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プロローグ『クラスメイトの王子様系女子』
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『クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。』
本編
「今日も千弦は人気だね。さすがは王子様」
「そうだなぁ、早希」
クラスメイトで親友の坂井琢磨と、友人の吉岡早希さんが、教室のとある方を見ながらそんなことを言った。
カップルである2人が見ている方に、俺・白石洋平も視線を向ける。その先には7、8人のクラスメイトの女子生徒が楽しそうにお喋りしている。吉岡さんが「王子様」と称する藤原千弦さんを中心に。
「ほんとだ。女子中心に、藤原さんの周りにはいつも人が集まってるよな」
「そうだね。千弦は背も高くてスタイルがいいし、美人で凛々しい顔立ちだし、笑顔で話すことも多くて素敵だし。人が集まるのも納得だよ」
「そうだな。まあ、俺にとっては早希が一番美人で素敵だと思ってるけどな! クラスメイトで一番背が高いところもな。それに可愛いし」
「ありがとう、琢磨君!」
吉岡さんは嬉しそうにお礼を言うと、琢磨の頬にキスをした。そのことで琢磨はデレッデレ。2人が付き合い始めてから1年ほど経つけど、本当にラブラブだ。間近で親友カップルのアツアツぶりを見せつけられているけど、幸せそうな2人を見ていると俺も幸せな気持ちになっていく。琢磨とは中学入学からの4年以上の付き合いだし。
ちなみに、琢磨は男子バスケ部に入っていて身長が192cm、吉岡さんは女子バスケ部で身長が170cm以上あるので、2人のことを「バスケビッグカップル」と呼ぶ生徒もいる。
「琢磨君が一番かっこ良くて素敵だよ」
「ありがとな、早希!」
今度は琢磨が吉岡さんの頬にキス。だから、2人とも本当に幸せそうだ。
「本当に2人は仲がいいな」
「おう! 早希のことが大好きだからな!」
「あたしも琢磨君のことが大好き!」
「そっか。嬉しいよ、俺は」
いつまでも仲良くいてほしいものだ。琢磨と吉岡さんが付き合い始めた瞬間を見届けた友人として強く願う。
「まあ、俺の中では一番かっこいいのは洋平だけどな」
「金髪でイケメンだもんね。琢磨君の次にかっこいいよ」
「ははっ、そいつはどうも。ただ、俺も一番かっこいいのは琢磨だと思ってるよ」
マッチョで強面なところが男らしいし。いつも明るく朗らかだし。吉岡さんと一緒にいるときやバスケ中心に体を動かしたりするときは、今みたいに凄くいい笑顔を見せるからな。俺にとっても琢磨が一番かっこいいよ。
俺からも一番かっこいいと言われたからか、琢磨はかなり嬉しそうにしていた。
再び藤原さんグループの方に視線を向けると……依然として、藤原さん中心に楽しそうにお喋りしている。さっきは藤原さんの話をしていたので、自然と藤原さんの方に視線が向く。
藤原さんは一緒にいる女子生徒達の中で背が最も高く、スタイルも良くて。
凛々しさも感じられる整った顔立ちで。ワンレングスボブの黒髪と合っていて。
いつも落ち着いていて、笑顔を見せることが多い温厚な性格で。
成績も優秀で。運動系の部活には入っていないけど、運動神経も結構いいらしい。
才色兼備だから、王子様って呼ばれるのに相応しいな。
藤原さんは女子中心に人気が高く、去年、入学した頃からたくさんの生徒から告白されている。俺も何度か告白した場面を見かけたことがある。ただ、恋愛する気がないのか、誰とも付き合ったことはないそうだ。
「ふふっ」
藤原さんは声に出して笑っている。藤原さんの笑顔はとても美しかった。
放課後。
俺は通っている高校から徒歩数分のところにある、ゾソール洲中駅南口店という喫茶店で接客のバイトをしている。
ゾソールというのは、人気の高い全国チェーンの喫茶店。コーヒーや紅茶を中心としたドリンクや、スイーツやパンなどのフードメニューをお手頃価格で楽しめるのが売りだ。
コーヒーや紅茶、スイーツが好きだし、中学生までに何度も利用したことがあるので、俺は1年前、高校に入学した直後からバイトを始めた。ホール担当で、カウンターでの接客業務が主な仕事だ。
初めてのバイトなのもあり、バイトを始めた直後はミスも多くて。ただ、ホール担当の方中心に先輩方に色々と教えてもらったのもあり、今ではホール担当の仕事は一人で一通りこなせるようになった。数ヶ月前には先輩として新しくバイトに始めた人に業務を教えることもあった。
特急列車も止まるほどの大きな洲中駅の駅前にあり、お店の周辺には様々な商業施設があって人通りも多い。なので、午後4時にシフトに入った直後から、たくさんのお客様に接客している。大変だけど、時間の進みが早く感じるのでこれはこれでいいなと思える。
1回休憩を挟んで、午後7時にシフト通りにバイトを終えた。
従業員用の出入口から店を出ると、空はすっかりと暗くなっている。ただ、うちのお店を含め、営業中の駅周辺の商業施設はたくさんあるので、街の中は賑やかで明るい。夜にバイトを終えたときに見られるこの光景が好きだ。
「帰るか」
バイト上がりに、近くの大型商業施設に入っているアニメショップに行くこともある。ただ、買いたい漫画やラノベの発売日でもないので、今日は真っ直ぐ帰ろう。そう決めて、帰路に就いた直後だった。
「しつこいです。止めてください」
洲中駅の南口の前を通ったとき、駅の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
立ち止まって駅の方を向いてみると……南口の近くで、制服姿の藤原さんが、黒髪の男と茶髪の男に絡まれているところを見つけた。見た感じ……ナンパされているのかな。学校では王子様と呼ばれて女子中心に人気が高いけど、容姿端麗なので男性からも興味を持たれるのだろう。
しつこいです、と言っているのもあって、藤原さんは学校では見せないムッとした様子になっていて。
それに……脚が震えている。学校では落ち着いていることが多い藤原さんが脚を震わせているなんて。ナンパしてきた男達に対して、怖い思いを抱いているのかもしれない。
――助けなきゃ。
藤原さんは高1の頃からバイト先で何度か接客して、2年生になったこの4月に初めて同じクラスになったことで挨拶をしたり、軽く話したりしたことがある程度の関係だ。それでも、助けなきゃって思いが生まれた。人が多い場所だけど、我関せずと見向きをせずに素通りする人ばかりで。それもあり、助けようという思いが膨らんでいく。
俺は藤原さんのところに向かって歩き始める。
藤原さんをナンパしている2人の男のうち、黒髪の方が藤原さんに向かって右手を伸ばす。その瞬間、藤原さんは怯えた様子になって。
黒髪の男の右手が藤原さんに触れる直前に、俺は男の右腕をしっかりと掴んだ。
俺に腕を掴まれた黒髪の男はもちろん、藤原さんも茶髪の男もこちらに振り向く。男達はイラッとして、藤原さんは驚いた様子で。
「白石君……」
「こんばんは」
「何だお前。この女を横取りか? あと、痛いんだけど」
黒髪の男は俺のことをにらみながらそう言ってくる。
これは失礼、と俺は黒髪の男の右腕を離す。
「横取りするために来たのではありません。ただ、クラスメイトのこちらの彼女があなた方にナンパされるのを嫌がっていた様子だったので。彼女があなた方をしつこいと言っていましたし」
「……一度断ったんだけど、食い下がられてね。だから、『しつこいです。止めてください』って言ったんだ」
「そうだったんだ。……二度も断られているじゃないですか。彼女も嫌がっていますし、ナンパは止めてください」
「うるせえ! ナンパを止めるかどうか決めるのは俺達なんだよ! 関係ないヤツはどっか行け!」
茶髪の男は罵声を浴びさせて、拳にした右手で俺の顔を殴ろうとしてくる。それを間近で見ているからか、藤原さんは「きゃっ」と声を漏らす。
顔面に迫ってくる右手を躱して、俺は茶髪の男の右腕を掴んだ。
「どっか行け? 彼女を嫌がらせているあなた達がどっか行ってください。それでも食い下がるなら、一緒に交番に行きましょうか? 怒鳴られて、殴られそうになりましたし。近くにありますよ」
「こ、交番は勘弁してくれ」
交番を出した途端、茶髪の男は見る見るうちに顔色が悪くなっていく。俺を怒鳴って、殴ろうとしたのは事実だからな。黒髪の男も、さっきまでの顔に浮かべていた不満そうな表情が消えていく。
「では、あなた達がこちらの彼女に二度と関わらない。傷つけようとしない。それを約束できるなら、茶髪のあなたのこの手を離してあげます。藤原さんはどう?」
「……うん。それでいいよ」
「わ、分かった! もうナンパしないし、何にもしない! だから離してくれ!」
「俺も約束する!」
「分かりました。藤原さんも聞いたね?」
「うん」
「……じゃあ、約束を守ってくださいね」
茶髪の男の右腕を離すと、男達は怯えた様子で駅の方へ走り去っていった。まあ、あの様子なら、藤原さんにナンパしてきたり、傷つけたりすることはないだろう。
「一件落着だな。藤原さん、大丈夫か?」
そう問いかけながら藤原さんの方を見ると、藤原さんはほっと胸を撫で下ろしていた。ナンパしてきた男達がいなくなったからだろう。俺が見つけたときは、彼らに絡まれて嫌そうにしていたし。
「うん。大丈夫だよ。あのタイミングで白石君が来てくれたから、手を出されたりもしていない」
「そっか、良かった。ついさっきバイトが終わって、家に帰ろうとしていたんだ」
「そうだったんだ。私は友達の家から帰る途中で。そうしたら、ここでさっきの男達にナンパされたんだ。家に帰るのでって断ったんだけど、帰る前に楽しい場所に行かないかって絡まれてね。だから、しつこいですって言ったんだ」
「そこで俺が来たってわけか」
俺がそう言うと、藤原さんは一度頷く。
楽しい場所……か。あの男達にとっては楽しいのかもしれないけど、藤原さんにとっては楽しくない場所である可能性が高そうだ。
「男の人からナンパされたことはあるけど、2人であんなにしつこかったのは初めてでね。だから、段々怖くなってきて。白石君が来てくれてとても心強かったし、嬉しかったよ。ありがとう、白石君」
藤原さんは……とても可愛らしい笑顔になって俺にお礼を言ってきた。幼さも感じられる可愛い雰囲気の笑顔を見たのは初めてだ。王子様って呼ばれるだけあり、これまで学校やバイト先で見てきた笑顔は落ち着いた綺麗なものだった。そういった笑顔も素敵だけど、今、俺に向けてくれている笑顔も素敵で。
初めて見る雰囲気の笑顔だけど、藤原さんの顔に笑みが戻ったことがとても嬉しい。
「いえいえ。藤原さんのためになって良かったよ」
「本当にありがとう。じゃあ、そろそろ帰るよ」
「ああ。気をつけて帰れよ。あんなことがあったし、途中まででも送ろうか?」
「ありがとう。でも、私の家は北口の方にあってあまり遠くないし。大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ、気をつけて。また明日」
「うん。また明日、学校で」
藤原さんは俺に小さく手を振って、洲中駅の中に入っていく。藤原さんの姿が見えなくなるまで、俺は藤原さんのことを見守った。
本編
「今日も千弦は人気だね。さすがは王子様」
「そうだなぁ、早希」
クラスメイトで親友の坂井琢磨と、友人の吉岡早希さんが、教室のとある方を見ながらそんなことを言った。
カップルである2人が見ている方に、俺・白石洋平も視線を向ける。その先には7、8人のクラスメイトの女子生徒が楽しそうにお喋りしている。吉岡さんが「王子様」と称する藤原千弦さんを中心に。
「ほんとだ。女子中心に、藤原さんの周りにはいつも人が集まってるよな」
「そうだね。千弦は背も高くてスタイルがいいし、美人で凛々しい顔立ちだし、笑顔で話すことも多くて素敵だし。人が集まるのも納得だよ」
「そうだな。まあ、俺にとっては早希が一番美人で素敵だと思ってるけどな! クラスメイトで一番背が高いところもな。それに可愛いし」
「ありがとう、琢磨君!」
吉岡さんは嬉しそうにお礼を言うと、琢磨の頬にキスをした。そのことで琢磨はデレッデレ。2人が付き合い始めてから1年ほど経つけど、本当にラブラブだ。間近で親友カップルのアツアツぶりを見せつけられているけど、幸せそうな2人を見ていると俺も幸せな気持ちになっていく。琢磨とは中学入学からの4年以上の付き合いだし。
ちなみに、琢磨は男子バスケ部に入っていて身長が192cm、吉岡さんは女子バスケ部で身長が170cm以上あるので、2人のことを「バスケビッグカップル」と呼ぶ生徒もいる。
「琢磨君が一番かっこ良くて素敵だよ」
「ありがとな、早希!」
今度は琢磨が吉岡さんの頬にキス。だから、2人とも本当に幸せそうだ。
「本当に2人は仲がいいな」
「おう! 早希のことが大好きだからな!」
「あたしも琢磨君のことが大好き!」
「そっか。嬉しいよ、俺は」
いつまでも仲良くいてほしいものだ。琢磨と吉岡さんが付き合い始めた瞬間を見届けた友人として強く願う。
「まあ、俺の中では一番かっこいいのは洋平だけどな」
「金髪でイケメンだもんね。琢磨君の次にかっこいいよ」
「ははっ、そいつはどうも。ただ、俺も一番かっこいいのは琢磨だと思ってるよ」
マッチョで強面なところが男らしいし。いつも明るく朗らかだし。吉岡さんと一緒にいるときやバスケ中心に体を動かしたりするときは、今みたいに凄くいい笑顔を見せるからな。俺にとっても琢磨が一番かっこいいよ。
俺からも一番かっこいいと言われたからか、琢磨はかなり嬉しそうにしていた。
再び藤原さんグループの方に視線を向けると……依然として、藤原さん中心に楽しそうにお喋りしている。さっきは藤原さんの話をしていたので、自然と藤原さんの方に視線が向く。
藤原さんは一緒にいる女子生徒達の中で背が最も高く、スタイルも良くて。
凛々しさも感じられる整った顔立ちで。ワンレングスボブの黒髪と合っていて。
いつも落ち着いていて、笑顔を見せることが多い温厚な性格で。
成績も優秀で。運動系の部活には入っていないけど、運動神経も結構いいらしい。
才色兼備だから、王子様って呼ばれるのに相応しいな。
藤原さんは女子中心に人気が高く、去年、入学した頃からたくさんの生徒から告白されている。俺も何度か告白した場面を見かけたことがある。ただ、恋愛する気がないのか、誰とも付き合ったことはないそうだ。
「ふふっ」
藤原さんは声に出して笑っている。藤原さんの笑顔はとても美しかった。
放課後。
俺は通っている高校から徒歩数分のところにある、ゾソール洲中駅南口店という喫茶店で接客のバイトをしている。
ゾソールというのは、人気の高い全国チェーンの喫茶店。コーヒーや紅茶を中心としたドリンクや、スイーツやパンなどのフードメニューをお手頃価格で楽しめるのが売りだ。
コーヒーや紅茶、スイーツが好きだし、中学生までに何度も利用したことがあるので、俺は1年前、高校に入学した直後からバイトを始めた。ホール担当で、カウンターでの接客業務が主な仕事だ。
初めてのバイトなのもあり、バイトを始めた直後はミスも多くて。ただ、ホール担当の方中心に先輩方に色々と教えてもらったのもあり、今ではホール担当の仕事は一人で一通りこなせるようになった。数ヶ月前には先輩として新しくバイトに始めた人に業務を教えることもあった。
特急列車も止まるほどの大きな洲中駅の駅前にあり、お店の周辺には様々な商業施設があって人通りも多い。なので、午後4時にシフトに入った直後から、たくさんのお客様に接客している。大変だけど、時間の進みが早く感じるのでこれはこれでいいなと思える。
1回休憩を挟んで、午後7時にシフト通りにバイトを終えた。
従業員用の出入口から店を出ると、空はすっかりと暗くなっている。ただ、うちのお店を含め、営業中の駅周辺の商業施設はたくさんあるので、街の中は賑やかで明るい。夜にバイトを終えたときに見られるこの光景が好きだ。
「帰るか」
バイト上がりに、近くの大型商業施設に入っているアニメショップに行くこともある。ただ、買いたい漫画やラノベの発売日でもないので、今日は真っ直ぐ帰ろう。そう決めて、帰路に就いた直後だった。
「しつこいです。止めてください」
洲中駅の南口の前を通ったとき、駅の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
立ち止まって駅の方を向いてみると……南口の近くで、制服姿の藤原さんが、黒髪の男と茶髪の男に絡まれているところを見つけた。見た感じ……ナンパされているのかな。学校では王子様と呼ばれて女子中心に人気が高いけど、容姿端麗なので男性からも興味を持たれるのだろう。
しつこいです、と言っているのもあって、藤原さんは学校では見せないムッとした様子になっていて。
それに……脚が震えている。学校では落ち着いていることが多い藤原さんが脚を震わせているなんて。ナンパしてきた男達に対して、怖い思いを抱いているのかもしれない。
――助けなきゃ。
藤原さんは高1の頃からバイト先で何度か接客して、2年生になったこの4月に初めて同じクラスになったことで挨拶をしたり、軽く話したりしたことがある程度の関係だ。それでも、助けなきゃって思いが生まれた。人が多い場所だけど、我関せずと見向きをせずに素通りする人ばかりで。それもあり、助けようという思いが膨らんでいく。
俺は藤原さんのところに向かって歩き始める。
藤原さんをナンパしている2人の男のうち、黒髪の方が藤原さんに向かって右手を伸ばす。その瞬間、藤原さんは怯えた様子になって。
黒髪の男の右手が藤原さんに触れる直前に、俺は男の右腕をしっかりと掴んだ。
俺に腕を掴まれた黒髪の男はもちろん、藤原さんも茶髪の男もこちらに振り向く。男達はイラッとして、藤原さんは驚いた様子で。
「白石君……」
「こんばんは」
「何だお前。この女を横取りか? あと、痛いんだけど」
黒髪の男は俺のことをにらみながらそう言ってくる。
これは失礼、と俺は黒髪の男の右腕を離す。
「横取りするために来たのではありません。ただ、クラスメイトのこちらの彼女があなた方にナンパされるのを嫌がっていた様子だったので。彼女があなた方をしつこいと言っていましたし」
「……一度断ったんだけど、食い下がられてね。だから、『しつこいです。止めてください』って言ったんだ」
「そうだったんだ。……二度も断られているじゃないですか。彼女も嫌がっていますし、ナンパは止めてください」
「うるせえ! ナンパを止めるかどうか決めるのは俺達なんだよ! 関係ないヤツはどっか行け!」
茶髪の男は罵声を浴びさせて、拳にした右手で俺の顔を殴ろうとしてくる。それを間近で見ているからか、藤原さんは「きゃっ」と声を漏らす。
顔面に迫ってくる右手を躱して、俺は茶髪の男の右腕を掴んだ。
「どっか行け? 彼女を嫌がらせているあなた達がどっか行ってください。それでも食い下がるなら、一緒に交番に行きましょうか? 怒鳴られて、殴られそうになりましたし。近くにありますよ」
「こ、交番は勘弁してくれ」
交番を出した途端、茶髪の男は見る見るうちに顔色が悪くなっていく。俺を怒鳴って、殴ろうとしたのは事実だからな。黒髪の男も、さっきまでの顔に浮かべていた不満そうな表情が消えていく。
「では、あなた達がこちらの彼女に二度と関わらない。傷つけようとしない。それを約束できるなら、茶髪のあなたのこの手を離してあげます。藤原さんはどう?」
「……うん。それでいいよ」
「わ、分かった! もうナンパしないし、何にもしない! だから離してくれ!」
「俺も約束する!」
「分かりました。藤原さんも聞いたね?」
「うん」
「……じゃあ、約束を守ってくださいね」
茶髪の男の右腕を離すと、男達は怯えた様子で駅の方へ走り去っていった。まあ、あの様子なら、藤原さんにナンパしてきたり、傷つけたりすることはないだろう。
「一件落着だな。藤原さん、大丈夫か?」
そう問いかけながら藤原さんの方を見ると、藤原さんはほっと胸を撫で下ろしていた。ナンパしてきた男達がいなくなったからだろう。俺が見つけたときは、彼らに絡まれて嫌そうにしていたし。
「うん。大丈夫だよ。あのタイミングで白石君が来てくれたから、手を出されたりもしていない」
「そっか、良かった。ついさっきバイトが終わって、家に帰ろうとしていたんだ」
「そうだったんだ。私は友達の家から帰る途中で。そうしたら、ここでさっきの男達にナンパされたんだ。家に帰るのでって断ったんだけど、帰る前に楽しい場所に行かないかって絡まれてね。だから、しつこいですって言ったんだ」
「そこで俺が来たってわけか」
俺がそう言うと、藤原さんは一度頷く。
楽しい場所……か。あの男達にとっては楽しいのかもしれないけど、藤原さんにとっては楽しくない場所である可能性が高そうだ。
「男の人からナンパされたことはあるけど、2人であんなにしつこかったのは初めてでね。だから、段々怖くなってきて。白石君が来てくれてとても心強かったし、嬉しかったよ。ありがとう、白石君」
藤原さんは……とても可愛らしい笑顔になって俺にお礼を言ってきた。幼さも感じられる可愛い雰囲気の笑顔を見たのは初めてだ。王子様って呼ばれるだけあり、これまで学校やバイト先で見てきた笑顔は落ち着いた綺麗なものだった。そういった笑顔も素敵だけど、今、俺に向けてくれている笑顔も素敵で。
初めて見る雰囲気の笑顔だけど、藤原さんの顔に笑みが戻ったことがとても嬉しい。
「いえいえ。藤原さんのためになって良かったよ」
「本当にありがとう。じゃあ、そろそろ帰るよ」
「ああ。気をつけて帰れよ。あんなことがあったし、途中まででも送ろうか?」
「ありがとう。でも、私の家は北口の方にあってあまり遠くないし。大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ、気をつけて。また明日」
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