちゃいました。今日と明日はゆっくり休みます』
というメッセージを送る。何かあったらいつでも言ってきてと言ってくれたし。
試験明けの週末なので、沙奈会長もデートしたいとか考えていたかもなぁ。会長、ごめんなさい。
すると、すぐに会長から返信が届く。
『おはよう、玲人君。やっぱり、風邪引いていたんだね。お粥を持っていくね』
お粥を持っていくって。沙奈会長、お粥を作ってお見舞いに来てくれるのかな。それとも、材料を持ってきて家で作ってくれるのかな。申し訳ない気持ちもあるけれど、沙奈会長に会えるのは嬉しいことだ。それだけでも少しだけ体調が良くなった気がする。
――コンコン。
「……はい」
精一杯声を出すけれど、喉をやられているからか掠れてしまっている。なかなか起きないから、姉さんが僕の様子を見に来てくれたのかな。
「玲人君、お粥持ってきたよ」
「さ、沙奈会長! けほっ、けほっ」
まさかの沙奈会長の登場に驚いてしまい、大きな声を出してしまった。それでも会長は優しい笑みを崩さなかった。エプロン姿も可愛いな。
「どうして、沙奈会長がここに……」
「玲人君のことが心配だったからね。思い返せば、昨日、生徒会の仕事が終わったときの玲人君はいつもよりも顔色が良くなかったし。それで、朝ご飯を食べてすぐにここに来たの。寝ている玲人君の額が結構熱かったから、風邪かもしれないと思って、台所でお粥を作ることにしたの。もうすぐ完成ってときに、玲人君からメッセージを受け取ったの」
「……そういうことだったんですね」
さすがは沙奈会長というべきか。彼女らしいとも言えるけれど。そういえば、よく見てみると、勉強机の近くに沙奈会長のバッグが置かれているな。あと、勉強机の椅子がベッドの側に動かされている。
「会長、お見舞いに来てくださってありがとうございます。あと、お粥まで作っていただいて……」
「いえいえ、愛おしい恋人のためですから。お休みの間はずっと看病するからね! それに、前に私が体調を崩したときに玲人君が看病をしてくれたじゃない。まあ、あれはアリスさんのミッションが影響したんだけれどね」
「そういえば、そんなこともありましたね」
「……それに、病気になった今、玲人君のことを管理するのにはうってつけの機会……何でもないよ。玲人君のことを看病してみたかったの」
「全部聞こえてますよ」
体調を崩した今の僕なら自分の言うとおりにできると思っているのか。この人に看病されることが急に不安になってきたぞ。
「そのお粥、見た目は普通のものと変わらないですけど、何か変な調味料とか薬は入っていませんよね?」
「大丈夫だって。ごく普通のお粥だから」
「……それならいいですけど」
さすがの沙奈会長でも、病人である僕に変な物を食べさせるようなことはしないか。
「じゃあ、冷めないうちに食べようか。玲人君、今は食欲ある? お腹とかは大丈夫?」
「お腹の方は大丈夫です。食欲はあまりないですけど、少しでも何か体に入れておいた方がいいですしいただきます」
「うん。ちょっと待っててね。食べさせてあげる」
「……ありがとうございます」
お粥を持っていくというメッセージをもらってから、食べさせてもらうことを予想はしていたけれど、実際にそういう展開になるとドキドキしてくるな。
気付けば、沙奈会長は椅子に座り、ふっー、と息を吹きかけてお茶碗に取り分けたお粥を冷ましている。こうしていると、小さい頃に体調を崩したときの姉さんや琴葉のことを思い出す。
「これで大丈夫かな。玲人君、まずは一口食べてみようか。はい、あ~ん」
「あ~ん。……うん、至って普通のお粥ですね。いいですね」
「ふふっ、お粥は普通が一番いいんだよ。ただし、愛情はたっぷりとね」
その愛情が、味や栄養に悪い影響を及ぼしていなくて本当に良かったと思う。
愛情たっぷりのお粥のおかげで、ちょっと体が楽になったような気もする。
「どうかな、玲人君。まだ食べられそう?」
「はい。体の中に食べ物が入ると、少しですけど元気になりますね」
「それなら良かった。じゃあ、もう一口。はい、あ~ん」
その後も沙奈会長に優しく食べさせてもらったおかげか、お茶碗一杯分のお粥を食べることができた。そのことで気持ち悪くなったり、お腹が痛くなったりはしていない。
「玲人君、凄いね。これだけ食べることができれば、まずは一安心だね。じゃあ、朝ご飯のデザートに」
そう言うと、沙奈会長は俺に口づけをしてきた。そのときに、ほんの少しいちごの匂いがして。まったく、贅沢で甘いデザートで嬉しいけれど、そのおかげで起きたときよりも体が熱くなってしまったよ。
唇を離れると、沙奈会長は嬉しい笑みを見せてくる。
「まったく、沙奈会長は。風邪が移ったらどうするんですか」
「玲人君から移されたなら後悔しないし、そのときには玲人君に看病してもらうから」
「……はいはい」
沙奈会長に病気が移ってしまわないように気を付けないと。みんな元気なのが一番いいからさ。
その後、市販の風邪薬を飲んでゆっくりすることに。眠くなってきたけれど、沙奈会長が側にいるとそれも惜しく思える。
「玲人君、私にしてほしいことってある? 玲人君のためならどんなことでもするよ?」
「そうですね……俺の側にいてくれると一番嬉しいです」
俺がそう言うと、沙奈会長は顔を真っ赤にさせる。
「……今は私の方が熱は高いかも。玲人君から風邪が移っちゃったのかな」
「それは一大事だ」
「……でも、この熱はとても心地よいものです。この週末はずっと玲人君の側にいるから安心して」
「ありがとうございます。優しい沙奈会長のことが僕は大好きですよ」
風邪を引いているからか、そんな想いを恥ずかしげもなく言えてしまう。ただ、そんな僕の言動のせいで沙奈会長は更に熱が高くなっているけれど。
「……ありがとう、玲人君。あなたのことが今まで以上に好きになったよ」
すると、沙奈会長は再び僕に口づけをしてきた。優しく舌を絡ませてきて。本当に風邪が移ってしまいそうだから止めるべきなのだろう。しかし、彼女の口からいちごの甘い味がして心地よいから止めさせることができなかった。
やがて、口づけが終わると沙奈会長に優しく抱きしめられる。
「早く元気になってね、玲人君。そのためなら私は何でもするから。遠慮せずにわがままを言ってね」
「……ありがとうございます。じゃあ、少しの間、手を握ってもらってもいいですか?」
「もちろんいいよ」
沙奈会長は俺の手をそっと掴んでくる。そのときに見せる彼女の笑みはとても可愛らしくて優しかった。
そんな沙奈会長を見ていると、とても安心できて……すぐに眠りにつくことができた。彼女が看病しに来てくれて良かったと思いながら。
それから沙奈会長のおかげもあってか、どんどんと体調が良くなっていった。日曜日になったらすっかりと快復し、彼女とゆっくりお家デートをしたのでした。
特別編-Lovely Sick- おわり
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