クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ

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第39話『藤原千弦-中編-』

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 福岡の小学校に通っていた小学5年生の頃に受けた嫌がらせと、その直後に洲中に引っ越してきたことをきっかけに、千弦は外では中性的な振る舞いを演じて、家族や星野さんといった素を知る人達だけがいる場では素の自分で過ごしている。
 これまで、俺は素の千弦を感じられる可愛い笑顔を何度か見てきた。ただ、普段は素を感じさせるようなことは全然なくて。徹底して素の自分を隠し続けてきたのだと分かる。これまで、千弦の王子様な雰囲気が嘘だとか演技といった噂を全く聞かなかったのは、本人の努力はもちろんのこと、御両親や星野さん、星野さんの御両親といった素を知る方達の協力もあってのことだろう。

「千弦。とても大切なことを俺に教えてくれてありがとう。きっと、物凄く勇気の要ることだったと思うし、福岡の小学校でのことを思い出すのは辛かったと思う。本当にありがとう」

 千弦を見つめながら、俺はお礼を言った。

「いえいえ。まあ……勇気も必要だったし、昔のことを思い出すのは辛かったけど、洋平君だから話せたよ。彩葉ちゃんが側にいたしね」

 そう言うと、千弦は俺と星野さんに微笑みかける。素になっているのもあり、今の微笑みもかなり可愛い。
 星野さんは千弦にいつもの優しい笑顔を向けている。そんな星野さんと目が合うと、千弦はニコッと笑っていて。今の2人を見ていると、千弦が星野さんと親友になって、星野さんだけには素を教えたのも納得できる。

「千弦。どうして、俺に素の自分を見せて、過去について話してくれたんだ?」

 ナンパから助けたことをきっかけに、俺達は友達になった。それまでよりも一緒にいることが格段に増えて、友人として親交を深めてきてはいる。
 ただ、素については、洲中に引っ越してきてからの数年間で、星野さんと彼女の御両親にしか教えていない。それなのに、どうして俺に教えようと決めたのか。その理由を知りたかったのだ。

「話してみてもいいかなって考えたきっかけは、パークランドの帰りに洋平君が初めて私のことを下の名前で呼んでくれたとき……可愛い笑顔もいいなって言ってくれたことだよ」
「言ったな。覚えてる」

 あのときの可愛らしい雰囲気の笑顔はとても良かったし、千弦のことを初めて下の名前で呼んだのもあってよく覚えている。

「ナンパから助けてもらったときや、クレーンゲームで猫のぬいぐるみを取ってくれたときもそういう笑顔だったって言われて。それらのときは凄く嬉しい気持ちになってて。きっと、素の笑顔になっていて、それを褒めてくれているって考えたの。それをきっかけに、洋平君なら、素を教えても大丈夫かもしれないって思えるようになって」
「なるほどな」
「それに、洋平君は私をナンパから助けてくれるほどに優しくて。洋平君と友達になって昼休みにお昼ご飯を食べたり、家で遊んだり、映画を観に行ったり、パークランドに遊びに行ったりしたのが楽しかったし」
「パークランドから帰った後、千弦ちゃんから白石君に素を明かしてみようかどうか考えてるって相談を受けて。千弦ちゃんが今言った理由で、白石君なら素を明かしても大丈夫だと思うって言ったよ。あと、話すときに私が側にいてほしいなら遠慮なく言ってって」
「言ってくれたね」

 やっぱり、星野さんには相談していたか。この場に星野さんがいるし、千弦が数年間隠し続けていることだから。大丈夫だと思う、という星野さんの言葉も、素を明かそうと決断した理由の一つになったのかもしれない。

「あとは、洋平君が風邪で休んだのもあるよ。風邪を引いて、教室に洋平君がいないことが凄く寂しくて。お見舞いや今日の学校で洋平君に会えたら凄く嬉しくて。そのことで、私にとって洋平君がとても大きな存在になっているんだって自覚したの。その瞬間、彩葉ちゃんのときと同じく、素の自分を明かしたら洋平君ともっと仲良くなれるかなって考えて。それで、洋平君に素の自分を明かそうって決めたの。ただ、洋平君は病み上がりだから、放課後になっても元気で、予定が特になかったら今日話そうって。彩葉ちゃんがいると心強いから、彩葉ちゃんにも一緒にいてって頼んで」
「それで、実際に俺は放課後になっても元気で、特に予定もなかったから、ここで俺に素を明かすことになったんだな」

 俺がそう言うと、千弦はコクリと頷いた。
 素の自分を明かそうかどうか考え始めたきっかけはパークランドから帰ってきたときだけど、ナンパから助けたときからの日々の積み重ねや、昨日俺が風邪を引いたことが俺に話そうという決断に繋がったんだな。気付けば、頬が緩んでいた。

「あと、明かした理由とはあまり関係ないけど、福岡の小学校時代に色々とあったから……周りの人が『変人』とか『シスコン』って言っていても全然気にしていない様子の洋平君は強い人だなって思ったよ」
「確かに。その様子を見たことは何度かあるけど、白石君は平然としているよね」
「そうだな。……そういえば、千弦にはアイスを奢ってもらった日にも強いって言われたな」

 そのときの千弦は静かな笑顔になっていたっけ。きっとそれは、福岡の小学校での出来事を思い出していたり、人前では中性的な振る舞いを演じていたりしているからかもしれない。

「千弦には話したけど、気にせずにいられるのは琢磨とか友達のおかげなんだ」
「そう言っていたね」
「坂井君とは仲がいいし、白石君がそう言うのも納得かな」
「……千弦が昔のことを話してくれたし、俺も昔のことを話すか。……周りの生徒が俺のことを『変人』や『シスコン』って称するようになったのは中1の頃からだったんだ。告白されても全て振ってきたことがきっかけで。千弦と同じように、誰とも恋愛する気はないから振っているだけで。ただ、周りは……『イケメンなのに誰とも付き合ってない。恋愛経験していない。だからあいつは変人だ』って言って。あと、結菜の話を結構するから、『付き合わない理由は妹好きのシスコンだから』とも思われて、シスコンって称されることもあって。同じような理由で高校に進学してからも言われてる」

 あとは、洲中高校が俺の卒業した中学から何人もの生徒が進学する地元の高校なのも大きいだろうな。

「そうなんだ。それが洋平君を『変人』とか『シスコン』って言う人がいる理由なんだね」
「白石君ほどのイケメンだと彼女はいそうな感じはするし、妹の結菜ちゃんのことを大切にしているのも伝わってくるけど……『変人』とか『シスコン』だとは思わないかな」
「私も同じ思いだよ、彩葉ちゃん」
「そうか。……『変人』とか『シスコン』って言葉を耳にし始めたときはさすがに気になった。そんな俺の気持ちに琢磨が気付いて。あの明るい笑顔で言ってくれたんだよ。

『告白を振るのは誰とも恋愛する気はねえっていう気持ちに正直でいる結果だし、結菜ちゃんのことを大切にしているのが伝わってくる。だから、お前はそのままでいいんだ。もし、『変人』とか『シスコン』って言われるのが嫌になったら、いつでも俺に言え! 俺が何とかしてやるから!』

 ってさ。それが凄く心強くて、『変人』とか『シスコン』って言われても気にならなくなったんだ」

 あのときの底なしに明るい琢磨の笑顔は今でもはっきりと覚えている。琢磨のあの笑顔と言葉は今でも俺の心の支えの一つになっている。
 そういえば、琢磨と友達になった当初は『坂井』『白石』ってお互いに名字で呼んでいたけど、あの言葉を言ってくれた後から今のように『琢磨』『洋平』って下の名前で呼ぶようになったな。それまでも琢磨と仲が良かったけど、あの言葉があってからより仲良くなれたと思っている。

「そういうことだったんだ」
「坂井君らしいね」
「ああ。琢磨には凄く感謝しているよ。それに、俺が『変人』とか『シスコン』って言われても離れなかった友達にも。彼らの力になりたいと思ってさ。だから、高校に入学して、琢磨が吉岡さんに一目惚れしたって知ったときは、琢磨が吉岡さんと仲良く付き合えるように協力しようって決めたんだ」
「早希ちゃんを呼び出して、告白の場を作ったり、坂井君と早希ちゃんが緊張してご飯が食べられないから一緒に食べたりしたのも、中学時代のことで坂井君への感謝の思いがあったからだったんだね」
「ああ、そうだ」
「白石君と坂井君の深い友情を感じるね」
「そうだね、彩葉ちゃん」

 星野さんと千弦は柔らかい笑顔でそう言ってくれる。これまでにたくさん友達ができたけど、一番深い友情で繋がっているのは琢磨だと思っている。だから、2人がそう言ってくれることは嬉しかった。

「琢磨達が支えになって、俺は気にしないでいられる。だから、あのときの琢磨達のように、今度は俺が……千弦の支えになる。俺に素を明かしても大丈夫だと思った千弦の信頼に応えていくよ」
「洋平君……」
「何かあったときとか相談したいときとか、いつでも俺に言ってくれ。千弦の力になるから」
「……うん。ありがとう、洋平君」

 千弦はとても嬉しそうな笑顔でお礼を言った。その笑顔はナンパから助けたときや初めて下の名前で呼んだときの可愛らしい笑顔と重なる。この笑顔を守っていけるように、千弦の素を知る友人として支えていこう。

「白石君がそう言ってくれて嬉しいよ。白石君なら大丈夫だって思ったのは間違いじゃなかった。私からも言わせて。ありがとう」

 星野さんは持ち前の優しい笑顔でお礼を言った。千弦のことで嬉しい気持ちになったり、俺にお礼を言ったりできるなんて。星野さんはとても友人想いな女の子だ。きっと、星野さんの持つ深くて温かい優しさを感じられたのも、千弦が星野さんに素を明かした理由の一つだったんじゃないかと思う。

「いえいえ。俺は素の千弦も、中性的な雰囲気を演じている千弦も肯定するよ。どっちも千弦だと思っているし」
「……うん。ありがとう」
「もちろん、素の千弦についてはみんなには秘密にするから。安心して」
「うん。これからも学校では王子様のような雰囲気を演じて、今みたいに素の私を知っている人達がいるところではこうして素で接しようと思う。メッセージや電話も」
「分かった」

 千弦が安心して毎日を過ごすためにも、素の千弦について口外してしまわないように気をつけないとな。洲中に引っ越してから、福岡にいる頃のような嫌な目に遭っていないのは素を隠し続けているからだし。
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