紙芝居と小芝居で巡るファンタジーライフ

吉川緑

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1.ゴブリンのすれ違い

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 『ピクトマンサー』、それが私の仕事だ。
 魔法で描かれた絵を見せて、物語を語る。冒険談、怪談、昔話……
 一日一話。もしも、面白かったら、この飴玉ポーションを買ってくださいな。

 私のことは、この紙芝居が終わってからにしましょう。まずはお仕事。小さい観客たちが待っていますから。


◇◆◇


 それは、あるゴブリン村での出来事でした。そこでは、貧しいながらも身を寄せ合って暮らすゴブリンたちがいたそうです。ある子供ゴブリンは、お母さん想いの良い子でした。


「お母さん、ぼくが身体に良い物を探してくるよ!」


 病気で元気のなくなったお母さんゴブリンのために、その子供ゴブリンは川へ魚を取りに行きました。

 すると、どうでしょう。運の良いことに、川には網がかかっています。
 中にはたくさんの魚たち。めずらしい『狂騒ウナギ』までいます。このウナギは胸ビレを身体に擦り付けてセミのように鳴く、大きなウナギです。

 とてもおいしくて、元気になることを知っていた子供ゴブリンは、喜んで魚とウナギをお母さんゴブリンの元へ持ち帰るのでした。


「これでお母さんも元気になるね!」


 元気になったお母さんゴブリンと子供ゴブリンが仲良く過ごし始めたその数日後、また川へ遊びに行くと、人間たちが話しています。先日見つけた網の近くでした。


「魚が盗まれているな。これだと、冬を越せない。村は全滅だ……」


 そう、子供ゴブリンが持ち帰った魚たちは人間の村の食料だったのです。驚いて目を大きくした子供ゴブリンは、困ってしまいます。魚は食べてしまって、もうないのです。自分のぷっくらした、でべそのお腹を見て、子供ゴブリンは良いことを思いつきます。


「そうだ。ぼくのご飯を分けてあげよう!」


 子供ゴブリンはこっそり村人の後をつけ、家の前まで来ると、自分のご飯を入り口に置きました。村人がきれいなまま食べられるように、ご飯は葉っぱの上に置きました。


「勝手にお魚食べちゃってごめんなさい。」


 迷惑をかけてしまったと思った子供ゴブリンは、何日も、何日も村人の家へご飯を届けに行きました。

 そんな日が続いて、ゴブリンの村でも冬支度を始めていた頃です。
 ある日、驚くようなことが起こりました。なんと、近くの村から人間が攻めてきたのです。


「ぼうや、しっかり逃げるのよ。捕まったらいけないわ」

「うん。お母さんといっしょなら大丈夫だもん」


 お母さんゴブリンも子供ゴブリンは手を取って逃げます。走りました。必死で走りました。
 でも、人間は強かったのです。残念ながら捕まって、お母さんと子供は切り捨てられてしまいました。

 血だまりの中に倒れた子供ゴブリンのそばには、葉っぱといつも届けていたご飯が転がっていました。大事そうに抱えて、今日も届けようとしていたのでしょうか。それに気づいた村人の一人が言います。


「おい、こいつだ。見せしめだと言わんばかりに、毎日毎日、豚の首を送ってきた奴は……クソ。」


 そう、人間とゴブリンでは、ご飯が違うのでした。こうして、ゴブリンの村は無くなり、がんばった村人たちには王様から褒賞が出るのでした。


◇◆◇


 この世界は魔法があり、おそろしい魔物やドラゴンだっている。剣を手に強敵へ挑むものもいれば、日々の糧のため、広大な洞窟に潜るものもいる。魔物と人間、彼らの間に境界線はあるけれど、必死で生きていることに変わりはない。そんな世界のとある街から物語は始まる。


 ここは多くの水路が張り巡らされて石造りの家屋が並ぶ街。
 教会からだろうか、どこかから鐘の音がする。道を行く馬車の音、露天商の賑わいがかすかに聞こえた気がした。

 そんな街の片隅にある公園に私はいる。目の前には噴水と小さな子供たち。
 ちょうど、ひとしきり紙芝居を話し終えたところだ。



「めでたし、めでたし」


 締めくくりの言葉に、周囲の子供たちは静まり返っている。
 男の子が多かったのでモンスターが出てくる物語を選んだのだが、失敗だったろうか。軽く首を傾げている私へ、手乗りサイズの白竜が話しかけてくる。


「おい、ユカよ。いまのは子供たち向けの話とは言えないのではないか……?」

「ミカさま、そんなことはありませんよ。これは東の国で伝わる童話ですから」


 ユカと言うのは私のことだ。『ピクトマンサー』にして語り部。魔法で描いた動く絵を見せて、物語を語っている。背が低いので齢より幼く見られるが、これでも十八歳。生まれた国では成人の立派な大人だ。


 ユカは、語り部をする時に羽織っている白衣を脱ぐ。肩まで伸びた金髪に青い目。その目によく合う青フレームの眼鏡が印象に残る。灰色のシャツに青藍のベスト、そしてフリルの着いたタックスカートを身に着けて、ちょこんとした帽子が可愛らしい。


 ユカは頭から帽子を取ると、ミカの方へ手渡した。帽子へお代を入れてもらって飴玉ポーションをあげる。そうやって路銭を稼いで旅をしていた。

 ミカは小さい白竜の姿をしているが、とても頼もしい精霊様だ。私のお付きをしてくれながら、共に旅をしている。


「さすがにこの反応では……飴玉ポーション買うものはいないのではないか?」

「うーん、聞くだけはタダ……ですので、ミカさま、お願いいたします」

「はあ……知らんぞ、我は」


 マッチくらいの小さな火を混じらせ、ミカはため息をつく。


「ほれ、子供らよ、良かったら飴玉ポーションを買ってくれないか。甘くておいしいぞ。この変なお姉ちゃんもお腹が空いているみたいなのだ」


 少し余計なことを言いながら、ミカは子供たちの間を飛び回る。飴玉と帽子を小さな両手に持ちながら、お代をねだっている。


「さっきの話、なんかひどい話だったよ」

「そうそう、今度はもっと楽しいのが聞きたい!」

「ゴブリン悪いことしてないじゃないかー!」


 子供たちはみな騒いでいる。ミカは困ったように首を垂れると、ユカの元に戻ってきた。
 ほれ見たことか、とミカが睨みつけてくるがユカは気にしない。


「明日は冒険譚を持ってきます。だから、また来てくださいね」

「うむ、我からもこの姉ちゃんにはよく言っておくからな。明日は頼むぞー!」


 散り散りになって帰っていく子供たちを眺めながら、ユカはミカとため息を吐く。これでは、仕入れた飴玉ポーションはいつまで経ってもなくなりそうにない。それどころか、今日のご飯と寝床をどうしようか、とユカは頭を抱えたくなった。


「これじゃあ、道具屋さんに怒られそうですね……」

「もう先に買わせたらどうじゃ。お前の話はどうにも受けが良くないぞ」

「それは『ピクトマンサー道』に反します。宿代もなくなりそうですし」


 最悪は野宿で良かろう、と言うミカをじっとりと睨みつけ、ユカはミカとあてもなく街を歩くのだった。
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