紙芝居と小芝居で巡るファンタジーライフ

吉川緑

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3.飴玉ポーションの意外な使い道

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 多くの水路が張り巡らされて石造りの家屋が並ぶ街『アーテルダム』。
 ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、この街で紙芝居をし路銭を稼いでいた。

 しかし、どうにも話の受けが良くないからか、なかなかお代をもらえていない。

 お金も尽きかけ、途方に暮れるユカとミカは、お代と交換する『飴玉ポーション』を作ってくれている道具屋へ、相談に行くのだった……。


◇◆◇


「アーテムさん、さすがに怒ってしまいますかねえ」

「どうだろうな。ユカなりにやっていることを伝えてみるしかあるまい」


 そうは言っても、相手は商売人だからなあ、とユカは顔を曇らせる。
 『飴玉ポーション』はユカがアーテムに頼んで作ってもらった特別な商品だ。売れなくて困るのはアーテムも同じ、そう思うと店に入る前からユカの気分は重くなる。


「ほれ、さっさと入らんか」

「ミカさま、もう少し気持ちを整えさせてくださいよ」


 目の前には石造りの道具屋がある。壁のあちこちにツタが這い、所々苔むしているのに、年月を感じる。

 ユカが扉を引けば店主のいかついアーテムはもう目の前で座っているに違いない。
 もう一回りしてから行きたいな、どうしよう、そうしてまごまごしていると、中から扉が開かれた。


「ありがとうなー、たすかったぜ!」

「まいどありー!」

「おっと、すまないね。嬢ちゃん」


 突っ立ってたらお邪魔になるな、とユカは扉の前からひょいっと下がる。
 出てきたのは大柄のリザードマン。首から市民証のタグをぶら下げ、片手に見慣れた飴玉袋を持っている。


(あれ? 今、持っていたのって、飴玉ポーション?)


 横目で通り過ぎるリザードマンと小さな礼ですれ違う。
 おそるおそる店内に目を向けると、店主のアーテムがにやりと笑って手招きしてくる。
 いきなり怒鳴られる心配はなさそうね、とユカは安堵する。


「こんにちは、アーテムさん」

「おう、ユカ、どうだい景気は?」

「相変わらず、頑張ってはいるのですが……、」


 ユカは苦笑みを浮かべて後頭部を掻く。アーテムはどこか機嫌が良さそうに見える。
 これなら、「売れていません!ごめんなさい!」と白状しても、許してくれそうだ。


「紙芝居でお話を聞いてもらっても、お代があんまりもらえていないのですよ……」

「ははーん、さてはまた変な話ばかり見つけて来るんだろう」

「アーテム、お主からも言ってやってくれ。我も少し困っているのだ……」


 この間など、子供たちが泣いて困ったのだ、とミカはため息を吐いていた。
 ミカの言葉にユカは唇を尖らせる。


 (こういう時はフォローして欲しいのに)

 
 思わず半眼になってミカを見る。


「紙芝居で子供泣かせるってそれはまた……ある意味才能だな」

「私だってけっこう練習はしているんです。可愛く動かしたくて……。何か紙はありますか?」


 見せたら少しは努力が伝わる、ユカはそう思ってアーテムが差し出した紙を受け取る。


(即興でも簡単に動かすくらいは出来るから)


 ミカの毛で作られたピクトマンサー用の画筆を握ると、ユカは微かに魔力を込める。
 ハンドル、つまり持ち手の先端にある魔石が光る様子に、アーテムは目を丸くしている。

 ユカはさっとドラゴンを描くと、紙の中でドラゴンは飛び回り、火を噴いた。


「どうですか? なかなかだと思うのですが……」

「そうだなあ。絵が悪くないとすれば、あとは話の方ってことになるな」

「うむ。我も絵は悪くないと思うぞ」

「分かってはいるのですが……。私の趣味が子供と合わないのですかねえ」


 紙をカウンターに置き、そのままカウンターへもたれかかる。
 ミカが寄ってきたので軽く頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細くしている。
 もう少しいいもの食べられたらなあ、とユカは思う。しかし、なかなか紙芝居だけで過ごしていくのは難しい。


「どこか大きな舞台でやってみたら、良いのかもしれねえなあ」


 アーテムも腕組み考えてくれているようだ。
 できれば飴玉ポーションの料金もおまけしてくれると嬉しい、それが今日の本題だった。


「もし、そういう催し物の話を聞いたら教えてくれると嬉しいです!それから、もう少し飴玉ポーションの試作料金は待ってもらえると……」

「まあ、そういうだろうと思っていたよ。俺からもそのことは一つ相談があってな」


 ごほん、とアーテムは咳払いをしてカウンターに両手をどんと置く。
 じいっとした真剣な目にユカは身構える。なにかまずいことでもあったのだろうか。
 ミカも隣で、心なしか緊張の目をアーテムへ向けている。


「実は、あの飴玉ポーション、冒険者から欲しいって話がすごくてな。普通に作って売りたいんだが、どうだ?」

「ど、どういうことですか?」


 ユカはよくある『冒険者事情』にはそれほど詳しくない。
 もちろん、ピクトマンサーとしての術を駆使すれば、狼やらゴブリンくらいなら軽々追い払える。

 ただ、ユカとしては戦いに使うより、紙芝居や絵本を作る方が好きなのだ。
 せいぜい顔料を取りに行くとき、降りかかる火の粉を払うくらいにしか使わない。


「実はな……」


 アーテムの話によると、飴玉ポーションはゆっくり舐めていられるので、『体力を維持する物』として便利らしい。
 普通のポーションは瓶入りだ。同じことをするには瓶を咥えて戦わなくていけない。
 そんな曲芸みたいなことをする人はいないよなあ、とユカには理解できた。


「そんな使い道があったのですねえ」

「俺も言われてなるほど、と思ったよ。だがまあ、考案者はユカちゃんだから、一応聞かねえと、筋が通らないってもんだろう」

「私が魔物とかと関わることはそれほどない……と思うので、役に立つなら売っていただいても良いかなと」


 そりゃあ助かる、とアーテムの手が差し出された。
 ユカはその手を握り返して交渉を成立させる。しかし、飴玉舐める冒険者って格好つくのかな、などと思ったりする。


「そんな訳だから、試作料金はおいおいで構わねえよ。もし冒険者の組合からでも声がかかったら、うちとしては膨大な利益になるしなあ」

「そうなったらチャラにしてください!」

「うむ。我からもそれはお願いしたい」

「考えておくよ」


 アーテムは破顔して、親指を立ててくる。
 いかついが優しいこの店主は、きっと良くしてくれるだろう。
 ユカは微笑みをアーテムへの返事にして、ミカと顔を見合わせて頷く。そのまま、道具屋を後にした。


◇◆◇


「どうする? もうそろそろいつもの時間であるが」

「そうですねえ。今日のは自信作なので、きっと子供たちも喜んでくれると思いますよ」

「だと、良いのだがなあ」


 ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、今日も『アーテルダム』の街の片隅で紙芝居屋を開く。道具屋の店主アーテムとのお金の問題も二人の前から当面は去った。あとは……


「よし、しっかり子供たちを楽しませないとね、ミカ!」

「そうだな。やってやろうぞ、ユカ」


 そうして、二人は公園の片隅、レンガ壁の前で準備を始めるのであった。
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